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  • 時差出勤制

    時差出勤制とは

    時差出勤制とは、始業時刻を遅らせ(または繰り上げて)、終業時刻をその分延ばす(または繰り上げる)勤務制度です。

    時差出勤自体は、臨時に業務上の必要が生じたときは、使用者の命令でさせることができます(就業規則にそうしたことがあると定めている場合です。残業命令と同じです)。

    時差出勤制は、会社にとっては仕事の繁忙に合わせられるなどのメリットがあります。また、従業員の方も、制度によっては、混雑時間帯を避けて通勤できる。子どもの送り迎えに都合がよいなどのメリットがあります。

    労使協定は必要なく、就業規則の改定で実施できます。

    この方法で対応できるのは、まれに必要が生じる職場です。頻繁に繰上げ繰下げが実施されるのであれば、就業規則に具体的に定める必要があります。

    例えば、「8時~17時」「9時~18時」「10時~19時」など、どれを選択しても1日の所定労働時間は変わりませんが、あらかじめ定めたパターンから選択できる制度です。フレックスタイム制に近いやり方ですが、フレックスタイム制は、出勤時刻や退社時刻を従業員が自主的に決めることのできる制度で、時差出勤制の方は一定の制約があります。ある程度は自由にしたいが、フレックスタイム制にまでは踏み切れないという会社が採用することが多いようです。

    季節によって全員が一斉に勤務時間を早くする「サマータイム」や、「朝型勤務」へのシフトも時差出勤制の応用です。

    規定例

    輪番制による時差出勤の規定例

    (労働時間及び休憩時間)
    第〇条 労働時間は、1週間については40時間、1日については8時間とする。
    2 始業・終業の時刻及び休憩時間は、次のとおりとする。ただし、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、又は繰り下げることがある。この場合において業務の都合によるときは、所属長が前日までに通知する。
    ① 一般勤務
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間
    ② 一番交替勤務
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間
    ③ 二番交替勤務
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間
    ④ 三番交替勤務
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間
    3 就業番は原則として〇日毎に〇番を〇番に、〇番を〇番に、〇番を〇番に転換する。
    4 一般勤務から交替勤務へ、交替勤務から一般勤務への勤務交替は、原則として休日又は非番明けに行うものとし、所属長が各人に通知する。

    サマータイムの規定例

    (労働時間及び休憩時間)
    第〇条 労働時間は、1週間については40時間、1日については8時間とする。
    2 始業・終業の時刻及び休憩時間は、季節ごとに次のとおりとする。ただし、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、又は繰り下げることがある。この場合において業務の都合によるときは、所属長が前日までに通知する。
    ① 夏季(〇月〇日~〇月〇日)
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間
    ① 冬季(〇月〇日~〇月〇日)
    始業時刻 午前〇時〇分
    終業時刻 午後〇時〇分
    休憩時間 午後〇時〇分より1時間


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  • 労働基準法による労使委員会

    労使委員会とは

    労働基準法第38条の4に「委員会」についての定めがあります。

    労働基準法第38条の4(抜粋)
    賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)

    同41条の2にも同じ文言があります。

    労働基準法第41条の2(抜粋)
    賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)

    つまり、

    ・当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議する
    ・事業主に対し当該事項について意見を述べる
    ・使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とする

    委員会についての定めです。この委員会を、一般に「労使委員会」といいます。

    企画業務型裁量労働制と高度プロフェッショナル制度を導入する場合は、労働基準法に基づくこの委員会を設置しなければなりません。この二つの制度をいずれも導入しないのであれば、義務にはなりませんが任意に設置することはできます。

    企画業務型裁量労働制

    労働基準法第38条の4第1項は、企画業務型裁量労働制についての規定です。

    企画業務型裁量労働制を導入する場合には、労働基準法第38条の4による労使委員会の設置が義務になります。

    関連記事:企画業務型裁量労働制導入のポイント

    高度プロフェッショナル制度

    労働基準法第41条の2は、高度プロフェッショナル制度についての規定です。

    高度プロフェッショナル制度を導入する場合には労働基準法第41条の2による労使委員会の設置が義務になります。

    関連記事:高度プロフェッショナル制度

    労使委員会の決議による労使協定代替

    労働基準法第38条の4第5項に労使委員会の5分の4以上の決議が労使協定の締結届出に代わる旨の定めがあります。

    委員会の5分の4以上の多数による決議により労使協定を代替できるのは次の事項です。

    ・時間外労働休日労働に関する労使協定
    ・変形労働時間制に関する労使協定
    ・事業場外労働に関する労使協定
    ・専門業務型裁量労働制に関する労使協定
    ・フレックスタイム制に関する労使協定
    ・一斉休憩の原則の例外に関する労使協定
    ・年次有給休暇の計画的付与や時間単位取得に関する労使協定

    このうち、変形労働時間制、事業場外労働、専門業務型裁量労働制については、労使委員会での決議が行われれば、所轄労働基準監督署長への労使協定届出が免除されます。

    関連記事:労使協定とはなにか

    労使委員会を設置する手順

    労使委員会の要件

    労働基準法第38条の4、第41条の2による労使委員会は以下の要件を満たされなければなりません。

    1.賃金、労働時間その他の当該事業所の労働条件に関する事項を調査審議し、事業者に対し当該事項について意見を述べることを目的としていること

    2.使用者及び当該事業場の労働者を代表する者が構成員になっていること

    3.委員の半数については、労働組合(当該事業場で労働者の過半数で組織されている労働組合がある場合)、または労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織される労働組合がない場合)に任期を定めて指名されていること

    4.当該委員会の議事録を作成し3年以上保存し、当該事業場の労働者に周知されていること

    5.労使委員会の招集、定足数、議事その他労使委員会の運営について必要な事項を規定として定められていること

    委員の選任

    労使委員会は、労働者を代表する委員と使用者を代表する委員で構成します。

    人数については、特に規定はありませんが、労働者側委員は半数を占めていなければなりません。ただし、労使各1名の2名からなるものは「労使委員会」として認められません。

    使用者代表委員は、使用者側の指名により選出されますが、労働者代表委員は、対象事業場の過半数労働組合又は過半数労働組合がない事業場においては過半数代表者から、任期を定めて指名を受けなければなりません。

    過半数労働組合が存在しない事業場においては、まず、労使委員会の委員を指名する過半数代表者を36協定の過半数代表者等の選出方法と同様に投票、挙手等の方法により選出します。

    過半数労働組合、過半数代表者は、管理監督者以外の者の中から労働者を代表する委員を任期を定めて指名します

    運営規程を定める

    委員会の招集、定足数、議事その他労使委員会の運営について必要な事項を規定する運営規程を策定します。策定に当たっては、労使委員会の同意が必要です。

    運営規程で規定すべき項目は次のとおりです。

    1.労使委員会の招集に関する事項
    ① 定例として予定されている委員会の開催に関すること
    ② 必要に応じて開催される委員会の開催に関すること

    2.労使委員会の定足数に関する事項
    ① 全委員に係る定足数
    ② 労使各側を代表する委員ごとに一定割合又は一定数以上の出席を必要とすること

    3.議事に関する事項
    ① 議長の選出に関すること
    ② 決議の方法に関すること

    4.その他労使委員会の運営について必要な事項
    ① 使用者が労使委員会に対し開示すべき情報の範囲、開示手続及び開示が行われる労使委員会の開催時期
    ② 労働組合や労働条件に関する事項を調査審議する労使協議機関がある場合には、それらと協議の上、労使委員会の調査審議事項の範囲についての定め

    5.労使委員会が労使協定に代えて決議を行うことができる規定の範囲についての定め

    関連記事:労使委員会規程のサンプル

    令和6年4月1日改正施行

    労使委員会に賃金・評価制度を説明する

    対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対する説明に関する事項(説明を事前に行うことや説明項目など)を労使委員会の運営規程に定める必要があります。

    対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うことを労使委員会の決議に定める必要があります。

    労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う

    制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握の頻度や方法など)を労使委員会の運営規程に定める必要があります。

    労使委員会は6か月以内ごとに1回開催する

    労使委員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とすることを労使委員会の運営規程に定める必要があります。

    設置義務がない事業場

    企画業務型裁量労働制や高度プロフェッショナル制度を導入していない事業場は労使委員会を設置する義務がありません。

    専門業務型裁量労働制を実施している場合も労使委員会を設置する義務はありませんが、厚生労働省の「これからの労働時間制度に関する検討会」は専門業務型裁量労働制においても労使委員会を活用することを提言しています。

    関連記事:専門業務型裁量労働制導入のポイント

    なお、企画業務型裁量労働制度、高度プロフェッショナル制度、労使協定に代わる労使委員会として運用せず、一般的な労使協議の場として「労使委員会」を設置する場合は、当然ながら厚生労働省の通達等に制約されない運用をすることができます。


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  • 企画業務型裁量労働制導入のポイント

    企画業務型裁量労働制とは

    裁量労働制とは、実際の労働時間でなく、あらかじめ企業と労働者で規定した時間を働いたものとみなし、その分の賃金を支払う制度です。

    裁量労働制を導入した場合は、業務の遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだね、業務の遂行の手段及び時間配分の決定などについて、使用者は具体的な指示を出さないことになります。

    裁量労働制は「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。

    関連記事:専門業務型裁量労働制導入のポイント

    企画型の方は、企画、立案、調査、分析を行う業務で、業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務において適用できます。

    具体的には、以下に挙げる4つの要件のすべてを満たす業務です。

    1.事業の運営に関する業務であること
    2.企画、立案、調査、分析の業務であること
    3.業務遂行の方法を労働者の裁量にゆだねる必要があると客観的に判断される業務であること
    4.いつ、どのように行うか等について広範な裁量が労働者に認められている業務であること

    導入手順

    企画業務型裁量労働制を導入するには、次のような手順で手続きを進める必要があります。

    労使委員会を設置する

    企画業務型裁量労働制を導入するにあたっては、対象となる事業場において労使委員会を設置する必要があります。

    関連記事:労働基準法による労使委員会

    労使委員会で決議する

    次の事項を労使委員会で審議します。決議には委員会に出席している委員の5分の4以上の賛成による決議が必要です。

    1.対象となる業務の具体的な範囲
    2.対象労働者の具体的な範囲
    3.労働したものとみなす時間
    4.使用者が対象となる労働者の勤務状況に応じて実施する、健康・福祉を確保するための具体的な内容
    5.使用者が対象となる労働者から苦情を処理するため実施する措置の具体的内容
    6.適用について労働者本人の同意を得なければならないことと7.不同意の労働者に対し不利益取扱いをしてはならないこと
    8.決議の有効期間(3年以内とすることが望ましい)
    9.企画業務型裁量労働制の実施状況に係る労働者ごとの記録を保存すること

    関連記事:労使委員会決議のサンプル

    なお、令和6年4月1日改正施行に対応して、以下の2つを7の次に追加する必要があります。これまでの8、9は繰り下がります。

    8.制度の適用に関する同意の撤回の手続
    9.対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと

    労働基準監督署に届出をする

    労使委員会での決議内容を労働基準監督署に届け出ます。届出の前に企画業務型裁量労働制を導入してはいけません。

    健康福祉を確保する措置の実施状況については、決議後6ヶ月以内ごとに所轄の労働基準監督署長に定期的に報告しなければなりません。

    就業規則に企画業務型裁量労働制について記載し、就業規則の変更を労働基準監督署に届け出ます。

    就業規則規定例:企画業務型裁量労働制|就業規則

    対象労働者の同意を得る

    企画業務型裁量労働制の対象になる労働者から同意を得なければなりません。就業規則による包括的な同意ではなく、一人ひとりからの同意が必要です。同意が得られない労働者に対して企画業務型裁量労働制を適用することはできません。

    また、企画業務型裁量労働制を適用されることに同意しなかった労働者に対して解雇などの不利益な取扱いをすることは許されません。

    時間外労働等の扱い

    時間外労働

    企画業務型裁量労働制導入後は、労働時間は実際に働いた時間ではなく、あらかじめ定めておいた時間とされます。労使委員会で「労働時間は1日8時間とみなす」と決議していれば、実際に働いた時間とは関係なく1日8時間働いたとみなされます。このため時間外労働は発生しないので、会社に時間外労働に対する割増賃金の負担義務は生じないことになります。

    深夜労働・休日労働

    企画業務型裁量労働制導入後は、時間外労働は発生しませんが、深夜労働および休日労働に対する割増賃金は支払いは必要です。

    夜10時から翌朝5時までの労働に対しては25%、休日の労働に対しては35%を通常の賃金に上乗せして支払わなければなりません。

    健康福祉確保措置

    上記の労使委員会決議事項4の「使用者が対象となる労働者の勤務状況に応じて実施する、健康・福祉を確保するための具体的な内容」は、まさに具体的に記載する必要があります。

    健康・福祉確保措置は、(イ)から(二)までの措置、(ホ)から(ヌ)までの措置から、それぞれ1つずつ以上実施することが望ましいとされています。特に(ハ)を選択することが望ましいとされています。

    なお、(イ)(ロ)(ハ)(ホ)は、令和6年4月1日改正実施から追加されるものです。(改正後の「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」)

    事業場の対象労働者全員を対象とする措置

    (イ)勤務間インターバルの確保
    (ロ)深夜労働の回数制限
    (ハ)労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除
    (ニ)年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めたその取得促進

    個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置

    (ホ)一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導
    (ヘ)代償休日又は特別な休暇の付与
    (ト)健康診断の実施
    (チ)心とからだの健康問題についての相談窓口設置
    (リ)適切な部署への配置転換
    (ヌ)産業医等による助言・指導又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

    長時間労働の防止

    裁量労働制を実施しても、例えば健康福祉を確保するためには正確な労働時間把握が必要です。しかし、裁量労働制において正確に労働時間を把握するのは難しいのが実態です。委ねるというところが裏目に出て長時間労働が常態化する危険があるので注意深い運用が必要です。

    令和6年4月1日改正施行

    ①同意の撤回の手続きを定める

    同意の撤回の手続と、同意とその撤回に関する記録を保存することを労使委員会の決議に定める必要があります。

    ②労使委員会に賃金・評価制度を説明する

    対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対する説明に関する事項(説明を事前に行うことや説明項目など)を労使委員会の運営規程に定める必要があります。

    対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うことを労使委員会の決議に定める必要があります。

    ③労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う

    制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握の頻度や方法など)を労使委員会の運営規程に定める必要があります。

    ④労使委員会は6か月以内ごとに1回開催する

    労使委員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とすることを労使委員会の運営規程に定める必要があります。

    ⑤定期報告の頻度が変わります

    定期報告の頻度は、労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して初回は6か月以内に1回、その後1年以内ごとに1回になります。(現行は6か月以内ごとに1回)


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  • 専門業務型裁量労働制導入のポイント

    専門業務型裁量労働制とは

    専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。

    裁量労働制には、ほかに企画業務型裁量労働制があります。

    関連記事:企画業務型裁量労働制導入のポイント

    専門業務型裁量労働制の対象業種

    デザイナー、システムエンジニアなど専門的な19種類(令和6年4月1日から20種類)の業務に就く者が対象です。

    専門業務型裁量労働制の対象業務等については、厚生労働省ホームページを参照してください。

    制度導入のための手続

    労使協定の締結

    次の事項について労使協定を結び、労働基準監督署に届けなければなりません(or労使委員会の設置・決議・届出)。

    (1)制度の対象とする業務
    (2)対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
    (3)労働時間としてみなす時間
    (4)対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
    (5)対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
    (6)協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい。)
    (7)労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処置措置の実施状況の記録を協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること

    令和6年4月1日改正施行

    2024年4月1日より、専門業務型裁量労働制を導入または継続する場合の労使協定には次の項目を追加する必要があります。

    (6)制度の適用にあたって労働者本人の同意を得ること
    (7)制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと
    (8)制度の適用に関する同意の撤回の手続き
    (9)労使協定の有効期間
    (10)労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処置措置の実施状況、同意および同意の撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること

    労使委員会について

    専門業務型裁量労働制の場合は労使委員会の設置義務はありませんが、厚生労働省のこれからの労働時間制度に関する検討会は労使委員会を活用することを推奨しています。

    労使委員会は、労働基準法第38条の4や第41条の2で規定されており、労使協定に代わる決議を行うことができます。

    労使委員会は企画業務型裁量労働制においては設置義務があるのでその例にならって設置運営することになります。労使委員会は運営規程を定めなければならず、運営規程に定めるべき事項については厚生労働省から通達が出ています。

    関連記事:労働基準法による労使委員会

    就業規則への記載と届け出

    専門業務型裁量労働制について就業規則に追加して、労働基準監督署に就業規則変更届を出す必要があります。

    就業規則規定例:専門業務型裁量労働制|就業規則

    健康福祉確保措置

    上記の労使協定の「(4)対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容」は、まさに具体的に記載する必要があります。

    以下は、企画型の適用で定められている健康・福祉確保措置ですが、厚生労働省は専門型についても同じように対応することが望ましいとしています。

    健康・福祉確保措置は、(イ)から(二)までの措置、(ホ)から(ヌ)までの措置から、それぞれ1つずつ以上実施することが望ましいとされています。特に(ハ)を選択することが望ましいとされています。

    なお、(イ)(ロ)(ハ)(ホ)は、令和6年4月1日改正実施から追加されるものです。(改正後の「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」)

    事業場の対象労働者全員を対象とする措置

    (イ)勤務間インターバルの確保
    (ロ)深夜労働の回数制限
    (ハ)労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除
    (ニ)年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めたその取得促進

    個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置

    (ホ)一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導
    (ヘ)代償休日又は特別な休暇の付与
    (ト)健康診断の実施
    (チ)心とからだの健康問題についての相談窓口設置
    (リ)適切な部署への配置転換
    (ヌ)産業医等による助言・指導又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

    導入の注意

    制度上のみなし労働時間と実際の労働時間が乖離してはいけません。

    委ねるというのは、その業務を遂行する方法や時間の配分の決定等について、その業務にあたる労働者に会社が具体的な指示をしないことです。

    具体的な指示をしないということは、ある業務をいつから始めていつ終わらせるかを本人にまかせるという定めなので、例えば、きびしい納期を課すなどの制約があれば、実態として裁量が乏しいとして裁量労働の適用が否定される可能性があります。

    また、会社にはその業務にあたる労働者の労働時間を把握し、把握した労働時間の状況に応じて健康及び福祉を確保する為の措置を実施する義務があります。特に深夜勤務や休日労働は、割増賃金の支払い義務があるので、具体的な労働時間を把握しなければなりません。

    しかし、裁量労働制において正確に労働時間を把握するのは難しいのが実態です。委ねるというところが裏目に出て長時間労働が常態化する危険があるので注意深い運用が必要です。


    会社事務入門労働時間の適正な管理いろいろな労働時間制>このページ

  • 宿直日直の制度を導入する場合の注意点

    宿直日直とは

    労働基準法は、監視または断続的労働に従事する者で労働基準監督署長の許可を受けた者については、労働時間、休憩および休日に関する規定は適用しない旨定めています。

    労働基準法第41条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
    一 (略)
    二 (略)
    三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

    宿直勤務と日直勤務(以下「宿日直」といいます)も「監視または断続的労働」の一つですが、監視又は断続的労働とは区別されています。

    断続的業務を専門に行っている場合は「監視または断続的労働」になります。このページで説明している宿日直の扱いは、通常勤務をしている人が、当番制などで宿日直を割り当てられる勤務です。

    関連記事:監視または断続的労働

    勤務が宿日直だと認められれば、週40時間、1日8時間という法定労働時間について定めた労働基準法第32条の規定が適用されません。

    労働基準法施行規則第23条 使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について、様式第十号によつて、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、これに従事する労働者を、法第三十二条の規定にかかわらず、使用することができる

    つまり、宿日直であれば、深夜割増賃金等が適用されないので、賃金を低くすることができます。

    宿日直として勤務させるには、所轄労働基準監督署長の許可が必要です。

    宿日直としての許可が下りなければ、通常の勤務として扱わなければなりません。夜間であれば「夜勤」ということになります。時間外労働、深夜労働、休日労働として扱わなければなりません。

    宿日直の条件

    労働基準監督署長の許可を得るには、概ね次の条件を満たす必要があります。

    1.常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限って許可する

    2.宿直、日直とも相当の手当を支給すること(1回の宿日直手当の最低額は、宿日直につくことの予定されている同種の労働者に対して支払われる1日平均賃金額の3分の1以上)

    3.宿日直の回数が、頻繁にわたるものは許可しない。勤務回数は原則として、日直については月1回、宿直については週1回を限度とすること(宿日直を行い得るすべての労働者に宿日直をさせても不足であり、かつ勤務の労働密度が薄い場合は、これにかかわらず許可することがある)

    4.宿直については夜間に十分睡眠がとりうること

    さらに社会福祉施設の場合には、通達でさらに詳細な基準が定められています。

    上記の条件を満たしていれば、労働基準法施行規則第23条の適用を申請できます。「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書」の様式は厚生労働省ホームページの「主要様式ダウンロードコーナー」のページに掲載されています。

    運用については規程を定めましょう。

    宿日直規程のサンプル

    宿日直の注意点

    労働の実態を把握する

    宿日直は、通常の業務が無いことが前提です。また、宿直については十分な睡眠をとれることが条件になっています。もし、睡眠中にもしばしば業務対応をしなければならないような状況に置かれているのであれば、実態的に宿直勤務とは認められません。同様に、日直についても、時間があるからといって通常の業務をこなすような実態があれば日直勤務とは認められません。

    連続勤務について

    ほとんど労働する必要のない宿直勤務を行ったとしても、翌日の勤務へ大きな影響はないものと通常考えられるため、法律上翌日が勤務が禁止されているものではありません。ただし、そのようなことがあることも含めて労働基準監督署長の許可が必要です。

    問題は、勤務の実態が「ほとんど労働する必要のない」ものだったかというところです。実際には、緊急の対応が重なり、ほとんど眠れない状態だったのに、「宿直」だからということで連続勤務させているのであれば許可条件に違反しています。

    医療従事者の扱い

    令和元年7月1日基発0701第8号厚生労働省労働基準局長「医師、看護師等の宿日直許可基準について」が発出されています。

    常態としてほとんど労働する必要がないなどの一般的な宿日直の要件を満たせば、特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限って認めるものの、夜間に十分な睡眠がとり得るなど、通達に示される具体的な要件を満たすことが求められています。

    急病患者への対応など、通常の勤務時間と同態様の業務に従事することが常態であると判断される場合には、宿日直の許可は得られないことも示されています。

    十分な睡眠がとれることを前提として、その例を挙げています。

    介護従事者の扱い

    介護従事者も一般の宿直勤務の場合と同様に、常態としてほとんど労働する必要がない勤務のみを許可の対象としています。

    したがって、一般の宿直許可基準が適用されますが、通達では、少人数の入所児・者に対して行う夜尿起こし、おむつ取替え、検温等の介助作業であって、軽度かつ短時間の作業について認めるとしています。

    ただし、「軽度」については、おむつ取替え、夜尿起こしであっても要介護者を抱きかかえる等身体に負担がかかる場合を含まず、「短時間」とは、通達に示された介助作業が一勤務中に1回ないし2回含まれていることを限度として、1回の所要時間が通常10分程度のものなど、と具体的に示されています。

    次の通達です。

    昭和49.7.26 基発第387号
    昭和49.7.26 基監発27号

    現場の実態からすると、介護従事者について「軽度」「短時間」の条件を満たして宿直勤務許可をとるのは困難のようです。


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  • サービス残業について

    サービス残業は労働基準法違反

    労働基準監督署の調査で多く指摘され是正を求められる事項の一つが、働いたのに労働時間にカウントされない、いわゆるサービス残業の問題です。

    サービス残業は賃金不払いという労働基準法違反です。

    労働時間について理解する

    まずは、法定労働時間、法定休日を理解しましょう。
    法定労働時間 →法定休日

    使用者が働時間と認識していない時間でも労働時間とされる時間があります。
    労働時間に含まれる時間と含まれない時間

    始業時間や終業時間は就業規則に定めているだけでは足りません。実際に働いた時間を把握しなければなりません。
    労働時間の把握方法

    サービス残業の解消

    変形労働時間制や裁量労働制を採用すると、トータルとしての労働時間を増やさずに時間外賃金の支払いを減らすことができます。法律に定めがある時間管理法ですから、是非、活用するべきです。

    そして、ダラダラと時間を過ごして本来は不要であった時間外労働が発生しないように、効率の良い職場作りを通して総労働時間の圧縮を図るべきです。そのうえで、支払うべきものは支払わなければなりません。

    経営者が自覚しなければならないのは、募集の際に示した始業時間と終業時間は労働条件の重要な要素だということです。給与は、その時間を働く対価として設定されています。

    労働契約の内容として約束した始業時間と終業時間を軽視し、タダで労働時間を延長しろというのは無茶な話しです。所定時間以上働かせた場合は追加の賃金を払うというのは当然のことです。請求されないことに甘えて未払いを続けていると、後日、多額の未払い賃金を請求されるリスクが高まります。

    サービス残業の解消は、賞与の支払や昇給の実施より優先課題です。サービス残業問題を解消しないで賞与を支払うなどは、本末転倒です。賞与や昇給は法律上は求められていませんが、時間外労働割増賃金の支払は労働基準法に定められた義務だからです。

    法律通りに残業手当を払えば会社がつぶれるという経営者もいますが、一度、本当につぶれるかどうか試算してはどうでしょう。実際は払えるという試算がでたらすっきりと払うべきです。


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