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所定労働時間とは何か?法定労働時間との違いを中心に詳細解説

Last Updated on 2025年7月19日 by

所定労働時間(しょていろうどうじかん)」を簡単に言うと、会社が従業員に対して、この時間働いてくださいねと定めている時間のことです。では、この所定労働時間について詳しく見ていきましょう。

「法定労働時間」は国が決めている

「所定労働時間」を理解する上で、まず知っておくべきは「法定労働時間(ほうていろうどうじかん)」です。

法定労働時間とは、労働基準法という法律で決められている「労働時間の絶対的な上限」のことです。

法定労働時間は、原則として、1日8時間、1週40時間です。

どの会社も、原則としてこの時間を超えて労働者を働かせてはいけません。これが、労働基準法の最も基本的なルールです。

関連記事:法定労働時間って何?〜法律で決められた「これ以上働かせちゃダメ!」な時間です

「所定労働時間」は会社が決める

さて、いよいよ「所定労働時間」です。 会社は、この「法定労働時間」の範囲内で、自由に「うちの会社では、何時間働くか」を決めることができます。

例えば、

「1日8時間、週40時間」 と定める会社(法定労働時間と同じ)

「1日7時間30分、週37時間30分」 と定める会社(法定労働時間より短い)

「1日7時間、週35時間」 と定める会社(法定労働時間より短い)

など、様々なパターンがあります。

このような、会社が独自に定めた働く時間が「所定労働時間」なのです。

所定労働時間は、必ず就業規則(会社の働くルールを定めたもの)や労働契約(会社と個人の契約書)に記載されています。

所定労働時間と残業の関係

この「所定労働時間」を超えて働いた場合が、「残業」になるわけですが、実は残業には2種類ある、ということを知っておくと、より理解が深まります。

法定内残業(所定外労働)

会社の「所定労働時間」は超えたけれど、まだ「法定労働時間」の範囲内におさまっている労働時間のことです。

例:

所定労働時間が1日7時間の会社で、その日に8時間働いた場合。

この1時間分は「法定内残業」です。

法定労働時間(8時間)以内なので、割増賃金(残業手当)を支払う義務は、法律上は原則ありません。ただし、会社によっては就業規則などで「所定労働時間を超えた分は割増で支払う」と定めている場合もあります。

割増部分以外は払わなければならない

割増賃金を支払う義務はありません、という部分を誤解してはいけません。

法定内残業(所定外労働)については、割増賃金を支払う義務はありませんが、通常の労働時間に対する賃金(追加賃金)は支払う必要があります。

具体的にどういうことか?
もう一度、具体例で見てみましょう。

前提:

あなたの会社の所定労働時間:1日7時間

法定労働時間:1日8時間

あなたの1時間あたりの通常賃金:1,000円

ある日の労働時間: 8時間

この場合、

最初の7時間:これは所定労働時間内の労働なので、通常の賃金が支払われます。

7時間 × 1,000円/時間 = 7,000円

追加の1時間:これが「法定内残業(所定外労働)」にあたります。

所定労働時間の7時間を超えていますが、法定労働時間の8時間以内です。

この1時間に対しては、割増しをする必要はありません。しかし、働いた分の賃金は当然支払われるべきです。

1時間 × 1,000円/時間 = 1,000円

合計の賃金: 7,000円 + 1,000円 = 8,000円

つまり、この日の労働に対しては、合計で8,000円が支払われます。この1,000円は通常の賃率で計算された「追加賃金」であり、「割増賃金」ではありません。

まとめると、法定内残業(所定外労働)については、割増率を上乗せした賃金(例:1.25倍)を支払う義務はない。しかし、通常の賃率で計算した追加の賃金は必ず支払う必要がある。ということになります。

法定外残業(時間外労働)

会社の「所定労働時間」を超え、さらに「法定労働時間」(1日8時間、週40時間)も超えて働いた時間を、法定外残業(法定外時間外労働)といいます。

例:

所定労働時間が1日8時間の会社で、その日に9時間働いた場合。

この1時間分は「法定外残業」です。

法定労働時間を超えているので、会社は割増賃金(通常賃金の1.25倍以上)を支払う義務があります。

このように、「所定労働時間」を基準として、どこまでが通常の賃金で、どこからが割増賃金の対象になるのかが変わってきます。

労働基準法には直接書いていない

「所定労働時間」という言葉は、労働基準法の条文の中には直接見当たりません。この点が、分かりにくい部分だと思います。

まず結論から言えば、

労働基準法では「所定労働時間」という用語は直接使われていません。

しかし、労働基準法が定める「法定労働時間」を基準として、各企業が独自に「所定労働時間」を定めることを前提としたルールが存在します。

労働基準法以外の法律(特に育児介護休業法やパートタイム・有期雇用労働法など)では、「所定労働時間」という用語が明確に出てきます。

なぜ労働基準法にないか?

労働基準法が「所定労働時間」という言葉を直接使わないのは、労働基準法が「最低限の労働条件の基準」を定める法律だからです。

労働基準法は、「これ以下にしてはいけない」基準を定めています。労働時間であれば「法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)」です(労働基準法第32条)。

会社は、この法定労働時間の範囲内であれば、例えば「1日7時間」や「週35時間」など、自由に労働時間を設定することができます。

この「会社が独自に設定した労働時間」を「所定労働時間」と呼ぶわけですが、労働基準法は、個々の企業がそれぞれ自由に設定するこの「所定労働時間」について直接規定するのではなく、あくまで「法定労働時間」という上限を設けることで、所定労働時間の決め方をコントロールしているのです

労働基準法は「所定労働時間」という用語そのものを使っていないものの、所定労働時間という概念は存在しているのです。

労働基準法以外の法律

労働基準法以外の法律では「所定労働時間」という用語が明確に出てくることが多々あります。特に、労働者の働き方や雇用形態の多様化に対応するための法律で用いられます。

具体的な例を挙げると、

育児介護休業法

この法律では、育児や介護のための「所定労働時間の短縮等の措置」という言葉が頻繁に登場します(例:育児介護休業法第23条、第24条)。

これは、「会社が定めた所定の労働時間を短くする」という制度を指しており、労働基準法上の「所定労働時間」の概念が前提となっています。

パートタイム・有期雇用労働法

この法律は、正社員とパート・有期雇用労働者の間の不合理な待遇差をなくすことを目的としています。

「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」の判断基準の一つとして、「通常の労働者と同一の業務に従事し、かつ、通常の労働者と同一の所定労働時間である短時間・有期雇用労働者」という表現が用いられています(例:同法第8条、第9条)。

ここでも「所定労働時間」は、雇用契約に基づいて企業が定める労働時間を明確に指す言葉として使われています。

まとめ

所定労働時間とは、法定労働時間という法律の上限の範囲内で、会社が就業規則などで独自に定めた「働く時間」のことです。

労働時間の上限の基準:会社がどれだけ働かせてよいかの基本的な上限となります。

残業代の計算基準:どの時間から残業となり、割増賃金が必要になるかの区分の基準となります。

皆さんの会社の就業規則には必ず記載されているはずですので、一度確認してみると良いでしょう。


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