住民税の源泉徴収事務とは?

賃金・賃金制度

所得税の「源泉徴収」と仕組みは似ていますが、住民税では「特別徴収(とくべつちょうしゅう)」という呼び方をし、いくつか決定的な違いがあるので、その点を中心に見ていきましょう。

住民税の「特別徴収」とは?

住民税(市区町村民税・都道府県民税)は、原則として会社が従業員の代わりに給与から天引きして、市区町村に納めることになっています。この仕組みを「特別徴収」と呼びます。

項目住民税(特別徴収)所得税(源泉徴収)
徴収する税金住民税(地方税)所得税(国税)
税額の決定方法前年の所得に基づいて、市区町村が税額を計算し、会社に通知する。毎月の給与額と扶養控除等の情報に基づき、会社が税額表で計算する。
課税の時期後払い:前年1月〜12月の所得に対する税金を、翌年6月〜5月で徴収。現年課税:その月の給与に対する税金をその月に徴収(年末調整で精算)。
納付先従業員の住所地の市区町村税務署(国)

【一番重要な違い】

住民税は、「今年の給与」から「去年の所得に対する税金」を天引きしている、という点です。所得税のように、毎月の給与額で変動するものではありません。

特別徴収の年間スケジュール(ルーティン)

特別徴収の事務は、主に以下の3つのフェーズで構成されています。

フェーズ1:給与支払報告書の提出(毎年1月)

時期事務内容備考
1月31日まで給与支払報告書を、従業員の1月1日現在の住所地の市区町村へ提出します。所得税の「源泉徴収票」とほぼ同じ内容を、市区町村に報告する書類です。この報告をもとに、市区町村が住民税額を計算します。

フェーズ2:税額の通知と準備(毎年5月)

時期事務内容備考
5月中旬頃特別徴収税額決定通知書が、各市区町村から会社に送付されます。従業員一人ひとりの6月〜翌年5月までの毎月の天引き額が記載されています。
5月31日まで会社に届いた「特別徴収税額決定通知書(納税義務者用)」を従業員本人に交付します。従業員はこれで、自分の住民税額と毎月の天引き額を確認します。

フェーズ3:徴収と納付(毎年6月〜翌年5月)

時期事務内容備考
6月給与から通知書に記載された税額を、毎月の給与から天引き(特別徴収)を開始します。住民税は6月からスタートし、翌年5月で1年分が完結します。
給与支払月の翌月10日まで天引きした住民税を、市区町村から送られてきた納付書を使って金融機関などで納付します。
特例:従業員が常時10人未満の会社は、申請により年2回(12月と6月)の納付にできます(納期の特例)。

中途入社・退職時の手続き

ミスしやすいのが、人の異動があった場合の手続きです。

中途入社の社員

中途入社の社員は、原則として入社後すぐに特別徴収に切り替える必要があります。

  • 前職で特別徴収されていた場合(引き継ぎ)
    • 前職から送られてくる「給与所得者異動届出書」に必要事項を追記し、市区町村に提出します。
  • 前職で普通徴収(自分で納付)だった場合(切り替え)
    • 社員に、普通徴収の納付書を確認してもらい、「特別徴収への切替申請書(または依頼書)」を市区町村に提出し、特別徴収に切り替えます。
    • 注意点:納付期限が過ぎている分は切り替えできません。

退職・休職・転勤の社員

社員が退職などにより給与が支払われなくなると、特別徴収ができなくなるため、「給与所得者異動届出書」を速やかに市区町村に提出する必要があります。

退職時期残りの住民税の取り扱い人事の事務処理
1月1日〜4月30日原則、退職月の給与から残りの全額を一括天引き(一括徴収)して納付する義務があります。異動届出書に「一括徴収」と記入。
5月1日〜5月31日5月分のみを通常通り徴収し、1年分が完結します。異動届出書に「5月をもって特別徴収終了」と記入。
6月1日〜12月31日残りの税額は、社員個人で納付する普通徴収に切り替わります。ただし、本人の希望があれば一括徴収も可能です。異動届出書に「普通徴収」または「一括徴収」と記入。

まとめ

  • 住民税は「後払い」:去年の所得に対する税金が、今年の6月から天引きされることを常に意識してください。
  • 市区町村との連携:住民税の事務は、各市区町村とのやり取りが中心です。自治体によって申請書の書式や提出期限に細かな違いがあるため、迷ったら遠慮なく社員の住所地の役所(住民税課や課税課)に確認しましょう。
  • 納期の特例:従業員が少ない会社であれば、納付回数を年12回から年2回に減らせる特例(納期の特例)があります。