Last Updated on 2025年9月11日 by 勝
太古の物々交換から始まる物語
現代社会に生きる私たちは、必要なものをほとんど自分で作りません。朝食のパンも、着ている服も、スマホも、すべて誰かが作ったものを「買う」のが当たり前です。なぜ、このような分業体制が当たり前になったのでしょうか。その答えを探るヒントは、太古の昔にまで遡ることができます。
大昔、人々は自給自足の生活を営んでいました。食料は狩りや採集で手に入れ、着る物や住居も自分たちの手で作り、それで生活をまかなっていたといいます。しかし、それでは毎日を生きるのが精一杯です。そこで、人々はより効率的な生活を求め、自然と「分業」を始めるようになりました。
海辺に住む漁師のウミサチさんが、一日3尾の魚で満腹になるとしましょう。それ以上魚を獲っても腐らせてしまうため、残りの時間は昼寝をして過ごしていました。ところが、ある日、山で暮らすヤマサチさんが山芋を手に海辺へやって来ました。
「この山芋を、魚と交換してくれないか?」
ウミサチさんは快く魚を1尾差し出し、山芋を受け取りました。山芋は普段食べない珍しいもので、その美味しさに驚きます。この出来事をきっかけに、ウミサチさんは「魚をたくさん獲れば、たくさんの山芋と交換できる」ということに気がつきます。
しかし、魚をたくさん獲るには、一人では大変です。腕は疲れるし、時間もかかる。そこで、近くにいたウラシマさんに声をかけました。
「釣り道具は僕が貸すから、魚を釣ってくれないか。釣れた魚は半分を君のものにしていい。残りの半分を僕に持ってきてくれたまえ。」
こうしてウミサチさんは、自分の労力を減らしながら、交換できる魚の量を増やすことに成功しました。これが、「雇用」の始まりです。ウミサチさんのように、自らは道具と場所を提供し、他者の労働力を活用して利益を増やすという仕組みが、やがて「会社」という形に発展していくのです。
なぜ個人事業主ではいけないのか?
ウミサチさんのように個人で事業を営むことを、現代では「個人事業主」と呼びます。ラーメン屋さんや八百屋さん、フリーランスのデザイナーなど、この形態で成功している人はたくさんいます。しかし、個人の力には限界があります。より大きな事業、例えば全国に店舗を構えたり、巨大な工場を建てて自動車を生産したりするには、個人では到底まかないきれない、莫大な資金と労働力が必要になります。
そこで生まれたのが、「会社」という仕組みです。会社とは、お金とヒトを集め、大きな事業を継続的に行うための、いわば「経済活動を加速させるための発明」なのです。
現代の主流「株式会社」の秘密
あなたが所属する会社の名前に、「株式会社」という文字は含まれているでしょうか? 会社の形態には様々なものがありますが、代表的なものがこの株式会社です。これは、法律で定められた名称であり、勝手に名乗ることは許されません。
では、なぜ人々は株式会社を設立するのでしょうか。最大の理由は、「お金を集めやすい」からです。工場や機械、材料の購入、そして従業員を雇うためにも、事業には常に資金が必要です。特に大規模な事業であれば、その金額は個人では到底用意できません。
そこで、会社は「株式」という一種の証明書を発行し、資金を出してくれる人を募ります。この株式を購入してお金を出してくれた人を「株主」と呼びます。株主は、会社が将来生み出す利益を期待して投資する、いわば会社のスポンサーです。
そして、株式会社がこれほど広まったのには、「有限責任」という非常に重要な仕組みがあります。もし会社が倒産しても、株主は出資した金額以上の責任を負う必要がないのです。この「万が一の損失が限定的である」という安心感があるからこそ、多くの人が投資しやすくなり、会社はより多額の資金を集めることができるのです。
会社は誰のもの?
株主は、ただお金を出しているだけではありません。法律上、株主こそが会社を「所有」している人とみなされます。これは、株主が会社の重要な意思決定に参加する「議決権」を持つことや、会社の利益を「配当」として受け取る権利を持つことからもわかります。
一方、社長は、必ずしも株主であるとは限りません。
- オーナー社長: 会社の株式を多く所有する社長は「オーナー社長」と呼ばれ、強い権力を持つことが多いです。
- プロ社長: 一方、株主から会社の経営を任されている社長は、いわば株主に雇われた「プロの経営者」です。
株主がプロ社長に求める最大の期待は、会社を大きく成長させ、利益を上げてくれることです。近年では、株主の目がますます厳しくなり、赤字が続けば社長の交代を求める声も少なくありません。特に、巨大な資金を運用する機関投資家や、短期的な利益を追求するアクティビスト株主の存在は、社長にとって大きなプレッシャーとなっています。
会社とは、個人の力では成し遂げられない夢を、多くの人々の資金と労働力を結集させて実現するための器なのです。
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