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採用に際して身元保証人を求めるときの注意点

Last Updated on 2023年9月23日 by

身元保証人とは

身元保証人とは、従業員が入社するに際して、従業員の親族等にその従業員の経歴や素性に問題がないことを保証させ、万一会社に損害を与えた場合に連帯して賠償責任を負うことを約束する人です。身元保証人が身元保証する旨を記載して会社に提出する文書が身元保証書です。

誰を身元保証人にするかは会社が指定しますが、親を指定するのがほとんどです。会社によっては、複数の身元保証人を求めて、親の他に親戚や知人を加えて指定する場合もあります。

身元保証に関することは「身元保証に関する法律」に定められています。同法のポイントは以下の通りです。

1.保証期間は5年が限度
2.保証期間を定めなければ期間は3年
3.契約の更新が可能
4.賠償について定めるときは賠償の上限額を定める
5.保証人に適切な情報提供をしなければ責任を問えない
6.情報提供された保証人は以後の契約を解除できる

一般的な身元保証書は次のページをご覧ください。

身元保証書のサンプル

身元保証の賠償上限額

身元保証書には賠償額の上限を記載する必要があります。

民法第465条の2
1.一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2.個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

極度額が記載されない身元保証書は無効になるので、賠償金にふれるときは上限額を記載しないわけにはいきません。

2020年3月31日までに締結した個人根保証契約は、極度額の定めがなくても従前通り有効な契約です。

次は極度額の記載例です。

万一、本人が故意又は過失により貴社に損害を与えた場合は、身元保証人として本人と連帯して賠償の責を負うことを誓約します。ただし、損害賠償額は〇〇円を極度額とします。
万一、本人が故意又は過失により貴社に損害を与えた場合は、身元保証人として本人と連帯して賠償の責を負うことを誓約します。ただし、損害賠償額は同人が受けるべき月給の〇〇分に相当する額を極度額とします。

なお、何ヶ月分、何年分と定める場合は、身元保証人に本人の月給がいくらであるか通知しなければなりません。変動があったときはその都度通知しなければなりません。

極度額設定の考え方

問題は、金額をいくらに設定するかです。

現実に大問題を起こす従業員が出ると、何千万円もの損害になることが珍しくありません。だからと言って何千万円もの大きな金額を設定すれば、ハンコを押してくれる人を探すのは困難です。

それでは、金額を下げて数百万円ではどうかと言えば、その金額でも、普通の人が右から左に出せる金額ではありません。ハンコを押すことを躊躇するでしょう。

そうなれば、

保証人のあてがないために採用を辞退する人が出る可能性もあります。

また、従業員に冷たい、厳しい勤め先という印象を与え、イメージがよくありません。

ということで、このサイトの制作者は、従業員についての身元保証書は、不正の抑止力が主眼であると考えて、形式的な金額、つまり、数十万円で良いのではないかと思っています。

賠償を求めない選択肢

身元保証人に損害賠償請求することを考えない選択肢もあります。

「連帯して賠償の責に」などという文言をいれずに、下記の例のように、身元を保証するだけの身元保証書にするのです。これだと、極度額の記載は要りません。

上記の者が貴社に入社するにあたり、私は貴社に対して本人の身元を保証するとともに、本人が貴社の就業規則その他諸規程を守り誠実に勤務することを保証します。

まだ数は少ないようですが、そのように切り替えている会社もあります。

身元保証人に通知する義務

従業員に対する身元保証にはもう一つ問題があります。それは、せっかく身元保証書を書いてもらっても、雇い主が適切な情報提供をしないと、いざという時に損害を請求することができないことです。

身元保証ニ関スル法律、いわゆる身元保証法に次のような定めがあります。

身元保証法第3条
使用者は左の場合に於ては遅滞なく身元保証人に通知すべし
一 被用者に業務上不適任又は不誠実なる事跡ありて之が為身元保証人の責任を惹起する虞あることを知りたるとき
二 被用者の任務又は任地を変更し之が為身元保証人の責任を加重し又は其の監督を困難ならしむるとき

つまり、仕事振りについて不安があるとき、担当業務を変更したとき、役職につけたとき、転勤させたときは、いちいち身元保証人に通知しなければならないのです。これを怠っていると、いざという時に、身元保証人の責任を問えないのです。

この法律の通りに身元保証人に通知している雇い主はほとんど無いと思われます。

ということは、多くの会社における現状の対応では、極度額設定の問題とは別に、従業員の現状を通知されていないことを理由に賠償を拒否される可能性が髙いということです。

さらに、

通知義務をまめに実施していても、実際に事故が起こると、雇い主に社員教育、部下指導、管理体制上の落ち度が無かったかということが問題にされます。結果、過失相殺で、賠償金額を大きく減じられる可能性があります。

何を言いたいかというと、ハンコをもらっても、身元保証人から賠償金を取るのは容易でないということです。

そういう意味でも、あまり大きな金額を設定しても実質的には意味が無いと考えているので、先ほど書いたように、数十万円ではないかと個人的には思っています。

ただし、損害がでたら是が非でも回収したいという点に重きをおくのであれば、極度額は大きく設定するに越したことはありません。どちらを選択するかは経営判断だと思います。


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