カテゴリー: 労働時間

  • 労働時間等設定改善法とはどういう法律か?

    労働時間等設定改善法の概要

    労働時間等設定改善法は、正式名称を「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」といい、労働者の健康と福祉を確保しながら、多様な働き方に対応した労働時間や休暇、深夜業といった労働条件の設定を改善することを目的とした法律です。この法律は、企業に労使で話し合う場を設け、自主的に労働時間等の見直しを行うよう促すためのものです。

    この法律によって、企業は以下の取り組みを実施するよう努めることが奨励されています。

    労働時間等設定改善委員会: 労使が労働時間等について話し合うための委員会を設ける努力義務。この委員会は、一定の要件を満たせば、一部の労使協定の締結に代わる決議を行うことができます。

    関連記事:労働時間等設定改善委員会とはどういうものか?

    勤務間インターバル: 終業時刻から次の始業時刻までの間に、一定の休息時間を確保することです。これにより、従業員の睡眠時間や生活時間を確保し、疲労の回復を図ります。この制度は、2018年の働き方改革関連法によって、導入の努力義務が法律上明確に位置づけられました。

    関連記事:勤務間インターバル制度の運用ポイントと注意点

    年次有給休暇の取得促進: 年次有給休暇の計画的付与制度などを活用し、労働者が休暇を取得しやすい環境を整備すること。

    深夜業の回数の減少: 労働者の健康に配慮し、深夜業を行う回数を減らすよう努めること。

    労働時間等設定改善実施計画: 労働時間等の設定改善に関する計画を作成し、これを実施する努力義務。

    国および地方公共団体の支援: 国や地方公共団体が、企業に対して必要な情報の提供や相談、助言を行うこと。

    企業にとっての負担とメリット

    負担

    労働時間等設定改善法の規定を実施することは、企業にとって一定の負担を伴います。

    時間とコスト: 労働時間等設定改善委員会の設置や運営には、労使双方の代表者が集まり、定期的に話し合いを行う時間が必要です。また、委員会の運営や議事録の作成など、事務的な作業も発生します。

    運用の煩雑さ: 委員会を設置する場合、運営規程の策定や、委員の選出、議事録の作成・保管など、法令に定められた手続きを踏む必要があります。これにより、社内での手続きが増え、運用の負担となる可能性があります。

    メリット

    一方で、この法律に定められた内容を実施することで、企業は以下のような大きなメリットを得ることができます。

    生産性の向上: 労働時間や休暇の柔軟な設定は、従業員の心身の健康を保ち、仕事へのモチベーションを高めます。その結果、業務の効率が上がり、生産性の向上につながります。

    人材の確保と定着: 多様な働き方に対応できる柔軟な労働時間制度は、育児や介護などと仕事を両立させたい人材にとって大きな魅力となります。これにより、優秀な人材の獲得がしやすくなり、離職率の低下にも貢献します。

    コンプライアンスの強化: 労働時間等設定改善委員会を通じて、労働時間に関するルールを労使で話し合うことで、長時間労働の是正や適切な労働時間管理が進みます。これにより、労働基準法などの関連法令違反のリスクを低減し、企業のコンプライアンスを強化できます。

    企業イメージの向上: 働きやすい職場環境を整備している企業として認知されることで、社会的な信用や企業イメージが高まります。これは、採用活動や取引先との関係構築においても有利に働きます。

    勤務間インターバル制度の導入や年次有給休暇の計画的付与は、企業にとって一時的なスケジュールの調整や業務配分の見直しといった負担を伴うことがあります。しかし、従業員の健康が守られ、十分な休息が取れることで、結果的に生産性の向上、離職率の低下、そして優秀な人材の確保につながります。 長期的な視点で見れば、これらの取り組みは企業の持続的な成長に不可欠な要素となります。


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  • 労働時間等設定改善委員会とはどういうものか?

    労働時間等設定改善委員会とは

    労動時間等設定改善委員会については、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(労働時間等設定改善法)に定めがあります。

    委員会の設置目的

    この委員会は、労働者の健康と生活に配慮し、多様な働き方に対応した労働時間等の設定を改善するために、労使が十分に意見交換を行う場です。

    労働時間等設定改善委員会で調査審議すべき「労動時間等」には、労動時間の他、休日や年次有給休暇、休憩、育児・介護休業制度、短時間勤務制度等が含まれます。

    委員会の設置は事業主の努力義務です。

    設置の要件

    委員会の要件は次の通りです。

    1.委員の半数が、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者の推薦に基づき指名されていること

    2.過半数代表者は、管理監督者以外の者で、かつ、委員会の委員を推薦する者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法により選出された者であること

    3.委員会の議事について、開催の都度議事録が作成され、5年間(当面3年間)保存されること

    関連記事:労働時間等設定改善委員会の議事録のサンプル

    4.委員の任期、委員会の招集、定足数、議事等を内容とする委員会の運営規程が定められていること。

    関連記事:労働時間等設定改善委員会規程のサンプル

    原則として、労働時間等設定改善委員会を設置したこと自体を労働基準監督署に届け出る必要はありません。

    なお、この労働時間等設定改善法に定められている「委員会」は、労働基準法第38条の4に定められている「委員会」と似ていますが異なるものです。

    労働基準法上の特例

    要件を満たす委員会を設置した場合、委員の5分の4以上の多数決による決議をもって、以下の労使協定の締結に代えることができます。

    ・1か月単位の変形労働時間制
    ・フレックスタイム制
    ・1年単位の変形労働時間制
    ・1週間単位の非定型的変形労働時間制
    ・時間外・休日労働(36協定)に関する事項など

    この特例を利用した場合、通常は労使協定の締結と同時に必要となる届出が、一部免除されます。

    ただし、時間外労働・休日労働に関する決議を行った場合は、労働基準法第36条に基づく36協定と同様に、その決議内容を労働基準監督署長に届け出る必要があります。


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  • 夜間の守衛を採用する際の注意事項

    夜間の守衛を採用する

    社員に交替でさせていた宿日直勤務を維持できなくなって、夜間の守衛業務をしてもらう人を雇うことがあります。

    休日や夜間の来訪者や電話がほとんどない職場であれば、この守衛さんの仕事は夜間に数回程度の見回り以外は、ほとんど仕事らしい仕事はないでしょう。そのような勤務内容であれば、労働基準法に定める「断続的労働」が該当すると思われます。

    断続的労働の許可申請

    所轄労働基準監督署長に「監視・断続的労働に従事する者に対する適用除外許可」を申請し、許可を受けることができれば、労働基準法の労働時間、休憩、休日について適用除外になります。

    警備については、通常の「監視・断続的労働に従事する者に対する適用除外許可」より審査条件がきつくなっています。

    巡回対象について

    夜間に数回程度の巡回であっても、精神的緊張の大きいものは許可されません。

    広い施設を巡回するコンビナートなど、その構造上外部からの侵入を防止することが困難な駐車場など、高価な商品が陳列されている貴金属店・家電量販店などでは難しいでしょう。

    危険な場所や環境が有害である場所も許可されません。

    危険物保管庫、有害物質が置いてある研究所や工場などは難しいでしょう。

    巡回回数は6回以内、一巡回の所要時間は1時間以内で合計4時間以内に納めなければなりません。

    勤務時間について

    連続12時間以内が基準です。夜間に継続して4時間以上の睡眠ができるときは16時間以内です。

    インターバルについて

    いわゆる「明け休み」を与えなければなりません。

    勤務と勤務の間に10時間以上の時間を空ける必要があります。夜間に継続して4時間以上の睡眠が与えられるときは8時間以上の時間を空ける必要があります。

    隔日勤務について

    2人が一日おきに勤務する場合は、上述した条件と少し違います。

    勤務中の夜間に継続して4時間以上の睡眠ができる場合は拘束時間は24時間以内。つまり、一日おきなら24時間の連続勤務をさせてもよいことになります。

    この場合、巡回回数は10回以下、一巡回の所要時間は1時間以内で合計6時間以内。そして、勤務と勤務の間に20時間以上のインターバルが必要です。

    休日について

    「明け休み」とは別に「休日」を与えなければなりません。

    休日は1ヶ月に2日以上。そして、休日は「明け休み」に24時間を加え継続したものです。つまり「明け休み+休日」にしなければなりません。

    勤務場所について

    勤務場所が一つでそこに常駐する場合させる必要があります。

    仮眠設備について

    充分な睡眠ができるような場所と寝具が備えつけられていることが必要です。

    人が変われば許可を取り直す必要がある

    上の要件をすべて満たしたうえで、労働基準監督署長に申請して許可を取らなければなりません。また、この許可は、労働者個人についての適用除外許可です。その業務について労働基準法の適用を除外するものではありません。つまり、その業務を行う者が変われば許可を取り直さなければなりません。

    断続的労働に該当しない場合は

    断続的労働に該当しない場合は、通常の雇用になります。日直代行としての守衛勤務であれば、勤務日を会社休日に限定した雇用契約を結ぶことになります。宿直代行の守衛勤務であれば、会社の終業時から翌朝の始業時までの時間帯を勤務時間とする雇用契約を結ぶことになるでしょう。

    この場合に、注意しなければならないことがいくつかあります。

    休憩時間の扱い

    休憩は労働時間が6時間を超えたら45分間以上、8時間を超えたら60分間以上与えなければなりません。休憩時間は自由に使えなければなりません。持ち場を離れられない、電話が鳴ったら出なければならない、外出することができない、ということでは休憩時間を与えたことになりません。

    つまり、守衛さんを一人だけ雇って日直代行や宿直代行をやってもらうには、「断続的労働」として許可を得るか、休憩時間は何があっても対応しなくてもよいという扱いにする以外は、複数人による勤務体制にしないと、労働基準法の休憩に関する規定に違反することになります。

    仮眠時間の扱い

    仮眠時間が、本当に寝ていてよいし起こすことはない、場合によっては施設外に出て寝てきてもよい、というものであれば、その仮眠時間は、休憩時間のような扱いとなり、労働時間にはカウントされません。

    しかし、仮眠時間として設定されているが実際には起きて仕事をしたということであれば、それは労働時間です。

    さらに、実際には起こされなかったが、起こされる可能性が高い状況での仮眠時間はどうでしょうか。これについては、「労働からの解放が保障されていない」ということで、労働時間だと判断(裁判例)される可能性が高いようです。


    関連記事:仮眠時間は労働時間として扱うのか

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  • 変形労働時間制と短時間勤務

    変形労働時間制においても短時間勤務ができる

    変形労働時間制が適用される従業員も、労使協定等による適用除外に該当しない限り、短時間勤務制度の対象になります。

    短時間勤務制度とは1日の所定労働時間を短縮し、原則6時間にする制度です。

    具体的にはどのように対応すればよいか?

    その1

    当該従業員を変形労働時間制の対象から外し、通常の従業員の労働時間管理を行うこととした上で、短時間勤務制度及び所定外労働の免除の対象とする。

    この方法がシンプルです。

    その2

    従業員を変形労働時間制の対象としたまま、短時間勤務制度及び所定外労働の免除の対象とする方法を選択する。

    「その2」を選択した場合は、

    変形労働時間制の対象にしつつ、すべての労働日において1日6時間を超えないよう労働時間を定めたときは、会社が制度として示しても、現場レベルで実際に利用できなければ法違反になる可能性があるので注意して運用しましょう。

    みなし労働時間制・裁量労働制

    育児短時間勤務と裁量労働制を併用することは可能です。

    但し、その際は以下の点に注意が必要です。

    1.実際に短時間勤務ができなければならないので、みなし労働時間を単に短縮するのではなく、業務量の削減などを行い、実際に短時間勤務ができることを確保する

    2.みなし労働時間を短縮すればそれに伴う賃金の変更が可能

    3.みなし労働時間の変更には、労働基準法第38条の3に基づく労使協定又は第38条の4に基づく労使委員会決議の変更が必要

    4.裁量労働制であることに変わりないので、時間配分の決定に関して具体的な指示をすることはできない

    1か月単位・1年単位の変形労働時間制

    1年単位の変形労働時間制にかかる労使協定について、対象期間開始前に労働日ごとの労働時間等を変更するための変更が必要となる場合があります。

    また、労働者を1か月単位・1年単位の変形労働時間制の対象から外し、通常の労働者の労働時間管理に変更する場合は、労働基準法第32条の4の2規定による清算が必要となります。

    労働基準法第三十二条の四の二 使用者が、対象期間中の前条の規定により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者について、当該労働させた期間を平均し一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間(第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長し、又は休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第三十七条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。

    なお、対象期間中の労働日を平均して1日6時間以下とする制度では、育児・介護休業法に不適合です。どの日も6時間以下でなくてはなりません。

    フレックスタイム制

    清算期間における総労働時間は、「〇〇時間(清算期間における労働日×6時間)」又は「所定労働日」及び「労働日1日当たり6時間」等と設定することになり、労使協定の変更が必要となります。

    このページの説明は、育児のための短時間勤務制度についての説明ですが、要介護状態にある家族の介護をする従業員に対して、介護のための短時間勤務制度で対応する場合は同様に対処する必要があります。

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  • 時差出勤制

    時差出勤制とは

    時差出勤制とは、始業時刻を遅らせ(または繰り上げて)、終業時刻をその分延ばす(または繰り上げる)勤務制度です。

    時差出勤自体は、臨時に業務上の必要が生じたときは、使用者の命令でさせることができます(就業規則にそうしたことがあると定めている場合です。残業命令と同じです)。

    時差出勤制は、会社にとっては仕事の繁忙に合わせられるなどのメリットがあります。また、従業員の方も、制度によっては、混雑時間帯を避けて通勤できる。子どもの送り迎えに都合がよいなどのメリットがあります。

    労使協定は必要なく、就業規則の改定で実施できます。

    この方法で対応できるのは、まれに必要が生じる職場です。頻繁に繰上げ繰下げが実施されるのであれば、就業規則に具体的に定める必要があります。

    例えば、「8時~17時」「9時~18時」「10時~19時」など、どれを選択しても1日の所定労働時間は変わりませんが、あらかじめ定めたパターンから選択できる制度です。フレックスタイム制に近いやり方ですが、フレックスタイム制は、出勤時刻や退社時刻を従業員が自主的に決めることのできる制度で、時差出勤制の方は一定の制約があります。ある程度は自由にしたいが、フレックスタイム制にまでは踏み切れないという会社が採用することが多いようです。

    季節によって全員が一斉に勤務時間を早くする「サマータイム」や、「朝型勤務」へのシフトも時差出勤制の応用です。

    規定例

    輪番制による時差出勤の規定例

    (労働時間及び休憩時間)
    第〇条 労働時間は、1週間については40時間、1日については8時間とする。
    2 始業・終業の時刻及び休憩時間は、次のとおりとする。ただし、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、又は繰り下げることがある。この場合において業務の都合によるときは、所属長が前日までに通知する。
    ① 一般勤務
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間
    ② 一番交替勤務
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間
    ③ 二番交替勤務
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間
    ④ 三番交替勤務
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間
    3 就業番は原則として〇日毎に〇番を〇番に、〇番を〇番に、〇番を〇番に転換する。
    4 一般勤務から交替勤務へ、交替勤務から一般勤務への勤務交替は、原則として休日又は非番明けに行うものとし、所属長が各人に通知する。

    サマータイムの規定例

    (労働時間及び休憩時間)
    第〇条 労働時間は、1週間については40時間、1日については8時間とする。
    2 始業・終業の時刻及び休憩時間は、季節ごとに次のとおりとする。ただし、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、又は繰り下げることがある。この場合において業務の都合によるときは、所属長が前日までに通知する。
    ① 夏季(〇月〇日~〇月〇日)
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間
    ① 冬季(〇月〇日~〇月〇日)
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間


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  • 専門業務型裁量労働制導入のポイント

    専門業務型裁量労働制とは

    専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。

    裁量労働制には、ほかに企画業務型裁量労働制があります。

    関連記事:企画業務型裁量労働制導入のポイント

    専門業務型裁量労働制の対象業種

    デザイナー、システムエンジニアなど専門的な19種類(令和6年4月1日から20種類)の業務に就く者が対象です。

    専門業務型裁量労働制の対象業務等については、厚生労働省ホームページを参照してください。

    制度導入のための手続

    労使協定の締結

    次の事項について労使協定を結び、労働基準監督署に届けなければなりません(or労使委員会の設置・決議・届出)。

    (1)制度の対象とする業務
    (2)対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
    (3)労働時間としてみなす時間
    (4)対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
    (5)対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
    (6)協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい。)
    (7)労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処置措置の実施状況の記録を協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること

    令和6年4月1日改正施行

    2024年4月1日より、専門業務型裁量労働制を導入または継続する場合の労使協定には次の項目を追加する必要があります。

    (6)制度の適用にあたって労働者本人の同意を得ること
    (7)制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと
    (8)制度の適用に関する同意の撤回の手続き
    (9)労使協定の有効期間
    (10)労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処置措置の実施状況、同意および同意の撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること

    労使委員会について

    専門業務型裁量労働制の場合は労使委員会の設置義務はありませんが、厚生労働省のこれからの労働時間制度に関する検討会は労使委員会を活用することを推奨しています。

    労使委員会は、労働基準法第38条の4や第41条の2で規定されており、労使協定に代わる決議を行うことができます。

    労使委員会は企画業務型裁量労働制においては設置義務があるのでその例にならって設置運営することになります。労使委員会は運営規程を定めなければならず、運営規程に定めるべき事項については厚生労働省から通達が出ています。

    関連記事:労働基準法による労使委員会

    就業規則への記載と届け出

    専門業務型裁量労働制について就業規則に追加して、労働基準監督署に就業規則変更届を出す必要があります。

    就業規則規定例:専門業務型裁量労働制|就業規則

    健康福祉確保措置

    上記の労使協定の「(4)対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容」は、まさに具体的に記載する必要があります。

    以下は、企画型の適用で定められている健康・福祉確保措置ですが、厚生労働省は専門型についても同じように対応することが望ましいとしています。

    健康・福祉確保措置は、(イ)から(二)までの措置、(ホ)から(ヌ)までの措置から、それぞれ1つずつ以上実施することが望ましいとされています。特に(ハ)を選択することが望ましいとされています。

    なお、(イ)(ロ)(ハ)(ホ)は、令和6年4月1日改正実施から追加されるものです。(改正後の「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」)

    事業場の対象労働者全員を対象とする措置

    (イ)勤務間インターバルの確保
    (ロ)深夜労働の回数制限
    (ハ)労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除
    (ニ)年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めたその取得促進

    個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置

    (ホ)一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導
    (ヘ)代償休日又は特別な休暇の付与
    (ト)健康診断の実施
    (チ)心とからだの健康問題についての相談窓口設置
    (リ)適切な部署への配置転換
    (ヌ)産業医等による助言・指導又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

    導入の注意

    制度上のみなし労働時間と実際の労働時間が乖離してはいけません。

    委ねるというのは、その業務を遂行する方法や時間の配分の決定等について、その業務にあたる労働者に会社が具体的な指示をしないことです。

    具体的な指示をしないということは、ある業務をいつから始めていつ終わらせるかを本人にまかせるという定めなので、例えば、きびしい納期を課すなどの制約があれば、実態として裁量が乏しいとして裁量労働の適用が否定される可能性があります。

    また、会社にはその業務にあたる労働者の労働時間を把握し、把握した労働時間の状況に応じて健康及び福祉を確保する為の措置を実施する義務があります。特に深夜勤務や休日労働は、割増賃金の支払い義務があるので、具体的な労働時間を把握しなければなりません。

    しかし、裁量労働制において正確に労働時間を把握するのは難しいのが実態です。委ねるというところが裏目に出て長時間労働が常態化する危険があるので注意深い運用が必要です。


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