カテゴリー: 賃金

  • 賃金体系について

    賃金体系とは

    賃金体系とは、賃金がどのような項目からなりたっているかを示したものです。

    所定内賃金と所定外賃金

    賃金体系の一番の大分類は、所定内賃金と所定外賃金です。

    所定内賃金とは、基本給や家族手当、通勤手当などのように毎月一定の額が支払われる部分です。これに対して所定外賃金とは時間外手当など、その月の労働によって変化する部分をいいます。

    基準内賃金と基準外賃金という分け方もあります。一般的には、労働基準法施行規則に示されている、割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金が基準外賃金で、その他の賃金が基準内賃金とされています。賃金体系としては、一般的には所定内、所定外を用います。

    関連記事:所定内賃金と基準内賃金の違い

    基本給

    基本給は賃金の中心です。基本給の決め方が賃金管理の上で最も重要なものです。

    基本給の決定要素としては、その人の仕事内容を反映する部分と、その人の年齢や学歴・勤続年数を反映する部分とに分解する方法が一般的です。仕事を反映した部分を仕事給といい、年齢などを反映した部分を本人給といいます。

    基本給について

    手当

    賃金には基本給のほかに各種の手当があります。一つは責任などに伴う手当で、役職手当や特殊勤務手当などがあります。また、福利厚生的な手当として住宅手当や家族手当などがあります。さらに、法律で義務付けられている残業手当(時間外割増賃金)があります。

    基本給に加えて支給される手当についての解説

    賃金体系は賃金規程で示す

    賃金体系を決定したら、賃金規程にその内容を取り込み社員に公表します。

    賃金については、先行き不透明な経営環境の中では、あいまいな部分を残しておきたいのが経営者の心理ですが、社員それぞれに将来があり生活設計があります。経営者と同様に従業員も不安を抱えています。

    少なくとも、賃金の決め方は、公正にするために一定のルールを作って運用していることを理解してもらう必要があり、そのためには書面による公表は欠かせません。

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  • 給与計算の端数はどうするか

    労働時間の端数

    労働時間は1分単位で計算するのが原則です。

    毎日の残業時間や遅刻時間を、計算を簡略にするために、例えば15分単位で整理することはできません。1分でも時間外勤務があったら1分の残業、1分でも遅刻したら1分の控除ということです。

    ただし、毎日の分を1分単位で積み上げて、給与を計算する月単位では、30分未満を切り捨て、30分以上1時間未満を1時間に切り上げする処理は認められています。

    認められていますが、これは手計算時代の名残りです。今となっては月単位においても1分刻みで処理するのが無難です。

    なお、遅刻等の控除が生じる端数を切り捨てて、支給する方の残業時間を切り上げる方法は、労働者に有利なので問題ありません。

    給与計算上の端数

    割増賃金の端数処理

    割増賃金の端数処理は以下の方法が一般的です。「労働者に不利にならないようにする」ことが原則です。従業員にとって有利な取扱いになるのであれば、別の方法を採用しても構いません。

    1時間あたりの賃金額及び割増賃金額の端数

    1時間あたりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合は四捨五入を用いることができます。50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げます。

    1か月の割増賃金総額の端数

    1か月間における割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合は四捨五入を用いることができます。50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げます。

    このように1円単位に四捨五入する方法は認められていますが、例えば、10円単位に四捨五入したりするような方法は認められていません。

    給料の端数処理

    1か月賃金の100円未満四捨五入

    1か月の賃金額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した残額)に100円未満の端数が生じた場合は50円未満の端数を切り捨て、50円以上の端数を100円に切り上げて支払うことができます。

    1か月賃金の1000円未満翌月繰り越し

    1か月の賃金額に1000円未満の端数がある場合は、その端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことができます。

    なお、1か月賃金の100円未満四捨五入と1000円未満繰り越しは、賃金を現金で支払っていた時代に、小銭の取り扱いなどの煩雑な事務を考慮して認められた方法です。銀行振り込みであれば採用しない方がよいでしょう。もし、この方法を採用する場合は、その旨を就業規則または給与規程に定める必要があります。

    平均賃金の端数

    賃金の総額を総暦日数で除した金額の銭未満の端数を切り捨てます。

    例えば、賃金の総額をその期間の総日数で除した金額が、9,173円8043円になったとすると、銭未満、つまり少数第三位以下を切り捨てることになるので、平均賃金は、9,173円80銭になります。

    そして、この平均賃金を基準にして、休業手当や解雇予告手当等を計算する場合は、就業規則等に特約がなければ、算出された休業手当や解雇予告手当等を1円単位に四捨五入します。

    例えば、9,173.80×0.6×1(休業日数)=5504.28円。円未満を四捨五入(50銭未満切捨て、50銭以上切上げ)すると5504円以上になります。

    社会保険

    社会保険料の計算は、原則は四捨五入です。従業員負担分の端数が50銭以下のときは切り捨て、51銭以上のときは切り上げて1円となります。

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  • 時間外割増賃金の基礎単価について

    割増賃金の計算方法

    残業手当などの時間外割増賃金の計算は、基礎単価(1時間あたりの賃金)に割増率を掛けて計算します。

    基礎単価の対象となる賃金の範囲について正確な把握が必要です。基本給だけではありません。

    賃金が時給の場合は、時給単価がそのまま1時間あたりの賃金になります。

    日給の場合は、日給を1日の所定労働時間数で割った額が1時間あたりの賃金になります。

    賃金が月給の場合は、1ヶ月の賃金を「月平均所定労働時間数」で割って1時間あたりの賃金を求めます。割増賃金の計算の基礎になる1ヶ月の賃金は、給料計算の月毎に算出しなければなりません。

    月平均所定労働時間数の計算式

    (365日-1年間のその会社の休日数)×1日の所定労働時間で「年間所定労働時間」を算出します。この年間所定労働時間を12で割ったものが、月平均所定労働時間です。

    会社の休日数は、カレンダーなどを用いて慎重に算出してください。また、閏年は、365ではなく366になるのでご注意下さい。

    割増賃金の計算から除外する手当等

    割増賃金の計算の基礎になる1ヶ月の給与は、労働の対価として支払われる給与の総額をいいますが、下記のものは除外しても良いことになっています。(労基法第37条5項、労基法施行規則第21条)下記は例示ではなく「限定列挙」なので拡大解釈はできません。

    1.家族手当
    2.別居手当
    3.通勤手当
    4.子女教育手当
    5.住宅手当(平成11年10月から算定対象外になりました)
    6.臨時に支払われた賃金
    7.1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

    逆に言うと、これら以外を除外することは認められません。

    支払い基準によって扱いが違う手当等

    上記に列記した手当等は、手当の名称とは関係なく、実態で判断しなければならないので、その手当等の算出方法によっては、給与に含めて計算しなければならない場合があります。

    手当の名称だけで割増賃金計算から除外していると、割増賃金を少なく計算してしまう場合があります。早急にチェックして誤りがあれば是正が必要です。

    家族手当

    家族手当は、扶養家族数に応じて支給される手当をいうので、家族手当という名称で支給していても、扶養家族数に関係なく一律に支給されている場合は、割増賃金の計算の対象となる給与に該当します。

    住宅手当

    住宅手当は、住宅に要する費用に対応する金額を支給するものは割増賃金の計算対象になりませんが、定額で支給すると割増賃金の計算の対象となる給与に該当します。

    割増賃金の計算から除外できる例

    住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給するものは除外できます。(賃貸住宅居住者には家賃の一定割合、持ち家居住者にはローン月額の一定割合を支給など)

    住宅に要する費用を段階的に区分し、費用の増加に応じて額を多く支給する場合は除外できます。(家賃5~10万円に対して3万円、10万円超に対して5万円など)

    割増賃金の計算から除外できない例

    住宅の形態ごとに一律一定額を支給するものは除外できません。(賃貸住宅居住者には〇万円、持ち家居住者には〇万円と定額で決めている)

    住宅に要する費用以外の要素に応じて支給するものは除外できません。(扶養家族あり3万円、扶養家族なし1万円など)

    全員に一律支給するものは除外できません。

    通勤手当

    通勤手当は、通勤距離や通勤にかかる費用に基づいて支給されるものは除外できますが、通勤距離等とは別の基準で支給されるものは、割増賃金の計算の対象となる給与に該当します。

    臨時に支払われる賃金

    ここでいう臨時に支払われる賃金とは、結婚手当や出産手当などのようなものをいいます。

    関連記事:臨時の賃金、臨時に支払われる賃金とは

    1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

    賞与

    1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金は、賞与が代表的なものです。賞与は割増賃金の対象となる給与には含まれません。

    ただし、支給額があらかじめ確定しているものは別です。例えば、年俸制で毎月支払い部分と賞与部分を合計してあらかじめ年俸額が確定している場合の賞与部分については割増賃金の対象になる給与に該当します。

    賞与以外の1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

    賞与に準じる賃金について、労働基準法施行規則に次のように定められています

    労働基準法施行規則第八条
    法第二十四条第二項但書の規定による臨時に支払われる賃金、賞与に準ずるものは次に掲げるものとする。
    一 一箇月を超える期間の出勤成績によつて支給される精勤手当
    二 一箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
    三 一箇月を超える期間にわたる事由によつて算定される奨励加給又は能率手当

    上記について、運転手に支給する無事故報奨金について、3か月間無事故の場合に6万円を支給する旨定めている場合は、「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」にあたるので割増賃金の算定基礎に含めないことが認められると判断した判例があります。(大阪地裁令和6.9.13)


    会社事務入門賃金・給与・報酬の基礎知識時間外割増賃金の計算方法>このページ

  • 定額残業手当や固定残業手当はどういうものか

    固定残業手当とは

    毎月決まった金額を見込みの残業手当として、実際の残業の有無にかかわらず支給する制度のことです。

    固定残業手当は、定額残業手当、固定残業代、定額残業代ともいいます。

    運営上の注意点

    固定残業代制度は、労働時間管理をして不足分を残業手当として別途支払う運用をすれば適法だと言われています。

    労働時間管理をする

    固定残業代制度の有無に関わらず、始業時間や終業時間の把握等の時間管理はきちんと行う必要があります。

    固定残業手当制度の場合でも、時間外労働時間を把握しないと労働基準法違反になります。

    時間超過分に残業代を支給する

    把握した実際の労働時間に基づいて、通常の手法で、残業代を計算しなければなりません。

    その結果、残業が想定より多かったときは不足分を支払う必要があります。

    不足分はその月毎に支給しなければなりません。月をまたがって調整することはできません。

    残業が想定より少なかったときは多すぎた分の返戻を求めることはできません。

    就業規則等に定める

    固定残業代制度は、賃金の支払い方に関する定めなので、就業規則等への規定が必要です。

    就業規則等では、定額残業代を支給する旨と、定額残業代の額を明確にしなければなりません。

    また、支給する定額残業代が残業何時間分に相当するかを示さなければなりません。この時間数は通常賃金の額によって異なるので、個々の従業員に明示しなければなりません。

    また、労働条件通知書等で、金額と時間を明確にする必要があります。例えば「月給30万円(45時間分の固定残業代5万円を含む)」と記載する必要があります。

    なお、新規に実施する場合は就業規則の不利益変更の問題に注意しなければなりません。

    従業員の同意なく固定残業代の原資として基本給の減額を実施した会社に対して、その基本給の減額が単なる賃金減額であるとして、減額した分の支払いを命じた裁判例があります。

    関連記事:就業規則改定による不利益変更

    固定残業手当の可否

    固定残業手当の制度は、労働時間管理を省略できない点において給与計算上のメリットはありません。

    残業代込みで支給額を提示することで、給料の高い会社に思わせる目的に使われることもありましたが、カラクリが知れ渡ってしまったので今となっては採用面での効果は望めません。

    また、固定残業制度を利用して、いくら残業をしても追加分を支払わないのであれば、労働基準法違反を常態化するものですからなんの益もありません。

    ということで、導入するメリットはあまりないと思われますが、上述の注意点を考慮すれば導入することができます。

    会社事務入門労働時間の適正な管理時間外労働に対する割増賃金>このページ

  • 遅刻した時間分無給の残業をさせることができるか

    遅刻分を終業後に勤務させることについて

    遅刻した時間を、終業時刻後の残業時間で埋め合わせさせることはできるのでしょうか?

    遅刻をすると、その日の仕事が滞るので、いつもより帰りが遅くなる可能性が高いと思います。

    その場合、一般的には遅刻分は賃金カット、残業時間には割増賃金を払う、と別々の扱いをすることが多いと思いますが、1時間遅刻して1時間残業すると、割増分を得をすることになり、他の従業員に対して不公平になります。

    このような場合について、厚労省の通達がでています。

    厚労省通達昭29.12.1基収第6143号
    例えば労働者が遅刻をした場合、その時間だけ通常の終業時刻を繰下げて労働させる場合には、1日の実労働時間を通算して法第32条又は第40条の労働時間を超えないときは、法第36条第1項に基づく協定及び法第37条に基づく割増賃金支払の必要はない。

    つまり、遅刻した時間を終業後の時間で埋め合わせて、その部分について割増扱いをしないことは問題ありません。

    注意点

    トータルの労働時間が法定労働時間を超える場合は別で、超えた部分について割増賃金が必要です。

    就業規則の規定が「所定の終業時刻を超える時間外勤務に対し割増賃金を支給する」という表現であれば、文言通りに解釈して遅刻分は賃金カット、残業時間には割増賃金と分ける必要があるでしょう。

    また、遅刻はしたものの定時で帰りたいと希望する場合は、遅刻を理由に終業時間後の労働を強制することはできません。遅刻部分の賃金カットのみで対応します。

    残業分を翌日短時間勤務することについて

    前日2時間の残業をしたので、翌日は2時間遅く出社する、または、2時間早くあがる。という場合について検討します。上述のケースと似ていますが、違うので注意してください。

    労働時間としては同じですが、前日の2時間は残業(時間外勤務)ですから、割増賃金が必要です。翌日の2時間は割増賃金が適用されない時間です。これだと労働者が不利です。

    さらに、会社都合で一定時間の勤務をさせないということになりますから、厳密に言えば、その時間帯は休業手当(労働基準法第26条)の支給対象になります。

    よって、安易にこのような方法をとってはいけません。

    なお、フレックスタイム制度を適用していればこのように翌日などでの調整は合法です。フレックスタイム制度においては、使用者側の指示ではなく、労働者側が自分の意志で自由に労働時間を設定できることから、各労働日にまたがる労働時間の調整が認められています。

    関連記事:フレックスタイム制

    また、労働基準法第37条第3項による代替休暇制度を使えば、残業代を有給休暇に替えることができます(月60時間を超える時間外労働の割増賃金に限る)。

    関連記事:割増賃金に代えて有休を選択する代替休暇制度


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  • 平均賃金についての解説

    平均賃金とは

    平均賃金とは、原則として事由の発生した日以前3ヶ月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で除した金額です。

    平均賃金を使うケース

    平均賃金は次のときに用います。
    ① 労働者を解雇する場合の解雇予告手当、
    ② 使用者の都合により休業させる場合に支払う休業手当
    ③ 年次有給休暇を取得した日について平均賃金で支払う場合の賃金
    ④ 減給処分の限度額
    など

    平均賃金の計算

    平均賃金を計算するときは、賃金の総額を総暦日数で除した金額の銭未満の端数を切り捨てることができます。平均賃金から休業手当等を計算する場合は、原則として1円未満を四捨五入します。

    賃金締切日がある場合は、起算日は直前の賃金締切日です。雇い入れ後3ヶ月に満たない場合は、雇い入れ後の期間で計算します。

    平均賃金に含まれる賃金含まれない賃金

    平均賃金でいう「賃金」には、臨時に支払われた賃金、3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金、通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは入りません。例えば、賞与は、通常は夏と冬の2回、多くても3回くらいまでなので、「3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」として、平均賃金の計算から除外することができます。

    関連記事:臨時の賃金、臨時に支払われる賃金とは

    計算の例

    3月31日付けで解雇するために、3月20日に解雇通告をした。支払うべき解雇予告手当は?

    賃金締切日が毎月15日とすれば、締め切り日を基準に、過去3ヶ月賃金を次のように算出する。ただし、賃金は総額(通勤手当、皆勤手当、時間外手当など諸手当を含み税金などの控除をする前の額)を計上する。

    1月分 326,000円(12月16日~1月15日) 31日
    2月分 289,300円(1月16日~2月15日)  31日
    3月分 316,100円(2月16日~3月15日)  28日

    この例では、直前3ヶ月の賃金総額は931,400円となり、その間の暦日数は90日である。

    よって、931,400÷90=10,348円888となり、銭未満は切り捨てるので、平均賃金は10,348円88銭となる。

    なお、賃金が日額や出来高給で決められ労働日数が少ない場合に、総額を労働日数で除した6割に当たる額が高い場合はその額を適用する。

    次に、解雇予告期間30日以上必要であるから、この例の予告期間は11日しかないため、19日分に相当する金銭を支払う必要がある。

    よって、10,348円88銭×19日=196,628.72となる。支払の際には、円未満を四捨五入するので、196,629円以上の解雇予告手当を通告と同時に支払うことになる。


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