カテゴリー: 賃金

  • 給与計算に間違いがあったときの清算方法

    間違いが見つかったら

    給与計算にミスがあることが分かったら、給与計算をやり直したり、過不足分を清算する必要があります。

    ミスが分かったらまずどのような形で清算するか方針が決めます。方針を決めたら速やかに対象の従業員にその旨を知らせ、過不足を清算するやり方を説明します。

    過不足発生が給与計算担当者のミスであったときは謝罪し、従業員の届出違いに原因があるときは注意を与えます。

    受け取った本人が返還に難色を示すことがあるかもしれませんが、間違って支払った過払い分について、会社は民法703条に基づき不当利得返還請求をすることができます。

    過払いがあったとき

    全額払いとの関係

    賃金は全額を支払うという原則があります(労働基準法24条1項)。したがって、したがって、たとえ計算間違いであっても次の給料から過払い部分を勝手に天引きすることはできないのが原則です。

    関連記事:賃金の全額払いの原則

    実務的には、相互の信頼関係をもとに、翌月の賃金で調整することが行われています。これは、「前月分の過払い賃金を翌月分で清算する程度は、賃金それ自体の計算に関するものであるから、労働基準法第24条の違反とは認められない(S23.9.14-基発1357号)」という通達が根拠になっているとされています。

    また、この件についての最高裁判決もあります。具体的には、調整的相殺は、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、賃金全額払原則に反しないとし、そのためには、過不足が生じた時期と相殺の時期が賃金の清算調整たる実を失わない程度に接着していること、その額が多額にわたらない等、労働者の経済生活の安定を脅かすおそれのないことが必要であると述べています(最一小判昭44年12月18日福島県教組事件)。

    いずれにしても、ごく少額であれば次の給与で調整することは労働基準法違反とまではならないとされているのですが、どの程度であれば多額とされないかなどの問題があるので、通達や判例で認められているので問題なく次の給料で調整できるという発想は安易だということになります。

    労使協定と本人の同意

    また、給料からの差し引きをするには「過払い分がある場合は翌月の賃金から差し引いて支払う」などの内容が含まれた労使協定を締結しておく必要があります。

    参考:労働基準法24条1項ただし書き
    「法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」

    労使協定の内容は、就業規則または賃金規程の控除項目に追加しておきましょう。

    なお、労使協定があっても控除について私法上の効果が認められるわけではないので、給料からの天引きが有効になるためには、労働協約を締結しておくか当該労働者の同意を得ておくことが必要です。労働協約は労働組合のある会社の場合です。一般的には本人の(自由意志による)同意が重要です。

    特に、事前説明なしに清算するのはトラブルの元です。翌月の給与て調整する必要が生じたときはその旨と金額をきちんと説明して本人の同意をとりつけましょう。また、金額が大きいときは、相談の上で分割にするなどの配慮が必要です。

    現金による回収の場合

    現金で回収するときは、内訳を明記した領収書を渡しましょう。また、給与には源泉所得税と雇用保険が関係しています。これらは逆に過徴収になっているはずなので差し引いた金額を返金してもらわなければなりません。

    過払いを翌月給与で清算すると、源泉所得税と雇用保険料は自動的に反映されるのでそうした問題は生じません。

    不足があったとき

    不足分はすぐに支払わなければなりません。振込または現金で支給します。即時支払が原則なので現金がよいでしょう。支払時に明細を交付して受領印をもらいます。

    不足分を現金で支給する場合は、源泉所得税、雇用保険料の徴収漏れに注意しましょう。控除分を計算して差し引いて支給するのが原則です。

    少額でかつ本人の同意があれば翌月の給与で調整することもあります。ただし、会社側が少額だと判断しても本人にとっては生活に影響を与える額であることもあります。本人の同意が必要です。

    事前対策

    間違いやすい点はチェックリストに加えてミスを防ぎましょう間違いは次のようなときに起りがちです。

    □ 昇格や降格で役職が変わったとき
    □ 出産や死亡、妻子の就職で扶養家族が変わったとき
    □ 引越しで通勤費の変動があったとき
    □ 時間外手当等の連絡ミス
    □ 月の途中で入社した従業員の社会保険料誤控除

    会社事務入門給与計算のやり方>このページ

  • 給与の締切日や支払日を変更する際の注意事項

    会社の発足時はいろいろと忙しいので、就業規則はモデル規程などを参考にバタバタと決めてしまうことが多いものです。その結果、やっているうちに不合理に思う部分が出てくることなります。

    比較的多いのが、給与の締切日や支払日です。

    例えば、締切日と支払日が近すぎていつも担当者に負担をかけている会社もあります。

    また、月末締切、当月20日支給のように給料の一部が前払いになっていることに後から気が付いて変更したいと思うこともあります。

    就業規則の改定は、従業員代表の意見を添付して所轄労働基準監督署に届出ることで行うことができます。

    関連記事:就業規則を労働基準監督署に届出する

    ただし、給料の締切日や支払日を変更すると、例えば20日が支払日であるものを25日に変更すると、5日分だけ従業員は給与を手にすることができません。

    このように、労働者にとって不利益になる部分を含む変更は、労働契約法10条に基づいて慎重に進めなければなりません。

    つまり、

    1.労働者の受ける不利益の程度
    2.労働条件の変更の必要性
    3.変更後の就業規則の内容の相当性
    4.労働組合等との交渉の状況
    5.その他の就業規則の変更に係る事情

    を考慮して手順を踏んで改訂しなければなりません。

    関連記事:就業規則の不利益変更

    一般論としては、給与の締切日や支払日の変更であれば、実施時期の告知から少なくとも半年くらいの猶予期間をおいて、実施月には給与の中間払いをする、賞与月に実施するなどの緩和措置を実施すれば理解が望めるものと思われます。

    会社事務入門給与計算のやり方給与計算が間に合わない場合>このページ

  • 年俸制の正しい理解と運用のポイント

    年俸制とは?

    年俸制とは、従業員に支払う給与の総額を1年単位で決定する賃金制度です。企業は向こう1年間の給与総額を提示し、従業員がこれに合意することで労働契約が成立します。この年俸額は、原則として1年ごとに見直し(更改)されます。

    年俸額の決定方法は、企業ごとに就業規則や賃金規定で定められます。一般的には、前年の業績や成果を評価しつつ、向こう1年間に期待される役割や貢献度を加味して金額が設定されます。

    年俸の支払い方と減額ルール

    支払い方は労働基準法で決まっている

    年俸制であっても、年俸額を一括で支払うことはできません。労働基準法第24条では、「賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められています。したがって、年俸総額を12分割して毎月支払うのが一般的です。

    賞与分が含まれている場合も、この「毎月払い」の原則は守る必要があります。多くの企業では、年俸総額を14や16などに分割し、夏季・冬季に「特別賞与」や「一時金」として上乗せして支払う方法を採用しています。

    合意のない一方的な減額は違法

    年俸の更改時に、前年度よりも金額を下げることは可能です。しかし、会社や個人の業績が変化したからといって、合理的な理由なく減額することは「労働条件の不利益変更」にあたります

    • 合理的な理由: 就業規則や賃金規定に明確な評価基準や減額ルールが定められており、それに則って減額される場合です。
    • 社会通念上の合理性: たとえルールに基づいていても、社会通念上不合理と見なされる大幅な減額(例えば、業績不振の責任を個人の年俸に過度に転嫁するなど)は、**「人事権の濫用」**として無効とされる可能性があります。

    このため、一般企業で導入される年俸制は、個人の活躍次第で給料が大幅に変動するプロ野球選手の年俸制とは全く異なることを理解しておく必要があります。

    割増賃金(残業代)との関係

    年俸制でも残業代は支払われる

    「年俸制だから残業代が出ない」というのは間違いです。労働基準法上、年俸制は固定給の一種であり、時間外労働、休日労働、深夜労働に対しては、別途割増賃金の支払い義務があります。

    年俸は、あくまで所定労働時間に対して支払われる賃金です。所定労働時間を超えて働いた分については、適正な労働時間管理に基づいて、割増賃金を支給しなければなりません。

    固定残業代制度を併用する場合も、年俸のうち基本給にあたる部分と、固定残業代にあたる部分を明確に分け、実際の残業時間が固定時間を超えた場合は、その不足分を支払う必要があります。

    割増賃金の計算方法

    割増賃金の基礎となるのは、月給を時間あたりの賃金に換算した金額です。年俸制の場合、この基礎賃金を算出する際は、年俸総額を12ヶ月で割った金額を基準にします

    例えば、年俸を16分割して毎月支払う方式であっても、割増賃金の計算では、年俸を12ヶ月で割った金額を基礎としなければなりません。これは、賞与分は「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」とみなされ、割増賃金の計算基礎から除外されるためです。

    欠勤控除・賞与との関係

    欠勤控除のルール

    欠勤や遅刻をした際に、その分の賃金を控除するかどうかは、就業規則や賃金規定に明記されているかによります。記載があれば控除が可能ですが、記載がない場合は控除することは難しいでしょう。

    賞与との関係

    年俸制の場合、別途賞与が支給されないのが一般的です。ただし、年俸総額に賞与分が含まれていることを就業規則などに明記し、従業員に周知しておく必要があります。業績が大幅に上回ったからといって、当初の年俸額を超える賞与を支給する義務はありませんが、労働契約の内容によっては、その可能性を排除するわけではありません。

    一方で、たとえ業績が悪化したとしても、当初の年俸額を一方的に減額することはできません。これは、総額で労働契約が成立しているためです。


    会社事務入門賃金・給与・報酬の基礎知識主な賃金制度の解説>このページ

  • 所定内賃金と基準内賃金の違い

    所定内と基準内

    現場では、所定内賃金と基準内賃金は、区別して使っている人もいますが、同じ意味で使っている人もいます。

    法律に定義がない用語なので、いろいろな解釈がありますが就業規則等で定めれば、その会社においてはそれが正解ということになります。

    幾つかの考え方を紹介します。

    固定的賃金を所定内賃金という

    所定という言葉には、あらかじめ決まっているという意味があります。

    例えば、所定時間外労働というのは、就業規則に定められた就業時間外にする労働のことです。

    これと同様に、所定内賃金といえば、あらかじめ金額が決まっている賃金ということになります。

    終わってみなければいくらになるか分からない残業手当などをのぞいて、事前にいくらになるか決まっている賃金、つまり基本給や家族手当などの手当が所定内賃金ということになります。

    この説の類型として、所定内労働時間を働いた時の賃金が所定内賃金だという説明もあります。この場合も、結果的に残業手当以外の賃金が所定内賃金になります。

    割増賃金の基礎になる賃金を基準内賃金という

    基準内というのは、何か基準があってその基準にあてはまるものという意味です。

    労働基準法に「割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令に定める賃金は算入しない。」という規定があります。

    そこで、労働基準法に基準が示されているという意味で、割増賃金の基礎になる賃金を基準内賃金といい、それ以外の割増賃金の計算に含まない賃金を基準外賃金とします。

    まとめ

    賃金体系の分類としては所定内外が用いられることが多いようです。

    割増賃金の基礎になる賃金を区別するときは基準内外を用いることが多いようです。

    いずれにしても、就業規則などできちんと定義した方が良いでしょう。

    会社事務入門賃金制度賃金体系について>このページ

  • 給与の日割り計算のやり方

    給与の日割り計算とは

    入社日や退職日によっては給与の日割り計算が必要です。欠勤の控除と同様の計算ですが、入社や退社というナイーブな時期には特に間違いがないように注意する必要があります。

    例えば、給与が20日締めで月末支給日の会社の場合、1日に入社した従業員に対する最初の給料は20日分となります。この会社で月末に退社すれば、最後の給料は21日以降退職日までの分になります。これが日割り計算です。

    つまり、締切日や支払日が就業規則や賃金規程がどうなっているか確認して会社規程に沿って処理しなければなりません。

    会社規程に沿うというのは、日割り計算については労働基準法等の定めがないからです。会社が独自に制度設計することができます。

    ただし、独自にと言っても、従業員に不利になるような制度設計はできないので注意が必要です。

    日割り計算の選択肢

    日割り計算のやり方はそれぞれの会社の就業規則等で定めることができます。いくつかの例を紹介します。

    暦日による計算

    月給額をその月の暦数で割って一日当たりの賃金を出します。これに労働した日数、または在籍期間を乗じることで日割り給与額を計算できます。

    月給額÷その月の暦数×勤務した日数

    基本給200,000円の従業員が、11月に10日間労働した場合は、
    200,000円÷30日×10日=66,667円

    休日を含んだ日数で単価を出して、支給を実労働日数にすれば労働者に不利になります。ここは、勤務した日数に休日も加えた方が合理的でしょう。この場合、休日を含めた在籍日数が12日だとすれば、
    200,000円÷30日×12日=80,000円

    このやり方は計算が簡単なことがメリットですが、次の労働日数を用いるやり方に比べれば金額が少なくなってしまいます。

    平均労働日数による計算

    月給額を月の平均労働日数で割れば一日当たりの賃金が出ます。これに実際に勤務した日数を乗じることで日割り給与額を計算します。

    月給額÷月の平均労働日数×労働した日数

    月の平均労働日数は、365日から年間休日を差し引いて12ヶ月で割った数字です。例えば、年間の休日日数が110日だとすると、365日-110日÷12ヶ月=21.25日が月の平均労働日数になります。

    基本給200,000円の従業員が、平均労働日数21日の会社で10日間労働した場合は、
    200,000円÷21日×10日=95,239円

    このやり方は、いずれの月でも1日当たりの単価が同じになることがメリットだとされていますがが、労働日数で割るので、当然に暦日数で割るよりも金額が高くなります。

    このやり方の応用として、月の平均労働日数ではなく当該月の所定労働日数を使うやり方も考えられます。

    手当の日割り計算

    就業規則等で定めることにより手当も日割り計算をすることができます。

    ただし、手当は日割り計算の対象外としている会社が多いようです。会社の考え方によります。

    会社事務入門給与計算のやり方>このページ

  • 給料支払日に給与計算が間に合わない場合はどうするか

    事故による不払い

    お金があるのに、給与計算ができないので支払うことができないということが起こるかもしれません。パソコンや給与計算ソフトの不具合、担当者の病気などのアクシデントがあったときです。

    労働基準法第二十四条に「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。」という規定があります。

    関連記事:賃金の一定期日の原則

    関連記事:賃金の毎月一回以上の原則

    支払日がずれることも翌月にまとめて支払うことも労働基準法違反になります。

    緊急の措置として、計算を省略して前月までの金額を元に概算を支払うという措置が考えられます。これも「賃金は、その全額を支払わなければならない。」という規定に違反する可能性が髙いのですが、全く支払わないと労働者の生活に支障をきたすので、現実的な対応だと思われます。

    入社時期による不払い

    給与の締め切り日と支払日の関係で不払いが発生することがあります。

    締切日の後に支払日があればほとんど問題ありませんが、支払日が先になっている会社もあります。

    例えば、給料支払い日が25日で、締め切り日がその月の月末になっているようなケースです。

    この場合、25日に入社した労働者に対して、25日から月末までの給料は、特に対策しなければ翌月の25日払いになってしまいます。

    これは、「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。」という規定に違反してしまいます。

    こういうケースでは、入社月の分を別途に現金または振込で支払う処理が求められます。

    給与計算ソフトによっては対応できないことも考えられますが、所得税等の問題は年末調整で対応できるので、まずは、支払うべきものを支払うという対応が大事です。

    間に合わないケースが度々あるようであれば、締切日または支給日の変更を検討した方が良いのですが、労働者の不利益になるような変更は容易ではありません。


    関連記事:給与の締切日や支払日を変更する際の注意事項

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