カテゴリー: 労働時間

  • 著しく長い通勤時間による健康への心配

    質問

    私はある会社の人事部長です。プライバシーの問題があるので詳細は語れませんが、ものすごく長い時間をかけて通勤する社員がいて、そのような生活では健康を害するのではないかと懸念しています。注意したことがあるのですが耳を貸しません。今後、その社員が本当に健康を害した場合、会社が安全配慮義務違反等で責任を問われるようなことはないでしょうか?

    回答

    長時間通勤と会社の安全配慮義務

    通勤時間は労働時間に含まれないというのが一般的な解釈ですが、ご懸念の通り、著しく長い通勤時間によって社員の健康が害される場合、会社が労働契約法第5条に定めがある「安全配慮義務」を問われる可能性はゼロではありません。

    ただし、誰がどこに住むかは、日本国憲法第22条で保障されている居住の自由に該当します。けっして強制することはできません。

    考慮すべき点

    通勤時間が直接的に労働時間として評価されないとしても、それが原因で社員の心身に過度な負担がかかり、健康を害する可能性がある場合、会社としては以下のような注意を払うべきでしょう。

    まず、上司が、その社員の疲労やストレスの程度を観察し、健康状態に変化がないか確認することが必要でしょう。

    現時点では「耳を貸さない」状況とのことですが、今後、本当に健康を害してしまった場合に、会社が「注意しただけで、それ以上の対応はしなかった」と判断されると、安全配慮義務を十分に果たしていなかったと見なされるリスクがあります。

    今回のように注意を促した事実があったことは重要なポイントですが、具体的にどのような助言や情報提供を行ったかが重要です。

    例えば、その社員の健康状態を改善するために、例えば配置転換や在宅勤務の可能性、あるいは専門家によるカウンセリングの提案など、会社として何かできることがないか検討したでしょうか。

    今後の対応について

    今後、会社としてできることとしては、以下のような点が考えられます。

    産業医との面談を促したりして、より具体的に健康状態を確認する機会を設け、面談が実施された場合は産業医の意見を参考に会社としてできることを検討する。

    これまでの注意喚起や面談の内容、社員の反応などを記録しておく。

    以上のように、居住の自由がからむので大変デリケートな問題ではありますが、その社員の権利を侵害しないように気を配りつつ、社員の健康を守るという観点で、できることをしつつ見守っていきましょう。。


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  • 着替えしている時間は労働時間に含まれるか

    着替えの時間について質問します

    若い社員(以下、社員): 課長、ちょっとお伺いしたいのですが、私たちの着替えの時間って、労働時間になるのでしょうか? 最近、先輩たちと話してて疑問に思ったんです。

    課長: なるほど、良い質問だね。確かに、普段意識することは少ないかもしれないけど、大事なことだよ。法律には「着替えは労働時間だ」なんて明確な規定はないんだ。だから、人事担当者も判断に迷うことがあるんだよ。

    社員: そうなんですね!てっきり、会社のルールで決まっているものだと思っていました。

    課長: うん。でもね、労働時間になるかどうかのポイントは、「会社からの指揮命令下にあったかどうか」なんだ。これが一番重要視される点なんだよ。

    社員: 指揮命令下ですか…。具体的にどういうことなんでしょう?

    課長: 例えば、過去の裁判例や厚生労働省が出しているガイドラインなんかを参考にするといいんだけれど、いくつかパターンがあるんだ。

    着替えが労働時間になるケース

    課長: まず、着替えが労働時間として認められる可能性が高いのは、次のようなケースだね。

    まず、会社のルールで制服着用が明確に義務付けられている場合だ。就業規則やマニュアルに「制服を着用すること」と明記されていれば、会社が従業員に制服を着るよう義務付けているわけだから、その着替え時間は労働時間と見なされる可能性が高い。

    次に「黙示の命令」がある場合だね。これは、直接「着替えてください」と言われていなくても、制服を着ないと懲戒処分になったり、評価が下がったりするような場合だ。つまり、着替えざるを得ない状況に置かれている場合は、労働時間と判断されやすい。

    それから、会社が更衣室など特定の場所での着替えを指定している場合もそうだよ。もし、会社で着替えるように言われていて、それに従わざるを得ないなら、その時間も労働時間に含まれると考えていい。ただし、自宅で着替えてきてもOKで、通勤時に制服を着てくるのが特に問題ない場合は、会社での着替えが義務とは言えないから、労働時間にはならない可能性もある。ただ、制服で通勤するのが難しい場合は、事実上会社が着替え場所を指定しているとみなされ、労働時間に含まれることもあるんだ。

    あとは、法律で制服着用が義務付けられている場合だね。例えば、警備員や鉄道会社の職員なんかは、法律で制服を着ることが決められているだろう?こういう場合は、着替えの時間も会社の指揮命令下にあると判断されるんだ。

    社員: なるほど、会社からの指示や拘束があるかないか、という視点ですね!

    着替えが労働時間にならないケース

    課長: その通り。逆に、着替えが労働時間と見なされない可能性が高いケースもあるよ。

    一つは、君たちの個人的な都合で着替える場合だね。例えば、会社に制服がなくて、動きやすい私服で出社した後にスーツに着替えたり、仕事の後にプライベートな用事があるから着替えたりするようなケースだ。これは、会社からの指示ではなく、あくまで君自身の意思によるものだから、労働時間にはならない。

    それから、エプロンをつけたり、ジャケットを羽織るだけといった簡易な制服の場合も、労働時間には該当しないことが多いね。着替えにほとんど時間がかからないから、一般的には労働時間とは考えられないんだ。

    最後に、さっきも少し話したけど、通勤時に制服を着用してくることが会社から認められている場合だね。自宅で着替えてくることが許されているなら、会社に着てから着替えを強制されているわけではないから、労働時間にはなりにくいんだ。

    社員: よく分かりました!ありがとうございます。会社の指示があるかどうか、そしてそれがどの程度の拘束力を持つか、というところがポイントなんですね。

    課長: そういうことだね。もし、また何か疑問に思うことがあれば、いつでも聞いてください。


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  • 労働時間における一日とは

    労働基準法上の「一日」とは

    労働基準法では「1日8時間以内、1週間40時間以内」などといわゆる法定労働時間が定められています。

    では、この一日とは何時から何時まででしょうか。

    労働基準法における「一日」は、「午前0時から午後12時までの24時間」、つまり暦日(カレンダー上の日付)を指します。日付が変わると新しい「一日」が始まります。

    ただし、例外があります。

    継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とします。

    夜勤などで、一つの連続した勤務が2つの暦日にまたがる場合には、その連続した勤務全体は、始業時刻(仕事を始めた時間)が属する日の「一日」として取り扱われます。

    翌日になるのは、翌日の始業時刻までとされています。通常の始業時刻を過ぎると2日目になります。

    (注:次の例では、深夜割増賃金については説明を省略しています。いずれの場合でも午後10時00分から午前5時00分までの間の労働に対しては深夜割増賃金の支払が必要です。)

    例1 通常の勤務(暦日内で完結するケース)

    ある労働者が就業規則に定められた所定労働時間の勤務をした場合、例えば、 6月10日 午前9時00分 に仕事を開始し、同日 午後5時00分 に終了した場合は、労働時間は6月10日の午前0時から午後12時までの暦日の範囲に収まっています。

    この日の勤務は、「6月10日の労働」として扱われます。

    例2 継続勤務が2暦日にまたがる場合(始業時刻の属する日とみなされるケース)

    ある労働者が交代勤務に就いて、6月10日午後10時00分に仕事を開始し、6月11日 午前6時00分に終了した場合は、勤務は6月10日に始まって6月11日にまたがっています。この勤務は「6月10日から継続している一つの勤務」とみなされます。

    勤務は11日にかかっているのですが、労働基準法上では「6月10日の労働」として扱われます。もし、勤務が午前6時00分に終わらずに午前7時00分まで延びたとすればその延長分1時間が6月10日の時間外労働となります。

    別な例として、6月10日午後5時00分に一旦帰宅した労働者をその日のうちに呼び戻して午後9時00分から0時を超えて6月11日の午前2時00分まで勤務させたとします。

    この場合は午後9時00分から午前2時00分までの5時間が前日の残業時間となります。中断時間がありますが、前日からの連続勤務として取扱われるのです。

    この例で、午前2時00分に作業が終わらずに、翌日の始業時間に至ったときは、始業時間までが前日の延長で、翌日の始業時間以降が2日目の労働日になります。

    例3 別々の勤務が2暦日にまたがる場合(それぞれの暦日が別々の「一日」とみなされるケース)

    ある労働者が、6月10日に午前9時00分 から 午後5時00分までの勤務をして、翌日、6月11日に午前1時00分から午前9時00分までの勤務をしたとします。

    この場合は、6月10日の勤務は10日の暦日内で完結しています。翌日の勤務は、6月11日の午前1時から始まっているので、これは「6月11日」という新しい暦日の勤務となります。「継続勤務」ではなく独立した勤務として扱います。


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  • 雇用保険の加入条件になっている1週間の所定労働時間についての補足

    社長:先生、ちょっと教えてほしいんですが、パートさんを雇用保険に入れるときは所定労働時間が基準になりますね。その所定労働時間をもう少し説明してくれませんか?

    先生:はい、ご存知のように、原則として1週間の所定労働時間が20時間未満の方は、雇用保険に加入させる必要がありません。ご質問の「所定労働時間」というのは就業規則や雇用契約書などで、その方が「通常の週に勤務することとされている時間」のことを指しています。

    社長:「通常の週」といいますが、祝日とか年末年始の休みが入っている週もありますが、それらの休みが入った週の平均をとるんですか?

    先生:そこがポイントです。この場合の「通常の週」というのは、祝祭日やその振替休日、年末年始、夏季休暇などの会社の特別休日を含まない週のことを指します。平均ではありません。

    社長:わかりました。もう一つ質問がありますが、うちの会社だと、繁忙期と閑散期で労働時間が変わるパートさんもいますが、そういう場合はどうすればいいですか?

    先生:1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合は、その1周期における所定労働時間の平均を1週間の所定労働時間として判断することになっています。例えば、2週間で1サイクルなら、その2週間の合計時間を2で割って、1週間あたりの時間を算出するイメージです。

    社長:う〜ん、そうですか。あと、少数ですが労働時間が1か月単位とか1年単位で決まってる人がいますが、その場合はどうなりますか?

    先生:その場合は、それぞれ以下のように計算します。

    複数週で所定労働時間が定められている場合は各週の平均労働時間を1週間の所定労働時間とします。

    例えば、1か月単位で定められている場合は1か月の所定労働時間を「12分の52(約4.33)」で割って、1週間あたりの時間を算出します。

    1年単位で定めている場合は、1年の所定労働時間を「52」で割って、1週間あたりの時間を算出します。

    社長:なるほど、平均を出さなければならない場合があるということですね。よくわかりました。


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  • 残業がまったくない事業場でも就業規則の定めと三六協定はしておくべき

    残業がない

    必ず定時にあがれる、つまり残業が一切ない事業場もまれにあります。

    しかし、これまではなかったとしても、今後絶対に、1分もないとは言えないと思います。1分は極端な言い方ですが、法的には就業規則の定めがなく三六協定を締結していない状態であれば、1分でも時間外労働をさせれば労働基準法違反になります。これまで問題になったことがなくても、もしもに備えて、必要な手続きはしておくべきです。

    就業規則に「時間外労働をさせることがある」と書いてあって、実際にはまったく残業がなかったとしても全く問題ありません。

    三六協定を届け出して、その後まったく残業がなくても、指導等をされるようなことはありません。

    就業規則

    まず必要な手続きは就業規則の改正です。時間外労働は賃金の一つです。賃金は労働基準法で就業規則に必ず記載しなければならない事項の一つです。

    時間外労働や休日労働をさせることがある旨の規定と、法定時間外労働や法定休日労働が発生した場合の、割増賃金の計算方法について規定しなければなりません。

    関連記事:時間外労働等に対する割増賃金

    三六協定

    従業員に時間外労働や休日労働をさせるには、就業規則の定めだけでは不十分です。時間外労働や休日労働の具体的な内容について労使協定を結んで、労働基準法に届け出なければなりません。この労使協定は、労働基準法第三十六条に定めがあるので、一般的に「三六(さぶろく)協定」といいます。

    関連記事:残業や休日出勤をさせるには三六協定が絶対に必要です

    三六協定がなくても残業させれるケース

    労働基準法第33条第1項に次の規定があります。

    第三十三条災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において(略)労働時間を延長し、又は(略)休日に労働させることができる。

    災害時は別だと規定しています。また「その他避けることのできない事由」のときも別だと規定しています。

    この「その他避けることのできない事由」というのは厳しく解釈しなければなりません。

    例えば、単なる業務の繁忙、その他これに準ずる経営上の必要、通常予見される部分的な修理、定期的な手入れは認められません。

    「臨時の必要」についても厳格です。例えば、病院で患者の容態が急変して対処が必要な場合であっても、そういうことは病院であれば予見できることですから「臨時の必要」に入らないとされています。

    次の記事もご覧ください。

    関連記事:災害時の時間外労働


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  • 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準とは

    基準の概要

    自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示=令和4年厚生労働省告示第367号)は、トラック、バスおよびタクシー・ハイヤーのドライバーの労働時間に関する上限などを定める基準です。令和4年12月23日に改正され、令和6年4月1日から適用されました。

    拘束時間、運転時間、休息時間、休日労働に分けて概略を記載します。

    拘束時間

    始業から終業までの休憩時間等を含めた時間が拘束時間です。

    トラック運転手の拘束時間

    1日の拘束時間が13時間以内(上限15時間、ただし14時間を超えるのは週2回までが目安)です。

    また、1年間の拘束時間は3300時間以内、1か月の拘束時間は284時間以内です。

    バス運転手の拘束時間

    1日の拘束時間が13時間以内(上限15時間、ただし14時間を超えるのは週3回までが目安)です。

    また、1年間の拘束時間は3300時間以内、1か月の拘束時間は281時間以内です。

    タクシー・ハイヤー運転手の拘束時間

    1日の拘束時間が13時間以内(上限15時間、ただし14時間を超えるのは週3回までが目安)です。

    1か月の拘束時間は288時間以内です。

    運転時間

    運転時間とは、実際に自動車を運転している時間です。

    トラック運転手の運転時間制限

    連続して運転できる時間は4時間以内です。

    運転の中断時には原則として休憩を与える必要があります。休憩は1回連続10分以上、合計30分以上必要です。

    バス運転手の運転時間制限

    連続して運転できる時間は4時間以内です。

    運転の中断は1回連続10分以上、合計30分以上必要です。

    高速バス・貸切バスの高速道路の実車運行期間を運転している連続運転時間は概ね2時間までの努力義務がつきました。

    休息時間

    ここで言う休息時間とは(休憩とは違います)、業務が終了してから次の業務開始までの時間、いわゆる勤務間インターバルのことです。

    1日の休息時間は継続11時間以上与えるよう努めることを基準とし、原則9時間を下回らないことになりました。

    休日労働

    トラック・バス・タクシー・ハイヤー運転手に共通して、休日の労働は2週間に1回を超えないこと、また休日労働によってそれぞれの拘束時間の上限を超えないことが原則になっています。

    改善基準告示

    上記は抜粋です。詳細については下記の厚生労働省サイトをご覧ください。


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