Last Updated on 2024年11月16日 by 勝
変更は合意が原則
労働者の合意がなければ、賃金や労働時間、休暇、福利厚生などの労働条件を労働者の不利益になる内容に就業規則を変更することができません。
労働契約法第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
ここで求められている「合意」は形式的な合意ではなく、自由な意思による合意です。
例外
第9条では、但し書きで例外があることを示しています。
第9条の但し書きに示されているのが第10条です。(労働者の合意が充分に得られないまま)就業規則を変更する場合の条件を定めています。
労働契約法第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
変更後の就業規則を周知する
まず、変更した就業規則を労働者に周知することが求められています。
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その上で、
1.労働者の受ける不利益の程度
2.労働条件の変更の必要性
3.変更後の就業規則の内容の相当性
4.労働組合等との交渉の状況
5.その他の就業規則の変更に係る事情
を考慮して、就業規則の変更が妥当であるかどうかを判断することになります。
以上の条件をクリアし、就業規則を労働基準監督署に届け出し、従業員へ周知したときは、これに同意しない労働者に対しても変更後の就業規則を適用できます。
労働者の受ける不利益の程度
生活に影響を及ぼすような賃金引き下げは相当に困難です。逆に、賃下げされる額がごくわずかであれば比較的合意が取りやすいものです。ただ、どの位であればよいか明確に線引きされているわけではありません。
労働条件の変更の必要性
賃金の引き下げ提案は、経営状態が相当に苦しいという背景が前提になります。さほど悪くなっていない状態で賃金カットを持ち出しても疑問視されるでしょう。
単に業績不振というだけでは十分でなく、精一杯の努力(役員報酬の減額、賞与の減額、人件費以外の経費削減など)をしたが、業績を改善させることができず、最後の手段として給料に手をつけざるを得ない状況だという納得性のある説明が必要です。
数期連続して赤字で回復の兆しがないなど、明らかに経営危機にあるなどの場合には認められる可能性が高くなります。口頭の説明では不足で、決算書などを提示する必要があると考えられます。
変更後の就業規則の内容の相当性
変更した後の就業規則の内容が問題になります。妥当な内容かどうかということです。
業界、業種、同規模の同業他社などの労働条件を参考に、変更後の内容が相当であるかどうかを検討する必要があります。元々の労働条件が業界水準を上回るものであったときは改定を補強する要素になると思われます。
労働組合等との交渉の状況
労働組合又は従業員代表との交渉し、同意をとる努力をする必要があります。充分な説明をつくすためには、交渉回数も必要です。要求があれば可能な限り交渉に応じて真摯に説明を繰り返しましょう。交渉したことを証明するために、交渉の日時、時間、双方の出席者、説明した内容、質疑の内容を記録(議事録ではなく会社側の記録)し、交渉に際して配布した資料もすべて保存しておきましょう。
合意してくれなければ絶対にできないか、といえば、そうだとも言えるし、そうではないとも言えます。ケースバイケースなのです。
その他の就業規則の変更に係る事情
就業規則の不利益変更が認められるか否かは、上記で説明した個別項目の検討が必要ですが、いろいろな要素を加味して総合的に判断されることになります。
就業規則による不利益変更をしなければならない明確な理由があり、充分な説明をし、可能な限りの代替措置、緩和措置、経過措置などを提案し、それでも合意してもらえないときは、経営側にもリスクはありますが、強行することも選択肢の一つです。
程度や相当性について
労働契約法第10条には、「程度」や「相当性」という言葉が用いられています。
その具体的な水準は示されていませんが、経営側にとっては相当に高度な程度を求められると理解しなければなりません。
程度や相当性について決定するのは労働基準監督署などの行政機関ではありません。これは民事問題なので、まず当事者(経営側と労働者側)が、これまでの判例や学説などを参考に話し合うことになります。当事者間の話し合いがまとまらなければ、労働委員会等での協議を経て、最終的には裁判所が判断するということになります。
参考判例 第四銀行事件 最高裁第二小法廷9.2.28
当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。
上記の合理性の有無は、具体的には、次の事情等を総合考慮して判断すべきである。
・労働者が被る不利益の程度
・使用者側の変更の必要性の内容・程度
・変更後の就業規則の内容自体の相当性
・代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
・労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応
・同種事項に関する我が国社会における一般的状況等
結論としては、就業規則の不利益変更は、できないことではありませんが難しいです。やる場合は、上記に述べた条件を頭に、慎重に進める必要があります。
労働契約との関係
第10条但し書きに「労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については」は除く旨定められています。就業規則変更ができたとしても、個々の労働者との労働契約で、変えないと約束していた部分はそのままという意味です。
例えば、採用時に「年間総支給額は何があっても下げない」「賞与は毎回2か月分を最低保証する」などと個別に約束した場合です。
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