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労働基準法

労働慣行について

Last Updated on 2023年10月15日 by

労働慣行とは

このようなことはないでしょうか?

□ 遅刻については届を出させているが賃金はカットしていない
□ 一部の人に危険手当を出しているが特殊なケースなので就業規則に定めていない
□ 就業規則にはパートタイムには賞与を支給しないと書いてあるが、実際は額は少ないものの支給してきた
□ 就業規則にはないが、午後3時に30分の休憩をさせている
□ 有給休暇の取得申請は就業規則に事前にと定めているが、実際は事後の申請を認めている

など、特に中小企業においては、就業規則の定めとは違うことが行われていることが多いものです。

そして、多くの会社では、恩恵的にやっていることだからいつでも就業規則のやり方に戻れると安易に考えています。

しかし、就業規則や雇用契約書に定めがないものであっても、職場でそれが反復継続された場合には、それが権利になってしまうことがあります。

これを「労働慣行」といいます。

労働慣行の効力

労働慣行は、法律によるものではありませんが、成立すれば法律と同様の効力があります。その根拠は民法92条です。

民法92条
法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う

そして次のような裁判例があります。

東京地裁昭和46.9.13判決〇〇協会事件
法律行為の当事者がある期間事実たる慣習に依って行為を繰り返している場合は、事実たる慣習は、その当事者間の契約内容に転化する。

これまでの裁判例などを参考に、就業規則と異なる運用が行われている場合に、それが労働慣行と認められるためには次の要件が必要とされると解されています。

①ある事実上の取扱いや制度と思われるものが
②反復して継続して行われており
③その取扱いや制度を一般従業員も 特徴も認識しており
④就業規則の制定変更権限のある経営者が明示または黙示的に是認しておりそれを当然のこととして労使ともに異議を述べておらず
⑤労使ともにそれに従っておりルール化(規範化)している

この5つの要件をすべて充足するような、職場における事実上の取扱いや制度があれば、それがいわゆる労働慣行と認められます。

労働慣行の具体的事例

労働慣行が成立していると認められる場合でも、その事項によって法的効力が異なります。

実質的な就業規則

例えば、かつて8時30分始業であったものを、所定労働時間に関する法的な要請をクリアするために9時始業にあらため、その際就業規則を変更するべきであったのに怠っていたという場合です。

このような場合は、就業規則と異なる労働慣行が成立していることになりますが、改定していない就業規則のその部分は無効になり、実態の労働慣行が有効になります。いわゆる「不文の就業規則」と言われるものです。

例えば、乗車する際に車の点検を行という指導が行われて実施しているがこれについての規程の定めがないという場合です。

このような場合は、就業規則等に定めがなくても労働慣行の要件を満たせば、効力が認められます。

就業規則の適用変更

本来の適用を怠っていた場合、例えば、就業規則では遅刻等を控除することになっているが、給与計算担当者の怠慢でこれまでに控除したことがない場合です。

遅刻をしても控除されないというのが労働慣行になっていたとしても、労働者に遅刻をする権利があるわけでないので、労働慣行としての効力は少ないと解されます。

個別の労働契約を構成する

例えば、残業時間が夜の8時を超えた場合は、慣例として、食事代が一人500円が支給されることになってような場合です。

本来であれば、給与規程に明文化しなけれなりませんが、していないとしても、このような支払いが労働慣行の条件を満たしていれば、使用者と労働者の労働契約の内容に追加されたとみなされます。

労働慣行と強行法規

その会社や職場の一般的な従業員ならば誰でもそのような事実上の制度や取り扱いがあることを知り、かつ、それを認容し、使用者も異議を述べていない慣行でも、それが公序良俗や強制法規に違反するものであれば法的な効力は成立しません。

昭和47年4月6日最高裁第1小法廷判決〇〇県教組事件
職員会議の続行による時間外勤務に対しては時間外勤務手当を支払わない、あるいはこれを請求しないという慣習は、仮にあったとしてもその効力を有しない・・・・労働条件の基準を定める労働基準法の規定が強行法規であることは同法13条の規定によって明らかである時間外労働に対する割増賃金支払義務を定める労働基準法の規定が公の秩序であって、これに反する慣行は効力を有しないとする原審の判決は正当である。

営業職に対しては残業代を支払わないという慣行を見かけますが、労働基準法に違反しているのでその慣行は無効です。

労働慣行の是正・変更

労働慣行の内容が会社側にとって特段問題のないものであれば、あえて対応をしないということも考えられます。

しかし、現状で特に問題がない場合でも、明文化した方が会社秩序としても好ましいでしょう。

また、問題がある労働慣行があるならば廃止する方向で動くのが妥当です。

労働慣行の是正・変更するにはつぎの方法があります。

①就業規則の改正による是正変更
②明示の意思表示による是正変更
③労使合意による是正変更

就業規則の改正による是正変更

就業規則には記載されていないが、経営者も認めて取り扱ってきた慣習が事実的な就業規則になっていることを認め、これを就業規則の改正により是正変更する方法があります。

この場合、労働者にとって不利益になる場合は注意しなければなりません。

関連記事:就業規則改定による不利益変更

明示の意思表示による是正変更

労働慣行の確率の程度が弱い場合には、変更や廃止の意思表示を明示するだけで労働慣行を是正変更できることがあります。

□ 今回限りの特別な臨時措置である
□ 特定の社員を対象にした暫定処理であり恒常化はしないものである

などの旨を明確に労働者側に伝達します。

使用者の意思表示に対して、労働者側が異議を述べない場合には合意によって是正変更が行われたことになります。

労使合意による是正変更

穏当な方法としては、話し合いによる是正変更です。使用者が 労使協議の場で、是正変更を提案し、労働側はそれに同意を表明し、労働協約を締結することによる方法があります。

労働組合がない場合には社員代表などによる承諾もこれに含まれます。


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