労使協定の基礎知識

会社規程

労使協定とは?

労使協定とは、使用者(会社)と労働者側の代表が、労働基準法などの法律で定められたルール(労働条件など)を、例外的に変更したり、特定の事項について取り決めたりするための、書面による約束事です。

基本的な考え方

労働基準法は、労働者の健康や生活を守るために、労働時間や休日などの最低基準を定めています。原則として、会社はこの基準を守らなければなりません。

しかし、実際の業務においては、この法律の枠組みだけでは対応できないことがあります。例えば、「一時的に残業が必要になる」といった場合です。このような場合に、労働者側の合意を得て、法律で定められたルールの一部を例外的に適用できるようにするのが労使協定の役割です。

効力

  • 労使協定は、締結し、必要に応じて労働基準監督署に届け出ることによって、法律の例外を認める「免罰(めんばつ)効果」を生じさせます。つまり、協定がないと法律違反になる行為(例:法定労働時間を超える残業)を、罰則なしで行えるようになります。
  • 多くの労使協定は、その事業場の全労働者に適用されます。

労使協定と就業規則の違い

労使協定と就業規則は、どちらも職場のルールや労働条件を定めるものですが、目的作成方法、そして効力(役割)が大きく異なります。

最も重要な関係は、「労使協定で定めた内容を、就業規則に反映する必要がある」という点です。

労使協定(例:36協定)就業規則
目的・役割労働基準法の「例外」を可能にする職場の基本的なルールを定める。
効力会社が法律違反による罰則を免れる効力(免罰効果)。労働者に就労を命令・義務付ける効力
根拠条文労働基準法 第36条など労働基準法 第89条など
作成者労使双方の合意(使用者と労働者代表が締結)。使用者(会社)が一方的に作成

具体的な役割の違い

  • 労使協定の役割(特例)法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて残業をさせる場合など、「法律の原則ルールを超えた働き方」を可能にするための特別ルールです。協定を結んでも、それだけでは労働者に残業を命じる権利は発生しません。
  • 就業規則の役割(命令権)労働時間や賃金、服務規律などの基本的な労働条件を定め、それを労働者に周知することで、会社が労働者に対してそのルールに従って働くよう命令する権限(命令権)を確保するためのものです。

両者の密接な関係

労使協定と就業規則は、以下の理由から連携して機能します。

労使協定の内容を就業規則に反映させる必要がある

労使協定(特に時間外労働や変形労働時間制など)で定めた内容は、労働条件に関する重要な事項であるため、就業規則にもその内容を記載して反映させる必要があります。

  • 労使協定がない場合:就業規則に残業の規定があっても、原則として法定労働時間(1日8時間など)を超えて残業させることはできません。
  • 労使協定がある場合:労使協定で定めた時間外労働の上限などを、就業規則の労働時間の項目に反映させ、労働者に周知します。これにより、会社は適法に残業を命令することができるようになります。

効力(優先順位)について

労使協定は、就業規則の「外側」にある特例的なルールであり、単純にどちらが優先するという関係ではありませんが、一般的な労働法上の効力(優先順位)の関係は以下のようになります。

労使協定は、この優先順位の枠組みの外で、「法律の罰則を免れる」という特有の役割を果たします。

例えば、法定労働時間を超える残業は本来「法令違反」ですが、労使協定(36協定)があることによって、その法令違反に対する罰則の適用が免除されるのです。そして、残業命令の法的根拠は、その内容が反映された就業規則から得られます。

労使協定の当事者

労使協定の当事者は、使用者(会社)と労働者側の代表の二者です。特に労働者側の代表については、その選出方法が法律で厳格に定められています。

使用者(会社)

「使用者」とは、事業主または事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者を指します(労働基準法第10条)。

労使協定の締結においては、通常、事業場の責任者(例:工場長、支店長など)が当事者となります。

労働者側の代表(厳格な要件)

労働者側の代表として協定を締結できるのは、以下のいずれかの者です。

① 労働組合がある場合

その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合です。

  • 労働組合が事業場の全ての労働者の過半数で組織されている場合、その労働組合が代表者となります。
  • この場合、会社は労働組合と協定を結ぶだけで済み、個別に代表者を選出する必要はありません。

② 労働組合がない場合

労働者の過半数を代表する者です。

  • この「過半数代表者」は、パートやアルバイトを含む全ての労働者の中から、民主的な方法で選出されなければなりません。
  • 単に会社が指名したり、管理監督者(課長や部長など)が自動的に代表になったりすることは認められません。

協定に署名した者が退社したとしても、協定の効力には影響ありません。有効期間中はそのままにしておいて、次回締結のときに、新しい労働者代表、または使用者代表が締結することで問題ありません。

当事者を間違えた場合の影響

労使協定は、適法な当事者間で締結されて初めてその効力(主に免罰効果)を持ちます。

  • 適法な当事者でない場合
    • 例えば、過半数代表者が民主的な方法で選ばれていない場合や、管理監督者が代表者になっている場合、その労使協定は無効と見なされます。
    • 特に三六協定が無効になった場合、会社が従業員に残業や休日労働をさせた行為は労働基準法違反となり、罰則の対象となります。

労使協定のサンプル

労使協定のサンプルは次のページに記載しています。

労使委員会の協定代替決議

労使委員会で5分の4以上の賛成で決議したときは、労使協定は不要になります。また、協定代替決議の場合は労使協定に係る届出義務は、原則として免除されます。ほとんどの労使協定が「決議」によることができますが、強制貯金の労使協定と賃金控除の労使協定は含まれていません。