カテゴリー: 社会保険

  • 産前産後休業終了時の報酬月額改定

    産前産後休業とは

    産前休業は、出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から取得できます。

    産後休業は、出産の翌日から8週間は就業させてはいけません。ただし、産後6週間を経過後に本人が請求し、医師が認めた場合は就業することができます。

    関連記事:従業員が産前産後休業を申し出たときの手続きと注意点

    標準報酬月額とは

    標準報酬月額とは、毎月の給与から引かれる健康保険料や厚生年金保険料の計算の元になる金額のことで、標準報酬月額が低くなればこれらの社会保険料は安くなります。

    ただし、すぐに連動するのではなく、通常の改定では「固定的賃金の変更があったこと」「変更月以降3ヶ月連続して17日以上の勤務があること」「従前の等級より2等級変わること」などの条件がそろった場合のみに改定できます。

    産前産後休業終了時改定とは

    産前産後休業のときは、報酬がゼロになっても、その時点で標準報酬月額の改定は行いません。休業期間中の保険料は免除されるので、標準報酬月額を据え置いても、被保険者本人は不利益を受けません。しかし、休業から復帰後は、保険料の徴収が再開始されます。

    産前産後休業を終了したの改定は「固定的賃金に変更があったかは関係なく」「休業終了月以降3ヶ月以内に、17日以上勤務した月がひと月あれば対象」「従前の等級より1等級下がれば対象」と、改定の条件がゆるやかになっています。

    この産前産後休業終了時改定は、復帰後に短時間勤務を選択したり、残業ができなくなって給与額が以前より下がったときに利用できます。特に収入が変わらなかったり、逆に昇給などで以前より高くなるのであれば対象になりません。

    改定の条件

    □ 従前の標準報酬月額と、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後3ヶ月分の報酬の平均した標準報酬月額に1等級以上の差が生じたこと。

    □ 産前産後休業終了日の翌日が属する月以後3ヶ月のうち、少なくとも1ヶ月における支払基礎日数が17日以上であること。特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上であること。

    □ 短時間労働者(パート)の支払基礎日数が、3ヶ月のいずれも17日未満の場合は、そのうち15日以上17日未満の月の報酬月額の平均によって算定する。

    改定の時期

    4ヶ月目の標準報酬月額から改定することができます。

    決定された標準報酬月額は、1~6月に改定された場合、再び随時改定等がない限り、当年の8月までの各月に適用されます。また、7~12月に改定された場合は、翌年の8月までの各月に適用されます。

    手続方法

    産前産後休業を終了し復職した月から3カ月を経過した後に手続きします。

    産前産後休業を終了した翌日に引き続いて育児休業等を開始した場合は提出できません。その場合は、育児休業等を終了し復職した月から3ヶ月経過した後に、提出することになります。

    被保険者から申出書の提出を受けた事業主が「産前産後休業終了時報酬月額変更届 厚生年金保険 70歳以上被用者産前産後休業終了時報酬月額相当額変更届」を日本年金機構(原則として事業所所在地を管轄する事務センターに郵送)へ提出します。

    会社事務入門社会保険の手続き社会保険算定基礎届>このページ

  • 給与計算の際の社会保険料の計算

    社会保険料の種類

    社会保険料とは、以下のものです。

    ・健康保険料
    ・厚生年金保険料
    ・介護保険料

    健康保険は、医療費に関する保険です。協会けんぽ、健康保険組合、共済組合などが保険者(健康保険の運営主体)です、

    厚生年金保険は、老齢年金などに関する保険です。

    介護保険は、介護に関する保険です。健康保険と一緒に処理します。

    給与計算の際の社会保険料は、従業員負担分を算出するために以下の式で計算します。

    各保険料=標準報酬月額×保険料率÷2

    この社会保険料の計算式に÷2とあるのは、健康保険料や厚生年金保険料・介護保険料は、従業員と会社の双方が折半して納付するためです。

    標準報酬月額とは

    標準報酬月額とは、実際に支給された給与の平均額を、一定の金額の幅に区分された標準報酬月額表に当てはめて算出する数字です。

    したがって、毎月の給料が若干変動しても、標準報酬月額は変動しないようになっています。

    基本的には、毎年4月から6月の賃金をベースに決定し、毎年9月に改定が行われ、1年間同じ標準報酬月額で保険料を計算することになります。

    標準報酬月額の計算に含まれるもの

    標準報酬月額となる前の賃金額には、従業員の労働の対償となる基本給や諸手当が含まれます。

    ・基本給
    ・残業手当
    ・扶養手当
    ・住宅手当
    ・役職手当
    ・通勤手当
    ・年4回以上支給される賞与

    標準報酬月額の計算に含まれないもの

    標準報酬月額を計算する賃金額に含まれないものとしては、以下のものがあります。

    ・祝金・見舞金
    ・出張旅費
    ・年3回以下の賞与
    ・臨時に支給されるもの
    ・退職手当

    新入社員の標準報酬月額の決定

    新入社員の場合は給与の実績がないため、標準報酬月額を算出することができません。そのため、基本給や残業代などは見込で計算し、その見積もり給与を標準報酬月額に当てはめて、社会保険料も計算します。

    標準報酬月額が年度の途中に変わる場合

    また、年度の途中で基本給や家族手当など固定的賃金の変動があり、その月から連続する3ヶ月の賃金の平均が、現在適用されている標準報酬月額と2等級以上の差が発生した場合には、その都度標準報酬月額を改定します。

    このことを随時改定といいます。

    随時改定の際には、社会保険料を変更するだけでなく「被保険者報酬月額変更届」を提出する必要があります。

    詳しくは→社会保険算定基礎届

    健康保険料の計算方法

    健康保険料の従業員負担額は、次の計算式で求めることができます。

    健康保険料(従業員負担額)=標準報酬月額×健康保険料率÷2

    健康保険の運営主体は「全国健康保険協会(協会けんぽ)」と「健康保険組合」がありますが、ここでは協会けんぽについて説明します。

    各都道府県の料率は↓

    厚生年金保険料の計算方法

    厚生年金保険料の従業員負担額は、次の計算式で求めることができます。

    厚生年金保険料(本人負担額)=標準報酬月額×18.300%÷2

    子ども・子育て拠出金

    厚生年金保険の適用事業所の事業主は、厚生年金保険料の他に児童手当の支給に要する費用等の一部を「子ども・子育て拠出金」として拠出することになっています。(従業員の負担はありません。)

    拠出金の額は、被保険者個々の厚生年金保険の標準報酬月額および標準賞与額に、拠出金率(令和2年4月からは0.36%)を乗じて得た額の総額となります。

    介護保険料の計算方法

    従業員が40~64歳の場合は、健康保険料に上乗せする形で介護保険料も納めることになります。介護保険料は次の計算式で求めます。

    介護保険料(本人負担額)=標準報酬月額×介護保険料率÷2

    協会けんぽの場合介護保険料率は、全国一律1.79%です(令和2年3月分=4月納付分から)です。

    賞与も社会保険の対象

    社会保険料は賞与もその対象となります。

    賞与が支給されたときは、標準賞与額に健康保険料率、厚生年金保険料率、40歳以降は介護保険料率を掛けて保険料が計算されます。

    標準賞与額とは

    標準賞与額とは、賞与額の1,000円未満の端数を切り捨てた額のことで、その対象になるのは、給与や賞与等の名称にかかわらず、労働の対償として年3回以下の回数で支給されるものです。

    なお、標準賞与額には上限があり、健康保険は年度累計で573万円、厚生年金保険は年度累計で150万円となっています。

    社会保険料率の改定

    健康保険や介護保険の保険料率は定期的に改定があるので注意が必要です。


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  • 社会保険料の対象になる賃金

    標準報酬月額に含まれる報酬と含まれない報酬

    社会保険料を計算するときは「標準報酬月額」を用います。

    給与などの労働者に対するほとんど全ての給付を標準報酬月額に含めなければなりませんが、一部、含めなくてもよい給付があります。

    下の一覧表を参考にしてください。

    標準報酬月額に含まれる標準報酬月額に含まれない
    【金銭によるもの】
    基本給(月給・週給・日給など)
    各種手当
    (通勤手当、家族手当、住宅手当、役職手当、残業手当、休業手当など)
    賞与、決算手当などで年4回以上支給されるもの
    【金銭によるもの】
    事業主が恩恵的に支給するもの(結婚祝金、病気見舞金、災害見舞金など)
    公的保険給付として受けるもの(傷病手当金、休業補償給付、年金など)
    臨時的、一時的に受けるもの(大入袋(関連記事参照)、解雇予告手当、退職金など)
    実費弁償金的なもの(出張旅費、交際費など)
    年3回まで支給されるもの(賞与など)
    【現物によるもの】
    通勤定期券・回数券
    食事代・食券
    社宅・独身寮
    【現物によるもの】
    食事(本人からの徴収金額が現物給与価額の3分の2以上の場合)
    社宅(本人からの徴収金額が現物給与の価額以上の場合)
    制服・作業服などの勤務服など

    標準報酬月額に含まれない場合、標準賞与額の対象になるものがあります。

    関連記事:大入袋について


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  • 健康保険の被扶養者

    被扶養者に対する給付

    健康保険に加入していれば、病気やケガなどのときに、治療代金などに対する保険給付が行われますが、その被扶養者についても保険給付が行われます。

    被扶養者の範囲

    被扶養者というのは健康保険の用語です。一般的には扶養家族と言い、配偶者や子どものことを言いますが、健康保険の被扶養者はわりに広い範囲の親族が含まれます。

    基本的には被保険者の三親等以内の親族です。被保険者の直系尊属(自分の祖父母、曾祖父母)、配偶者子(自分とは血縁の無い子)、孫、弟妹、兄姉です。

    戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の配偶者については配偶者本人、その父母および子も被扶養者になります。

    血縁関係が遠くなると、同居が条件になる場合があります。被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹については、必ずしも同居している必要はありません。

    国内に居住している必要があります。住民票が国内にあれば原則として要件を満たします。留学生や赴任する者の家族などは、日本に住所を有しない場合でも、日本に生活の基礎があると認められる場合は、省令に規定する条件に合致すれば認められます。

    生計維持の関係

    上記の親族関係にあっても収入があるなど独立して家計を維持している人は被扶養者になれません。

    「主として被保険者に生計を維持されている人」という条件があります。

    これは、被保険者の収入により、その人の暮らしが成り立っていることを意味するのですが、被保険者といっしょに生活をしていなくてもかまいません。別居でも認められます。
    ただし、以下のような収入による判断基準があります。

    同一世帯に属している場合の収入基準

    認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は被扶養者となります。

    上記に該当しない場合であっても、被保険者の年間収入を上回らない場合には、被扶養者となる場合があります。

    同一世帯に属していない場合の収入基準

    認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助による収入額(いわゆる仕送りの額です)より少ない場合には、被扶養者となります。

    扶養から外れる場合

    75歳になると、後期高齢者医療制度の被保険者になるので、健康保険の被扶養者になれません。なっていた人は外れます。

    被扶養者だった人が就職して自身が被保険者になったり、別居や離婚等で生計が別になったり、収入が基準以上に増えたときは被扶養者から外す手続きをとらなければなりません。

    協会けんぽの場合は、「被扶養者資格再確認について」が10月下旬頃に送られてきます。収入等をしっかり確認して提出しましょう。

    年収130万円の壁

    130万円の壁とは、配偶者に扶養されている人がパートなどで働き、年収が130万円以上になると、扶養から外れて国民年金と国民健康保険の保険料を払う必要が出て、結果として手取りが減ってしまう状況を指します。

    厚生労働省より「年収の壁・支援強化パッケージ」が示され、一時的に年収130万円を超えても、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、被扶養者認定を可能とする方針が示されました。

    一時的な事情ということですが、1回限りではなく連続2回認定できるので、2年間は扶養のままでいれることになります。

    ただし、残業手当や繁忙手当等が増加したことで年収130万円を超えた場合に該当します。基本給が上がった場合や、恒常的な手当が新設された場合など、今後も引き続き収入が増えることが確実な場合においては、一時的な収入増加とは認められません。

    令和5年10月20日(厚生労働省通達発出日)以降に行う「被扶養者の収入確認(令和5年度被扶養者現況調査(令和5年11月1日から実施))」に適用されます。

    事業主証明様式は、上記のリンク先(厚生労働省ホームページ)からPDFとWordでダウンロードできます。


    会社事務入門従業員を採用するときの手続き採用時の社会保険手続き>このページ

  • 海外に勤務させるときの社会保険手続き

    海外事業所は適用されない

    社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用を受けるのは日本国内に所在する事業所です。

    日本の企業であっても、国外に置かれた支社等は社会保険の適用事業所になれません。

    社会保険の被保険者になれる人

    国内から給与を受けていれば被保険者

    厚生年金と健康保険の被保険者は「適用事業所に使用される者」と定められています。海外勤務になっても使用関係が継続している限りは、ただちに被保険者資格を喪失するわけではありません。

    労働者が社会保険の適用を受けるかどうかは、「使用される」関係があるかどうかで判断されます。基本的には給料が支払われているかどうかです。

    国内から給与の一部または全部が支払われている場合

    給料が国内から支払われていれば日本の社会保険資格は継続します。給与の一部のみが支払われる場合は、標準報酬月額は国内から支払われる分で決定します。

    被保険者資格が継続していれば、国民年金第3号被保険者である配偶者は、引き続き第3号被保険者のままです。

    国内から給与が全く支払われず、全額現地法人から支払われる場合は、原則として健康保険、厚生年金保険の被保険者資格は喪失します。

    転籍出向の場合は、国内企業との雇用契約を終了させるので、日本での被保険者資格は喪失します。

    現地採用者は、日本人であっても、いわゆる海外派遣には該当しないため、社会保険の適用はありません。現地の法令に従って現地の社会保険等に加入しなければなりません。

    国民年金の扱い

    海外に居住することになれば国民年金の強制加入被保険者ではなくなります。

    ただし、日本国籍がある人は任意加入することができます。

    保険料は、国内にいる親族等の協力者が本人に代わって納める方法と、日本国内に開設している本人の預貯金口座から引落とす方法があります。

    国民健康保険の扱い

    国内に住民票がある場合は国民健康保険に加入することができます。

    健康保険の被保険者であった人は、条件を満たせば健康保険の任意継続被保険者になれます。

    健康保険の海外療養費

    健康保険資格が継続している場合は、現地で支払った医療費を、帰国後に協会けんぽ等に請求できます。

    ただし、支払った額がそのまま支給されるのではなく、同じ傷病を治療した場合にかかる治療費を基準に計算した額が支給されます。

    社会保障協定がある場合

    日本と社会保障協定を締結している国で働く場合は、滞在期間が5年以内であり、かつ、その者が日本の年金制度に加入していることを条件に、相手国の年金保険料等を免除してもらうことができます。

    社会保障協定が締結されていない国の場合は、二重で年金に加入しなければなりません。

    海外旅行傷害保険

    健康保険がいったん全額を個人負担しなければならないのに対して、海外旅行傷害保険は保険会社が契約を結んでいる病院であれば現金不要で治療を受けられます。通常は企業が加入します。

    治療費が高額になる欧米などでは特に海外旅行傷害保険が重視されています。


    会社事務入門社会保険の手続き変更があったときの社会保険手続き>このページ

  • 従業員が死亡したときの手続き

    健康保険・厚生年金保険の手続き

    従業員が死亡したときは、通常の退職手続きと同様の手続きをします。ただし、資格喪失理由が「死亡」になります。

    資格喪失の手続き

    健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を年金事務所(事務センター)に提出して、資格喪失手続きを行います。

    本人ならびに被扶養者の健康保険証を回収します。

    埋葬料・埋葬費の手続き

    健康保険から、埋葬料(費)が支給されます。

    埋葬料は、退職後であっても、資格喪失後3ヶ月以内に亡くなったとき、被保険者だった方が、資格喪失後の傷病手当金または出産手当金の継続給付を受けている間に亡くなったとき、継続給付を受けなくなってから3ヶ月以内に亡くなったときも支給されます。

    遺族年金の給付

    遺族年金の対象遺族がいる場合は、遺族に遺族基礎年金、遺族厚生年金が支給されます。遺族本人による手続きが必要ですが、手続きのやり方等について会社がサポートするのが一般的です。

    関連記事:死亡した従業員の遺族に遺族厚生年金の説明をする(説明文付き)

    労働保険の手続き

    雇用保険の手続き

    雇用保険の資格喪失手続きを行います。雇用保険の給付は行われないので、離職票を発行するなどの手続きは必要ありません

    労災保険の遺族給付

    死亡原因が労災と認定されれば、遺族に対して労災保険から遺族(補償)年金が支給されます。

    遺族に対する事務的なサポートが必要になることがあります。

    所得税と住民税の手続き

    通常退職と同様に、住民税と所得税の手続きが必要です。

    最後の給与及び退職金の支給

    最後の給与を支給します。

    退職金規程により退職金を支給します。

    労働基準監督署への報告

    死亡原因が労災であるときは、労働基準監督署に報告しなければなりません。

    □労働者死傷病報告
    □寄宿舎での事故発生報告

    関連記事:死傷病報告


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