Last Updated on 2025年7月17日 by 勝
実は介護休業に関する法律においては、通常の社員と管理監督者で適用が異なる部分があります。今回は、管理監督者の介護休業について、「所定労働時間の短縮措置」に焦点を当てて、管理監督者の労働時間に関するルールも交えながら解説していきます。
そもそも「管理監督者」とは?
まず、労働基準法でいう「管理監督者」について簡単におさらいしましょう。
「管理監督者」とは、労働時間、休憩、休日に関する労働基準法の規定が適用されない、経営者と一体的な立場にある重要な職務の者を指します。
具体的には、
・職務内容、権限、責任が経営者のそれに近いか
・勤務態様が労働時間の規制になじまない(出退勤の自由があるなど)
・賃金がその地位にふさわしい待遇を受けているか
といった実態に基づいて判断されます。単に「部長」や「課長」という肩書が付いているだけでは管理監督者にはあたりません。
つまり、労働基準法に言う「管理監督者」に当たらない普通の「管理職」は労働時間に関して通常の労働者と同様だということです。
管理監督者の「労働時間」に関する特別なルール
管理監督者の最大の特性は、労働基準法上の労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外される点です。
これは、彼らが自身の裁量で仕事を進めることが多く、通常の社員のように厳密な労働時間管理になじまないためです。
具体的には、以下の規定が適用されません。
・所定外労働の制限(法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働時間の制限)
・時間外労働の制限(36協定による残業時間の上限規制など)
・休日労働の制限(週1回の法定休日の確保など)
ただし、これは「いくらでも働かせ放題」という意味ではありません。後述しますが、深夜労働や安全配慮義務に関しては適用されます。
関連記事:管理監督者の労働時間
育児・介護休業法はどんなことを定めているか
育児・介護休業法は、従業員が、仕事と家族の介護を両立しながら働き続けることを支援するための制度を定めています。
具体的には、介護休業、介護休暇、介護のための所定労働時間の短縮等の措置、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限が定められています。
介護休業は、家族の介護のために、一定期間会社を休むことができる制度です。対象家族や取得期間(対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限)などの要件を満たせば取得が可能です。
介護休暇は、要介護状態にある対象家族の介護や世話をするために、対象家族が1人の場合は年5日まで、対象家族が2人以上の場合は年10日まで取得する休暇をいいます。
管理監督者も「介護休業」は取得できる!
まず、育児介護休業法に基づく「介護休業」と「介護休暇」は管理監督者であっても取得することができます。
これは、労働基準法のうち、管理監督者に適用されないのは、あくまで「労働時間」、「休憩」、「休日」に関する規定だけだからです。例えば、有給休暇は管理監督者も一般労働者と同様に取得することができます。
同様に、介護休業・介護休暇については、管理監督者であっても、他の労働者と同様に取得することができます。
しかし!「介護のための所定労働時間の短縮等の措置」は適用されません
ここが今回の重要なポイントであり、誤解が生じやすい部分です。
管理監督者も介護休業は取れますが、「介護のための所定労働時間の短縮等の措置」は、原則として管理監督者には適用されません。
なぜでしょうか?
それは、管理監督者は、労働基準法上の労働時間、休憩、休日の規定の適用を受けないため、「所定労働時間」という概念自体がなじまない、という考え方に基づいています。
「介護のための所定労働時間の短縮等の措置」は、次の中から会社が選択することとされており、会社によって利用できる制度が異なります。
・短時間勤務の制度(1日、週または月の所定労働時間を短縮する制度、従業員が個々に勤務しない日または時間を請求することを認める制度)
・フレックスタイムの制度
・始業・終業の時刻を繰り上げ・繰り下げる制度(時差出勤の制度)
・従業員が利用する介護サービスの費用の助成(その他これに準ずる制度)
管理監督者は労働基準法の労働時間規制の枠外にいるため、これらの制度の適用対象にならないのです。
では、管理監督者はどうすればいいの?
介護休業は取れるけど、短時間勤務などはできないなんて、結局仕事と介護の両立が難しいのでは?と感じるかもしれません。
確かに法律上の義務としての短時間勤務制度は適用されませんが、できないということではありません。
そもそも勤務時間が自由です
そもそも、自分が会社にいる時間を自分で自由に決めれるのが管理監督者です。そのため、家族の介護のために遅く出勤したり、早く帰ったとしても会社の就業規則に違反するわけではありません。
労働基準法上の管理監督者は、短時間勤務などの申請をせずとも、自身の裁量で短時間勤務(フレックスタイム制度や時差出勤制度なども同様)を行うことができると解されるのです。
個別の柔軟な対応も考えられます
また、勤務自由という管理監督者の権限を使うことに心理的抵抗があることも考えられので、法律上の義務はなくとも、会社独自の判断で、例えば「一定期間は通常より早く退社することを容認する」「出勤時間をずらすことを柔軟に認める」といった、実態に合わせた柔軟な対応をすることができます。
忙しくて勤務時間を調整できない状態であれば、一時的に業務量を調整するなど、管理監督者の負担を軽減する措置を検討することも有効です。業務内容が許すのであれば、テレワーク制度を積極的に活用することで、介護との両立がしやすくなる場合があります。
深夜労働は別です
「深夜業の制限」とは、要介護状態にある対象家族を介護する従業員が、その家族を介護するために申請をした場合、会社は深夜の時間帯(午後10時から午前5時まで)について労働をさせてはならないことになっています。管理監督者について労働基準法のうち適用されないのは、あくまで「労働時間」、「休憩」、「休日」に関する規定だけなので、管理監督者であっても深夜業の制限を求めることは可能であると解されます。
会社の「安全配慮義務」は免除されません
管理監督者だからといって、会社が管理監督者の健康を守る義務がなくなるわけではありません。労働契約法第5条に基づく「安全配慮義務」は、管理監督者に対しても適用されます。 つまり、会社は管理監督者に対しても、長時間労働による健康障害や精神的な不調が生じないよう、適切な措置を講じる義務があります。
会社が管理監督者の介護離職を防ぐために
管理監督者は、企業の重要な人材であり、その離職は会社にとって大きな損失となります。介護を理由とした離職は、本人のキャリアだけでなく、会社全体の生産性やノウハウの継承にも影響を与えます。
法律上の義務はないとしても、管理監督者に対しても、個別の状況に応じた柔軟な対応やサポートを検討することは、優秀な人材の定着、ひいては企業価値の向上につながります。
「管理監督者だから、法律で短時間勤務の義務はない」と杓子定規に考えるのではなく、人材を大切にする視点、そして企業の安全配慮義務の観点からも、どのようなサポートができるか、ぜひ考えてみてください。
介護離職ゼロを目指す企業にとって、管理監督者への配慮もまた、重要な経営課題の一つと言えるでしょう。
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