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Q&A 労働基準法

年次有給休暇に関するよくある質問(管理職向け)のサンプル

Last Updated on 2025年7月13日 by

年次有給休暇に関するよくある質問(管理職向け)

― 管理職として知っておくべき基本と注意点 ―

Q1.そもそも「年次有給休暇」とは何ですか?

A.
年次有給休暇(有給休暇)は、労働基準法第39条に基づいて、一定の条件を満たした労働者が、賃金をもらいながら休むことができる権利です。

主なポイントは以下の通りです:

入社日から6か月間継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した労働者に付与されます。

週5日勤務の場合、初年度は10日間付与され、以降、勤続年数に応じて増加します。

労働者が取得日を自由に指定できる(時季指定権)のが原則です。

会社側は、業務に「著しい支障」がある場合に限り、取得日を変更できる(時季変更権)とされています。

年次有給休暇は、働く人の健康・生活を支える基本的な権利です。管理職の皆さまは、法的なルールを理解した上で、部下の取得を妨げず、むしろ促進する姿勢が求められています。部下から有給休暇の希望があった際は、難しいと思う場合でも「希望の日に休めるよう、できるだけ調整してみよう」と伝え、関係者と協議してください。

Q2.「年5日の有給休暇取得義務」とは何ですか?会社としてどのように対応すればよいですか?

A. 企業には「年10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者」に対して、年間5日間の年次有給休暇を確実に取得させる義務が課せられています。これは、労働者からの請求がなくても、会社側が時季を指定して取得させなければならない義務です。

対応方法:

時季指定による取得: 労働者の意見を聴き、その意見を尊重した上で、会社が取得時季を指定して取得させます。

計画的付与制度の活用: Q5で説明する計画的付与制度を活用し、労使協定に基づいて5日を超える部分と合わせて取得させることも可能です。

労働者からの自主的な取得: 労働者が年間5日以上を自主的に取得していれば、会社が別途時季指定をする必要はありません。

管理職の皆さまは、部下それぞれの有給休暇取得状況を常に把握し、計画的に取得が進むよう声かけや調整を行ってください。もし年間の取得日数が5日に満たない部下がいる場合は、個別に面談し、取得を促す必要があります。

Q3.会社が時季変更権を行使できる業務に「著しい支障」とは、どんな場合ですか?

A.
業務に「著しい支障」とは、単に忙しい・人手が足りないといった理由だけでは足りず、客観的に見て、事業運営に重大な支障が生じるような状況を指します。

労働基準法第39条第5項に基づき、使用者は「時季変更権」を持ちますが、その行使は例外的な場合に限られ、慎重に判断する必要があります。

具体的には、以下のようなケースが「著しい支障」と認められる可能性があります。

同じ業務を担当する社員が多数同時に有給休暇を申請し、代替要員の確保が著しく困難な場合

年末年始や決算期など、業務の繁忙期に、全体の体制が機能不全に陥るおそれがある場合

突発的なトラブルや災害等で、一時的に緊急対応が不可欠であり、特定の社員の不在が直接的な危機につながる場合

一方で、以下のような理由では時季変更権の行使は正当とは認められにくいです:

「ただでさえ人手が少ないから」

「他の人も同じ日に休む予定だったから」

「上司の許可を得る前に申請したから」

「特定個人の業務経験が浅い」

「会社が代替要員を確保するための努力をしていない」

労働者に時季変更を申し出る際は、「誰が」「どんな業務に」「どの程度の具体的な支障が出るか」を明確にし、本人に丁寧に説明してください。代替日を複数提案するなど、柔軟な対応が強く求められます。

Q4.欠勤を勝手に有給休暇扱いにしても問題ありませんか?

A.
それは違法行為にあたる可能性が高いです。年次有給休暇は、労働者が「いつ取得するか」を指定する権利(時季指定権)を持っています。

以下のような事例は、すべて違法な取り扱いとなります:

労働者が欠勤した日なのに、本人の許可なく有給休暇扱いにした。

シフト表上で、本人の同意なしに有給休暇を勝手に組み込んでいた。

お盆休みや正月休みなどの会社指定の休業日を、有給休暇に充当した。

退職を申し出た労働者に対し、「有給休暇はない」と一方的に指導した。

これらは、労働者の意思を無視した取り扱いであり、「労働者の時季指定権の侵害」となります。

たとえ「欠勤で給料が減るより、有給休暇扱いにしてあげたほうが親切だ」という意図があったとしても、それは違法です。有給休暇は「労働者の請求により与える」と法律で定められており(労働基準法第39条)、本人の明確な申請がない限り成立しません。

Q5.計画的付与については強制的に割り振ってもよいのでは?

A.
はい、会社は有給休暇の計画的付与について、「強制的に」割り振ることができます。ただし、そのためにはいくつかの重要な条件があります。

最も重要なポイントは、労使協定の締結です。

年次有給休暇の計画的付与を行うには、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者との間で、書面による労使協定を締結する必要があります。この協定がないと、会社が一方的に有給休暇の取得日を指定することはできません。逆に言えば、この協定がある場合には、会社は計画に沿って有給休暇の取得日を指定することができます。

計画的付与の対象となるのは、年次有給休暇の付与日数のうち「5日を超える部分」のみです。つまり、従業員が自由に取得できる有給休暇を最低でも5日は残しておく必要があります。

一度労使協定で定めた計画的付与日については、原則として会社も従業員も時季変更権を行使できません。つまり、一度決めた計画的付与日は特別な事情がない限り変更できないということです。やむを得ない事情で変更が必要な場合は、再度労使協定に基づき協議したり、再締結したりする必要があります。

また、計画的付与の日に有給休暇の残日数が足りない従業員(例:新入社員でまだ有給が付与されていない、病欠などで有給を使い切ってしまったなど)がいる場合は、会社はその日を「休日」とするか、特別休暇を与えるなどの対応が必要です。無給の欠勤とすると、労働者の不利益となるため注意してください。

Q6.管理職のどのような言動が良くないのか具体的に教えてください?

A.
以下に、実務上ありがちな「NGな言動」とその理由を整理します。これらは、違法な取扱いやパワーハラスメント(パワハラ)に該当するおそれもあります。

「忙しいから休まないでくれ」
理由: 時季変更権を行使できるのは「業務に著しい支障」があるときだけです。「忙しいから」だけでは時季変更の正当な理由にはなりません。

「他の人と被るからやめてくれ」
理由: 取得希望が被った場合、調整を図るのは上司の役割です。取得を諦めさせることは違法または不適切です。

「こんな時期に取るなんて非常識だ」
理由: 労働者には休暇を取る自由があります。「非常識」といった表現は、取得を心理的に抑圧するハラスメント的言動にあたるおそれがあります。

「また有給?そんなに取って大丈夫?」
理由: 年次有給休暇は法で認められた労働者の権利です。繰り返し取得を指摘することは、権利の行使に対する萎縮効果を生みます。

「有給は病気のときだけにして」
理由: 年次有給休暇の取得目的に制限はありません。私用やリフレッシュなども正当な理由です。

「みんな我慢してるのに君だけ休むの?」
理由: 「同調圧力」や「集団への不満の誘導」は、取得を抑制する間接的ハラスメントにつながります。

「来月は忙しくなるから今月は取らないで」
理由: 忙しさを理由に取得時期を限定することは原則違法です。業務上支障がある場合は「時季変更」を個別に説明・調整する必要があります。

(申請を無視し)「ちょっと保留で」
理由: 明確な理由なく申請を遅らせる行為は、黙示の拒否または心理的抑圧と受け取られる可能性があります。申請があった場合は、迅速に承認するか、時季変更権行使の正当な理由を説明する必要があります。

Q7.NGな言動をとるとどうなりますか?

A.
管理職の皆さんの言動が不適切だった場合、以下のような問題が発生する可能性があります。

労働基準監督署による是正指導:
労働者が労働基準監督署に相談した場合、会社に対して是正指導が入る可能性があります。これは、管理職の行動が会社全体の法令遵守意識を問われることになるため、慎重な言動が必要です。

ハラスメントとして認定される可能性:
会社が定めた方針や就業規則に記載されているハラスメントに関する規定(パワーハラスメントなど)に該当するおそれがあります。その場合、社内での指導や、場合によっては懲戒処分の対象となる可能性もありますので、十分に注意してください。

従業員のモチベーション低下・離職:
有給休暇の取得を妨げられることは、従業員の会社への不信感や不満につながり、モチベーションの低下や、最悪の場合、離職の原因となることもあります。

企業のレピュテーション(評判)への影響:
SNSなどによる情報拡散で、企業の評判が低下するリスクもあります。


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