カテゴリー: 労働時間

  • 退職するとき、有給休暇は消化できる?買い取ってもらえる?

    有給休暇取得を拒むことはできません

    退職前に残っている有給休暇を全部使いたい、という申し出を受けることがあります。

    退職の意思表示と同時に、明日から有給休暇を使うのでもう出てきません、などと言われることもあります。

    会社としては最低限の引継ぎくらいはしてから退職してもらいたいところですが、基本的には有給休暇の求めを拒むことができません。

    会社が時季指定をしたくても、退職日を過ぎた日を時季指定することができないからです。

    昭和49年1月11日基収5554号
    時季変更権の行使は「労働基準法に基づくものである限り、当該労働者の解雇予定日を超えての時季変更権行使は行えないものと解する。」

    引き継ぎができないと慌てる会社は、業務運営が組織的に行われていない会社です。日頃から業務をマニュアル化し、関係書類のファイリングがしっかりできていれば、一日で引継ぎを終えることも可能です。

    引継ぎはさせられないのか

    就業規則に引継ぎをしなければならない旨の規定をしている場合もあると思います。その点を強調して有給休暇取得を拒否することも、手段としてはありえますが、従業員が応じなければどっちみち引き継ぎは行われません。

    裁判上の争いになった場合は、会社に生じた損害を求めるくらいしかできません。認められた判例もあるようですが、一般的には、スムーズな引き継ぎができないのは会社の業務体制の不備にもあるわけですから、勝ったとしてもさほどの利益はないと思われます。

    現実的な手段としては、業務の引き継ぎに必要な日数分の有給休暇を金銭で買い取る、または退職日を延期してもらうことが妥当な線でしょう。あまり意地にならず、穏便に収める方が得策です。

    有給休暇の買い上げ

    年次有給休暇の未消化日数に応じて一定の賃金を支払う(これを「休暇の買い上げ」といっています。)は、休養を与えるという制度の趣旨に反しているので、やってはいけないことになっています。

    買い取りしてもよい場合もあります。その一つが退職時における未消化分の買い上げです。

    関連記事:有給休暇の買い取り

    裁判例にも、退職時の有給休暇の買い取りについて、従業員の退職時において、会社が未消化分の有給休暇を買い取ることは「違法ではない」というものがあります。(〇〇学院事件(神戸地裁判決昭和29年3月19日)


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  • 年次有給休暇に支払われる賃金

    有給休暇中の給与の額

    年次有給休暇とは、休んでいる日に対しても一定の日数までは給料が支払われる制度です。

    使用者は年次有給休暇の賃金をどのように算定するか決めなければならず、決めた場合には就業規則に記載しなければなりません。就業規則への定め方については下記の記事を参考にしてください。

    関連記事:休暇等の賃金|就業規則

    労働基準法では、3つの方法が示されています。

    1.所定労働時間働いたものとして支払われる通常の額
    2.平均賃金
    3.標準報酬日額

    どれを採用するかによって有給休暇中の賃金は多少違いがでます。

    どの方法を選択するかは就業規則などで定めて、一律に適用します。月によって変えたり、従業員によって別々の適用をしてはいけません。

    通常の賃金

    たとえば、月給30万円で、月の平均勤務日数が20日、1日の所定労働時間が8時間であれば、時給換算額は次のようになります。

    30万円÷20日÷8時間=1875円

    この例の所定労働時間は8時間なので、1875×8=15000

    つまり、1日あたりの有給休暇中の給与は15000円です。

    この額は、休まずに定時に出勤していた日に払われる額と同じです。

    簡単にいうと、有給休暇を取得して休んだも、いつもどおりの給料を支払う」という取り扱いです。おそらく、この方法を選択している会社が一番多いと思います。

    平均賃金

    平均賃金方式は、有給休暇取得日の直前の締め日から直近3ヶ月の給料総額を、暦の総日数で割って計算する方法です。平均賃金の算定方法は労働基準法に定められています。

    関連記事:平均賃金

    上記の例で計算すると、

    (30万+30万+30万)÷(31日+30日+31日)=9783円

    この例では、「所定労働時間働いたものとして支払われる通常の額」と比べるとずい分低くなります。

    ただし、平均賃金は、「通常の賃金」だけでなく、「残業代」などの月々変動する賃金も加算して計算しなければならないので、残業が多い職場では平均賃金方式の方が多くなる場合もあります。

    標準報酬日額

    社会保険料の計算に用いる「標準報酬月額」から日割計算して、その金額を支払う方法です。「標準報酬日額」を採用する場合は、就業規則に定めるだけでなく労使協定が必要になります。

    関連記事:年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合の労使協定のサンプル

    時給従業員の場合

    賃金が時給で支払われるパート従業員等は、毎日同じ時間だけ働いているとは限りません。本人の希望や勤務シフトによって所定労働時間が一定していないことがあるので注意が必要です。

    通常の賃金を用いる場合は、実務上は、あらかじめ有給休暇の計算に用いる所定労働時間数を労働契約で決めておくことが行われています。ただし、勤務の実態を反映しない時間数で運用するとトラブルの元になります。

    正確さを重視するのであれば、平均賃金方式で行うのがよいでしょう。ただし、いちいち平均賃金を計算しなければなりません。


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  • 高度プロフェショナル制度

    高度プロフェショナル制度とは

    高度プロフェッショナル制度とは、一定の年収要件を満たし、職務範囲が明確で、高度な職業能力を有する労働者を対象とした制度です。

    具体的には厚生労働省令で定められた業務に従事する、年収1075万円以上の従業員が対象です。

    高度プロフェッショナル制度の対象になれば、労働基準法の時間に関する規定(労働時間、休憩、休日、深夜労働、時間外割増賃金など)が適用されなくなります。そのため、長時間労働を防止するための措置を講じることが制度導入の条件になります。

    導入手続き

    高度プロフェッショナル制度を導入するには労使による委員会を設置し、導入に関する決議をする必要があります。

    決議をしたら、決議内容を労働基準監督署に届出ます。

    また届出をした事業場は、健康確保措置の実施状況を定期的に行政官庁に報告する義務が生じます。

    実施にあたっては、労使委員会の決議だけでなく、対象になる労働者の個別の書面による同意も必要です。

    労使委員会とは

    労使委員会は、賃金、労働時間その他の当該事業所の労働条件に関する事項を調査審議し、事業者に対し、当該事項について意見を述べることを目的事項として設置します。

    関連記事:労使委員会について

    労使委員会の規程を作成し、招集、定足数、議事その他労使委員会の運営について必要な事項を定め、議事が議事録として作成、保存され、また当該事業場の労働者に周知されている必要があります。

    関連記事:労使委員会運営規程のサンプル

    関連記事:周知について

    労使委員会での決議事項

    1.対象業務
    2.対象労働者
    3.健康管理時間を把握する措置
    4.対象労働者に付与する休日の日数
    5.対象労働者に講じる措置
    6.健康及び福祉を確保する措置
    7.同意の撤回手続き
    8.苦情への対応
    9.不同意労働者への対応
    10.その他

    導入の条件

    上記の決議事項は次の条件を満たしていなければなりません。

    1.対象業務

    ITや会計、制作、編集など専門的な知識を必要とし、従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令に定められているものです。

    (想定されている業種例)
    ・金融商品の開発業務
    ・金融商品のディーリング業務
    ・アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)
    ・コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)
    ・プログラムの開発業務
    ・医療品等の研究開発業務

    2.対象労働者

    対象労働者については、使用者と書面等の方法による合意に基づき職務が明確に定められることが必要です。また1年間に支払われると見込まれる賃金の額が1075万円以上であることが必要です。

    3.労働時間の把握

    使用者が対象労働者の事業場内に所在した時間だけでなく、事業場外で業務に従事した場合における労働時間との合計の時間(健康管理時間)を把握するための措置を決議することが必要です。

    4.休日の付与

    高度プロフェッショナル制度の対象者に対しては、1年間を通じて104日以上の休日、4週間を通じて4日以上の休日を与えることを決議し、就業規則に定める必要があります。

    5.対象労働者に講じる措置

    ① 勤務間インターバルの設定と深夜業の回数の制限
    ② 1ヶ月または3ヶ月の健康管理時間の上限を定める
    ③ 2週間連続の休日を年に1回以上(労働者が希望する場合には1週間連続の休日を年2回以上)与える
    ④ 健康管理時間の状況に応じて臨時の健康診断を実施する

    労使委員会では上記①~④のいずれかの措置を決議し、就業規則に定める必要があります。

    6.健康及び福祉を確保する措置

    有休休暇の付与、健康診断の実施などの省令の定める事項のうち、労働者の健康管理時間の状況に応じた健康及び福祉を確保するための措置(有給休暇の付与や健康診断の実施が想定されています)を実施することを決議する必要があります。

    7.同意の撤回

    対象となった労働者は同意を撤回することができるので、同意を撤回する場合の手続きを定める必要があります。

    8.苦情処理

    高度プロフェッショナル制度の対象労働者から苦情が出た場合についての措置に関して定める必要があります。

    9.不同意労働者

    高度プロフェッショナル制度について同意をしなかった労働者に、不利益な取扱いはしてはならないことを決議する必要があります。

    10.その他

    その他、厚生労働省令で定める事項について、労使委員会で決議する必要があります。


    関連記事:高度プロフェッショナルと企画業務型裁量労働の違い

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  • 年次有給休暇の基準日について解説

    原則的な基準日

    労働基準法では、「入社日を基準にして」年次有給休暇を付与することが定められています。

    例えば、Aさんが4月1日入社であれば10月1日に年次有給休暇を付与し、Bさんが9月10日入社なので3月10日に付与します。

    そして、その翌年からは、Aさんには10月1日に新しい年次有給休暇し、Bさんには3月10日に新しい年次有給休暇します。一人一人個別に管理するわけです。

    プログラムを組んでおけばたやすく管理できますが、ぱっと見には分かりにくいやり方です。手作業で管理すれば大変手間がかかります。

    そこで、次のように基準日をそろえる方法が一般的です。

    年次有給休暇の基準日をそろえる

    ただし、年次有給休暇の基準日をそろえるには、年次有給休暇を前倒しで与える必要があります。

    労働基準法で定められている付与日数を下回るわけにはいかないからです。

    前倒しする方法 1

    入社時に10日の年次有給休暇を前倒しする方法です。

    そして、一定の日、例えば4月1日を基準日にするのであれば、次の4月1日に、6ヶ月経っていなくても、新しく11日の年次有給休暇を付与するのです。ここで基準日がそろいます。

    前倒しする方法 2

    不公平感を薄めるために、付与日数を逓減させる方法もあります。

    4月入社であれば入社時点で10日
    5月入社であれば入社時点で9日
    6月入社であれば入社時点で8日
    7月入社であれば入社時点で7日
    8月入社であれば入社時点で6日
    9月入社であれば入社時点で5日
    10月入社であれば入社時点で4日
    11月入社であれば入社時点で3日
    12月入社であれば入社時点で2日
    1月入社であれば入社時点で1日
    2入社であれば入社時点でゼロ日

    そして、4月1日に全員に新しい有給休暇11日を付与します。

    前倒しする方法 3

    入社半年に満たない場合でも、基準日、例えば4月1日がきたら10日の年次有給休暇を前倒しする方法です。

    そして、翌年の4月1日には、新しく11日の年次有給休暇を付与するのです。6ヶ月で10日付与、1年6ヶ月で11日付与という労働基準法の規定をクリアします。

    問題点

    上記の例以外にもいろいろアレンジできますが、基準日でそろえる場合は、仮の入社日によるシミュレーションをして、労働基準法で定められている最低基準をクリアしていることを確認して下さい。

    年次有給休暇の基準日を設定すれば、付与するタイミングは社員全員同じ、消化日数の管理も社員全員同じ期間なので、管理が簡単です。

    ただし、前倒しをすると、いずれの方法をとっても、入社月によって有利不利の違いがでてしまいます。公平という観点で問題があります。また、前倒しというのは会社のコストを考えるとマイナスです。

    どの方法にも一長一短があります。どの方法をとるかは会社次第です。

    年次有給休暇の基準日を統一することについて、次の記事もご一読ください。
    関連記事:有給休暇の基準日統一ってどうですか?課長に聞いてみた!


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  • 時間外労働等に対する割増賃金

    割増賃金の支払い義務

    法定労働時間(1日8時間や1週40時間)を超えて残業させたとき(時間外労働)や休日出勤をさせたときは、一定の割増率により割増賃金を支払う必要があります。

    法定労働時間を超えたときに割増が適用されるので、残業であっても法定労働時間内におさまっていれば割増賃金の必要はありません。

    例えば、就業規則で朝9時から夕方5時までの就業時間を定めていて昼休憩が1時間であれば、労働時間は7時間になります。この場合に、例えば、午後6時まで残業させれば残業時間は1時間ですが、法定労働時間の8時間を超えていないので割増賃金を支払う必要はありません(1時間分の通常賃金は追加しなければなりません)。

    また、午後7時までの2時間の残業を命じた場合は、前半の1時間分は通常の1時間分、後半の1時間分は割増した1時間分を支払わなければなりません。

    割増率

    通常の割増率

    通常の時間外労働に対する割増率は25%(1.25倍になる)となっています。

    月60時間超の割増率

    月60時間を超える時間外労働については、割増賃金率は50%以上になります。

    例えば、月90時間の時間外労働があった場合、60時間分の時間外労働が25%、30時間分の時間外労働を50%の割増賃金率で計算します。

    1時間当たり賃金×60時間×25%+1時間当たり賃金×30時間×50%

    1か月60時間の法定時間外労働の算定には、法定休日(例えば日曜日)に行った労働は含まれませんが、それ以外の休日(例えば土曜日)に行った法定時間外労働は含まれます。

    50%分のうち、25%部分を除いた残りについては、労使協定を締結することにより、割増賃金の支払いに代えて有給休暇(年次有給休暇を除く)を与えることもできます。

    解説記事:割増賃金に代えて有休を選択する代替休暇制度

    休日労働の割増率

    休日出勤の割増賃金は、法定休日に労働させた場合に35%の割増率となります。

    その他の休日(所定休日=会社が就業規則で定めている休日)に労働させた場合は、その出勤の結果、その週の労働時間が40時間を超えた時間に対して25%の割増率となります。40時間以内におさまっている時間は割増のない通常賃金でかまいません。

    法定休日は、労働基準法に定めがある1週1日、あるいは4週4日の休日のことです。法律では曜日を限定していません。例えば、週休2日制の場合にどちらを法定休日にするかは、就業規則の定めあるいは雇用契約の内容によります。

    なお、就業規則で、法定・所定を問わず35%としている場合は、労働基準法が定める基準を上回る待遇なので問題ありません。

    深夜労働の割増率

    労働時間が深夜(午後10時から午前5時まで)になったときは、25%以上の割増賃金を追加する必要があります。

    この場合、時間外労働が深夜の時間帯に及んだ場合は、25%+25%となり割増賃金は50%以上となります。

    深夜の時間帯に1か月60時間を超える法定時間外労働を行わせた場合は、 深夜割増賃金率25%以上、時間外割増賃金率50%以上で、あわせて75%以上となります。

    休日労働が深夜の時間帯に及んだ場合は、35%+25%となり割増賃金は60%以上となります。

    特別条項による部分

    1か月に45時間または1年に360時間を超える法定時間外労働をさせる場合には、特別条項付きの労使協定(さぶろく協定)を締結する必要があります。特別条項付きの労使協定を締結してない場合は、1か月に時間または1年360時間を超える時間外労働は、割増賃金を支払ったとしても労働基準法違反になります。

    なお、「時間外労働の限度に関する基準」により、特別条項付きの36協定に定める割増率は、25%を超える率とする努力義務が課せられています。

    したがって、月45時間までの割増率は25%で良いとしても、45時間を超えれば「25%を超える」率を設定しなければなりません。現在のところ30%と定める例が多いようです。さらに、60時間を超える部分は上述したとおり50%超が適用されます。

    計算の実際

    一般的な計算方法

    割増率は以上のとおりですが、実際の計算に当たっては、各人の割増賃金を計算対象となる給与をもとに各人ごとの賃金単価を正確に算出しなければなりません。

    解説記事:割増賃金の計算方法

    変形労働時間制の割増賃金の計算

    変形労働時間制の場合の割増賃金の計算は、原則的な場合(1週40時間 1日8時間)の時間外労働の計算方法と比べると複雑です。

    解説記事:1か月単位の変形労働時間制

    解説記事:1年単位の変形労働時間制

    解説記事:1週間単位の非定型的変形労働時間制

    注意点

    三六協定を締結する

    労働時間は法定労働時間内におさめるのが原則なので、法定労働時間を超えて労働をさせるには特別の手続きをしなければなりません。就業規則の定めと労使協定の締結です。

    解説記事:時間外労働の手続き

    遅刻と残業の通算について

    遅刻した時間を終業後の時間で埋め合わせて、その部分について割増扱いをしないことは問題ありません。

    解説記事:遅刻した時間分無給の残業をさせることができるか

    従業員が残業代を辞退したとき

    従業員が仕事上のミスで本来しなくてもよい残業をしたときに、「自分のミスですから残業申請しません」と言ったり、申請しなかったりすることがあるかもしれません。しかし、理由にかかわらず残業時間は労働時間であり割増賃金の対象になります。ミスにつけ込んで残業代を支払わないと賃金の未払いという労働基準法違反になることに注意しましょう。

    固定残業手当の場合

    固定残業手当は、定額残業手当ともいい、毎月決まった金額を見込みの残業手当として、実際の残業の有無にかかわらず支給する制度のことです。

    解説記事:定額残業手当や固定残業手当はどういうものか


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  • 最低5日の有給休暇を取得させる義務

    最低5日は有給休暇取得が必要

    10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、そのうち5日は、有給休暇が発生した日から1年以内に、使用者が時季を指定して取得させる義務があります。

    このルールは、正社員だけでなく、短時間勤務で有給休暇の比例付与を受けているパートタイマーも、有給休暇日数が年間10日以上になる場合は適用されます。

    対応が必要ない会社もある

    労働基準法第39条の第5項の「計画的付与」を実施している企業は、特に別な対応をする必要はありません。要求される水準は実施済みだからです。

    それと、有休消化率が良くて、5日以上は皆とっているよ、という会社も特にバタバタする必要はありませんが、実際に5日以上とっているかどうかのチェックは必要です。

    有給休暇の残日数管理が重要

    とは言え、有休消化率が良い会社でも、取得が5日に満たないまま1年を過ぎる人がいれば問題になりますから、労働者ごとに、取得状況のチェックをしなければなりません。

    基準日から1年以内という条件があるので、気付くのが遅くて対応できなければ法律違反になってしまいます。

    また、今回の法改正に伴い、年休管理簿を作らなければなりません。

    これまでも、よほど無頓着な会社でない限り何らかの管理簿はあったと思うのですが、今度は3年の保存義務がある法定帳簿扱いになります。

    条文を読んでみましょう

    労働基準法第39条第6項
    使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項から第3項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる。

    上は、前からあった規定です。いわゆる計画的付与に関する規定です。労使協定を結ぶことで実施できます。

    下が、有給休暇を最低5日させることを、使用者に義務付けた条項です。

    労働基準法第39条第7項
    使用者は、年次有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が10日以上である労働者に係るものに限る。)の日数のうち5日については、基準日から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。

    第7項については労使協定が必要ありません。個々の労働者と話し合って有給休暇を消化してもらうのが基本です。

    この場合、労働者の希望する取得日があればそれを優先するのが基本です。

    特に希望する取得日がない場合は、そのままにしておくと取得しないままになってしまう恐れがあるので、業務上比較的余裕がある時期を指定することができます。年末年始・夏季休暇の日数を追加する形も考えられます。

    取得しない労働者への対応

    また、この規定は「与えなければならない」と使用者に義務を課していますが、与えようとしても個々の労働者が拒むという事態も考えられます。その対策として、取得しない場合に人事考課で評価を下げる、懲戒の対象にするなどの強制的な対応はしてはならないと考えられています。年次有給休暇をいつ取得するかはあくまでも労働者の権利だからです。

    使用者が最低5日の有給休暇をとらせなければ、労働基準法第37条第7項違反ということで三十万円以下の罰金になる可能性があります。一方、労働者に対する罰則はありません。

    ということで、最低限の有給休暇を取得しない労働者に対しては、前述したように強制的なことはできないので、取得しない事情を聞き取り、または調査して(多くの場合は休むと代わりがいないので後で自分の仕事が忙しくなるだけなどの業務分担の問題がからんでいます。また、ごくまれですが、何か不都合なことをしているので休んでいる間にそれを発見されたくないというケースもあります。)取得できる環境の整備に取組なければなりません。

    労働基準法第39条第8項
    前項の規定にかかわらず、労働者の請求する時期に与えた場合又は労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合において労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、有給休暇を与える時季に関する定めをし、有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が5日を超える場合には、5日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。

    8項は、きちんと請求時期に与えている場合や、計画的付与を実施している場合には、格別のことをしなくてもよいという規定です。

    個々に話し合いで決める形にするか、第6項の労使協定による計画的付与にするかは、それぞれの会社の判断です。

    これまで有給の夏季休暇や正月休みを実施していた会社が、それを取り消して、改めて有給休暇として与えるようなことをすれば、実質的に有給休暇が減ることになるので労働条件の不利益変更にあたります。

    関連記事:不利益変更

    就業規則記載例

    年次有給休暇の最低限取得義務|就業規則


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