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取締役と監査役

株主が取締役の責任を追及する訴訟を株主代表訴訟という

Last Updated on 2021年4月14日 by

株主代表訴訟とは

株主代表訴訟とは、会社の経営者である取締役の経営責任を、株主が会社に代わって追及し損害賠償を請求する訴訟のことです。

会社法第847条に規定があります。

会社法では、「責任追及等の訴え」といいますが、一般的には「株主代表訴訟」といいます。

取締役等(取締役のほか監査役、執行役、清算人等)の違法行為や定款違反、経営判断のミスなどによって会社が損害を被った場合、会社がその取締役等の責任を追及しなければ、株主が会社に代わってその役員に対して損害賠償などを求めることができるというものです。

そもそも、取締役等の責任で会社が損害を受けた場合には、会社がその取締役に対して損害賠償を請求するのが本来のあり方です。

しかし、会社はその取締役によって運営されているので、取締役の責任を追及しないこともあり得ます。

そこで、個々の株主が会社の代りに取締役の法的責任を追及する制度が設けられているのです。

訴える場合に必要な手数料は現状13,000円と少額です。

会社に代わって訴訟するという意味で「代表」と言います。会社に代わって訴訟するので、株主が勝訴しても、賠償金を得るのは会社です。訴訟を提起した株主に賠償金が入ることはありません。

株主代表訴訟の提起

取締役が会社に損害を与えても、株主がすぐに裁判所に訴状を出すことはできません。

取締役を訴えるのは本来は会社の役目なのですから、株主は、まずは会社に対して、その取締役に対して損害賠償請求の訴訟を提起するよう請求しなければなりません。

この請求を受けて、会社は、その取締役に法的責任があるかどうかの調査を行い、訴訟を提起するか否かを、60日の検討期間中に判断します。

検討期間の60日が経過しても会社が訴訟を提起しない場合、そこではじめて株主が会社の代わりに「株主代表訴訟」を提起することができるようになります。

原告となる資格

原告になれる株主は、1単元(議決権行使や売買の最低単位のことです)以上を持っている株主です。また、6ヶ月前からその株式を持っていなければなりません。(上場企業でない場合はこの6ヶ月ルールがありません)。

取締役の責任の範囲

株主代表訴訟において追及することができる取締役の責任の範囲は、いろいろな説があります。

取締役が会社に対して負う「一切の」債務が株主代表訴訟の対象になるとする説が有力ですが、学説や裁判例で、限定的にとらえている例もあります。

範囲が明確でないので、取締役としては、「一切の」責任を負うことを前提に行動し対策を講じていくことが必要です。

会社に直接損害を与えた取締役本人だけでなく、他の取締役も責任を追及される可能性があります。

取締役会の決議を経た行動については、決議された行為によって会社に損害が発生した場合には、実際に行為をした取締役だけでなく、その決議に賛成をした取締役も同じ責任を負うことになります。

この責任から逃れるためには、その決議に異議を述べたということが取締役会の議事録に記録されている必要があります。

違法行為はやむを得ないとしても経営判断の誤りでも対象になるか

贈賄、脱税など、法律に違反する行為で会社に損害を与えたということになると、ほぼ責任は免れないでしょう。

経営判断の誤りに関しては、取締役の責任が認められにくいようです。

不当な訴訟への対応

そもそも取締役は、会社のために経営判断を行うのが仕事なので、その判断がたまたま裏目に出たという場合に、全ての責任を取締役が負わなければならないということであれば、失敗の確立が少しでもある行動はとれないことになり、会社の経営は縮小に向かってしまいます。

株主が、自分や第三者が不正な利益を得ることや、会社に損害を与えることを目的に株主代表訴訟を提起することはできません。

株主代表訴訟の被告となった取締役は、原告の株主に「悪意」があることを裁判所に疎明して、原告である株主に担保を提供させるよう裁判所に対して申し立てることができます。

また、裁判所が訴えを却下することもあります。

裁判所に却下されるような訴訟は、訴訟権の濫用ということになるので、被告となった取締役は、原告となった株主に対して、逆に損害賠償請求をすることができます。

株主の訴訟費用

株主代表訴訟を提起する際に裁判所へ納める手数料額は一律1万3000円と低額です。

通常の損害賠償請求事件では、請求額1000万円の場合の手数料額は5万円、請求額1億円の場合の手数料額は32万円など、請求額に応じて高くなるので、軽い気持ちで訴訟を提起することはできません。株主代表訴訟、原告に負担がかからないように非常に低額に抑えられています。

ただし、弁護士報酬については制限がないので、原告としては大きな負担になります。

会社が補償することについて

令和元年12月4日に、会社法の一部を改正する法律が成立しました。

賠償金や和解金を会社が補償するための手続きや会社補償ができる範囲ついての規定が設けられました。

会社は、取締役会決議にもとづく取締役との補償契約にもとづいて費用や賠償金等を補償することができます。これは、取締役会非設置会社においては株主総会普通決議になります。(430条の2第1項)

会社が補償できない部分もあります。(430条の2第2項)

① 応訴費用等のうち通常要する費用の額を超える部分

② 会社が第三者に賠償した場合に役員等が会社に対して任務懈怠責任を負う部分

③ 役員等が悪意または重過失により責任を負うべき部分

利益相反取引規制は、適用除外されます。(430条の2第6項)

補償契約に基づく補償をした取締役及び当該補償を受けた取締役は、遅滞なく、当該補償に関する重要な事実を取締役会に報告しなければなりません。(430条の2第4項)。

会社役員賠償責任保険

取締役や会社が負担する費用についての対策として「会社役員賠償責任保険」があります。

会社が加入するほか、取締役自身が自己の負担で加入することもあります。

この保険は、違法行為による取締役の損害賠償責任は原則として補償の対象外です。経営判断の結果による損賠賠償については、契約内容や特約の有無によってカバーされる損害の範囲が異なります。

この保険について、令和元年12月4日に、会社法の一部を改正する法律が成立しました。

これまでは、会社が役員等を被保険者とする役員等賠償責任保険(D&O保険)に加入することについて、直接に定めた規定はありませんでしたが、改正法で、取締役会決議によって、役員等賠償責任保険契約の内容を決定することができるようするための手続き規定が設けられました。になりました。取締役会非設置会社においては株主総会普通決議です。(430条の3第2項)

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