カテゴリー: 賃金

  • 役割給とは?どんな賃金制度と組み合わせて運用されるか?

    役割給とは?どんな賃金制度と組み合わせて運用されるか?

    役割給とは

    役割給は、従業員が担当する「役割」の重要性や難易度、貢献度に応じて賃金を決定する制度です。職務給が「仕事内容そのもの」に焦点を当てるのに対し、役割給は「その仕事に期待される責任や成果」に重きを置く点が特徴です。

    役割給の仕組み

    役割給は、個々の従業員の能力や年齢ではなく、組織内での役割をランク付けし、そのランクごとに賃金テーブルを設定します。たとえば、「チームリーダー」という役割は「メンバー」よりも上位のランクとなり、賃金も高くなります。

    • メリット:
      • 従業員がより大きな役割を担おうとする意欲を高めます。
      • 年齢や勤続年数に関係なく、責任ある役割を果たせば高い給与を得られるため、優秀な若手人材の確保につながります。
      • 仕事の価値に応じて賃金が決まるため、同一労働同一賃金の考え方と親和性が高いです。
    • デメリット:
      • 役割のランク付けや評価基準が曖昧になりがちで、従業員の納得感が得にくい場合があります。
      • 役割が変わらない限り賃金が上がらないため、安定志向の従業員には不満が生じる可能性があります。

    役割給の運用方法

    役割給が単独で運用されることはほとんどありません。多くの企業では、他の賃金制度と組み合わせて運用されるのが一般的です。

    組み合わせられる主な賃金制度

    • 役割給 + 職能給: 役割(仕事の難易度)で基本給を定めつつ、個人のスキルや能力の向上を職能給として加算するハイブリッド型です。個人の成長を促しつつ、役割の大きさも評価できます。
    • 役割給 + 成果給: 役割給で職務の価値を固定的に評価し、それに加えて個人の業績や成果をボーナスや賞与で上乗せする制度です。
    • 役割給 + 年功給: 役割給を基本給の柱としつつ、勤続年数や年齢に応じて給与が緩やかに上がる年功的な要素を一部残すことで、社員の生活の安定と定着を促します。

    このように、役割給は単独ではなく、他の制度と組み合わせることで、企業独自の経営方針や人材育成の目標に合った柔軟な賃金制度を構築するために利用されています。

    今後の見通し

    今後の見通しとしては、役割給は日本企業の賃金制度の主流の一つとして定着していくと考えられます。

    役割給の優位性と課題

    役割給の大きな優位性は、従業員が担当する役割の価値を直接的に賃金に反映できる点です。

    • 能力・成果の評価: 年齢や勤続年数に関係なく、責任ある役割を担い成果を出せば高い報酬を得られます。これは従業員の意欲向上につながり、優秀な若手人材の確保にも有効です。
    • 柔軟な組織運営: 企業は戦略に応じて役割を柔軟に設定でき、必要な人材を適切なポジションに配置しやすくなります。

    一方で、役割給には課題もあります。

    • 評価の難しさ: 役割の重要性や難易度を客観的に評価する基準が曖昧になりがちで、従業員の納得感が得られない場合があります。
    • 安定性の欠如: 役割が変わらない限り賃金が上がらないため、安定志向の従業員には不安を与える可能性があります。役割が下がる場合には、減給も起こり得ます。

    まとめ

    多くの日本企業は、年功序列制度の限界に直面し、役割給をはじめとする「人」ではなく「仕事」に焦点を当てる賃金制度への移行を進めています。特に、職務内容を明確にするジョブ型雇用への関心が高まる中で、その賃金制度として役割給や職務給が導入されるケースが増えています。

    結論として、役割給は、今後の日本企業が多様な働き方やグローバル競争に対応するための重要な選択肢として、他の制度と組み合わされながら、さらに普及していく見通しです。


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  • 年功序列賃金制度とは?年功序列は復活するか?

    年功序列賃金制度とは?年功序列は復活するか?

    年功序列賃金制度とは?

    年功序列賃金制度は、勤続年数と年齢 を主な評価基準とし、それに応じて給与が自動的に上昇していく仕組みです。終身雇用制度とともに、戦後の日本経済の高度成長期を支えてきた日本の伝統的な人事制度の一つです。

    この制度の根底にある考え方 は、以下の通りです。

    • 長期的な育成: 勤続年数が長い社員ほど、多くの経験を積み、会社への知識やノウハウが蓄積されていると見なされます。
    • 安定の提供: 社員は長く会社に貢献することで、給与が着実に増えていくため、将来の生活に安心感を持ち、離職率が低くなります。
    • 組織の一体感: 社員が長期にわたって一緒に働くことで、人間関係が円滑になり、チームワークや帰属意識が高まると考えられました。

    評価の有無

    年功序列賃金制度が評価を全く行わないわけではありません。実際には、以下のような要素が加味されていました。

    • 職能資格制度: 多くの企業が年功序列と並行して導入していたのが「職能資格制度」です。これは、社員が保有する能力やスキル(職能)を等級に分け、等級が上がるごとに給与も上昇する仕組みです。この等級を上げるためには、上司の評価や会社の試験が必要でした。
    • 人事考課: ボーナスや昇進においては、個人の勤務態度や成果も評価の対象になっていました。しかし、給与の基本となる部分は勤続年数や年齢が大きなウェートを占めており、個人の努力が直接的に賃金に反映されにくい点が、成果主義との大きな違いです。

    成果主義との違い

    年功序列は、「プロセス」「組織への貢献(長期勤続)」 を重視する一方、成果主義は 「結果」「個人の業績」 を直接的に評価します。

    • 年功序列: 勤続年数が長ければ、自動的に給与が上昇します。若手社員は、たとえ大きな成果を出しても、年長者ほど高い給与は得られにくい傾向にあります。
    • 成果主義: 年齢や勤続年数に関係なく、成果を出せば若手でも高い給与や役職を得ることが可能です。一方で、成果が出せないと給与が上がらなかったり、下がったりするリスクもあります。

    現代の企業が「年功序列」と呼んでいる制度の多くは、純粋な年功序列ではなく、個人の評価や成果も一部加味されたハイブリッド型であることが一般的です。しかし、その根幹には勤続年数を重視する考え方が残っています。

    なぜ「良くない」と批判されたのか?

    かつては日本の強みとされた年功序列制度ですが、1990年代以降、グローバル化や経済の停滞が進む中で強く批判されるようになりました。主な理由は以下の3点です。

    1. 人件費の増大と企業競争力の低下

    年功序列制度の最大のデメリットは、社員の年齢や勤続年数が増えるほど人件費が自動的に増加していくことです。高度経済成長期のように企業の業績が右肩上がりであれば問題ありませんでしたが、1990年代のバブル崩壊以降、経済成長が鈍化する中で、業績に見合わない人件費の負担が企業の経営を圧迫しました。

    この人件費の高騰は、企業が新しい事業に投資したり、若手社員の採用や育成に資金を投じたりすることを難しくし、結果として企業の競争力低下を招くと批判されました。

    2. 社員のモチベーション低下と生産性の停滞

    年功序列制度では、個人の能力や成果が給与に直接的に反映されにくいため、以下のような問題が生じるとされました。

    • 「ぶらさがり社員」の増加: 勤続年数が長ければ自然と給与が上がるため、積極的に成果を出そうとしない社員(いわゆる「ぶらさがり社員」)を増やす原因になると指摘されました。
    • 優秀な若手の離職: 成果を上げてもすぐに評価や報酬に結びつかないため、能力の高い若手社員がやりがいを感じられず、成果主義の企業に転職してしまうリスクが高まりました。
    • イノベーションの阻害: 年齢や経験が重視されるため、新しい発想やチャレンジが生まれにくく、組織全体が保守的になり、時代の変化に対応できないと批判されました。

    3. グローバル化への不適応

    日本企業がグローバル市場で競争するにあたり、年功序列制度は国際的な基準からかけ離れていると見なされました。海外では、個人の職務やスキル、成果に基づいて賃金を決定する 「ジョブ型雇用」 や 「成果主義」 が主流です。

    そのため、年功序列制度は外国人材の獲得や、海外拠点での人事管理に支障をきたす要因となり、グローバル競争の妨げになると考えられました。

    新入社員の「年功序列」志向と、その背景

    近年、新入社員を対象とした調査では、成果主義よりも年功序列を好む傾向が強まっています。これは、彼らが以下の要因から安定志向を強めているためです。

    • 不安定な社会情勢: リーマンショックやコロナ禍など、社会全体が揺らぐ経験を通じて、将来への不安やリスクを避けたいという意識が強くなっています。
    • 成果主義への不信感: 運用が不透明であったり、過度な競争を招いたりする成果主義の負の側面を見てきたため、成果主義そのものにネガティブなイメージを持っています。
    • 着実な成長への期待: 入社直後から成果を求められるよりも、時間をかけてじっくりとスキルを身につけ、着実に成長していきたいと考える人が増えています。

    今後の展望と社会への影響

    この若者の志向の変化は、単なる一過性のトレンドではなく、企業や社会全体に影響を与える可能性があります。

    今後、年功序列への完全回帰は起こるか?

    完全な回帰は難しいでしょう。企業の経営環境やグローバル競争の激化といった根本的な問題は解決されていないためです。しかし、多くの企業は若者の安定志向を無視できず、「ハイブリッド型」の賃金制度を模索しています。これは、年功序列と成果主義のバランスを取り、長期的な安定を保証しつつ、個人の成果も正当に評価する仕組みです。

    若者の志向が与える影響

    若者の年功序列志向は、以下の影響を社会にもたらすと考えられます。

    • 企業の人事戦略の再構築: 優秀な人材を確保するため、企業は「安定」を重視した新しい人事制度の導入を迫られる可能性があります。
    • 社会全体の価値観の変化: 激しい競争社会から、安定と協調を重視する社会へと価値観がシフトしていく兆候かもしれません。一方で、この変化が日本のイノベーションを鈍化させるリスクも指摘されています。

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  • 成果主義賃金制度とは?メリット・デメリット、向いていない職場、向いていない企業は?

    成果主義賃金制度とは?メリット・デメリット、向いていない職場、向いていない企業は?

    成果主義賃金制度は、社員の年齢や勤続年数ではなく、仕事の成果や業績に基づいて給与を決定する賃金制度です。主に1990年代以降、年功序列賃金制度の対極にある考え方として日本企業に導入が進みました。

    この制度では、個人やチームが設定した目標の達成度合い、売り上げへの貢献度、またはプロジェクトの成功といった客観的な指標によって評価がなされ、その結果が直接給与やボーナスに反映されます。

    メリットとデメリット

    成果主義賃金制度のメリットとデメリットについて解説します。

    メリット

    • 従業員のモチベーション向上: 成果を出せば直接収入が増えるため、社員は目標達成に向けて意欲的に働きます。
    • 生産性の向上: 成果が明確に評価されることで、社員は効率的に業務を進めるようになり、組織全体の生産性アップにつながります。
    • 優秀な人材の確保: 実力や成果に見合った報酬が得られるため、能力の高い人材にとって魅力的な職場となります。
    • 人件費の適正化: 業績に連動して人件費を配分できるため、無駄なコストを抑えられます。

    デメリット

    • 評価基準の設定が難しい: 成果を定量的に測りにくい職種(事務、研究開発など)では、公正な評価基準を作るのが困難です。
    • チームワークの低下: 個人の成果が重視されるあまり、社員間の協力が薄れ、個人主義的な行動が増える可能性があります。
    • 短期的な成果への偏重: 長期的な視点での人材育成や、目先の利益に直結しない業務が軽視されるリスクがあります。
    • 離職率の増加: 成果が出せない社員の給与が下がることで、不満やストレスを感じやすくなり、離職につながる可能性があります。

    導入企業の例

    成果主義賃金制度は、特に個人の成果が明確な営業職や専門職で多く導入されてきました。代表的な導入企業には、富士通花王本田技研工業サイバーエージェントなどがあります。これらの企業では、評価の透明性を確保し、目標管理制度をうまく組み合わせることで、成果主義のデメリットを補いながら運用しています。

    給与決定の方法

    成果主義賃金制度における給与決定は、一般的に「基本給」と「成果給」を組み合わせた仕組みで行われることが多く、単純に売上が2倍になったからといって給料が2倍になるわけではありません。

    多くの場合、給与は以下の構成要素から決定されます。

    • 基本給(固定給): 年齢、勤続年数、職務内容、能力などに応じて定められる、毎月安定して支払われる部分です。この基本給が大きく減額されることは通常ありません。
    • 成果給(変動給): 個人の成果や企業の業績によって変動する部分です。賞与(ボーナス)、インセンティブ、報奨金などがこれにあたります。

    営業職の給与決定例

    例えば、営業職の場合、給与は以下のように構成されます。

    1. 基本給 + 歩合(インセンティブ)制

    これは、基本給に加えて、個人の売上実績に応じて歩合給が上乗せされる仕組みです。

    • 売上が目標を大きく上回った場合: 例えば「売上目標を10%超過するごとに、超過分の10%をインセンティブとして支給」といったルールが設定されます。この場合、売上が倍になれば、インセンティブは大幅に増えますが、基本給は変わらないため、給料全体が倍になることは稀です。
    • 売上が目標を下回った場合: 達成できなかった月でも基本給は保証されるため、給料が大幅に減額されることは通常ありません。ただし、賞与の評価に影響したり、成績が長期間低迷すると役職や基本給の見直しにつながる可能性はあります。

    2. 年俸制

    年単位で給与総額を決定する制度で、成果主義の代表的な形態の一つです。

    • 給与決定: 1年間の成果を評価し、次年度の年俸を決定します。このため、成果が上がれば大幅な昇給が見込める一方、成果が出なければ年俸が下がることがあります。しかし、企業は多くの場合、急激な生活水準の低下を防ぐため、給与の減額には上限を設けています。

    結論として、成果主義賃金制度では、基本給がセーフティネットとして機能し、個人の頑張りが賞与やインセンティブといった形で給与に上乗せされる仕組みが主流です。これにより、売上を大幅に伸ばした場合は給与アップにつながる一方、売上が落ちても生活が困難になるほど給料が下がるケースは少ないと言えます。

    成果を数値化できない職種には不向き

    成果を定量的に測りにくい職種には、成果主義ではない別の賃金制度を併用したり、成果主義の評価方法を工夫したりする企業が多いです。一つの会社で複数の賃金制度や評価方法が混在することは、もはや珍しくありません。

    評価しにくい職種への対応

    成果を数値化しにくい事務職や研究開発職などでは、以下のような評価方法が取られます。

    1. 行動評価(プロセス評価)

    目標達成に至るまでのプロセスや、業務に取り組む姿勢を評価する方法です。たとえば、「チームへの貢献度」「業務改善の提案回数」「自律性・積極性」「スキルアップの努力」といった、数値化しにくい項目を評価します。

    2. 定性評価と定量評価の組み合わせ

    成果主義は「売上」や「コスト削減額」といった定量評価(数値で測れる評価)が中心ですが、それだけでは公平な評価が難しい場合があります。そこで、先述の行動評価のような定性評価(数値で測れない評価)と組み合わせて運用します。

    多くの企業では、従業員と上司が協力して目標を立て、その目標の達成度を定期的に話し合う目標管理制度(MBO)などを活用し、評価の客観性や納得感を高めています。

    職種別賃金制度

    特に大企業では、職種ごとに異なる賃金体系を設ける職種別賃金制度を導入しているケースもあります。

    • 営業職: 売上目標の達成度を重視する成果主義的な評価と賃金体系
    • 事務・管理部門: 職務遂行能力や専門性、勤続年数などを加味した賃金体系
    • 研究開発職: 長期的な成果を評価するため、短期的な成果主義よりも、能力や役割を重視した賃金体系

    このように、職種の特性に合わせて複数の賃金制度を使い分けることで、社員全員が公平な評価を受けられるように工夫しています。

    業績が低迷している企業には不向き

    成果主義賃金制度は、成長している企業や業績が好調な企業により適した制度と言えます。これは、成果給の原資を確保しやすく、従業員の頑張りに報いることができるからです。

    成果主義と企業の成長

    成長・好調な企業の場合

    • 成果給の原資が豊富: 業績が伸びているため、売上増分の利益を従業員へのインセンティブやボーナスとして還元できます。
    • 従業員のモチベーション維持: 成果を上げた分だけ給与が増えるため、従業員のモチベーションは高く保たれます。これにより、さらなる業績向上という好循環が生まれます。

    業績が停滞・縮小している企業の場合

    • 原資の確保が困難: 業績が伸び悩む、または縮小している状況では、成果給を支払うための原資が乏しくなります。
    • モチベーションの低下: 成果を出しても給与に反映されにくいため、従業員の不満がたまり、モチベーションが低下するリスクがあります。
    • 人件費の硬直化: 成果主義を導入しても、基本給をなかなか下げられないため、固定費である人件費の削減が難しくなります。結果として、企業の財務状況をさらに圧迫する可能性があります。

    停滞企業における成果主義の課題と対策

    業績が停滞している企業が成果主義を導入する場合、以下のような課題に直面し、対策を講じる必要があります。

    • 課題: 成果給の原資がないため、インセンティブが機能しない。
    • 対策: 成果を上げた社員に対して、金銭報酬だけでなく、昇進・昇格、裁量権の拡大、表彰といった非金銭的な報酬を組み合わせることで、モチベーションを維持しようと試みます。
    • 課題: 基本給の減額が難しい一方で、業績悪化による人件費削減が急務。
    • 対策: ジョブ型雇用など、職務内容や役割に応じて賃金を決定する制度への移行を検討する企業もあります。これにより、社員の能力や成果をより厳密に評価し、人件費の適正化を図ります。

    このように、成果主義は企業の成長段階や財務状況によって向き不向きがあります。ただ、どのような状況であれ、制度を導入する際には、評価の透明性や公平性を確保することが最も重要です。


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  • ジョブ型雇用とは?従来の雇用との違いやメリット・デメリットを解説

    ジョブ型雇用とは?従来の雇用との違いやメリット・デメリットを解説

    ジョブ型雇用とは

    ジョブ型雇用をスポーツチームで例えると…

    ジョブ型雇用は、「サッカーチームでフォワードとして活躍できる人を募集します!」というように、最初に「どんな仕事をするか(ポジション)」をはっきり決めてから、それにぴったりの人を探して雇うイメージです。

    つまり、

    1. まず「フォワード」という仕事(ジョブ)がある。
    2. 次に「フォワードの仕事ができる人」を契約する。
    3. 給料は「フォワードとしてどれだけゴールを決めたか(成果)」で決まる。

    これがジョブ型雇用の基本です。

    従来の雇用制度とどう違うの?

    多くの日本企業がこれまで採用してきたのは、メンバーシップ型雇用と呼ばれるものです。これは、「サッカーチームに入ってくれる人を募集します!」というように、まずは「会社の一員(メンバー)」として採用し、入社後にいろいろな仕事を任せていくイメージです。

    ジョブ型雇用メンバーシップ型雇用
    考え方「仕事に人をつける」「人に仕事をつける」
    給料担当する仕事の内容や成果で決まる勤続年数や年齢、能力などで決まる
    異動原則として、決まった仕事しかしないさまざまな部署に異動して経験を積む
    求められる人特定の分野の専門家(スペシャリスト)いろいろな仕事ができる総合職(ゼネラリスト)

    メリットとデメリット

    ジョブ型雇用には、得意なことを活かして専門性を深められるというメリットがあります。また、成果が給料に直結しやすいため、モチベーションも上がります。

    一方で、決められた仕事以外はあまり担当しないため、幅広い経験が積みにくいというデメリットもあります。また、もし担当していた仕事がなくなると、会社に残ることが難しくなる可能性もあります。

    政府はジョブ型雇用を推進している

    2024年6月21日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版」では、日本企業の競争力を高めるために、ジョブ型人事の導入を推進していく方針が明確に示されています。

    政府がジョブ型雇用を推進する背景

    政府がジョブ型を推進するのは、以下のような課題を解決するためです。

    1. 賃金の上昇:個人のスキルや職務の成果に直結するジョブ型にすることで、年齢や勤続年数に関係なく賃金が上がる機会を増やし、賃金全体の底上げを目指しています。
    2. 従業員のキャリア自律:従来のメンバーシップ型では、個人のキャリアは会社主導の異動に左右されがちでした。ジョブ型では、職務が明確になることで、従業員が自ら必要なスキルを学び(リスキリング)、主体的にキャリアを選択できるようになることを期待しています。
    3. 専門人材の確保:グローバル化やデジタル化が進む中で、企業は特定の高度なスキルを持つ専門人材を迅速に確保する必要があります。ジョブ型は、このニーズに応えやすい雇用形態です。

    この計画に基づき、政府は既にジョブ型人事制度を導入している企業の事例をまとめた「ジョブ型人事指針」を公表し、各企業が自社の実情に合わせて導入を検討できるように支援しています。

    賃金制度は職務給に移行する

    政府がジョブ型雇用を推進しているということは、将来的には賃金制度として職務給が主流になる可能性が高いことを意味します。

    これまで日本企業に広く浸透してきた職能給(個人の能力や勤続年数に応じて賃金を決める仕組み)から、職務給(担当する仕事の価値や責任に応じて賃金を決める仕組み)への移行を、国全体で促していく方向性になると思われます。

    なぜ職務給が主流になると考えられるのか

    政府が職務給を推進する背景には、いくつかの狙いがあります。

    • 賃金の底上げと流動性の向上職務給は、年齢や勤続年数に関係なく、仕事の価値で賃金が決まります。これにより、特定の専門スキルを持つ若手や中途採用者が、入社直後から高い給与を得るチャンスが生まれます。優秀な人材が職種や企業を超えて活躍しやすくなり、労働市場全体の活性化につながると期待されています。
    • 同一労働同一賃金同じ仕事をしているのに、雇用形態や勤続年数が違うだけで給料に差が出るという不公平感をなくすため、職務給は有効な手段とされています。
    • グローバルな競争力強化海外ではジョブ型雇用と職務給が一般的であり、日本企業がグローバルな人材獲得競争で勝つためには、世界標準の賃金制度に合わせる必要性が高まっています。

    もちろん、全ての企業がすぐに職務給に移行するわけではありませんし、日本独自の慣習も考慮した「日本型ジョブ型」が模索されています。しかし、政府の方針や多くの大企業が導入を検討している流れを見ると、将来的には職務給が賃金制度のスタンダードになっていく可能性が高いと言えるでしょう。


    関連記事:職務給をわかりやすく解説!海外で主流なのは本当?

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  • 職務給をわかりやすく解説!海外で主流なのは本当?

    職務給をわかりやすく解説!海外で主流なのは本当?

    今回は「職務給(しょくむきゅう)」という給与制度について、わかりやすく解説します。聞いたことはあるけど、よく知らないな…という方も多いのではないでしょうか。実は、日本でも最近注目されているこの制度。海外ではどうなっているのか、その実態も見ていきましょう。

    職務給ってなに?

    職務給とは、「仕事の内容(職務)の価値」に基づいて賃金を決定する給与制度です。

    簡単に言うと、「誰がその仕事をするか」ではなく、「その仕事そのものの難易度や責任の重さ」で給料が決まります。

    年功序列制度では、年齢や勤続年数が上がるにつれて給料も上がりますが、職務給はそうではありません。もし20代の若手社員でも、ベテラン社員と同じ難易度の責任ある仕事を任されれば、同じ給料になる可能性があるということです。

    この制度を導入するためには、まず社内のすべての仕事を洗い出し、それぞれの「職務の価値」を評価する必要があります。これを「職務評価」と呼びます。

    職務給のメリット・デメリット

    この制度には、以下のようなメリットとデメリットがあります。

    • メリット
      • 評価基準が明確: 何をすれば給料が上がるのかがわかりやすいです。
      • 同一労働同一賃金: 同じ仕事なら同じ給料になるため、不公平感が少なくなります。
      • 生産性の向上: 難しい仕事や責任ある仕事に意欲的に取り組む社員が増える可能性があります。
    • デメリット
      • 導入・運用が大変: 職務評価を行う手間やコストがかかります。
      • 配置転換が困難な場合も: 職務内容が変わると給料も変わるため、社員が異動を嫌がるケースもあります。
      • 年功序列からの移行が難しい: これまでの給与水準を維持しつつ職務給に切り替えるのは、非常に複雑な調整が必要です。

    海外では職務給が主流って本当?

    結論から言うと、本当です。特に欧米では、職務給が一般的な給与制度として広く浸透しています。

    なぜ海外で職務給が主流になったのでしょうか?そこには、労働市場の考え方の違いが大きく関わっています。

    欧米では、個々の労働者が専門的なスキルを持ち、そのスキルを活かせる職務に就くのが一般的です。企業は、その職務を遂行できる人材を市場から採用します。そのため、「この職務にはこれくらいの価値があるから、これくらいの給料を払う」という考え方が自然に根付いています。

    どのように運用されているの?

    海外の多くの企業では、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」というものが作成されています。

    これは、仕事の内容、必要なスキル、責任範囲などを詳細に記した書類です。採用時には、このジョブディスクリプションを公開し、それに合った人材を募集します。社員は、このジョブディスクリプションに沿って仕事を行い、評価もこれに基づいて行われるのが一般的です。

    多くの企業で、職務給の考え方が基本になっています。エンジニア、マーケティング担当者、人事など、それぞれの職務に対して市場価値を考慮した給与が設定されています。

    職務給における「経験」の評価

    欧米では、運転職や機械オペレーターなどの職種にも職務給が適用されるのが一般的です。これらの職務は、特定のスキルやライセンス、そして責任範囲が明確であるため、職務給制度と非常に相性が良いのです。

    しかし、「経験年齢問わず同じ給料になるか」というと、厳密にはそうではありません。

    職務給はあくまで「職務の価値」に基づいていますが、その職務を遂行する個人の「熟練度」や「習熟度」も評価対象となります。これは、同じ「大型トラック運転手」という職務でも、経験の有無によってパフォーマンスや責任の度合いが変わるからです。

    具体的な評価基準の一例を挙げると、以下のようになります。

    1. 職務のレベル分け

    同じ「大型トラック運転手」でも、以下のように職務のレベルを細分化することがあります。

    • 初級: 入社したばかりで、短距離・定型ルートの運転が主な業務。
    • 中級: 複数のルートを担当し、特定の種類の荷物の取り扱いも可能。
    • 上級: 危険物や特殊な荷物、または長距離・国際ルートを担当し、高度な判断が求められる。

    2. 評価基準

    それぞれのレベルで、以下の項目を評価します。

    • 安全運転記録: 事故歴や違反歴の有無。
    • 効率性: 決められた時間内にどれだけ正確に業務をこなせるか。
    • 専門性: 危険物取扱者など、追加で取得した専門資格。
    • 顧客対応: 荷主や顧客とのコミュニケーションスキル。

    3. 給与体系

    これらの評価に基づいて、給与が設定されます。例えば、以下のようになります。

    • 基本給: 「大型トラック運転手」という職務に設定されたベースの給料。経験年数に関係なく、この基本給は共通です。
    • 手当・ボーナス: 危険物手当、長距離手当、無事故ボーナスなどが加算されます。これらの手当は、個人の熟練度や担当する業務内容によって変動します。
    • 昇進: 一定の経験や実績を積むことで、より責任の重い「上級運転手」などの職務に昇進し、給与が引き上げられます。

    このように、海外の職務給制度では、「職務」をベースにしながらも、個人の「スキル」や「経験」を評価する仕組みが組み込まれているのが一般的です。これにより、単なる年功序列ではなく、個人の能力や貢献度を適正に評価する運用がなされています。

    なぜ同じ職務でも給与に差がつくのか?

    以上のように、職務給は「同じ仕事をすれば同じ給料」という単純なものではなく、「同じ職務に就いている人でも、その貢献度や習熟度に応じて給与に差がつく」のが現実の運用です。

    それは、同じ職務であっても、社員一人ひとりが生み出す価値や責任の果たし方が異なるからです。

    例えば、経験の浅い若手とベテランでは、以下のような違いが生まれます。

    • ベテランの貢献:
      • 新人や後輩の指導・育成
      • 予期せぬトラブルへの対応
      • 業務プロセスの改善提案

    これらの付加価値は、単に「仕事をこなす」という範囲を超えた、組織への重要な貢献と見なされます。そのため、同じ「職務」でも、より高い責任を負ったり、より複雑な業務をこなしたりする社員には、それに応じた高い報酬が支払われます。

    このことから、多くの職務給制度は、「職務」そのものの価値と、その職務を遂行する個人の能力や貢献度を組み合わせたハイブリッドな評価体系を採用していると言えます。

    つまり、基本となる給与は職務によって決まりますが、そこに個人の実績やスキル、行動を評価する手当やボーナス、昇進といった要素が加わることで、公平性と個人の努力を両立させているのです。

    職務給は、「あなたが担う仕事にはこれだけの価値があります。その上で、あなたのパフォーマンスが優れていれば、さらに報います」というメッセージを社員に伝える制度とも言えます。

    職能給になると自分の業務範囲を超えて仕事をしなくなる?

    職務給制度は、業務範囲が明確になるため、従業員が自分の担当外の仕事を避ける傾向にあると言われています。この現象は「サイロ化」や「セクショナリズム」と呼ばれ、職務給制度のデメリットの一つとして認識されています。

    1. 評価基準の明確化: 職務給は、あらかじめ定められた職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づいて給与や評価が決まります。従業員は、自身の評価を上げるために、この職務記述書に書かれた範囲の業務に集中しようとします。
    2. インセンティブの欠如: 自分の業務範囲外の仕事を手伝っても、それが自身の給与や昇進に直接的に反映されることが少ないため、積極的に取り組む動機が働きにくいです。
    3. 責任範囲の明確化: 職務給では、各々の役割と責任が厳格に定義されます。これにより、自分の業務で発生した問題には責任を持つ一方で、他部署や他者の業務には関与しなくなることがあります。

    この問題への対策

    このデメリットを克服するために、多くの企業が職務給制度に以下の工夫を加えています。

    • 職務評価の柔軟性: 職務記述書に「その他、状況に応じて発生する業務」といった項目を含めたり、定期的に職務内容を見直したりすることで、制度の柔軟性を高めます。
    • 「職務」と「行動」の両面評価: 職務遂行能力だけでなく、「チームワーク」「他者への協力」「改善提案」といった職務範囲を超える行動を評価する項目を評価制度に組み込み、報酬に反映させます。
    • インセンティブの導入: 部署間の協力を促すためのチームボーナスや、全社的な目標達成に対する賞与を設けることで、従業員が自分の職務範囲を超えて協力する動機付けを行います。

    このように、職務給制度は業務範囲が明確になるメリットがある一方で、従業員が自身の役割に固執してしまうリスクも持ち合わせています。この課題に対処するため、多くの企業は評価制度を工夫し、協力的な文化を維持しようと努めています。

    日本での職務給のこれから

    日本では、これまで年功序列制度が主流でしたが、グローバル化や働き方の多様化に伴い、職務給への関心が高まっています。しかし、完全に移行するのは簡単ではありません。多くの企業が、年功序列と職務給を組み合わせた「ハイブリッド型」の給与制度を模索しているのが現状です。


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  • 職能資格等級表とはどういうものか?「等級」と「号俸」の関係も解説

    職能資格等級表とは、職能給制度で使う「社員の能力や役割を段階的に整理した一覧表」のことです。社員の能力レベルを等級に分け、その等級ごとに求められる能力や役割を明文化したものです。

    職能資格等級表

    職能資格等級表の目的

    ・能力評価や昇格の基準を明確化する

    ・社員に「自分が何を身につければ昇格できるか」を理解させる

    ・公平・一貫性のある賃金運用を可能にする

    職能資格等級の構成の基本例

    等級呼称主な役割・責任必要能力・スキル代表職位昇格目安
    1級初級指示を受けて定型業務を遂行基本的な業務知識・技能一般職(新人)入社1〜3年
    2級中級業務を自律的に遂行専門知識の習得、問題解決力一般職(中堅)3〜5年
    3級上級後輩の指導・業務改善指導力、チーム調整力主任5〜8年
    4級監督部署の目標管理・戦略立案高度な判断力、マネジメント力係長・課長補佐8〜12年
    5級管理部署責任者として全体統括経営的視点、部門戦略策定力課長以上12年以上

    運用イメージ

    人事評価の際、この等級表と照らし合わせて「現在の能力がどの等級に該当するか」を判断。

    等級が上がると職能給(基本給部分)が昇給する。

    多くの企業では、この等級表を社員にも公開し、昇格の道筋を見える化しています。

    等級表作成の注意点

    基準が抽象的すぎると評価が曖昧になり、不公平感が生まれる。

    時代や事業環境の変化に合わせて定期的な見直しが必要。

    実務上は「実力より年齢で昇格」という運用になりがちなので、評価制度と連動させることが重要。

    「等級」と「号俸」の関係

    職能資格制度は「等級」だけで運用されることは少なく、多くの場合は「号俸」の二段階構造で運用されています。給与額をきめ細かくコントロールするための方法です。

    等級:社員の能力レベル・役割の大枠を示す階層(1級、2級…)

    号(号俸):同じ等級内での細かな給与段階(1号、2号…)

    イメージとしては、「等級=大きな段」、「号=その段の上に並んだ細かいステップ」という感じです。

    多くの企業は「等級昇格=昇格試験や昇格評価が必要」、「号昇給=年次評価で判断」という運用をしています。

    人件費シミュレーションをしながら等級間・号間の昇給幅を決めるのが重要です。

    なぜ号を設定するのか

    昇給の柔軟性
    等級を頻繁に上げると人件費の変動が大きくなるため、まずは等級内で号を上げて調整。

    評価結果を細かく反映
    年間の評価が「優」「良」「可」などの場合、優は2号昇給、良は1号、可は据え置き…と反映できる。

    給与表が安定する
    長期的に人件費計画を立てやすくなる。

    運用例(サンプル)

    例:職能資格等級表と号俸表を組み合わせた場合

    等級月額(円)昇給幅(円)
    2級1号220,000
    2級2号224,000+4,000
    2級3号228,000+4,000
    2級4号232,000+4,000
    3級1号240,000等級昇格で+8,000

    昇給の例

    年度評価「A」→ 2号昇給(例:224,000円 → 232,000円)

    年度評価「B」→ 1号昇給(例:224,000円 → 228,000円)

    年度評価「C」→ 昇給なし

    メリット・デメリット

    メリット

    等級を大きく変えなくても昇給できるため、昇格ハードルを維持できる。

    評価制度との連動がしやすく、モチベーション管理に使える。

    デメリット

    制度が複雑になりやすい(給与表の管理負担)。

    社員が「何年経てば何号になる」と年功的に考える傾向が出やすい。


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