Last Updated on 2023年2月26日 by 勝
間違いが見つかったら
給与計算にミスがあることが分かったら、給与計算をやり直したり、過不足分を清算する必要があります。
ミスが分かったらまずどのような形で清算するか方針が決めます。方針を決めたら速やかに対象の従業員にその旨を知らせ、過不足を清算するやり方を説明します。
過不足発生が給与計算担当者のミスであったときは謝罪し、従業員の届出違いに原因があるときは注意を与えます。
受け取った本人が返還に難色を示すことがあるかもしれませんが、間違って支払った過払い分について、会社は民法703条に基づき不当利得返還請求をすることができます。
過払いがあったとき
全額払いとの関係
賃金は全額を支払うという原則があります(労働基準法24条1項)。したがって、したがって、たとえ計算間違いであっても次の給料から過払い部分を勝手に天引きすることはできないのが原則です。
関連記事:賃金の全額払いの原則
実務的には、相互の信頼関係をもとに、翌月の賃金で調整することが行われています。これは、「前月分の過払い賃金を翌月分で清算する程度は、賃金それ自体の計算に関するものであるから、労働基準法第24条の違反とは認められない(S23.9.14-基発1357号)」という通達が根拠になっているとされています。
また、この件についての最高裁判決もあります。具体的には、調整的相殺は、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、賃金全額払原則に反しないとし、そのためには、過不足が生じた時期と相殺の時期が賃金の清算調整たる実を失わない程度に接着していること、その額が多額にわたらない等、労働者の経済生活の安定を脅かすおそれのないことが必要であると述べています(最一小判昭44年12月18日福島県教組事件)。
いずれにしても、ごく少額であれば次の給与で調整することは労働基準法違反とまではならないとされているのですが、どの程度であれば多額とされないかなどの問題があるので、通達や判例で認められているので問題なく次の給料で調整できるという発想は安易だということになります。
労使協定と本人の同意
また、給料からの差し引きをするには「過払い分がある場合は翌月の賃金から差し引いて支払う」などの内容が含まれた労使協定を締結しておく必要があります。
参考:労働基準法24条1項ただし書き
「法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」
労使協定の内容は、就業規則または賃金規程の控除項目に追加しておきましょう。
なお、労使協定があっても控除について私法上の効果が認められるわけではないので、給料からの天引きが有効になるためには、労働協約を締結しておくか当該労働者の同意を得ておくことが必要です。労働協約は労働組合のある会社の場合です。一般的には本人の(自由意志による)同意が重要です。
特に、事前説明なしに清算するのはトラブルの元です。翌月の給与て調整する必要が生じたときはその旨と金額をきちんと説明して本人の同意をとりつけましょう。また、金額が大きいときは、相談の上で分割にするなどの配慮が必要です。
現金による回収の場合
現金で回収するときは、内訳を明記した領収書を渡しましょう。また、給与には源泉所得税と雇用保険が関係しています。これらは逆に過徴収になっているはずなので差し引いた金額を返金してもらわなければなりません。
過払いを翌月給与で清算すると、源泉所得税と雇用保険料は自動的に反映されるのでそうした問題は生じません。
不足があったとき
不足分はすぐに支払わなければなりません。振込または現金で支給します。即時支払が原則なので現金がよいでしょう。支払時に明細を交付して受領印をもらいます。
不足分を現金で支給する場合は、源泉所得税、雇用保険料の徴収漏れに注意しましょう。控除分を計算して差し引いて支給するのが原則です。
少額でかつ本人の同意があれば翌月の給与で調整することもあります。ただし、会社側が少額だと判断しても本人にとっては生活に影響を与える額であることもあります。本人の同意が必要です。
事前対策
間違いやすい点はチェックリストに加えてミスを防ぎましょう間違いは次のようなときに起りがちです。
□ 昇格や降格で役職が変わったとき
□ 出産や死亡、妻子の就職で扶養家族が変わったとき
□ 引越しで通勤費の変動があったとき
□ 時間外手当等の連絡ミス
□ 月の途中で入社した従業員の社会保険料誤控除