カテゴリー: 賃金

  • 子女教育手当について

    子女教育手当とは

    国の場合は、外務公務員の在外職員の子女が海外で学校教育等を受けるの に必要な経費に充当するために支給される手当として子女教育手当が支給されています。

    民間企業では、子育て支援の一環として家族手当(扶養手当)を支給しているところが多いですが、そのうち、特に負担が大きい、大学等に在学中の時期を支援するために、子女教育手当を支給する場合があります。

    「子女」という名称をあえて使う必要はないので、「教育手当」でもよいでしょう。

    支給対象者や手当の額

    どういう学校に在学している場合に支給するか、いくらの金額を支給するかは、特に基準などはないので、それぞれの会社の規程によります。

    就業規則規定例

    子女教育手当の規定例→子女教育手当|就業規則

    給与計算における扱い

    子女教育手当は、所得税では非課税ではありません。「給与所得」の一部として源泉徴収税の対象になります。

    子女教育手当は、社会保険料の計算における標準報酬月額の対象になる賃金等に含まれます。また、子女教育手当は、労働保険料の計算における賃金総額に含まれます。

    子女教育手当は、家族手当と同様に割増賃金の基礎に含めなくても構いません。

    ただし、対象家族の人数などに関係なく一律に支払うことになっている場合は、子女教育手当などという名称を使っていても、基本給とともに、割増賃金の基礎にしなければなりません。


    会社事務入門賃金・給与・報酬の基礎知識基本給に加えて支給される手当について>このページ

  • 精勤手当について

    精勤手当とは

    精勤手当は、精皆勤手当とすることもあります。精勤=欠勤が少ない、皆勤=欠勤がない、ことを条件に支給する手当のことです。

    従業員の出勤を促すための手当ですが、法的に義務付けのある手当ではないため、金額やどの程度の出勤で支給するかは、それぞれの会社の就業規則の定めによります。精皆勤手当の相場は、月額数千円程度が多いようです。

    なお、有給休暇を利用した場合は欠勤にはなりません。何日有給休暇をとっても精皆勤手当を支給しなければなりません。

    精勤手当の注意点

    制度目的の検討

    突然休まれると困る職場に多い手当ですが、運用によっては、風邪などの病気でも無理に出勤する者が出かねません。

    有給休暇の取得促進をすすめる時代に、休まないことを奨励する制度はいかがなものか、検討の余地がありそうです。

    正規非正規の待遇格差について

    厚生労働省告示第430号「同一労働同一賃金ガイドライン(平成30年12月28日)」が出ています。

    ガイドラインには、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのかが示されています。

    各企業においては、賃金を含む現状の待遇について、ガイドラインに沿った点検、是正が必要です。

    就業規則規定例

    精勤手当|就業規則

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  • 賞与を支給するときはどういう点を注意すればよいですか?

    賞与とは

    毎月の給与とは別に支給される賃金を賞与といいます。ボーナスともいいます。

    賞与は、会社の業績が予定より良かったときに従業員に利益を配分するものという性格があります。

    支給の時期は、6月と12の年2回が多いです。

    賞与を支給しなければならないという法律的な義務はありません。支給するかしないかは、それぞれの会社が決めることができます。

    支給するのであれば、就業規則に、いつ支給するか、誰を対象に支給するか、金額決定の基準はどうか、などを定める必要があります。また、採用時の労働条件通知書にも明示しなければなりません。

    また、パートタイマーに対しては、労働基準法の明示義務に加えて、「昇給の有無」「退職手当の有無」と共に、「賞与の有無」の明示が義務づけられています。

    評価を反映する

    一般的には、賞与の金額は会社の業績に左右され、さらに所属する部門や、従業員一人ひとりの成績によって左右されます。

    従業員一人ひとりの成績は、一般的には評価制度によって判定します。

    関連記事:評価を賞与に反映する

    賞与から税や社会保険料を控除する

    賞与は賃金の一つなので、通常の給与計算とほぼ同様に、所得税や社会保険料等を控除する必要があります。

    健康保険と厚生年金保険では、支給予定回数が年3回以下のものを賞与としています。予定回数が年4回以上の場合は、これら全てを給与として扱います。給与だと「標準報酬月額」を使い、賞与だと「標準賞与額」を使うので、違いがでてきます。

    賞与を支給したら、社会保険事務所(年金機構)に「賞与支払届」を支払いの5日後までに提出しなければなりません。

    「支給する」書いて支給しないと違反か?

    賞与は、毎月の給料と違って、払えなくなっても賃金不払いなどの法律違反にはなりません。

    ただし、就業規則に「賞与を支給する」と断定的に書いてあれば、不支給は就業規則に違反するので、労働者は就業規則をたてに支給を請求することができます。

    就業規則には、賞与は業績によって支払わないことがある旨の規定を入れておくべきでしょう。

    就業規則の記載が「毎年6月と12月に賞与を支給する。ただし、会社の業績によっては支給しないこともある」であれば、業績悪化によって支給をしないことがあっても問題ありません。

    ただし、この規定で、業績が良い、あるいはそれほど悪くないのに支給しないのであれば、就業規則に反する可能性があるので、労働者側には給付請求権があると考えられます。

    また、慣行として定着した場合には権利が発生するのではないかということが問題になったことがありました。これも、長い期間にわたって賞与支給を継続してきた事実があったとしても、支給継続が慣行化して権利に転嫁することはないので、業績を反映させて不支給になっても問題ありません。

    在籍条件を設定することについて

    賞与は、その支給日に在籍する社員に支給する、などと定めることを在籍条件といいます。

    賞与は、法律で支払いが義務付けられている賃金とは異なり、その支給条件や金額は会社の裁量に委ねられています。就業規則に「支給日に在籍している者に支給する」と明確に記載されていれば、これは有効なルールとなります。したがって、退職した元従業員に対しては、たとえ支給対象期間中に在籍していたとしても、支給日の時点で在籍していないため、賞与を支払う義務はありません。

    賞与が、功労報償的性格及び将来の貢献に対する期待などの性格があるとして、支給日在籍要件を肯定する判例が多いからです。

    ただし、学説においては、従業員が退職日を任意に選択できない死亡退職、定年退職及び整理解雇のような場合は公序良俗違反だと見るものが多いようです。

    なお、在籍日の条件が明確に定められていない場合、あるいは、過去に就業規則に反して、支給日に在籍していない人に支給された事実があれば、在籍期間に応じた支給が必要になると考えられます。

    正規非正規の待遇格差について

    厚生労働省告示第430号「同一労働同一賃金ガイドライン(平成30年12月28日)」が出ています。

    ガイドラインには、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのかが示されています。

    各企業においては、賞与を含む現状の待遇について、ガイドラインに沿った点検、是正が必要です

    規定例

    関連規程:賞与|就業規則


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  • 使用者の都合で休ませるときは休業手当を支給します

    休業手当とは

    休日というのは、土日など、就業規則で定められた労働義務のない日のことです。これに対して、休業というのは、本来労働日であるにもかかわらず、何らかの理由でその義務を免除された日、または時間のことをいいます。

    使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、その労働者の平均賃金の100分の60以上にあたる手当を支払わなければなりません。これを休業手当といいます。

    労働基準法第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

    関連記事:平均賃金

    使用者の責に帰すべき事由とは

    労働基準法に基づく休業手当の支払が必要なのは「使用者の責に帰すべき事由」がある場合です。

    具体的には、仕事が少ないので労働者を休ませた場合や、機械の故障のために仕事ができない、資金が不足して仕事ができない、材料が足りなくて仕事ができない、監督官庁の勧告により操業を中止せざるを得ない、などの理由で休ませるときは、使用者の責に帰すべき事由とみなされます。

    民法との関係

    労働基準法26条と似た規定が民法にもあります。

    民法536条2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

    債権者を「会社」、債務の履行を「労務の提供」、債務者を「労働者」、反対給付を「賃金」と読み替えることができます。

    つまり、会社の事情で働くことができなくなったときは、労働者はその分の賃金を請求できます。この場合は、100分の60ではなく、全額を請求できると解されています。

    違いについて説明します。

    労働基準法26条の方が「責に帰すべき事由」の範囲が広く適用されます。使用者に責任がない事由であっても(天災などの不可抗力な事態を除いて)結果として休業させた場合は休業手当を支払わなければなりません。

    また、労働基準法の規定なので、適用に迷う場合は、裁判にするまでもなく、労働基準監督署に照会することで決めることができます。

    これに対して、民法526条の「責めに帰すべき事由」は少し限定的です。つまり、「故意、過失または信義則上これと同視すべき事由」と解されています。

    民法526条による100%の賃金請求権を求めるのであれば、会社の故意または過失による休業だと認められなければなりません。故意または過失の認定は、労働基準監督署でなく裁判に求めなければなりません。

    休業手当を支払う手続き

    休業手当は、給料と同じなので、次の賃金支払日に給料と一緒に支払う必要があります。休業手当はあくまで給与の一部なので所得税の課税対象となります。

    早退させたときは、その日の賃金が平均賃金の100分の60に満たない場合には、平均賃金の100分の60と実際に働いた時間に対する賃金の差額を休業手当として支払う必要があります。

    休業手当を支払っても労働基準監督署等への手続きは必要ありません。ただし、休業手当を支払う必要があるのに支払わなかった場合は、労働基準法違反として罰金が科せられる場合があります。

    また、支払った休業手当が助成金で補てんされる場合があります。施策は都度変更されているので「厚生労働省」「雇用調整助成金」で検索してください。

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  • 給与計算の流れ

    給与計算の流れ

    □ 人事情報を整理する

    □ 労働日数・労働時間を集計する

    □ 支給項目と控除項目を計算をして給与支払明細書を作成する

    □ 給与を支払う

    □ 社会保険料・所得税を納付する

    実際には、給与計算ソフトを利用して、残業時間などの変動部分を入力するだけで作業が完了し、ただちに支給明細書などを作成できます。ですが、手作業でやっていた時代のやり方を少し理解することで、給与計算事務に対する自信が違ってきます。

    人事情報の整理

    給与計算をするには、まず第一に、社員の氏名や生年月日、所属部署、扶養親族、基本給や家族手当の額などの固定的なデータの情報を正しく把握しておく必要があります。これらの情報は、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書や雇用契約書を確認して、労働者名簿や賃金台帳などに記載しておきます。給与計算ソフトを利用している場合は入力しておきます。

    毎月の計算は、その月の変動事項のチェックから始まります。

    □ 入社した社員はいるか
    □ 退職した社員がいたか
    □ 出産や家族の死亡があったか
    □ 住所の変更があったか
    □ 昇格した従業員はいるか

    労働日数・労働時間を集計

    従業員各人のタイムカードを集め、残業届けなどと照合して出勤日数、休暇日数、労働時間、残業時間、休日出勤などを集計します。

    総支給額の計算

    1.基本給や役職手当、扶養手当などの固定的なものを記入する
    2.欠勤や遅刻等で控除する金額を計算して記入する

    関連記事:欠勤遅刻早退の控除計算

    3.残業手当などの毎月変動するものを計算して記入する

    控除額の計算

    1.厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料を計算する。
    2.雇用保険料を計算する。
    3.所得税を計算する。
    4.住民税を記入する。
    5.労使協定により控除することになっている、財形貯蓄、社内預金、組合費などを控除。控除するには労使協定が必要です。

    総支給額から控除項目を差引くと支給額が決定します。これで給与計算が終わります。

    控除した金額は後日年金機構等に納付するまで預かる形になるので預り金勘定で処理します。

    関連記事:預り金 勘定科目

    その内容を給与明細書に記入します。

    給与明細書と現金を給与袋の中に入れて渡します。

    (昭和40年代ころまでは、このようにすべて手書き手作業で行うのが一般的でした。)

    端数の処理

    関連記事:給与計算の端数処理

    給与の支払

    給料日に計算した支給額を各従業員に支払うために支払の準備をします。現金を給与袋に入れて支給する場合と、銀行振込で支払う場合があります。現金の場合は必要な現金を用意します。どの金種が何枚ずつ必要か計算してきっちりと準備します。最後に余ったり足りなかったりしたら、もう一度中身を点検しなければなりません。

    銀行振り込みの場合は、給与振込依頼書を作成し、前の日までに銀行に持参します。 給与ソフトを使うと、給与振込み依頼書も自動で作成できるし、ネットバンキングと併せると、窓口に行かないで処理することもできます。

    銀行口座振り込みで支払うときは、労使協定と個人の同意書が必要です。

    支給日には給与を支給します。現金支給の場合は現金の入った給与袋を渡し、振込みの場合は明細書だけが入った給与袋を渡します。

    支給明細書は電子交付することもできます。ただし、電子交付には「従業員の同意」が必要であり、また従業員から請求があった場合には、企業は紙の明細書を交付する義務があります。

    給料日が休日に当たる場合、多くの会社では、休日の前日に支給しているようですが、本来は、繰り下げ繰り上げどちらでも、就業規則等で会社が任意に定めることができます。ただし、支給日を「月末」としていれば、繰り下げれば翌月になってしまうので繰り下げはできません。なお、すでに繰り上げ支給を実施しているのであれば、繰り下げ支給への変更は就業規則の不利益変更にあたると思われますので、簡単ではありません。

    社会保険料・税金の納付

    健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、源泉所得税、住民税は従業員からの預り金です。会社負担分とともに所定の役所に納付しなければなりません。実際には納付書により、銀行等で支払をします。

    社会保険料の支払い納期は翌月の末日まで、所得税は翌月の10日までです。

    給料が差し押さえられたら

    賃金が民事訴訟の手続きで債権者から差し押さえられたときは、会社は裁判所の命令に従って、指定の相手に支払わなければなりません。

    関連記事:給与を差し押さえられたらどう対処するか

    給与に関する年1回の事務

    給与計算はだいたい同じ作業を毎月繰り返しますが、なかには年末調整など年に1回しかない事務もあります。

    関連記事:労働保険の年度更新

    関連記事:社会保険の算定基礎届


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  • 賃金の前借と非常時払い

    前借に応じる義務はありません

    これは、応じてはいけない、ということではなく、応じても応じなくても会社の自由だといういうことです。

    ただし、その都度判断するのはあまりお勧めできません。ある人に対しては認め、違う人には認めないということでは不公平だという不満がでるでしょう。別なトラブルの元になりかねません。

    そこで、会社の決まりとして、前借に応じないなら応じないと決める、応じるならどのような条件(金額、理由など)で応じるかを事前に決めておき、公平に対応するとよいでしょう。

    なお、よくマエガリと言いますが、実務では前借金と書いてゼンシャクキンと読みます。

    なぜ応じなくてもよいか

    まず、労働基準法第24条第2項に、「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」とあります。

    このため、一定の期日、つまり、給料日以外の支払に応じる必要はありません。これが前借拒否の理由です。

    非常時払いには応じなければならない

    以上のように、従業員から前借の申し出があっても、基本的には応じる法的な義務はありません。ただし、例外的に、労働基準法25条に「非常時の前払」についての規定があるので、これに該当する場合は応じなければなりません。

    労働基準法第25条には「使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合には、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない」とあります。

    その他厚生労働省令で定める非常の場合とは、

    施行規則第9条に、「婚礼・葬儀・やむを得ない事由によって、一週間以上にわたる帰郷をする場合の他、労働者本人にこれらの事由が発生した場合に限らず、その労働者の収入によって生計を維持するものに同一事由が発生した場合も含む」とあります。

    したがって、会社は前借を申し込んだ労働者に対してその理由を聞く必要があります。

    前借はダメだと、一律に断るのではなく、労働基準法25条の「非常時払い」に該当するかどうか判断しなければならないからです。

    労働者が、前借の理由を述べなかったり、上記以外の理由を述べたり、明らかに虚偽の理由を述べたときは、労働基準法第25条にもとづく請求とは認められないので、拒否することができます。

    前借させるのはその日までの分

    非常時払いに該当する場合は、前借を認めなければなりませんが、その金額は、「既往の労働に対する賃金」、つまり、前借の請求のあった日までの賃金が限度になります。

    これから先の賃金を要求されても応じる義務はありません。

    前借分を次の給料から引いてもよいか

    注意事項がいくつかあります。

    一つは、労働基準法17条の「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。」という規定です。

    これについて、参考になる通達があります。

    (昭和22.9.13発基17号)
    法第17条関係
    1.弁済期の繰上げで明かに身分的拘束を伴わないものは労働することを条件とする債権には含まれないこと。
    2.労働者が使用者から人的信用に基く貸借として金融を受ける必要がある場合には、賃金と相殺せず労働者の自由意志に基く弁済によらしめること。

    (昭33.2.13基発90号)。
    労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融又は賃金の前払いのような単なる弁済期の繰上げ等で明らかに身分的拘束を伴わないと認められるものは、労働することを条件とする債権ではない

    (昭63.3.14基発150号)。
    使用者が、労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸し付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合において、貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、本条の規定は適用されない

    以上のように、すべての貸付が給料との相殺が禁じられているのではありません。

    具体的なケースに当てはめると解釈が難しい場合もありますが、少なくとも、労働基準法25条の要件を満たす「非常時払い」は、その分を翌月等の賃金から控除しても問題ないと解釈されています。

    ただし、労働基準法25条の要件を満たさない、例えば、該当事由以外による前借や、既往の賃金以上に払った分は、非常時払いではなく、貸付になります。

    貸付になる場合は、安易は処理は禁物です。金銭貸借と労務提供の関連性をクリアし、かつ、自由意思による賃金控除でなければなりません。

    金銭消費貸借契約書を取り交わす

    返済が終わらなければ会社を辞めさせない、とか、会社を辞めるときは一括返済しろ、などとしている場合には、「金銭の貸借と労務の提供が密接に関連」しているとみなされる可能性が髙いでしょう。

    また、給料から借金を差し引けるのは、労働者が、自由意志に基づき賃金を相殺することに同意した場合だけという判例があります。

    この同意については、単に口頭約束では不充分です。自由意思で相殺を同意したという証拠が必要です。

    一般的には、金銭消費貸借契約書等を作成し、署名を得ることで証拠の一つとします。

    契約書には、控除対象となる具体的な項目、及び項目別に定める控除を行う賃金支払日を明記し、労務提供と関連がないこと、さらに労働者が自由な意思に基づき行う合意相殺であることが記載されているべきでしょう。

    労使協定を確認する

    また、控除に関する労使協定が必要です。労働基準法24条に「書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる」という規定があります。この労使協定に「貸付金」が含まれていなければなりません。

    賃金の全額払いの原則

    賞与の前借はどうか

    賞与の前借りを請求されたらどうすればよいでしょうか。

    非常時払いの対象は既往の賃金です。したがって、前借申し出の時点で賞与の支給額が計算できるかということが問題になります。

    直前の業績によって賞与の支給額が大きく変動することがある場合は、支給前の段階で「既往の賃金額」を算定するのは困難でしょう。また、就業規則に賞与支給日に在籍していなければならないという在籍要件がある場合は、退職する可能性があれば既往の賃金がないということになります。

    ということで、細かく考えれば対応できる部分があるかもしれませんが、一般的には、賞与は非常時払いの対象にしていないようです。

    退職金の前借はどうか

    退職金の前借りを請求されたらどうすればよいでしょうか。

    非常時払いの対象は既往の賃金です。したがって、前借申し出の時点で退職金の支給額を計算できるかということが問題になります。

    ということで、賞与の場合と同様に、細かく考えれば対応できる部分があるかもしれませんが、退職金は、外部機関を使っているいることが多く、手続き的に難しいので、退職金規程に前借に応じない旨を規定していることが多いようです。しない旨の規定があれば、応じる法的な義務はありません。


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