Last Updated on 2025年8月13日 by 勝
労働安全衛生法に基づき義務付けられている医師による面接指導は、長時間労働者への面接指導と、ストレスチェックによる高ストレス者への面接指導です。
長時間労働者への面接指導
これは、労働者の過重労働による健康障害を予防するために設けられた制度です。
対象者
時間外・休日労働時間が1ヶ月あたり100時間を超える者:事業者は、対象となる労働者に対して面接指導の実施を義務付けられます。
時間外・休日労働時間が1ヶ月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者:この場合、労働者からの申し出があれば、事業者は面接指導を実施する義務があります。
研究開発業務従事者や高度プロフェッショナル制度適用者:特定の条件を満たす場合も、この面接指導の対象となります。
面接指導の内容
勤務状況の把握: 労働時間、業務内容、労働日数などを確認します。
疲労の蓄積状況: 業務の負担、疲労度、睡眠時間、休養の状況などをヒアリングします。
心理的負担の状況: ストレスチェックの結果や、仕事による心理的負担の状況を把握します。
心身の状況の確認: 過去の健康診断の結果や、現在の生活状況などを確認します。
実施後の対応:面接指導を行った医師は、労働者の健康を確保するために必要な措置について事業者に意見を述べます。事業者はこの意見を勘案し、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数減少など、適切な措置を講じなければなりません。
ストレスチェックによる高ストレス者への面接指導
これは、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的とした制度です。
対象者
ストレスチェックの結果、医師が「高ストレス者」と判定した労働者。
ただし、面接指導を受けるかどうかは労働者本人の意思に委ねられており、本人の申し出があった場合に事業者は面接指導を実施する義務があります。
面接指導の内容
ストレスチェック結果の確認: 「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3項目を中心に、ストレスの原因や状況を深掘りします。
勤務状況の確認: 労働時間や業務内容を確認します。
心身の状況の確認: 過去の健康診断結果や、現在の生活状況なども踏まえて総合的に判断します。
実施後の対応:長時間労働者への面接指導と同様に、医師は事業者に必要な措置についての意見を述べます。事業者はその意見を聴取し、就業場所の変更、配置転換、労働時間の短縮など、労働者の健康を確保するための措置を講じる必要があります。ただし、この場合も、本人の意向を尊重することが求められます。
医師による保健指導
これら2つの「面接指導」とは別に、「保健指導」というものがあります。
これは、健康診断の結果、異常の所見があった労働者に対して行われる指導で、事業者の努力義務とされています。面接指導が「労働時間」や「ストレス」といった特定の要因に基づく健康管理であるのに対し、保健指導は「健康診断の結果」に基づく健康管理という点で異なります。
人事としてこれらの制度を運用する際は、各面接指導の対象者を正確に把握し、労働者への周知徹底、そして面接指導後の医師の意見に基づいた適切な措置を講じることが重要となります。
ここで言う医師は産業医なのか?
「医師による」という規定は、「産業医による」ことだけを意味するものではありません。労働安全衛生法では、企業の規模や状況に応じて、産業医以外の医師が関与することも認められています。
常時50人未満の労働者を使用する事業場では、産業医の選任義務はありません。この場合、長時間労働者に対する面接指導は、事業者が労働者の健康管理を行うことができると認められる産業医以外の医師(地域産業保健センターの医師など)に依頼することも可能です。
また、産業医を選任している事業場でも、専門的な知見が必要な場合や、産業医のスケジュールの都合などで、精神科医などの専門医に面接指導を依頼することもあります。
労働安全衛生法では、面接指導を行うのは「医師」と規定されており、「産業医」とは限定していません。そのため、産業医以外の医師(例:労働者本人が選んだ主治医、会社が契約した外部医師)でも実施できます。
ただし、産業医が選任されている場合は、面接指導結果や所見を産業医に共有し、事後の健康管理と連携する必要があります。
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