Last Updated on 2023年10月18日 by 勝
基本的な姿勢
ハラスメント調査は、ハラスメント相談の受付から当事者及び関係者への事情聴取を経て事実認定をするまでが範囲です。
まず、前提としてハラスメント相談窓口が設置されている必要があります。
ハラスメント調査を行う者は、まず、相談者に寄り添う姿勢で、それでいて先入観をもたずに中立的な立場で、迅速に調査を開始しなければなりません。
まず、相談者の言い分を中心に傾聴することに注力すべきです。
ただし、相談者は、事実関係を調査する前に事実があったと決めつけるような対応をしてはいけません。
相談があったにもかかわらず、放置することは許されません。
相談を受け付ける
相談担当者を決定する
相談申込みに対して、受付した当人がそのまま相談に応じることもありますが、もっと適任な人がいる場合もあります。できれば当日その場で相談を開始できればよいのですが、そうでない場合は速やかに相談日程を決めて、担当者や日時場所等を連絡しましょう。
また、相談者にとって苦手な人や当該事柄に何らかの関係がある人を担当者に決めると不信感をもたれて、その後の対応に悪い影響があるので、相談者には希望があれば担当者の交替を求めることができることを伝えましょう。ただし、相談者の指名に従うと中立的な立場を維持できなくなるおそれがあるので、あくまでも誰が担当するかは会社が決めることであることもを伝えましょう。
相談者の意向を確認する
相談者の中には相手とのトラブルをおそれて、自分の配置転換などを希望するものの調査はしないでほしいと要望する人もいます。
ハラスメントは相談者本人だけの問題でない場合もあるので、会社としては当人がためらっても調査を開始するべきなので、可能な限りの相談者保護措置を取ることを約束したうえで、調査に進むことを説得すべきです。
それでも、相談者が頑なに調査を拒否するのであれば、相談者の意向を尊重せざるを得ません。しかし、しかし、ハラスメントを放置することはできないので、相談があったことを伏せて、当該職場に何か問題がないかどうか、一般的な情報収集をすることは必要です。また、相談内容を抽象化して、ハラスメントに関する改めての通知を発するなどをして再発防止措置をとっておきましょう。
関係者への事情聴取
相談者からの申告内容をもとに、事情聴取すべき対象を決定します。相談者からも改めて聴取します。相談者からは録音等の証拠があれば提出してもらいます。行為者本人からの聴取は欠かせません。また、行為者の上司、相談者の上司、目撃している可能性がある同僚のなかから事情聴取の対象者を選びます。
事前に、ある程度事案を整理し、疑問点や争点になりそうな部分を洗い出し、聴取する項目をまとめた書面を用意しましょう。
行為者と上司、同僚等から事情聴取が終わった段階で証言に食い違いがでてきたら再度事情聴取を行います。
流れとしては、まず相談者の言い分を聞き、それに対する相手方の言い分や認識を聞いたうえで、争いのある部分を中心に第三者に確認するという流れになります。なるべく同日に実施して、口裏合わせや証拠隠滅の可能性を減らすようにしましょう。
記録を残す
後日、言った言わないの水掛け論を避けるために、原則として聴取内容は録音しましょう。隠し録音でなく、録音又は録画することを聴取対象者に明確に告げる必要があります。録音することを拒み説得にも応じない場合は、録画の強制はできないので記録係による聴取書面作成にします。記録係は複数を配置し、発言を言った通りに記録することを心がけるようにします。
走り書きのメモも重要な証拠書類になります。録音がある場合でもメモをとりながら聴取しましょう。メモはなるべくその日のうちに文書化しておきましょう。ただし、文書化しても当初のメモを破棄してはいけません。
プライバシーへの配慮
相談受付、調査の記録には関係者のプライバシーが記載されています。部外者が見ることができないような厳重な管理が必要です。
事情聴取にあたってはプライバシーに対する配慮が大事です。聴取対象者から秘密保持の誓約書を出してもらうことも考えましょう。
誓約書例
ハラスメント調査についての誓約書
◯◯株式会社◯◯部長殿
私は、 年 月 日 時 分から 時 分まで、会社のハラスメント調査担当者である◯◯氏による事情聴取に応じましたが、その際知ることになった当該ハラスメントの内容や被害者と加害者とされる方の情報、私に対する質問内容とそれに対する私の回答など、当該調査に関わる一切の情報を第三者に口外しないことを誓約いたします。
年 月 日
署名 ◯◯◯◯
暫定措置の実施
事情聴取を開始するときには、相手方に対して、相談者への報復はもちろん、相談者や目撃者との接触を禁止することを申し渡す必要があります。
また、相談者と相手方の席が近いなど接触する機会が多い場合には、相談者の希望を聞いて席の変更などの措置をとることも考えられます。
ハラスメントがあったことがほぼ確実で、行為者の存在が調査の障害になる場合には、調査のための自宅待機を命ずる選択肢もあり得ます。ただし、懲戒等による出勤停止でなく会社都合による自宅待機なので、賃金を支払う必要があります。この場合、調査を迅速に進めて自宅待機期間は可能な限り短くする必要があります。
事実認定
事情聴取や証拠収集により、争いのある部分と争いのない部分が明確になってきます。争いのない部分はそのまま認定できますが、争いのある部分については、どちらの言い分を採用するか、いわゆる事実認定をする必要があります。
しかし、ハラスメントは証拠証言が乏しいときは事実認定が極めて難しいことがあります。
そのような場合にも原則として白黒つけなければなりませんが、調査の結果真相は不明という決着もありえます。
そうした場合は、相談者に対して会社が行う調査の限界を伝え、相談者は労働局雇用均等室等に相談申告できることを伝えることになります。また、相手方に対しては、相談者の相談は正当な権利であってこれに報復的な行動をとると責任を問われる事態になることを伝えて慎重に行動することを求めます。
事実認定は、あくまでもどのような事実があったかを認定することであり、その事実に対してどのような措置(処分等)をするかは次の段階になります。
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