カテゴリー: 育児介護

  • 育児介護休業法に基づく調停等の制度

    企業内での紛争解決

    相談窓口

    従業員から苦情の申し出や改善の要求が出たときは、真摯に対応し、早期に紛争を解決するように努力しなければなりません。

    育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第二十二条 事業主は、育児休業申出等が円滑に行われるようにするため、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。

    二 育児休業に関する相談体制の整備

    相談窓口の設置と運営

    苦情処理機関

    育児介護休業法は、事業主の代表と労働者の代表で構成される苦情処理機関に解決を委ねることを勧めています。

    第五十二条の二 事業主は、第二章から第八章まで、第二十一条、第二十三条、第二十三条の二及び第二十六条に定める事項に関し、労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない。

    苦情処理機関が扱う事案は次のようになります。

    第二章から第八章までというのは育児休業や介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限等のことです。

    第二十一条は妊娠又は出産等についての申出があった場合における措置等、第二十三条と第二十三条の二は所定労働時間の短縮措置等、第二十六条は労働者の配置に関する配慮に関する事項です。

    苦情処理委員会の設置と運営

    会社内で解決できればよいのですが、お互いが感情的になったり、主張が平行線をたどるなどして、話合いによる解決が困難になることがあります。そのような場合、都道府県労働局に援助を求めることができます。

    労働局長の援助を求める

    都道府県労働局長に援助を申し出ることができます。

    第五十二条の四 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。

    次の記事は個別労働紛争解決促進法に基づく労働局長の助言・指導についての解説記事ですが、育児介護休業法による援助申出に対しても同様の対応をしてくれます。

    個別労働紛争の当事者に対する労働局長の助言・指導

    紛争調整委員会の調停

    都道府県労働局長は、紛争調整委員会に調停を行わせることができます。

    第五十二条の五 都道府県労働局長は、第五十二条の三に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。

    調停とは

    調停とは、調停委員が当事者である労働者と事業主双方から事情を聞き、紛争解決の方法として調停案を作成し、当事者双方に調停案の受諾を勧告することにより紛争の解決を図る制度です。

    育児介護休業法に基づく調停は、個別労働紛争解決促進法により設置されている「紛争調整委員会委員会」が、手続き的には男女雇用機会均等法の定めを準用して行います。

    調停を利用する方法

    調停制度を利用したいときは、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)又は最寄りの総合労働相談コーナー(労働基準監督署内に設置されています)に、調停申請書を提出します。用紙は窓口にあります。また厚生労働省ホームページからダウンロードすることもできます。

    労働者が申請するのが一般的ですが、事業主の側から申請することもできます。

    調停は非公開で行われるので当事者のプライバシーは保護されます。

    調停の進み方

    労働局は申請を受け付けると若干の調査をして、調停の必要を認めれば、紛争調整委員会に調停を委任する書類を回します。

    紛争調整委員会の委員は、弁護士、大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家がつとめています。

    指定の日時に紛争当事者双方が出頭します。この場合、直接顔を合わせて言い合うのではありません。調停委員が個別に話を聞いて解決案を提示します。

    その解決案に対してどちらかが不満であれば、強制することはできないので解決できないまま調停は終了します。

    双方が合意すれば合意書を作成します。合意書には法的な拘束力があります。

    紛争調整委員会の調停は、参加したくない相手方を強制的に出席させることはできません。その場合は調停を行うことができないので、申請した当事者は調停以外の方法である、裁判等を検討することになります。

    制度の対象となる紛争

    育児介護休業法による調停の対象となるのは、上の苦情処理機関のところに記載した苦情処理機関が扱う事案と育児休業等の制度等を利用したことに対する労働者の就業環境が害される言動、いわゆるマタハラについての事案です。

    マタハラについては次の記事で少し詳しく解説しています。

    マタハラに対する会社の対応

    解雇、雇止め、労働条件の不利益変更などの労働条件に関する紛争については、個別労働紛争解決促進法に基づくあっせんの対象になります。


    会社事務入門あっせんや調停等の制度>このページ

  • 育児・介護休業等に関する定めを周知しなければならない

    育児休業等に関する定めの周知等の措置についての条文

    育児介護休業法21条の2 前条第一項に定めるもののほか、事業主は、育児休業及び介護休業に関して、あらかじめ、次に掲げる事項を定めるとともに、これを労働者に周知させるための措置(労働者若しくはその配偶者が妊娠し、若しくは出産したこと又は労働者が対象家族を介護していることを知ったときに、当該労働者に対し知らせる措置を含む。)を講ずるよう努めなければならない。
    一 労働者の育児休業及び介護休業中における待遇に関する事項
    二 育児休業及び介護休業後における賃金、配置その他の労働条件に関する事項
    三 前二号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

    周知は、「あらかじめ」となっているので、該当者のあるなしにかかわらず全ての従業員に対して周知しておかなければなりません。また、「労働者若しくはその配偶者が妊娠し、若しくは出産したこと又は労働者が対象家族を介護していることを知ったとき」は、当該の個々の従業員に対して改めて周知しなければなりません。

    前条第一項については、次の記事で説明しています。

    妊娠出産等の申出に対して制度周知や意向確認をするときの注意点

    育児介護休業法21条の2では、休業中の待遇や復帰後の労働条件について周知するべきことを定めています。

    休業中における待遇の例

    1.育児・介護休業の期間については、基本給その他の月毎に支払われる給与は支給しない。

    2.賞与については、その算定対象期間に育児・介護休業をした期間が含まれる場合には、出勤日数により日割りで計算した額を支給する。

    3.介護休業により給与が支払われない月における社会保険料の被保険者負担分は、各月に会社が納付した額を翌月○日までに従業員に請求するものとし、従業員は会社が指定する日までに支払うものとする。

    復帰後の労働条件の例

    1.育児・介護休業後の勤務は、原則として、休業直前の部署及び職務とする。

    2.本人の希望がある場合及び組織の変更等やむを得ない事情がある場合には、部署及び職務の変更を行うことがある。この場合は、育児休業終了予定日の 1か月前、介護休業終了予定日の2週間前までに正式に決定し通知する。

    3.定期昇給は、育児・介護休業の期間中は行わないものとするが、育児・介護休業期間中に定期昇給日が到来した者については復職後に昇給させるものとする。

    4.退職金の算定に当たっては、育児・介護休業をした期間を勤務したものとして勤続年数を計算するものとする。


    会社事務入門出産と育児を支援する諸制度介護を支援する諸制度>このページ

  • 相談及び苦情への対応についての育児介護休業等規程記載例

    育児介護休業等規程記載例

    育児休業等規程のうち「相談及び苦情への対応」についての記載例です。

    (相談及び苦情への対応)
    第◯条 職場におけるハラスメントに関する相談窓口は本社及び各事業場で設けることとし、統括責任者は本社◯◯部長とする。◯◯部長は、本社及び各支店における窓口担当者の名前を人事異動等の変更の都度、周知するとともに、窓口担当者に対してハラスメントに関する情報を適宜提供し、外部研修への参加について便宜をはかるものとする。

    2 従業員は、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関する就業環境を害する言動に関する相談を相談窓口の担当者に申し出ることができる。なお、相談の申し出は所属する支店に限らず、どの相談窓口に申し出ても良いものとする。

    3 相談窓口担当者は相談の申し出があったときは速やかに相談に対応するとともに、その概要について本社においては◯◯部長に、各支店においては支店長に報告する。

    4 報告に基づき、◯◯部長又は支店長は調査担当者を指名し、被害者、行為者、上司その他の従業員等に事実関係を聴取させる。

    5 前項の聴取を求められた従業員は、正当な理由なくこれを拒むことはできない。

    6 調査担当者は調査終了後、本社◯◯部長に調査結果を報告し、◯◯部長は、被害者の労働条件及び就業環境を改善するために必要な措置を講じるものとする。また、懲戒処分の必要があると判断したときは懲戒委員会に懲戒処分を提起するものとする。

    7 相談及び苦情への対応に当たっては、関係者のプライバシーは保護されるとともに、相談をしたこと又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いは行わない。

    注意点

    育児介護休業法により、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント防止対策が義務となっています。

    関連記事:ハラスメント対策の留意点

    厚労省モデル規程

    厚生労働省のモデル規程では次のようになっています。法がもとめているのは相談窓口を設置することなので、細部は各社の実情にあわせて規定することになります。

    第◯条
    1 職場におけるハラスメントに関する相談窓口は本社及び各事業場で設けることとし、その責任者は人事部長とする。人事部長は、窓口担当者の名前を人事異動等の変更の都度、周知するとともに、担当者に対する対応マニュアルの作成及び対応に必要な研修を行うものとする。
    2 職場におけるハラスメントの被害者に限らず、すべての従業員は、パワーハラスメントや性的な言動、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関する就業環境を害する言動に関する相談を相談窓口の担当者に申し出ることができる。
    3 対応マニュアルに沿い、相談窓口担当者は相談者からの事実確認の後、本社においては人事部長へ、各事業場においては所属長へ報告する。報告に基づき、人事部長又は所属長は相談者のプライバシーに配慮した上で、必要に応じて行為者、被害者、上司その他の従業員等に事実関係を聴取する。
    4 前項の聴取を求められた従業員は、正当な理由なくこれを拒むことはできない。
    5 対応マニュアルに沿い、所属長は人事部長に事実関係を報告し、人事部長は、問題解決のための措置として、第◯条による懲戒の他、行為者の異動等被害者の労働条件及び就業環境を改善するために必要な措置を講じる。
    6 相談及び苦情への対応に当たっては、関係者のプライバシーは保護されるとともに、相談をしたこと又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いは行わない


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  • 再発防止の義務についての育児介護休業等規程記載例

    育児介護休業等規程記載例

    育児休業等規程のうち「再発防止の義務」についての記載例です。

    (再発防止の義務)
    第◯条 ハラスメント防止責任者である◯◯部長は、職場におけるハラスメント事案が生じた時は、事案発生の原因を分析し、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントについて社内通達による啓発活動を行うとともに、社内研修で取り上げるなどの適切な再発防止策を講じなければならない。

    注意点

    抽象的な文言より、具体的な取組事項を例示したほうが担当者が動きやすいでしょう。

    関連記事:ハラスメント対策の留意点

    厚労省モデル規程

    厚生労働省のモデル規程では、「人事部長は職場におけるハラスメント事案が生じた時は、周知の再徹底及び研修の実施、事案
    発生の原因の分析等、適切な再発防止策を講じなければならない。」となっています。


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  • 禁止行為についての育児介護休業等規程記載例

    育児介護休業等規程記載例

    育児休業等規程のうち「禁止行為」についての記載例です。

    (禁止行為)
    第◯条 すべての従業員は、他の従業員を業務遂行上の対等なパートナーとして認め、職場における健全な秩序ならびに協力関係を保持する義務を負うとともに、職場内において次に掲げる行為(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント)をしてはならない。また、自社の従業員以外の者に対しても、これに類する行為を行ってはならない。

    ① 部下の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用等に関し、解雇その他不利益な取扱いを示唆する言動
    ② 部下又は同僚の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用を阻害する言動
    ③ 部下又は同僚が妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置を利用したことによる嫌がらせ等
    ④ 部下が妊娠・出産等したことにより、解雇その他の不利益な取扱いを示唆する言動
    ⑤ 部下又は同僚が妊娠・出産等したことに対する嫌がらせ等

    2 部下である従業員が職場におけるハラスメントを受けている事実を認めながら、これを黙認する上司の行為

    注意点

    関連記事:ハラスメント対策の留意点

    厚労省モデル規程

    厚生労働省のモデル規程では、この部分にセクハラとパワハラについても併せて記載していますが、セクハラとパワハラには男女雇用機会均等法の規定によるものなので、別の規程(ハラスメント防止規程のサンプル)に規定するものとしてここでは割愛しました。


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  • 不利益取扱いとは

    不利益取扱いとは

    労働者に対する「不利益取扱い」とは、使用者が、法令で定められている権利を行使する労働者に対して、その権利の行使を妨げるような扱いをすることをいいます。

    各法の禁止規定

    労働基準法

    労働基準法には、労働基準局への申告と有給休暇について規定があります。

    労働基準法第百四条 
    ② 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。

    「前項の申告」というのは、労働基準法違反の事実を行政官庁又は労働基準監督官にする申告です。

    労働基準法第百三十六条 (略)有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

    育児介護休業法

    育児介護休業法は、詳細に不利益取扱いについて規定しています。

    以下のことを理由に、労働者に対して不利益取扱いをすることを禁止しています。

    □ 育児休業を取ろうとすること、または取ったこと(第10条)
    □ 介護休業を取ろうとすること、または取ったこと(第16条)
    □ 子供の看護休暇を取ろうとすること、または取ったこと(第16条の4)
    □ 介護休暇を取ろうとすること、または取ったこと(第16条の7)
    □ 所定労働時間外の労働をしなかったこと(第16条の9及び第16条の10)
    □ 法定労働時間外の労働をしなかったこと(第18条及び第18条の2)
    □ 深夜に労働をしなかったこと(第20条及び第20条の2)
    □ 所定労働時間を短縮したこと(第23条及び第23条の2)

    このように、育児介護休業法において認められた権利を行使したことに対して不利益を与えることを禁止しています。

    関連記事:育児休業制度のあらまし

    関連記事:介護休業制度のあらまし

    男女雇用機会均等法

    男女雇用機会均等法は第9条で以下に挙げられることを理由に、女性の労働者に対して不利益な取扱いをすることを禁止しています。

    □ 妊娠又は出産したこと。
    □ 妊娠中や出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)を求め、または受けたこと。
    □ 坑内業務・危険有害業務に就けないこと、就かないことを申出、または就かなかったこと。
    □ 産前休業を請求または休業したこと、産後に就業できないこと、または産後休業したこと。
    □ 妊娠中の女性が軽易業務への転換を請求、または転換したこと。
    □ 妊産婦が時間外・休日・深夜に労働しないことを請求、または労働しなかったこと。
    □ 育児時間を請求、または取得したこと。
    □ 妊娠または出産に起因する症状により労働できないこと、労働できなかったこと、または労働能率が低下したこと。

    公益通報者保護法

    公益通報者保護法には次の規定があります。

    公益通報者保護法第五条 (略)事業者は、その使用し、又は使用していた公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、降格、減給、退職金の不支給その他不利益な取扱いをしてはならない。

    労働者が公益通報したことを理由に不利益な取扱いをしてはならないという規定です。

    関連記事:公益通報とは何か、どこに通報すればよいの?

    雇用保険法

    雇用保険法には次の規定があります。

    雇用保険法第七十三条 事業主は、労働者が第八条の規定による確認の請求又は第三十七条の五第一項の規定による申出をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

    具体的には、労働者が雇用保険の被保険者になったことなくなったことについて確認を取ったこと、そして、高年齢被保険者の特例申し出を理由に不利益に取り扱うことを禁止しています。

    労働組合法

    労働組合法ではつぎのように不利益な取扱いを禁止しています。

    労働組合法第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
    一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること(略)

    不利益取扱いになる取り扱い

    どういう取り扱いが「不利益取扱い」になるかについて厚生労働省の平成21年第509号の告示に以下のような例が記載されています。

    これは、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」なので育児介護休業法関連です。

    □ 解雇すること
    □ 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
    □ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
    □ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと
    □ 自宅待機を命ずること
    □ 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は 所定労働時間の短縮措置等を適用すること
    □ 降格させること
    □ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと
    □ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
    □ 不利益な配置の変更を行うこと
    □ 就業環境を害すること

    男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の違反の要件となっている「妊娠・出産、育休等を理由として」とは、妊娠・出産、育児休業等の事由と不利益取扱いとの間に「因果関係」があることを指します。妊娠・出産、育児休業等の事由を「契機として」不利益取扱いを行った場合は、原則として「理由として」いる(事由と不利益取扱いとの間に因果関係がある)と解されて、法違反と判断されます。

    ならない場合

    厚生労働省は、各都道府県労働局雇用均等室長宛に発出した通達(平27・3・27雇児雇発0327第1号、雇児職発0327第2号)において、妊娠・出産・育児休業等を契機としていても、法違反ではないとされる例外を記載しています。

    1「業務上の必要性から不利益取扱いをせざるを得ず、業務上の必要性が、当該不利益取扱いにより受ける影響を上回ると認められる特段の事情が存在するとき」

    2「労働者が同意している場合で、有利な影響が不利な影響の内
    容・程度を上回り、事業主から適切に説明がなされる等、一般的な労働者なら同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき」

    この通達には、もう少し具体的な例も記載しているので、関心がある方は検索してください。

    いずれにしても、「特段の事情」「合理的な理由が客観的に存在」の解釈は大変難しいので、実際の対応にあたっては弁護士等の専門家に相談したほうがよいでしょう。

    労働者から、事業主の不利益取扱いについて労働基準監督署または雇用均等室に相談があったときは、雇用均等室は、妊娠・出産・育児休業等を「契機として」行われた不利益取扱いであるか等を、労働者からの聴取、事業主からの報告徴収をして、例外に該当するかどうかを判断します。

    「例外」に当たらないと判断すれば、助言・指導・勧告され、是正されない場合は企業名の公表もあります。

    ハラスメントとの違い

    不利益取扱いは事業主が行う行為です。一方、ハラスメントは上司や同僚による行為です。たとえば、妊娠・出産を理由に解雇や降格を行うのは不利益取扱いです。上司が産休や育休の取得を拒んだり、精神的に圧力をかけたりする行為はハラスメントです。

    事業主は、上司や同僚が職場において、妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とするハラスメントをすることがないよう、防止措置を講じなければなりません。

    関連記事:ハラスメント対策の留意点


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