「4つのメンタルヘルスケア」とは?わかりやすく解説

Last Updated on 2025年9月14日 by

厚生労働省の指針に基づき、「4つのメンタルヘルスケア」を会社のメンタルヘルスケア担当者向けに解説します。

はじめに:4つのケアの全体像

「4つのメンタルヘルスケア」とは、企業におけるメンタルヘルス対策を効果的に進めるための役割分担と連携体制を示すものです。これにより、従業員の心の健康を多角的にサポートする体制を構築します。

1. セルフケア

セルフケアとは、従業員一人ひとりが、自身のストレスに気づき、これを予防・軽減するための自主的な取り組みです。

担当者が行うべきこと:

  • メンタルヘルス教育の実施: 従業員がストレスや心の健康について正しく理解できるよう、研修やe-ラーニングを提供します。
  • 情報提供: 社内報やウェブサイトを通じて、セルフチェックツールやリフレッシュ方法などの情報を提供し、セルフケアを促します。
  • ストレスチェックの実施: 法令に基づきストレスチェックを定期的に実施し、従業員が自身のストレス状態を把握する機会を提供します。

2. ラインによるケア

ラインによるケアとは、管理監督者(上司)が、部下の心の健康をきめ細かくサポートすることです。部下の変化に最も早く気づくことができる上司の役割は非常に重要です。

担当者が行うべきこと:

  • 管理職向け研修の実施: 管理職が部下の不調のサイン(例:遅刻や欠勤の増加、表情の変化、業務効率の低下など)に気づき、適切に対応できるよう、具体的な対応方法を学ぶ研修を実施します。
  • 相談体制の構築: 管理職が一人で抱え込まないよう、産業医や人事担当者への相談ルートを明確にします。
  • 職場環境改善のサポート: 管理職が部下の意見を吸い上げ、円滑なコミュニケーションやハラスメント防止など、健康的な職場環境を維持できるよう支援します。

3. 事業場内産業保健スタッフ等によるケア

事業場内産業保健スタッフ等によるケアとは、社内の産業医、保健師、心理職などが、専門的な立場から行うケアです。

担当者が行うべきこと:

  • 専門家との連携体制の構築: 産業医や保健師の助言が、組織運営や個別の事案に活かされるよう、日頃から密接に連携します。
  • 相談窓口の運営: 従業員が安心して相談できるよう、守秘義務が守られる相談窓口を設置・周知します。
  • 専門的意見の活用: 休職や復職の判断、長時間労働者の面接指導など、専門的な知識が必要な場面で、積極的に産業保健スタッフの意見を求めます。

4. 事業場外資源によるケア

事業場外資源によるケアとは、外部の医療機関や専門機関(EAPサービスなど)を活用したケアです。社内だけでは対応が難しい専門的な事案に対応します。

担当者が行うべきこと:

  • 外部サービスとの契約: 従業員が専門的なカウンセリングや治療を必要とする場合に備え、外部の相談機関や医療機関と連携します。
  • 情報提供と周知: 従業員に対して、外部相談窓口の利用方法や連絡先を明確に案内し、利用を促します。
  • プライバシー保護: 外部機関を利用する場合も、従業員のプライバシーが確実に保護されるよう、契約内容などを慎重に確認します。

メンタルヘルスケアスタッフの役割

メンタルヘルスケアにおける産業医、衛生管理者、職場内保健師の役割について、それぞれ解説します。

産業医の役割

産業医は、専門的な医学知識に基づき、労働者の健康管理全般について助言・指導を行う医師です。メンタルヘルスケアにおいては、特に以下の役割を担います。

  • 専門的な面談と助言: 精神的な不調を訴える従業員や、長時間労働者に対して面接指導を行い、健康状態を医学的な観点から判断します。
  • 休職・復職の判断: 休職が必要かどうかの医学的意見を述べたり、復職する際の可否や、就業上の配慮事項(勤務時間の短縮、業務内容の変更など)について企業に提言します。
  • 職場環境の改善: ストレスチェックの結果分析や職場巡視を通じて、職場環境における健康リスクを評価し、改善策について会社に助言します。

衛生管理者の役割

衛生管理者は、労働者の作業環境や衛生状態を管理する専門家です。メンタルヘルスケアにおいては、産業医や保健師と連携し、物理的な環境整備を通じて精神的な負担を軽減する役割も担います。

  • 作業環境のチェックと改善: 照明、温度、騒音などの物理的な労働環境をチェックし、従業員のストレス要因を特定・改善します。
  • 衛生委員会の運営: 衛生委員会に参加し、メンタルヘルスに関する議題(ストレスチェックの結果、長時間労働の状況など)について、専門的な立場から意見を述べます。
  • 情報提供と連携: 労働安全衛生に関する法規や情報を収集し、従業員や管理職に提供します。また、産業医や保健師と密に連携し、職場の状況を共有します。

職場内保健師の役割

職場内保健師は、従業員の心身の健康相談に応じ、継続的なサポートを提供する専門家です。産業医と連携しつつ、より従業員に身近な存在として、メンタルヘルスケアの中心的役割を果たします。

  • 従業員への個別相談: 精神的な不調を抱える従業員からの相談に初期段階で応じ、傾聴や助言を行います。必要に応じて、産業医や外部機関への受診を促します。
  • 管理職へのサポート: 部下の不調に悩む管理職に対して、具体的な対応方法や声のかけ方についてアドバイスします。
  • 情報提供と教育: メンタルヘルスに関する予防的な研修や、情報発信を積極的に行います。ストレスチェックの事後措置として、結果の見方やセルフケアの方法を個別に説明することもあります。

これらの専門家が連携することで、企業のメンタルヘルスケア体制はより専門的かつ包括的なものになります。産業医が医学的な診断や提言を行い、衛生管理者が物理的な環境を整え、保健師が従業員一人ひとりに寄り添うことで、予防から復帰まで一貫したサポートが可能になります。

事業場外資源とは

事業場外資源とは、企業が自社の従業員の心の健康をケアするために活用する、外部の専門機関や専門家のことです。社内の産業医や保健師だけでは対応が難しい、より専門的・独立したサポートが必要な場合に利用します。

具体的には、以下のような機関・施設が挙げられます。

1. 従業員支援プログラム (EAP) サービス

EAP(Employee Assistance Program)は、企業が外部の専門機関と契約し、従業員やその家族に電話、メール、対面などでカウンセリングを提供するサービスです。メンタルヘルスだけでなく、仕事の人間関係、家庭内の問題、ハラスメントなど、多岐にわたる相談に対応します。EAPは独立した第三者機関であるため、従業員はプライバシーが守られるという安心感から、より気軽に相談できます。

2. 医療機関

精神科、心療内科、カウンセリングクリニックなどの医療機関は、精神疾患の診断や治療、専門的なカウンセリングを行います。特に、メンタルヘルス不調者が休職・復職を検討する際には、主治医の診断書が不可欠となります。企業は、必要に応じてこれらの医療機関と連携し、従業員の治療をサポートします。

3. 公的支援機関

以下のような公的な支援機関も、事業場外資源として活用できます。

  • 地域産業保健センター:労働者50人未満の小規模事業場に対して、産業医による健康相談やメンタルヘルス相談などを無料で提供しています。
  • 産業保健総合支援センター:産業保健に関する総合的な支援を行う機関で、企業の人事労務担当者や産業保健スタッフ向けに、メンタルヘルス対策の相談や研修などを行っています。
  • 保健所・精神保健福祉センター:地域住民の心の健康に関する相談窓口を設けており、企業が従業員に情報提供することも可能です。

これらの事業場外資源を適切に活用することで、社内のリソースだけでは限界のあるケアを補い、従業員に安心感を与える多層的なサポート体制を築くことができます。


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