賞与を支給するときはどういう点を注意すればよいですか?

賃金・賃金制度

賞与とは

毎月の給与とは別に支給される賃金を賞与といいます。ボーナスともいいます。

賞与は、会社の業績が予定より良かったときに従業員に利益を配分するものという性格があります。

支給の時期は、6月と12の年2回が多いです。

賞与を支給しなければならないという法律的な義務はありません。支給するかしないかは、それぞれの会社が決めることができます。

支給するのであれば、就業規則に、いつ支給するか、誰を対象に支給するか、金額決定の基準はどうか、などを定める必要があります。また、採用時の労働条件通知書にも明示しなければなりません。

また、パートタイマーに対しては、労働基準法の明示義務に加えて、「昇給の有無」「退職手当の有無」と共に、「賞与の有無」の明示が義務づけられています。

評価を反映する

一般的には、賞与の金額は会社の業績に左右され、さらに所属する部門や、従業員一人ひとりの成績によって左右されます。

従業員一人ひとりの成績は、一般的には評価制度によって判定します。

賞与から税や社会保険料を控除する

賞与は賃金の一つなので、通常の給与計算とほぼ同様に、所得税や社会保険料等を控除する必要があります。

健康保険と厚生年金保険では、支給予定回数が年3回以下のものを賞与としています。予定回数が年4回以上の場合は、これら全てを給与として扱います。給与だと「標準報酬月額」を使い、賞与だと「標準賞与額」を使うので、違いがでてきます。

賞与を支給したら、社会保険事務所(年金機構)に「賞与支払届」を支払いの5日後までに提出しなければなりません。

「支給する」書いて支給しないと違反か?

賞与は、毎月の給料と違って、払えなくなっても賃金不払いなどの法律違反にはなりません。

ただし、就業規則に「賞与を支給する」と断定的に書いてあれば、不支給は就業規則に違反するので、労働者は就業規則をたてに支給を請求することができます。

就業規則には、賞与は業績によって支払わないことがある旨の規定を入れておくべきでしょう。

就業規則の記載が「毎年6月と12月に賞与を支給する。ただし、会社の業績によっては支給しないこともある」であれば、業績悪化によって支給をしないことがあっても問題ありません。

ただし、この規定で、業績が良い、あるいはそれほど悪くないのに支給しないのであれば、就業規則に反する可能性があるので、労働者側には給付請求権があると考えられます。

また、慣行として定着した場合には権利が発生するのではないかということが問題になったことがありました。これも、長い期間にわたって賞与支給を継続してきた事実があったとしても、支給継続が慣行化して権利に転嫁することはないので、業績を反映させて不支給になっても問題ありません。

在籍条件を設定してもよいか?

賞与は、その支給日に在籍する社員に支給する、などと定めることを在籍条件といいます。

賞与は、法律で支払いが義務付けられている賃金とは異なり、その支給条件や金額は会社の裁量に委ねられています。就業規則に「支給日に在籍している者に支給する」と明確に記載されていれば、これは有効なルールとなります。したがって、退職した元従業員に対しては、たとえ支給対象期間中に在籍していたとしても、支給日の時点で在籍していないため、賞与を支払う義務はありません。

賞与が、功労報償的性格及び将来の貢献に対する期待などの性格があるとして、支給日在籍要件を肯定する判例が多いからです。

ただし、学説においては、従業員が退職日を任意に選択できない死亡退職、定年退職及び整理解雇のような場合は公序良俗違反だと見るものが多いようです。

なお、在籍日の条件が明確に定められていない場合、あるいは、過去に就業規則に反して、支給日に在籍していない人に支給された事実があれば、在籍期間に応じた支給が必要になると考えられます。

正規非正規の待遇格差について

厚生労働省告示第430号「同一労働同一賃金ガイドライン(平成30年12月28日)」が出ています。

「同一労働同一賃金ガイドライン」(正式名称:「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」)を踏まえると、賞与を支給する際に最も注意が必要なのは、雇用形態(正社員か非正社員か)のみを理由とした不合理な待遇差を設けないことです。

特に、賞与の性質によって求められる対応が異なります。

労働者の貢献度に応じた賞与に関する注意点

ガイドラインでは、「会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するもの」としての賞与について、以下の原則が示されています。

原則:貢献度に応じた支給

  • 同一の貢献に対しては、雇用形態にかかわらず同一の支給を行わなければなりません。
  • 貢献度に違いがあれば、その違いに応じた支給を行わなければなりません。

注意点

  1. 貢献度が同じなら同額を支給する義務:
    • 正社員と非正社員の職務内容や責任の程度、配置転換の範囲などがすべて同じである場合、会社の業績への貢献度も同じと判断されるため、賞与の金額も同額にする必要があります。
    • 非正社員であることを理由に、正社員より賞与を少なくしたり、一切支給しなかったりすることは、不合理な待遇差として違法とされるリスクが極めて高いです(大阪医科薬科大学事件など、裁判例でも問題とされています)。
  2. 合理的な理由の説明責任:
    • もし正社員と非正社員の間で賞与の額に差を設ける場合、その差は職務の内容(難易度、責任の重さなど)や配置の変更の範囲(転勤や異動の有無・可能性)などの客観的で合理的な理由に基づいていなければなりません。
    • その理由を非正社員に適切に説明できるようにしておく必要があります。

人事政策的な賞与に関する注意点

賞与には、会社の業績への貢献の対価という側面だけでなく、将来の功労への期待や長期的な人材の確保・定着といった人事政策上の目的を持つ側面もあります。

  • 長期雇用を前提とする賞与:
    • 賞与が長期的な勤続意欲の向上や正社員の定着を主目的としている場合、将来の職務内容や配置の変更の範囲が広い正社員に多く支給することについて、合理性が認められる可能性はあります。
    • しかし、単に「正社員だから」という理由だけで非正社員に一切支給しないことは、不合理と判断されるリスクがあるため、明確な根拠をもって区別し、それを就業規則等に明記・周知する必要があります。

企業が取るべき具体的な対応

  1. 賞与の支給目的の明確化:
    • 自社の賞与が「貢献度対価型」なのか「長期定着型」なのか、あるいはその両方なのかを明確にし、就業規則等で規定します。
  2. 職務内容の評価と整理:
    • 正社員と非正社員について、業務の内容(具体的な仕事)、責任の程度、配置転換・異動の有無や範囲を正確に比較・評価します。
  3. 待遇差の根拠の点検:
    • 賞与の差がある場合は、その差が上記で整理した職務の違いに照らして合理的かを厳しく点検します。
    • 合理的な説明ができない差は解消し、非正社員にも貢献度に応じた賞与(またはそれに相当する一時金)を支給する制度を設計する必要があります。

規定例