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  • 労働基準監督署の調査や是正勧告への対応

    事業場に対する調査

    労働基準監督官は、労働基準法などの実施状況を調べるために、事業場を訪問し調査する権限があります。

    労働基準法第101条 労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
    第104条の2 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めたときは、使用者又は労働者に対して、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

    条文に「臨検し」と書いてあるので、この調査を臨検ということがあります。臨検(りんけん)とは、その場所に出向いてとりしらべることです。

    また、104条の2にあるように、臨検せずに調査が行われることがあります。

    その場合は、労働基準監督署から「出頭通知書」という書類が送られてきます。事業場の責任者が、指定の日時に、指定の書類を持参して労働基準監督署へ出頭しなければなりません。

    調査の種類

    こうした調査は、一般に、労災事故が発生しやすい建設業・運送業・製造業または過去に大きな労災事故を起こした事業所に対して一定の計画に基づいて行う行われています。

    年度ごとの重点事項に基づく調査も行われます。

    重大な労働災害が発生したときや、その事業場に勤務する労働者から申告があったときには臨時に実施されます。

    主な調査事項

    一般的には、次のような事項を中心に調査が行われます。

    法定帳簿の確認
    法定帳簿作成の注意点

    労働時間管理の不備や残業代未払い等の確認
    労働時間管理の不備や残業代未払いについての是正勧告

    就業規則の取扱いを確認
    就業規則についての是正勧告

    従業員雇入時の労働条件明示義務履行の確認
    労働条件の明示についての是正勧告

    安全衛生管理状況の確認
    安全衛生管理についての是正勧告

    指摘されることが多い事項には、次のようなものがあります。

    □ 就業規則の未作成、労働基準監督署への未提出
    □ 残業代の不払い(いわゆるサービス残業)
    □ 36協定の未届出、法定労働時間、変形労働時間制に関する違反
    □ 雇入時における労働条件明示違反
    □ 健康診断の未実施、結果報告書の未提出

    臨検の進み方

    労働基準監督署の臨検は、労働基準監督官が行います。事前の予告があることもあるし、予告なしに来ることもあります。通常は2人、または1人の場合もあります。

    労働基準監督官が事業場に来ると、まず、身分証明書を提示して自身の身分を明らかにして、責任者への面会を求めます。

    このとき、責任者がいなくても、原則として調査を拒むことはできません。どうしても対応が困難である場合は、その旨を説明し、その理由が真にやむを得ないと認められるものであれば日程の変更に応じてもらえることがあります。

    そして、次のように進みます。

    □ 法定帳簿、就業規則のサンプルと逐条解説、安全管理体制がわかる書類、労働時間を把握するための書類などの点検
    □ 事業主・人事労務担当者への質問
    □ 会社内の立ち入り調査及び従業員への質問

    日頃からの準備

    上述したように、労働基準監督官は、書類の提出を求めて、内容を点検します。以下に列記した書類は、一度の調査ですべて求められるという訳ではありませんが、日頃からよく整備し、要望に応じてすぐに取り出せるようにしておきましょう。

    □ 組織図(事業場の組織図と会社全体の組織図)
    □ 労働者名簿
    □ 賃金台帳
    □ タイムカード等の勤務時間が確認できる書類
    □ 従業員の年次有給休暇の取得状況に関する管理簿
    □ 就業規則などの会社規程
    □ 従業員別の時間外労働・休日労働の実績が分かる書類
    □ 36協定届
    □ 変形労働時間制などの定めをしている場合の労使協定
    □ 変形労働時間制を実施しているときはそのシフト表
    □ 従業員に交付した労働条件通知書・雇用契約書
    □ 健康診断の実施結果などの書類(健康診断個人票など)
    □ 安全管理者、衛生管理者などの選任状況
    □ 産業医の選任状況について書類
    □ 安全委員会、衛生委員会の議事録などの書類

    クラウドサービスを利用して労働者名簿や賃金台帳などを管理することは、適切な要件を満たせば、労働基準監督署の調査のときに問題ありません。

    労働基準法では、これらの書類の電子保存が認められています。しかし、電子保存の場合、以下の要件を満たす必要があります。

    データがサーバーやクラウドに保存されている場合

    速やかに画面で確認し印刷できること

    直ちに表示・印刷できること: 労働基準監督官から提示を求められた際に、速やかに画面に表示し、印刷できるシステムになっている必要があります。

    法令で定められた記載事項を具備していること: 電子データであっても、紙の帳簿と同様に、法律で定められた記載事項が全て含まれている必要があります。

    長期保存されていること: 法律で定められた保存期間にわたり、データを確実に保存できる仕組みが必要です。

    クラウドサービス利用時の注意点

    事業場ごとの対応: 複数の事業所がある場合、各事業所からアクセス・出力できる環境を整えておく必要があります。

    システムの信頼性: 労働基準監督官が調査時に、システムの真正性や信頼性を確認する場合があります。利用するクラウドサービスが、適切なセキュリティ対策やバックアップ体制を講じているか事前に確認して、説明できるようにしておきましょう。

    調査があったときの注意事項

    労働基準監督官の調査等は、法律に基づいて行われているので、協力しなければなりません。特に次のような行為は厳禁です。罰則が適用されることがあります。

    □ 書類等を隠す
    □ 書類等を改ざんする
    □ 虚偽を述べる
    □ 従業員に虚偽を述べるように強要する

    違反が見つかったときは

    調査の結果、法令違反などの問題が見つかったときは、違反内容等を記載した「是正勧告書」という書面を交付され、指定された期日までに是正するよう勧告されることとなります。

    是正勧告は行政指導ですが、その内容は労働基準法違反の指摘ですから、本来であれば逮捕や送検になっても仕方のない案件です。深刻にとらえて対応するようにしましょう。

    是正勧告書では十分でないほど悪質とみなされたときや是正勧告書を無視し続けた場合は送検されることもあります。

    是正勧告を受けた場合は、同時に是正報告書の期限を指定され、期限内に是正した結果の報告を行わなければなりません。

    この期限は厳守しなければなりませんが、期限までにどうしても報告できない場合は、期限前に電話等で理由を説明すると再度期限を切って延長されることもあります。

    また、「指導票」というものを交付されることもあります。指導票は、法令違反とは言い切れないが、改善が必要と判断された項目があるときに交付されるものです。是正勧告書より拘束力がないからと油断せずに、指摘に沿って改善するようにし、報告を求められたときは期日までに提出してください。

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  • 退職予定者が引継ぎをしない

    引継ぎしない人への対応

    人はいろいろです。退職が決まると、もう辞めるんだからほどほどでいいと思う人もいれば、あと少しだからきちんとやろうと思う人もいます。ほどほどまでは許容範囲ですが、一線を超えれば、辞める直前でも懲戒処分できる可能性があります。

    懲戒処分の可能性

    基本的には、不正や不祥事があったら、時期は関係ありません。退職直前であっても懲戒処分をすることができます。退職直前の懲戒処分は、隠していた不祥事が発覚したケースが多いのですが、なかには業務妨害のような引継ぎ拒否のケースもあります。

    故意に引き継ぎをしない、取引上の資料を隠蔽する、引き継ぎでウソを教えるなどの業務妨害のような行為があれば、懲戒処分が有効になる可能性があります。また、発生した損害について損害賠償請求をすることも選択肢に入ってきます。

    ただし、損害が実際に発生していないのに、あるいは軽微な損害しか発生していないのに懲戒処分を科したり多額の損害賠償を提起すればそれ自体が不法行為となることもあります。本当に懲戒処分が必要なのか、本当に請求しなけれならない損害が生じたのか、感情に流されずに事実に基づいて決定しなければなりません。

    関連記事:懲戒処分をするときの注意点

    有給休暇の消化

    引継ぎを満足にしないうちに長期の有給休暇をとり出社しなくなった。分からないことがでてきたので電話したのだが電話に出てもくれない。こんなときはどうするべきでしょうか。

    有給休暇の取得は正当な権利ですから阻むことはできません。

    退職直前の有給休暇取得が、その従業員に会社が困っても知ったことかという多少の悪意があったとしても、正当な権利の行使に正当性があります。

    そもそも、退職直前に長期の有給休暇を取るということは、満足に有給休暇を使わせていなかったことを意味しますから、直前にまとめて使われたとしても文句は言えません。

    退職までは従業員ですから、引き継ぎをきちんとするようにという業務命令を出すことができます。しかし、休まずにやれということは言えません。従業員が普通の仕事の範囲で引継ぎ作業をしてくれたら満足せざるを得ません。

    有給休暇に対して会社には時季変更権がありますが、時季を変更させる日が残っていないのであればどうにもなりません。どうしてもその人でないとできない仕事がある場合は、良い条件を提示して退社後にアルバイト出社してもらう交渉をするしかないでしょう。

    引継ぎの基本

    そもそも引継ぎがうまく行かないのは、本人だけに責任があるわけではありません。

    引継ぎで困るというのは、逆に言えば、会社や上司がその従業員の業務内容を承知していないということです。会社がやるべきことをやっていなかったのですから、会社の管理責任も問われます。

    引き継ぎを受けなければまったく分からないという状況を作らないことが大事です。

    日頃からの対策としては、次の通りです。

    1.就業規則に退職時の引継ぎ義務について記載する。
    就業規則規定例:退職|就業規則

    2.従業員の一人一人の仕事はすべて、業務マニュアルとして整備する。マニュアルを見れば誰でも仕事を引き継げるレベルを目指す。
    3.仕事の進捗状況を把握するシステムをつくる。システム的なものが無くても、作業報告書、営業報告書などは書式を定めて、進捗状況が分かるようにしておく。日報などの報告システムがない会社は論外です。
    4.仕事上で作成する企画書、見積書その他の書類は全てその日のうちにファイリングして所定の場所に置く。

    退職が決まってから引き継ぎ書の作成をさせることがありますが、普段から上記に基づく仕事をやっていれば引き継ぎ書などA4一枚で済むものです。

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  • 従業員による不適切な投稿への対応

    SNS利用に注意が必要

    従業員が勤務先や顧客に関する不適切な内容の投稿をして問題になる事例が増えています。

    内部告発の意思で行うものや中傷する意思で行うものもありますが、多くはそうした意図はなく軽い気持ちで投稿することが多いようです。

    悪意は無くても、その投稿内容によって会社の信用が害されることもあります。以下に対策を記します。

    日頃から注意を促す

    会社に関することは軽い気持ちで外に発言(投稿)してはいけないことを、気付かせる必要があります。

    従業員には次のことを理解させるように、社内掲示、定期的な回覧物への記載その他を用いて何度も繰り返し周知しましょう。

    □ 個人の発言であっても会社全体の問題に発展し、企業イメージが損なわれる危険があること
    □ 発言一つで、民事上の不法行為責任、刑事上の名誉毀損罪が成立することがあること
    □ 匿名のつもりでも投稿者の特定が可能であること

    投稿は、一般的に、おもしろいこと、常にはないこと、ばかばかしいこと、腹が立ったことを取り上げることが多いものです。従業員が日頃不満に思っていることに対して適切に対処して、少しでも不満の芽を少なくする努力が必要です。

    また、法律上の違反行為が常態化していれば投稿される危険性が高まります。これ位は当然とか、これまでもこうやってきた、などという言い訳は通用しません。これまで以上にコンプライアンスを重視した経営をしなければなりません。

    特に、セクハラ・パワハラの防止、長時間労働の防止について対策を急ぎましょう。

    就業規則に記載する

    会社支給のパソコン等を私用に用いることを禁止し、禁止措置に実効性をもたせるために、会社支給のパソコン等の私用状況について会社が内容を把握することを規定しましょう。

    就業規則記載例
    (パソコン等の取扱い)
    第〇条 会社に設置されたパソコン等の電子機器(貸与されたものを含む)を私用に供してはならない。
    2 会社は必要に応じて、前項の電子機器を利用する電子メールの内容、パソコン等を用いた閲覧内容等の検査を行う。不適切な利用が判明したときは期間を定めて以後の電子機器等の利用を制限する。違反内容によっては懲戒処分を行うことがある。
    (SNSの利用について)
    第〇条 従業員がSNS(ツイッター・フェイスブック・LINE等)の利用するときは、業務中業務外を問わず、次の事項を守らなければならない。
    ① 会社、関係先、ブランド名等が識別できる書き込み(画像や音声等の投稿を含む。以下同じ)をしないこと
    ② 会社及び関係先に属する個人が識別できる書き込みをしないこと
    ③ 商品情報、人事情報、取引先情報などの営業秘密に関する書き込みをしないこと
    ④ 会社及び関係先、並びにそれらに属する個人を非難中傷する書き込みをしないこと
    2.会社からSNSの発信者として任命された者については前項①~③を適用しない。

    この規定では、私物のパソコン等を用いての投稿までは制限できませんが、少なくとも会社支給のパソコン等を使って書き込むことを阻止することが第一歩です。

    また、一般論としては、私的な行為は会社の懲戒処分の対象にならないとされていますが、会社の名誉信用を傷つける結果をもたらせば懲戒処分の対象にすることができます。

    別規程でソーシャルメディア利用規程を作ることもあります。

    関連記事:ソーシャルメディア利用規程のサンプル

    営業秘密を明確にする

    会社の機密情報を漏らされたとしても、その情報が、不正競争防止法における「営業秘密」として管理されていなければ、漏えい者に対して責任を問えない場合もあります。

    営業秘密とは、会社が一定の手順によって、営業秘密として管理している情報です。

    例えば、情報媒体と管理施設へのアクセスを部署や職位によって制限したり、社外への公開を禁じる文書等についてはそのように明確に指定するなどの手順を社内規程によって実施してることが必要です。

    もちろん、厳密な情報管理を実施していなくても、会社として慣例的に営業秘密として扱ってきた文書等を無断で公表すれば懲戒処分の対象になります。しかし、きちんとした情報管理をしていないと、微妙なところで追及できなくなることがあるものです。

    関連記事:営業秘密の侵害

    不適切な書き込みへの対処

    削除要請

    不適切な書き込みを発見したときは、後日のためにその記録をとります(スクショ等)。

    書き込みをした本人が判明している場合は、本人に削除を要請します。誰が書き込みをしたかが判明しない場合は、プロバイダに対して、発信者情報の開示を求めます。詳しい人が社内にいないときは弁護士、専門会社に措置を依頼しましょう。

    懲戒処分等

    懲戒処分ができるか検討します。損害が大きくなければ戒告処分、重大な損害があれば懲戒解雇も考えられます。

    実際に損害が発生したときは損害賠償請求も考えられます。極めて悪質であるときは、会社や被害を受けた個人からの刑事告発も考えられます。


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  • 従業員が行方不明になったとき

    連絡が取れないときの対応

    従業員が突然会社に来なくなり、連絡が取れなくなった時どうすればいいでしょうか。

    「無断欠勤など言語道断、就業規則にも決めてある。クビだ」と単純に処理できるものではありません。

    病気や事故、事件に巻き込まれるなど、本人に責任がないことで無断欠勤してしまうこともあるからです。

    また、処分ではなく普通退職として扱うことにも問題があります。

    退職は従業員と会社の合意によって成立している「雇用契約」という契約を終了させることですから、当然一方の当事者である従業員の意思表示が必要です。契約の相手方である従業員の意思がわからないまま、退職の手続きをすると、後々問題が発生する可能性があるからです。

    連絡を取る努力が必要です

    まずは連絡を取る努力をしなければなりません。

    □ 本人の携帯等に何度も連絡してみる。会社からの電話に出るつもりがない場合もあるので、同僚等の個人の携帯からも連絡してもらう
    □ 家族や身元保証人に電話等で連絡をとる
    □ 住まいを訪問する(事件等の場合もあるので、必ず複数の社員で、うち一人は管理職が望ましい)

    連絡がとれたときは

    連絡がとれた場合は、事情を聴くことになりますが、会社にとって肝心なのは、退職するつもりで休んだのかどうかの確認です。

    辞めたいのだが言い出せないので休んでしまったというのであれば、事情にもよりますが、そこまでやめたいのであれば、退職の手続きに進むのが一般的です。手続きにも出社したくないでしょうから、郵送による書類のやり取りで退職手続きを行いましょう。

    退職するつもりはない、と伝えてきた場合は、その行方不明の事情等により、社内規程に照らして処分が必要であればその可能性を伝え、処分に関する手続きをした上で復職を認めることになります。なお、その処分が懲戒解雇であれば、結果的に復職を認めないことになります。

    連絡がとれない場合

    手を尽くしても連絡が取れない場合は、次のステップに進むことになります。まずは、そのままにしておくか、退職手続きに移るか判断します。

    本人の日頃の様子から見て、そのような無責任な行動をとるとは思えない場合は、事故や事件に巻き込まれて被害者になっている可能性も考えなければなりません。

    また、犯罪を起こして逮捕されている場合もあります。

    家族や身元保証人との協議を続け、場合によっては警察への届け出(普通は家族が行う)等に進むことになります。

    退職手続きの進め方

    本人の意思を類推できる場合

    同僚に対して「もうこの会社を辞める」などと発言した事実があったり、上司の注意等に対して「辞めてやる」などと言った事実があって、その後出社しなくなった場合には本人に退職の意思があると推定できます。

    もちろん、本当に辞めるのかどうかの確認はとりたいものですが、できない場合は、家族や身元保証人と話し合い、なるべく、退職手続きがやむを得ないものと認める旨の同意を得るように努めましょう。

    このような場合、退職意志を推定して退職の手続きをとることはやむを得ないと考えられますが、後日トラブルになる可能性がまったくないわけではありません。リスクを考慮しての判断になります。

    就業規則の退職事由に該当する場合

    就業規則に、退職事由として、「無断欠勤が〇日に及んだ場合」の定めがある場合は、それを根拠に、退職手続きを進めることができます。

    ただし、後で事情が判明して、無断欠勤がやむを得ない事情によるものと認められる場合は、その措置を撤回する必要が出てくることがあります。

    就業規則の解雇事由に該当する場合

    就業規則に、解雇事由として、「無断欠勤が〇日に及んだ場合」の定めがある場合は、その規定を適用して解雇することができます。

    ただし、後で正当な事由が判明したときは、前項と同様にその措置を撤回する必要が出てくることがあります。

    解雇の場合は、30日前の予告が必要ですが、行方不明の場合はこの予告が相手に達しないことが多いので、あとで、解雇予告手当を請求される可能性があります。

    関連記事:解雇予告と解雇予告手当

    懲戒解雇の場合、懲戒手続きの一環として本人の弁明機会を与えなければなりません。行方不明の場合は弁明を聞くことができないので、後日、懲戒手続きの不備として問題になる可能性があります。

    従って、行方不明の場合には懲戒解雇は避けた方がよいでしょう。会社の金品を持ち逃げしたとかなどの犯罪行為がある場合は認められると思われます。ケースバイケースです。

    どのように通知するか

    退職又は解雇、ともに雇用契約の解除なので、上述したように当事者である本人に伝える必要があります。

    多く見られるのは親などの家族に伝えて退職の了解を取るというものです。ただし、家族であっても雇用契約の当事者ではありませんから、問題が残ります。

    また、一方的に本人の住所に解雇通知の文書を送るという方法も使われますが、受取人不在で戻ることもあり、戻ってこないとしても本人が受け取っているかどうかわからないので、後で受けとっていないと言われた場合には弱いです。

    確実なのは、裁判所の公示送達という手続です。従業員の最後の住所地の簡易裁判所に申立てをします。公示送達の手続きは少々面倒です。弁護士等の専門家に相談しましょう。

    生死が7年間明らかでないとき(場合によって1年のこともあります)は、(家族等は)家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることができます。失踪宣告がでると、生死不明者は、法律上死亡したものとみなされます。

    残余の賃金や退職金はどうするか

    賃金は労務の提供の対価ですから、労務の提供がない場合には、会社は賃金の支払義務を負わないのが原則です。いわゆる「ノーワーク・ノーペイの原則」です。ただし、給与規程等で、社員の出勤にかかわらず月給を支払うような規定になっている場合は、社員が無断欠勤をしているときでも、賃金を支払う必要が生じます。

    無給になっても、在籍中は社会保険料などは発生してしまいます。その分は会社が立て替えておき、あとで従業員に請求するしかありません。いつまでも払ってもらえない場合は、損金処理するしかない場合もあります。

    入社時に、身元保証人を立てさせていた場合には、社会保険料などの立替金は、身元保証人に対して請求することができます。だだし、どのくらい回収できるかは微妙です。

    退職金については、無断欠勤をしたからといって、直ちに支払義務を負わなくなるものではありません。退職金規程等に定められている場合は、行方不明による退職であっても退職金を支払う必要があります。

    なお、未払いの賃金や退職金の支払いに際しては、賃金の「直接払いの原則」に留意する必要があります。本人名義の預金通帳等が解約されていない場合はその通帳に振り込むことでほぼ問題ないと思われますが、家族等に手渡すのは問題になる可能性があります。

    一般的な退職の手続き

    関連記事:従業員が退職するときの手続き


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  • 遅刻や無断欠勤への対応

    就業規則はどうなっているか

    多くの就業規則は、解雇の事由として次の項目を掲げていると思います。

    ・正当な理由なく無断欠勤14日以上に及び、且つ再三の出勤の督促に応じなかったとき。

    現実には、このような行方不明に等しいような無断欠勤をする人は稀でしょう。

    多いのは、1日から数日の無断欠勤をし、上司が注意するが、忘れたころに又繰り返すというようなケースではないでしょうか。その場合は、上記のような規定は適用できません。

    もちろん、数日の無断欠勤で解雇というのは厳しすぎると思いますが、7日や10日ではなく、なぜ14日以上なのでしょうか。

    それは、行政通達で、解雇できる事例が示されており、その中の一つに、「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」という記載があるからです。これをもとに作られた就業規則が多いのです。

    その是非はともかく、連続無断欠勤で懲戒解雇するには14日というのが一つの基準になっていることは確かです。

    では、それよりも少ない無断欠勤にはどう対処すればよいのでしょうか。

    行政通達が示す解雇事例には、「出勤不良又は出欠常ならず数回にわたって注意を受けても改めない」というのもあります。

    これに沿って、解雇事由に次の項目を追加しておけばだいぶ穴をふさぐことができます。
    ・正当な理由なく遅刻、早退、無断欠勤が著しく、再三の注意にもかかわらず、改善がみられないとき

    ただし、
    ①どういう場合が正当な理由と言えるか
    ②著しいとは何回以上か
    ③再三の注意とは何回か、また、注意した証拠はあるか

    など、安易に適用すれば、突っ込まれるところがいろいろあります。内規等で、基準を決め、さらに従業員に周知させることが必要です。

    けん責規定を見直す

    すぐに解雇を考えるのは短絡的です。

    まず、けん責処分をし、それでも改まらない場合に解雇に持ってい行くという運用がよいでしょう

    1.けん責処分事由に次を追加する
    ・正当な理由のない無断欠勤をしたとき
    ・正当な理由のない遅刻が月に〇回に及んだとき、又は正当な理由のない無断早退をしたとき

    2.懲戒解雇事由に次を追加する
    けん責以上の処分を受けることが半年間に〇回に及び、特段の考慮すべき事情が認められないとき

    注意の記録を残さなければならない

    遅刻や無断欠勤に対して、上司は注意を与えていると思います。しかし、注意の記録が残っていないことがほとんどです。争いになったときは、1にも証拠2にも証拠です。あとで証言したり、文書を提出することもできますが、都度都度作成していた文書が強い証拠能力を持ちます。

    いずれにしても解雇には慎重になるべきで、なるべく解雇などしない方がよいのですが、放置すると職場の秩序がたもてないという状況であれば、他の社員のためにも毅然とした対応が必要なときもあります。

    懲戒処分をするときは→懲戒処分について

    ねばり強く指導して改善させるのが一番

    従業員には決められた時間に出社する義務があります。そういう約束で雇用されているのですから、約束を守らないのであれば、懲戒処分は可能です。

    しかし、悪意のないうっかりミスのような事案で懲戒などというのは重すぎるでしょう説諭はもちろんですが、遅刻しないような対策を当人と一緒に考えてみるなど、懲戒処分の前にいろいろ手立てがあると思います。


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  • セクハラに対する会社の対応

    セクハラとは

    セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)とは、他の者を不快にさせる職場または職場外における性的な言動のことです。

    「性的な言動」とは、性的な関心や欲求に基づくものをいい、性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動、性的指向や性自認に関する偏見に基づく言動も含まれます。

    セクハラは男性から女性に行われるものに限らず、女性から女性、女性から男性、男性から男性に対して行われるものも対象になります。

    場所・時間の限定はありません。

    不快であるか否かの判断は、基本的には受け手が不快に感じるか否かによって判断されます。

    セクハラの定義

    セクハラの例

    セクハラになり得る言動として、例えば、次のようなものがあります。  

    ・ スリーサイズを聞くなど身体的特徴を話題にすること。
    ・ 卑猥わいな冗談を話すこと。
    ・ 体調が悪そうな女性に「今日は生理日か」などと言うこと。
    ・ 性的な質問をすること。
    ・ 性的な噂うわさを立てること
    ・ 性的なからかいの対象とすること。
    ・ 「男のくせに根性がない」、「女には仕事を任せられない」などと言うこと。
    ・ 「男の子、女の子」、「お嬢さん」、「おじさん、おばさん」などの呼び方をすること。
    ・ 性的指向や性自認をからかったり、本人の承諾なしに第三者に漏らしたりすること。
    ・ ヌードポスター等を職場に貼ること。
    ・ 雑誌等の卑猥わいな記事等を見せたり、読んだりすること。
    ・ 身体を必要以上に眺めること。
    ・ 食事やデートにしつこく誘うこと。
    ・ 性的な内容の電話をかけたり、性的な内容の手紙・Eメールを送ること。
    ・ 身体に不必要に接触すること。
    ・ 性的な関係を強要すること。
    ・ 更衣室等をのぞき見すること。
    ・ 女性であるという理由でお茶くみ、掃除、私用等を強要すること。
    ・ カラオケで一緒に歌うことを強要すること。
    ・ 酒席で、上司のそばに座席を指定したり、お酌やダンス等を強要すること。

    会社の義務

    従業員からセクハラやパワハラ、職場いじめなどのいわゆる「ハラスメント」の被害にあっているとの申告があったときは、会社はそのハラスメント行為をやめさせる適切な対処をしなければなりません。

    男女雇用機会均等法第11条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。


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