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会社規程 労働基準法

周知について

Last Updated on 2023年7月9日 by

周知に関する労働基準法の定め

労働基準法に周知に関する規定があります。

労働基準法第106条
使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、(中略)協定並びに(中略)決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
2 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。

就業規則は労働基準監督署に提出しておしまいではありません。作成内容を従業員に全員に知らせるという大事な手続きがあります。これを周知といいます。

就業規則を届出したとしても周知していなければ効力が発生しないとされています。

周知についていくつかの判例があります。

周知しなければ効力をもたないという判決

F社は、従業員を、就業規則に基づき懲戒解雇しました。従業員は懲戒解雇は違法であるとし、違法な懲戒解雇に関与した取締役らに損害賠償を請求する訴えを提起しました。その過程で就業規則が周知されていないことが問題になりました。(F社事件)

判決は、あらまし次のようなものでした。

就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。

原審は、F社が、労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、これを労働基準監督署長に届け出た事実を確定したのみで、その内容を勤務の労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないまま、旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し、本件懲戒解雇が有効であると判断している。原審のこの判断には、審理不尽の結果、法令の適用を誤った違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。(最高裁 平成15年10月10日判決)

就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとした判決です。

周知を欠いても効力を有するという判決

労働基準法第106条に定められた周知を欠いていたとしても就業規則自体は無効にならない、という判決もあります。

ストライキの際、暴行脅迫によって業務を妨害する争議行為を行った従業員を、就業規則に基づいて解雇したが、その就業規則が、労働基準法第106条所定の周知方法を講じていなかった。として解雇無効が争われた事件がありました。(A新聞社K支店事件)

これに対する判決は、労働基準法第106条所定の周知方法を講じていなかったとしても、当該就業規則は既に従業員側にその意見を求めるため提示され且つその意見書が附されて届出られたものであるから、そのため就業規則自体の効力を否定するの理由とはならない。とするものでした。(最高裁昭和27年10月22日大法廷判決)

このケースでは、労働基準法の手続き違反の罰則は適用されるが、就業規則自体は有効だとし、その就業規則に基づく解雇処分は適法とされました。

判決は、従業員代表に意見をもとめる手続きが適切に行われたことを重視しています。

就業規則以外の周知義務

周知を要するのは就業規則だけではありません。

寄宿労働者に対する周知義務

寄宿労働者に対しては、労働基準法及び労働基準法に基づく命令のうち寄宿舎に関する規定、寄宿舎規則を周知しなければなりません。

労使協定と労使委員会決議の周知

労働基準法に規定があるすべての労使協定は、締結した場合は就業規則と同様に周知が必要です。就業規則は周知しているが36協定の周知をしていないということがないように注意しましょう。また、企画業務裁量労働制に係る労使委員会の決議内容にも周知義務があります。

法令の周知

使用者には法令も周知する義務があります。

労働基準法に基づいて発する命令とは、労働基準法施行規則、年少者労働基準規則、女性労働基準規則、事業附属寄宿舎規定、建設業附属寄宿舎規定等のことです。これらの法令の要旨を周知させる必要があります。

要旨というのは、理解しやすいように重要な部分を抜き書きして整理したもののことですが、会社の担当者が自ら作成するのはあまり効率的とはいえません。市販されている労働基準法の解説書を購入して備え置くか、労働局のホームページに掲載されている「労働基準法のあらまし」等のパンフををダウンロードしてパソコン等で閲覧できるようにしておくとよいでしょう。

周知の方法

労働者がいつでも自由に見れることが基本です。

次のいずれかの方法によって周知します。
1.職場の分かりやすく取り出しやすいところに就業規則(全文及び関連規程)のファイルを備え付けておくこと
2.就業規則(全文及び関連規程)のコピーを従業員に配布すること
3.いつでも使えるパソコンで、いつでも読めるようにしておくこと

労働者がいつでも自由に見れることが基本です。どこにあるかを知っている人が少ない状態にしておいたり、部長の席のそばのように気軽に入れない場所への備え付けでは周知をしたことになりません。

周知しているつもりでも、労働者が「そんなものは知らない見たこともない」と言えば困ったことになります。なので、一番良いのは書面交付です。さらに、せっかく書面交付するのであれば受領書の保存を忘れないようにしましょう。

なお、労働基準法等の法令は要旨を周知すれば足りますが、就業規則、労使協定並びに労使委員会の決議は全文を周知しなければなりません。


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