カテゴリー: 賃金

  • 欠勤遅刻早退の控除計算

    欠勤等控除とは

    欠勤等控除とは、欠勤や遅刻早退等の時間を賃金から差し引くことです。

    賃金は労働時間に対して支払われるものなので、労働していない時間については賃金を支払わないのが原則です。欠勤や遅刻、早退の時間分の賃金を控除しても法律的に問題ありません。

    ただし、欠勤等をしたときは賃金控除があること、その際の計算方法等について就業規則に記載し、労働者へ周知しておかなければなりません。

    関連記事:遅刻・早退・欠勤等|就業規則

    関連記事:賃金の支払と控除|就業規則

    欠勤控除の計算方法

    時間給の場合は労働時間分の賃金を計算すればよいので欠勤等の控除は簡単です。また、完全月給制のように欠勤等の控除をしないと決めているのであれば計算することはありません。

    控除計算は主に月給制の場合に問題となります。

    年平均の月所定労働日数を用いる方法

    一般的に用いられている方法は、年平均の月所定労働日数を用いる方法です。

    欠勤控除額=月給与額÷(年平均の月所定労働日数×欠勤日数)

    年平均の月所定休日日数は(365日−年間の所定休日日数)÷12か月で算出します。

    給与がマイナスになってしまうこともある

    例えば年平均の月所定労働日数が20日間だとすると、特定の月の所定労働日数が21日で20日間欠勤し1日出勤した場合、1日は勤務したにもかかわらず、月給与額と欠勤控除額が等しくなるので給与がゼロになってしまいます。また、1か月すべて欠勤すると給与がマイナスになってしまうこともあります。

    その場合でも、年間でみれば欠勤日数と欠勤控除の総額に過不足がないため違法とはなりませんが、1日だけとはいえ働いているのにゼロになる、あるいは全部休めばマイナスになってしまう、というやり方は不合理です。

    この方法を用いるのであれば、計算上はゼロあるいはマイナスになっても、労働した日があるなら、最低限働いた日数分の給与(月給与額÷年平均の月所定労働日数)は支払う、計算上はマイナスになってもゼロにとどめる、などの扱いを就業規則に定める必要があります。

    該当月の所定労働日数を用いる方法

    欠勤控除額=月給与額÷(該当月の所定労働日数×欠勤日数)

    この場合、月によって所定労働日数が異なるので、月給与額が同じでも月によって欠勤控除額が変動します。

    月給与額の時間単価が変動するので給与計算が若干複雑になりますが、実際の勤務日数に応じて支給することになるので納得性が髙いと考えられています。

    年の暦日数を用いる方法

    欠勤控除額=年間給与額÷(年の暦日数×欠勤日数)

    この場合、欠勤1日あたりの控除額は一定となります。

    ただし、労働者が全ての所定労働日数を欠勤しても給与は発生してしまいます。年の暦日数が365日とは限らない点にも注意が必要です。

    毎月の暦日数を用いる方法

    欠勤控除額=月給与額÷(月間の暦日数×欠勤日数)

    月間の暦日数は、月によって異なるため、欠勤控除額が毎月変わります。また、この計算方式も全ての所定労働日数を欠勤しても給与は発生してしまいます。

    遅刻早退の賃金控除の計算方法

    月給制の場合は、1時間あたりの単価を出さなければなりません。多くの場合は、月給を年間平均の1か月の所定労働時間数で割った額を単価とします。

    計算式は、欠勤の控除の計算の「1年間の月平均所定労働日数」を「1年間の月平均所定労働時間数」に置きかえます。

    例:遅刻早退控除の対象とする月の給与額÷1年間の月平均所定労働時間数×遅刻・早退の時間

    諸手当に対する欠勤等控除

    諸手当も欠勤等控除をすると就業規則に定めている場合は控除することができます。

    その場合、手当のすべてを欠勤控除できるものではありません。手当ごとに日割にすることが合理的かどうかを検討しなければなりません。

    例えば、住宅手当は、勤務日数・時間にかかわらず住宅費用は一定なので欠勤控除しないのが理論的です。通勤手当は、出勤回数に応じて支給するのが理論的だと言えます。

    欠勤等控除額の端数処理

    欠勤等控除の計算を計算する際、控除する時間に端数が生じたときは、その端数処理は切り捨てが原則です。

    端数を切り上げてしまうと、欠勤していない時間分までも控除してしまうためです。四捨五入も危険です。労働基準法24条の賃金の全額払いの原則に反してしまう可能性があります。

    また、控除する時間は1分単位で控除しなければなりません。計算を簡略にするために15分単位や30分単位にすると、本来の控除時間を上回ってしまい、労働基準法に違反してしまいます。

    関連記事:給与計算の端数はどうするか

    社会保険料の控除

    欠勤等控除だけで給与額がマイナスになるのは問題だと書きましたが、欠勤等控除の結果、給与額が少なくなり、ここから社会保険料を控除するとマイナスになってしまう場合は、そのマイナス分を別途労働者に請求することは問題ありません。

    とは言え、従業員からすれば収入がないのに社会保険料だけとられるのですから疑念をもったり払いたくても払えないというトラブルになることがあります。長期欠勤等が予想される場合は、その旨及び不足分の支払方法について説明し納得を得ておく必要があります。

    もし、従業員が払えなくなった社会保険料を会社が負担してやるのであれば、その分を給与として加算しなければならないので注意しましょう。


    会社事務入門給与計算のやり方>このページ

  • 従業員の給与を差し押さえられたら

    差し押さえ命令

    突然、裁判所から「債権差押通知書」が届くことがあります。読むと「従業員の給与を差し押さえる」ことが書いてあります。

    最初だと驚きますが、法律にもとづく裁判所の手続きなので適切に対応しなければなりません。

    まず、差押命令の仕組みを理解しましょう。

    金融業者などに返済を怠った場合、債権者は裁判所に「支払督促」し、債務者から異議申立てが無ければ、仮執行宣言の申立て手続きがされ、給与を含む財産の差し押さえに進みます。

    裁判所から差押命令が送られてきたときは、会社はそれを放置することはできません。

    まず、本人にこのような通知がきたことを知らせます。本人が給料からの返済に抵抗したとしても、それは本人が裁判所や債権者に手続きするべきことで、会社としては裁判所の命令に従わなければなりません。

    なお、

    裁判所等からではなく、消費者金融等から会社に電話や訪問で賃金からの天引きを求められても支払ってはいけません。そのような取り立ては通常違法ですし、応じれば、賃金の直接払いの原則に違反するので、会社が従業員に賠償しなければならなくなります。

    直接払いの例外

    労働基準法第24条に「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」とあります。給与から何らかの控除をするのは原則として違法です。

    民事訴訟の手続きにもとづく差し押さえは、指定の相手に払っても直接払いの原則に反しません。

    また、裁判所からの通知で差し引くのであれば、賃金控除の労使協定は不要です。

    差し押えの限度額

    差押えできる限度額が民事執行法で定められています。

    賃金の4分の3に相当する部分は社員の生活に必要な費用として、差押えが禁止されています。つまり、4分の1までが、差押えの対象になります。

    ただし、これは債務者の保護のために設けられた規定なので、賃金の4分の3の金額が33万円を超える場合には、33万円を超える部分については全額差押えが可能です。

    仮に、100万円の借金があり、仮に、給料の金額が24万円であれば、1ヶ月に差し押さえができる金額は6万円です。この6万円を100万円に達するまで、毎月、差し引いて、債権者に支払うことになります。

    ここでいう給料とは、総支給額から所得税や住民税、社会保険料、通勤手当を控除した後の金額です。貸付金返済や積立金等の私的な契約に基づくものは控除できません。

    賞与や退職金も差押えの対象となります。賞与については賃金と同じ取扱いです。退職金については、その金額に関係なく、4分の1に相当する部分が差押えの対象です。

    なお、「債権差押通知」には、滞納の総額が記載されていますが、毎月の差し押さえ金額は指定されていません。会社が毎月給与からの差し押さえ可能額を算出し、従業員の給与や賞与から継続して差し押さえを行う必要があります。

    国税徴収法や地方税法により差し押さえ可能額は別な算出基準によります。通知書に記載してあります。

    陳述書

    差押命令と一緒に陳述書が同封されていることがあります。この場合は届いた日から2週間以内に回答をしなければなりません。

    内容は、賃金債権の有無や種類、金額、差押えに応じる意思の有無等です。

    もしも、差押えより優先して相殺すべき債権がある場合は、その主張をすることができます。ただし、債権者がこれを認めないときは、裁判所に取立訴訟を提起しなければなりません。

    供託

    差押え命令が1件の場合は、会社は差し押さえられた金額を直接債権者に支払うことができます。法務局に供託することもできます。

    差押え命令が2件以上になると、直接債権者に支払うことはできません。この場合は供託しなければなりません。

    供託は法務局に行います。慣れない場合は、費用はかかりますが、弁護士や司法書士にお願いするのがよいでしょう。

    会社の債権との関係

    会社が従業員に給料の前貸しや住宅資金の貸付をしている場合があります。この場合、従業員との貸借契約の内容によっては金融業者等の差し押さえが優先します。

    会社の債権を優先させるためには、貸付金契約書等に「労働者の賃金や退職金について差押えを受けたときは労働者は会社に対して期間の利益を失い全額一括変換義務を負い、直ちに給料や退職金で相殺して支払う」旨の条項が必要です。

    会社事務入門賃金制度賃金はどう決まる?― 労働法で定められている「賃金のルール」総まとめ直接払いの原則 > このページ

  • 大入袋について

    大入袋とは

    大入袋とは、目標を達成したときや、売り上げが予想外に良かった時に従業員に支給する報酬の一つです。

    このような報酬は、一般的には「賞与」といいますが、賞与のようにまとまった額ではなく、小額で、かつ、対象者に均等に、「大入」と書いた袋にいれて配ったときに、大入袋と言っています。

    大入袋と所得税

    まず、所得税については、金額の多寡にかかわらず、課税所得として処理するのが原則とされています。支出時には福利厚生費にしたとしても、毎月の給与支給額に加算したり、年末調整のときに加算したりして、多少面倒ですが源泉徴収にもれがないようにする必要があります。

    大入袋と社会保険料

    社会保険料と労働保険料は所得税の扱いと少し違います。

    報酬等に含まれない場合があります。厚労省のホームページに通達が掲載されています。一部抜粋します。

    標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」の一部改正について〔健康保険法〕(令和5年6月27日)

    労働の対償として支給されるものであっても、被保険者が常態として受ける報酬以外のものは、「報酬等」に含まれない(支給事由の発生、支給条件、支給額等が不確定で、経常的に受けるものではないものは、被保険者の通常の生計に充てられるものとは言えないため)。ただし、これに該当するものは極めて限定的である
    【例】大入袋

    例えば、「売上が一定の金額を上回ったときに支給する」と定めて支給していれば、支給条件が明らかなので、「支給事由の発生、支給条件、支給額等が不確定で」には該当しないので、報酬等に含まれてしまいます。一時金で支給した場合、報酬に係る保険料ではなく賞与保険料の徴収と賞与届が必要になります。

    恩恵的なもの

    ただし、恩恵的な支給であれば報酬等に該当しません。

    疑義照会回答(厚生年金保険 適用)には次のようにあります。(抜粋)

    「昭和18年1月27日保発第303 号により事業主が恩恵的に支給する見舞金は通常の報酬ではないとされ、結婚祝金や慶弔費なども「報酬」や「賞与」とはなりません。・・・・恩恵的かどうかの判断は、社会通念上での判断となりますが、・・・・」

    大入袋が恩恵的なものに含まれるかどうかは、社会通念ということですが、①発生が不定期、②高額でないものという解釈が一般的です。

    判断基準

    恩恵的かどうかの判断は限定的に解釈するのがよいでしょう。

    支給回数が多ければ不定期とはいえないかもしれません。

    金額は「気持ち」程度に抑えるべきでしょう。「気持ち」を金額にするのは難しいことですが、「縁起物」ともあるので、50円、100円・・・・。500円くらい、1000円だと大入袋としては微妙な気がします。


    会社事務入門賃金・給与・報酬の基礎知識>このページ

  • 労働保険料の対象になる賃金

    労働保険料計算に使用する賃金とは

    労働保険の保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間(保険年度)を単位として計算します。保険料は、すべての労働者(被保険者)に支払われる賃金の総額に、その事業ごとに定められた保険料率を乗じて算定します。

    この場合の「賃金」とは、賃金、給与、手当、賞与など名称の如何を問わず労働の対償として事業主が労働者に支払うすべてのものをいいますが、一部対象にならないものがあります。下の一覧表を参考にしてください。

    賃金総額に算入するもの賃金総額に算入しないもの
    基本給・固定給等基本賃金
    超過勤務手当・深夜手当・休日手当等
    扶養手当・子供手当・家族手当等
    宿、日直手当
    役職手当・管理職手当等
    地域手当
    住宅手当
    教育手当
    単身赴任手当
    技能手当
    特殊作業手当
    奨励手当
    物価手当
    調整手当
    賞与
    通勤手当
    休業手当
    いわゆる前払い退職金(労働者が在職中に、退職金相当額の全部又は一部を給与や賞与に上乗せするなど前払いされるもの)
    定期券・回数券等
    創立記念日等の祝金(恩恵的なものでなく、かつ、全労働者又は相当多数に支給される場合)
    チップ(奉仕料の配分として事業主から受けるもの)
    雇用保険料その他社会保険料(労働者の負担分を事業主が負担する場合)
    住居の利益(社宅等の貸与を行っている場合のうち貸与を受けない者に対し均衡上住宅手当を支給する場合)
    休業補償費
    退職金 (退職を事由として支払われるものであって、退職時に支払われるもの又は事業主の都合等により退職前に一時金として支払われるもの)
    結婚祝金
    死亡弔慰金
    災害見舞金
    増資記念品代
    私傷病見舞金
    解雇予告手当(労働基準法第20条の規定に基づくもの)
    年功慰労金
    出張旅費・宿泊費等(実費弁償的なもの)
    制服
    会社が全額負担する生命保険の掛金
    財産形成貯蓄のため事業主が負担する奨励金等(労働者が行う財産形成貯蓄を奨励援助するため事業主が労働者に対して支払う一定の率又は額の奨励金等)
    住居の利益(一部の社員に社宅等の貸与を行っているが、他の者に均衡給与が支給されない場合)

    会社事務入門労働保険の手続き労働保険料の申告と納付>このページ

  • 現物給与について

    現物給与とは

    労働の対価として労働者に支払われる給与は、金銭で支給されるのが普通ですが、食事の現物支給や商品の値引販売などのように、金銭の形をとらない経済的利益で支払われることもあります。

    これらの物又は権利その他の経済的利益の支給を、現物給与といいます。

    現物給与に対する課税

    基本的には、現物給与にも所得税がかかります。ただし、所得税が課税されないものもあります。

    現物給与は、通貨に換算して、受け取った従業員の給与収入とします。 現物給与のうち食事と住宅については、厚生労働大臣が都道府県ごとに、その価額を定めています。

    主な非課税現物給与

    □ 一定範囲内の通勤用の定期券
    □ 作業服、制服
    □ 結婚祝い金、お見舞い金
    □ 一定の範囲内の社内販売
    □ 残業、宿日直者に対して支給する食事

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    社宅費の扱い

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    レクリエーション費用の扱い

    研修費用の扱い

    創業記念品や永年勤続表彰記念品の扱い

    会社事務入門給与計算のやり方>このページ

  • 単身赴任手当について

    単身赴任手当とは

    単身赴任手当は、単身赴任の負担を軽減するための手当です。転勤の発令があったとき、家族がいろいろな理由で一緒に転居できないときは、世帯が分かれて暮らすことになる生活費の増加を補うために支給される手当です。

    毎月の給料に一定額の単身赴任手当を加算するのが一般的ですが、その他に次のような費用を支給することも行われています。

    ① 赴任準備手当
    単身で遠方に行くとなると、電気製品など、赴任先の新しい住居で必要な物を揃える必要があります。それに対する補助として支給される一時金です。

    ② 単身赴任住宅手当
    本来支給されている住宅手当に加えて、赴任する従業員の住居にも住宅手当を拡大支給するものです。

    ③ 帰省旅費
    単身赴任した場合に、留守宅に帰省する費用を負担するものです。月に1回など、限度回数を設定して、交通費の実費を支給するものです。給料の手当として支給せず、旅費規程などに詳細を定めるのが一般的です。

    単身赴任手当の対象者と支給額

    家族と別れて赴任する人を対象にします。

    二重生活を放置すれば従業員の生活が成り立たなくなってしまうので、実態的には他の手当より多めに設定されることが多いようです。アパート等の補助を別にして、一人暮らしの食費や水道光熱費がまかなわれる程度の額を考える会社が多いようです。

    単身赴任手当規定例

    支給する場合は、単身赴任手当または賃金規程にその内容を定めます。
    単身赴任手当|就業規則

    給与計算における扱い

    単身赴任手当は、所得税では非課税ではありません。「給与所得」の一部として源泉徴収税の対象になります。

    単身赴任手当は、社会保険料の計算における標準報酬月額の対象になる賃金等に含まれます。また、単身赴任手当は、労働保険料の計算における賃金総額に含まれます。

    単身赴任手当は、割増賃金の基礎に含めなくても構いません。

    ただし、単身赴任でない人にも一律に支払うことになっている場合は、単身赴任手当などという名称を使っていても、基本給とともに、割増賃金の基礎にしなければなりません。

    単身赴任手当についての考え方

    かつては、転勤を命じられたときは、家族帯同で赴任するか単身で赴任するかの選択は、選択したものの自己責任として、一切の支援を受けられない場合が多かったようです。

    しかし、それでは転勤によって生活が苦しくなったり、子どもの教育上の問題が生じたりして、仕事の遂行に影響が出るのは必然なので、転勤を命じた場合は、転勤による家族への影響をできるだけ緩和するのが福利厚生として当然であるという考え方が主流になってきました。

    会社事務入門賃金・給与・報酬の基礎知識基本給に加えて支給される手当について>このページ