Last Updated on 2025年7月24日 by 勝
はじめに
多様な働き方が求められる現代において、従業員の育児と仕事の両立支援は、企業の採用力や定着率にも直結する重要なテーマです。特に、育児休業を取得する社員が安心して子育てに専念できるよう、「育児休業給付金」の知識は人事担当者にとって必須と言えるでしょう。
この給付金は、育児のために仕事を休む従業員の生活を支え、育児後にスムーズに職場復帰できるよう、国が支援してくれる制度です。今回は、人事担当者の皆さんがこの制度をスムーズに活用し、子育て中の社員を力強くサポートできるよう、給付金の仕組みから具体的な手続き、そして実務で役立つチェックリストまで、詳しく解説していきます!
育児休業給付金って、どんな制度?
育児休業給付金は、1歳未満の子どもを養育するために仕事を休む従業員に対して、雇用保険から給付金が支給される制度です。
2022年10月からは「産後パパ育休(出生時育児休業)」も創設され、男性育休の取得促進にも繋がっています。
この給付金があることで、従業員は収入の心配を軽減しながら育児に専念でき、会社は大切な人材の流出を防ぎ、長期的なキャリア形成を支援することができます。
受給できる条件をチェック!
育児休業給付金をもらうには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
1.雇用保険に加入していること: 育児休業を開始する日(※原則、子が1歳になる誕生日の前日まで)までに、雇用保険の被保険者期間が2年以上あること。
具体的には、休業開始前2年間に、賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月が12ヶ月以上必要です。
1ヶ月の間に欠勤して給与の対象外とされた日がある場合は、給与の対象になる「賃金支払基礎日数」が11日以上あれば、1ヶ月とみなしてもらえます。
賃金支払基礎日数が11日以上の月が12ヶ月ない場合でも、完全月で賃金の支払の基礎となった時間数が80時間以上の月については1ヶ月として算定します。
また、転職した場合、1日の空白期間もなく再就職し、前職と通算で要件を満たした場合は、給付金を申請できます。
2.子どもを養育していること: 1歳未満の子どもを養育するために休業していること。特別の事情がある場合は、1歳6ヶ月、2歳まで延長が可能です。 (※パパ・ママ育休プラス制度や出生時育児休業(産後パパ育休)など、状況に応じた特例もあります。)
3.育児休業を取得していること: 会社から育児休業の承認を受け、実際に休業していること。
4.休業中の賃金が低いこと: 育児休業中の各月に、会社から支払われている賃金が、休業開始前の賃金の80%未満であること。 (全く賃金が支払われていない場合はもちろん対象です。給付金と会社からの賃金を合わせても、休業開始前の80%未満になる場合も対象です。)
5.休業が労働日であること: 休業期間中の各支給対象期間に、就業している日数が10日以下であること。 (10日を超える場合は、給付金は支給されません。ただし、就業している時間が80時間以下の場合は、例外的に支給されることもあります。)
6.退職を予定ししていないこと:育児休業給付金は、育児休業後に復職することが前提なので、次の人は受給できません。
・妊娠中に退職する人
・育児休業開始時点で、育児休業後に退職する予定をもっている人
いくらもらえるの?
育児休業給付金の支給額は、休業開始前の賃金をベースに計算されます。
支給額の計算式:
育児休業開始から6ヶ月間(180日): 休業開始時賃金日額 × 支給日数(原則30日) × 67%
育児休業開始から6ヶ月以降: 休業開始時賃金日額 × 支給日数(原則30日) × 50%
支給期間: 原則として、子どもが1歳になる誕生日の前日までです。 ただし、保育園に入れないなどの条件を満たして育児休業の延長が認められた場合は、育児休業給付金も子が1歳6ヵ月になるまで育児休業給付金の支給期間も延長されます。さらに最大で2歳の誕生日の前日まで延長されます。そのとき、入所申出書、入所不承諾通知書、育児休業延長申出書、育児休業給付に係る延長事由申出書が必要です。
支給上限額: 給付金には上限額があります。これは毎年8月1日に見直しが行われます。
開始から6ヶ月間(67%支給期間)の上限額: 月額 305,712円(令和6年8月1日~令和7年7月31日)
6ヶ月以降(50%支給期間)の上限額: 月額 228,150円(令和6年8月1日~令和7年7月31日)
【ポイント】
支給率は育休期間によって変わること、そして上限額があることを社員に明確に伝えましょう。特に給料が高い社員の場合、上限額に達して手取りが大きく減ることがあるので誤解がないように説明しなければなりません。
給付金は、社員個人の口座に、ハローワークから直接振り込まれます。
人事担当者が行う手続き
育児休業給付金の申請は、原則として事業主(会社)が行うこととされています。
申請の流れ
1.社員からの育児休業取得の申し出: まず、社員から会社へ育児休業の申し出があります。この際、子の生年月日や休業期間、復帰予定日などを確認します。
2.会社で育児休業を承認・休業開始: 社員が育児休業を取得します。休業期間中は、給付金の支給条件を満たすように賃金支払い状況などを管理します。
3.初回の申請書類提出: 育児休業開始日からしばらく経ってから、ハローワークへ初回の申請書類を提出します。
4.2ヶ月ごとの継続申請: その後、原則として2ヶ月ごとに、休業の継続状況と賃金支払い状況をハローワークに届け出て、給付金を申請します。
提出時期
初回申請: 出生時育児休業給付金の申請は、子ども出生日(出産予定日前に子が出生した場合は出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日から申請が可能です。
給付金の申請は、育児休業が始まってから2ヶ月たってから行うことが多いです。育休支給単位期間ごとに、就労日数、就労期間等を記載するからです。そして、原則、2支給単位ごとの申請となっているので、育休開始から2ヶ月経過後に申請する流れになります。
よって、最初の給付金を手にするのは育休開始から3ヶ月以降になるのが一般的です。
なお、当該日から起算して4ヶ月を経過する日の属する月の末日までに、申請する必要があります。
2回目以降の申請: 原則として、前回の支給対象期間の末日の翌日から2ヶ月以内。 ハローワークから「育児休業給付支給申請書」が送られてくるので、それに合わせて手続きを進めます。
必要な書類(主なもの)
1.雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 (会社が作成。休業開始前の賃金状況を証明する書類)
2.育児休業給付金支給申請書 (会社が作成し、社員にも署名・押印してもらう欄があります)
3.休業していることを証明する書類 (出勤簿、賃金台帳、就業規則など)
4.子の住民票記載事項証明書など (世帯全員の記載があり、本人と子の氏名・生年月日が確認できるもの)
実務上のポイント
事前の情報提供と社内ルールの整備
1.育児休業制度の周知:就業規則等で育児休業制度を明確にし、社員に周知しましょう。特に、男性社員も取得できる「産後パパ育休」については、取得促進の観点から積極的に案内しましょう。
2.相談窓口の設置:育児に関する相談をしやすい環境を整え、早期に育休取得の意向を把握できるようにしましょう。
3.給付金制度の説明:育休を検討している社員に対し、給付金制度の概要(期間、金額の目安、申請の流れなど)を分かりやすく説明できるよう準備しましょう。
チェックリスト
【社員との事前確認】
□育児休業の取得要件を満たしているか? 雇用保険加入期間、見込み退職なしなど(就業規則確認)
□雇用保険の被保険者期間は2年以上あるか? 休業開始前2年間に、11日以上賃金支払い基礎日数(または80時間以上)月が12ヶ月以上
□子どもは1歳未満か? (延長の有無) 特別な事情(保育園入所不可など)があれば延長可能
□休業希望期間と復帰予定日を確認したか? 男性育休の分割取得にも対応
【会社での準備・作成】
□賃金台帳・出勤簿の確認 休業開始前賃金の算出、休業中の就業日数確認に使用
□「休業開始時賃金月額証明書」の作成 賃金計算期間(原則として休業開始前6ヶ月間)を正確に記入
□「支給申請書」の作成 従業員記入欄の依頼、会社記入欄の正確な記入
【社員から受領】
□子の住民票記載事項証明書など 世帯全員の記載があり、本人と子の氏名・生年月日が確認できるもの
【ハローワークへの提出】
□初回申請の提出期限は確認したか? 育休開始日から4ヶ月を経過する日の属する月の末日まで
□2回目以降の申請は計画的に行っているか? ハローワークから送付される申請書に基づいて、期限内に提出
□必要書類はすべて揃っているか?添付書類に漏れがないか最終確認
□電子申請・郵送・窓口提出のいずれか?
まとめ
育児休業給付金は、子育て中の社員が安心してキャリアを継続するために、そして企業が優秀な人材を確保し定着させるために、非常に重要な制度です。人事担当者として、この制度を正しく理解し、適切なサポートを行うことは、社員のモチベーション向上だけでなく、企業のブランドイメージ向上にも繋がります。
手続きで不明な点があれば、管轄のハローワークや社会保険労務士に相談することをおすすめします。
この記事が、皆さんの会社の育児休業取得支援と、働きやすい職場づくりに貢献できれば幸いです。
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