従業員に社宅を提供する場合の課税関係等

賃金・賃金制度

会社が従業員に社宅や寮を貸与する、いわゆる「借り上げ社宅」制にする場合、本人から1か月当たり一定額以上の家賃を受け取っていれば、所得税は課税されません。また、家賃相場の高い地域でも社員の自己負担額を一定程度抑えることができます。

一定額の家賃の算出

本人から1か月当たり一定額以上の家賃を受け取っていれば、所得税は課税されないことになっていますが、その「一定額」について解説します。

所得税の扱い

所得税基本通達36-38による簡便計算式は次のとおりです。

一定額の家賃 =

  1. (その年度の建物の固定資産税課税標準額) × 0.2%
  2. + 12円 ×(建物の総床面積(㎡) ÷ 3.3)
  3. +(その年度の敷地の固定資産税課税標準額) × 0.22%

この合計額が1か月当たりの基準額となります。

この計算式で算出される「賃貸料相当額」は、実際の市場家賃(相場)よりもかなり低く(10%〜20%程度)なるのが一般的です。 例えば、実際の家賃が10万円の物件でも、この式で計算すると賃貸料相当額が「1万円〜2万円」程度になることも珍しくありません。

算出した「賃貸料相当額」に対して、社員からいくら受け取るかによって税務上の扱いが変わります。

  • 無料で貸す場合 → この基準額全額が給与として課税
  • 基準額より低い家賃を受け取る場合 → 基準額 − 受取額 が課税対象
  • ただし、受取額が基準額の50%以上であり、かつ労務提供上必要と認められる場合には、その差額を課税しない取扱いがあります(役員は対象外)。

(国税庁タックスアンサー2597)

社員負担額の設定

所得税基本通達の範囲内を前提として、実際の「社員負担額」をどう設定するか、実務上、2つのやり方があります。

1. 「定率」で設定する(家賃連動型)

家賃の総額に対して、社員が一定の割合を負担する方法です。

  • 一般的な負担割合: 家賃の20%〜50%程度
  • 特徴: 家賃相場が高い地域に住んでも、会社の補助(80%〜50%)が自動的に大きくなるため、都市部への転勤者にとっては非常に手厚いサポートになります。
  • 注意点: 会社負担が青天井にならないよう、地域ごとに「家賃上限額(例:都内単身なら10万円まで)」を設けるのが通例です。

2. 「定額」で設定する(自己負担固定型)

家賃の総額に関わらず、社員が支払う金額を固定する方法です。

  • 一般的な設定例: 月額10,000円〜30,000円程度
  • 特徴: 「住居にかかるコスト」を一定に抑えられるため、社員の生活設計が立てやすくなります。
  • 注意点: 豪華すぎる物件を選ばれないよう、これも物件のグレードや面積に制限を設ける必要があります。

実務上の注意点

  • 「固定資産税の課税標準額」の調べ方: 借り上げ社宅の場合、会社は物件の所有者ではないため、直接「納税通知書」を見ることはできません。実務上は、仲介不動産業者や管理会社を通じてオーナーから情報を入手するか、委任状をもらって市区町村で「固定資産課税台帳」を閲覧する必要があります。
  • 書類が入手できない場合の回避策: 正確な標準額が不明な場合、リスクヘッジとして「実際の家賃(支払家賃)の一定割合(例:15%〜20%)」を社員負担に設定する企業が多いです。これなら、まず間違いなく「賃貸料相当額の50%」を上回るため、税務調査での指摘を回避しやすくなります。
  • 豪華な住宅(社宅)は別扱い: 床面積が非常に広い、または、いわゆる「豪華社宅」に該当する場合は、上記の簡易計算式は使えず、市場家賃に近い金額を基準にする必要があります。
  • 実家賃を基準にする:「課税標準額」の確認は手間がかかるため、多くの企業が「一律で実家賃の〇%を徴収する」というシンプルな運用を選んでいます。
  • 共益費・管理費の扱い:「家賃」には補助を出しても、「共益費」「管理費」「駐車場代」は全額社員負担とする企業が多いです。これらを会社負担に含めると、税務上、より複雑な計算が必要になる場合があるためです。
  • 入居期間による負担増(ステップアップ方式):転勤直後は会社負担を大きくし(例:負担20%)、入居期間が長くなるにつれて負担を増やす(例:5年経過後は40%)などといったルールを設ける企業もあります。社宅をあくまで「一時的な支援」と位置づけている場合の方法です。

特殊職種の場合の非課税取扱い

看護師、守衛など、職務遂行上やむを得ない理由で社宅・寮を提供する場合は、無料であっても給与として課税されない場合があります。職務遂行上の必要性から提供される社宅が非課税(無料でも給与課税されない)となるケースは、所得税法の基本通達(所基通9-9)によって具体的に定められています。

具体的には、以下のようなケースが該当します。

職種や勤務形態による

以下のいずれかに該当し、かつ会社から居住場所を指定されている場合は、無償であっても課税されません。

  • 看護師・守衛など:通常の勤務時間外であっても緊急対応や勤務を要することが常例であり、職務の遂行上、勤務場所を離れて居住することが困難な場合。
  • 早朝・深夜勤務が常態化している仕事:ホテル、旅館、牛乳販売店などの住み込み店員のように、早朝・深夜の出退勤が必須で、事業所に居住しないと業務に支障が出る場合。
  • 交代制の現場作業者:24時間体制で昼夜作業を継続する工場などで、常時早朝や深夜に出退勤する必要がある者が、事業所の構内や隣接する社宅に居住する場合。
  • 船舶乗組員:船内で提供される船室。
  • 季節的労働者:農閑期の出稼ぎや、特定のシーズンのみ稼働する現場で、その期間中勤務場所に住み込む場合。

場所(環境)による

職種にかかわらず、その場所の特性上、会社が用意した住居に住むしかない場合も含まれます。

  • 鉱山などの僻地:鉱山の掘削場など、周囲に一般の住宅がなく、会社が用意した家屋に住まざるを得ない場合。
  • 工場等の構内寄宿舎:事業所の構内、または隣接する場所に設置された寄宿舎(いわゆる「寮」の形態)の部屋。

注意点

以下の点に注意が必要です。

  1. 「単なる転勤者」は対象外:「家賃が高いから会社が全額負担する」という理由は、職務遂行上の必要性(緊急対応など)とはみなされません。そのため、一般的な事務職や営業職の転勤者は該当しません。
  2. 「職種」だけで判断されない:「看護師だから全員無料でもOK」というわけではありません。例えば、オンコール(緊急呼出)の当番が一切ない外来のみの看護師が、通常の賃貸マンションに無料で住む場合は、通常の社宅ルール(賃貸料相当額の徴収)が適用される可能性が高いです。
  3. 「指定された場所」であること:社員が自分で自由に選んだ物件ではなく、会社が「業務のためにここへ住め」と指定した物件であることも、非課税適用の判断材料となります。

社会保険・労働保険での扱い

  • 社会保険
    厚生労働大臣が都道府県ごとに告示で定める標準価額に基づき、報酬に算入します。家賃徴収をしている場合は、徴収額を差し引いた金額が報酬となります。
  • 労働保険
    無償・一部負担の社宅提供は保険料の対象外。社宅を利用しない従業員への住宅手当は賃金として保険料の対象になります。