健康保険の手続き
交通事故や傷害事件で怪我をされた際の健康保険の扱いについて説明します。
業務外・通勤外の怪我の場合(原則)
交通事故や傷害事件による怪我が、業務外または通勤途中以外に発生したものであれば、原則として健康保険を使うことができます。
ただし、加害者(第三者)の行為によって怪我をした場合は、以下の手続きが必要です。
| 項目 | 内容 |
| 健康保険の適用 | 可能(労災保険の適用外の場合) |
| 必要な手続き | 「第三者の行為による傷病届」を、ご自身が加入している健康保険の保険者(協会けんぽ、健康保険組合など)に提出する必要があります。 |
| 理由 | 治療費は本来、加害者が負担すべき損害賠償金ですが、健康保険が一時的に立て替えて医療機関に支払い、後日、健康保険の保険者(健保組合など)が加害者や加害者側の保険会社に対して、立て替えた医療費を請求する(求償する)ためです。 |
| 示談の注意点 | 加害者と示談をする場合は、事前に健康保険の保険者に相談してください。示談の内容によっては、健康保険の給付を受けられなくなる可能性があります(特に、治療費を含む損害賠償を全て受け取った、または放棄する内容の示談をした場合など)。 |
業務中・通勤中の怪我の場合(健康保険の適用外)
怪我が業務中(業務災害)または通勤途中(通勤災害)に発生した交通事故や傷害事件によるものであれば、原則として健康保険は使えません。労働者の業務上または通勤途上の傷病には、労災保険が優先して適用されることが法律で定められています。
誤って健康保険を使って治療を受けてしまった場合は、速やかに健康保険の保険者に連絡し、労災保険への切り替え手続きを行う必要があります。この場合、一旦自己負担した医療費は、労災保険に申請することで返還されます。
ご自身のケースがどちらに該当するか不明な場合は、必ず勤務先や健康保険の保険者、または労働基準監督署に確認し、適切な手続きを行ってください。
労災保険の手続き
交通事故や傷害事件で怪我をされた際の労災保険の扱いについて説明します。
労災保険は業務中や通勤途中の災害による怪我や病気に対して給付を行う制度です。
交通事故や傷害事件による怪我であっても、それが業務災害または通勤災害と認められれば、労災保険の対象となります。
1. 労災保険が適用されるかどうかの主な判断基準
1. 交通事故の場合
- 業務中の交通事故(業務災害): 仕事をしている最中に発生した交通事故(例:営業で車を運転中に事故に遭った、社用車で移動中に追突されたなど)は、原則として労災保険の対象となります。
- 通勤途中の交通事故(通勤災害): 住居と勤務先との間の往復など、合理的な経路と方法による通勤中に発生した交通事故は、労災保険の対象となります。ただし、通勤経路を大きく逸脱したり、中断したりした場合は、原則として対象外となるため注意が必要です(日常生活上必要な行為のための最小限の逸脱・中断を除く)。
2. 傷害事件の場合
- 業務中の傷害事件(業務災害): 仕事に関連して負傷した場合、原則として労災保険の対象となります(例:顧客とのトラブル対応中に暴行を受けた、警備員が業務中に暴漢に襲われたなど)。
- 私的な事情による事件: 休憩時間やプライベートな事情による喧嘩や事件で負傷した場合は、原則として労災保険の対象外となります。
2. 労災保険の主な給付内容
労災保険が適用される場合、主に以下のような給付が受けられます。
| 給付の種類 | 内容 |
| 療養(補償)給付 | 治療費、薬代、入院費用など、怪我や病気の治療にかかる費用を原則全額支給(労災指定病院を利用する場合は窓口での支払いは不要)。 |
| 休業(補償)給付 | 療養のために仕事ができず、賃金を受けていない日について、休業4日目から給付基礎日額の約80%(給付60% + 特別支給金20%)が支給されます。 |
| 障害(補償)給付 | 症状が固定(治ゆ)した後も一定の障害が残った場合に、その障害の程度に応じて支給されます。 |
| 遺族(補償)給付 | 労働者が死亡した場合に、遺族に対して年金または一時金が支給されます。 |
3. 加害者(第三者)がいる場合の注意点
交通事故や傷害事件のように、加害者(第三者)がいる場合でも、労災保険を利用することは可能です。
- 労災保険と損害賠償請求: 労災保険の給付と、加害者への損害賠償請求(自賠責保険や任意保険を含む)は、両方行うことができます。ただし、同じ項目(治療費や休業損害など)について二重に受け取ることはできません。労災保険から給付された金額の範囲内で、加害者側への損害賠償請求額が調整されます(労災保険が加害者に対して求償します)。
- 「第三者行為災害届」の提出: 加害者がいる場合(第三者の行為によって災害が発生した場合)は、労災保険の給付請求と合わせて労働基準監督署に「第三者行為災害届」を提出する必要があります。
- 労災保険のメリット: 労災保険は、被害者に過失がある場合でも、給付額が過失相殺で減額されることがない、治療費の打ち切りを心配せずに治療に専念しやすい、などのメリットがあります。
ご自身のケースが労災保険の対象になるかどうか、また具体的な申請手続きについては、会社の担当部署や最寄りの労働基準監督署にご相談いただくことをお勧めします。



