住宅手当とは
住宅手当は、福利厚生的な手当の一つです。住宅手当は、主にアパート居住者に対して住宅代の補助として支給されます。
住宅手当を決定する上での基本的な考え方
住宅手当を決定する際の考え方と、一般的な相場について解説します。
支給基準の設計
目的が明確になったら、その目的に合った支給基準を定めます。
- 誰に支給するか(対象者):
- 世帯主であること。
- 賃貸または持ち家であること(両方対象とするか、賃貸のみとするか)。
- 特定の地域に居住していること。
- 雇用形態など。
- いくら支給するか(金額):
- 一律支給(例:全員一律〇円)。
- 条件別支給(例:扶養家族あり・なし、賃貸・持ち家、地域別などで金額を変える)。
- 家賃の〇%を上限として支給(例:家賃の〇%を上限に〇万円まで)。
- 支給の条件:
- 賃貸契約書の提出、住民票の提出など、実態を証明する書類の提出を求める。
一般的な相場
多くの企業で住宅手当が支給されていますが、その金額は企業の規模によって差があります。
厚生労働省の「令和2年就労条件総合調査」(令和元年11月分)によると、住宅手当の平均支給額は以下の通りです。
| 企業規模 | 住宅手当の平均支給額(月額) |
| 全体平均 | 17,800円 |
| 1,000人以上 | 21,300円 |
| 300~999人 | 17,000円 |
| 100~299人 | 16,400円 |
| 30~99人 | 14,200円 |
大企業ほど支給額が高い傾向にあります。
就業規則規定例
支給する場合は、就業規則または賃金規程にその内容を定めます。
社会保険等の扱い
所得税:給与所得の一部として源泉徴収税の対象になります。
社会保険料:社会保険料の計算における標準報酬月額の対象になる賃金等に含まれます。
労働保険料:労働保険料の計算における賃金総額に含まれます。
割増賃金:住宅に要する費用に応じて算定されるもの、扶養家族の数などの個人的事情によって算定されるものは、割増賃金の基礎から除外することが可能です。 住宅費用や個人的事情に関係なく一律に支給される手当は、その名称が「住宅手当」であっても、労働の対価とみなされるので割増賃金の基礎に算入する必要があります。
均衡待遇の問題
住宅手当も同一労働同一賃金ガイドラインに照らして問題になる可能性があります。
住宅手当は、基本給や他の手当と異なり、厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドライン(指針)には「この指針に記載がない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる」と明記されており、均衡待遇の対象となります。
住宅手当の待遇差が「不合理」となる基準
待遇差が不合理かどうかの判断は、住宅手当の支給目的に照らして、「職務の内容」「配置の変更の範囲」「その他の事情」を考慮して個別に行われます。特に、最高裁判所の判例により、住宅手当に関しては「配置の変更の範囲(転勤の有無)」が重要な判断要素となっています。
転勤の有無が異なる場合(合理性が認められやすい例)
正社員に転居を伴う配置転換(転勤)の可能性があり、非正社員にはそれが全くない場合、正社員にのみ住宅手当を支給することは、不合理ではないと判断されやすいです。
- 理由: 住宅手当が「転勤に伴う住宅費用等の負担増加を補填する」という目的で支給されていると解釈できるため、「配置の変更の範囲」が異なることを根拠に待遇差の合理性が認められます。(例:ハマキョウレックス事件)
転勤の有無に差がない場合(不合理となる可能性が高い例)
以下のいずれかに該当する場合、正社員にのみ住宅手当を支給することは不合理と判断される可能性が高くなります。
- 正社員も非正社員も、転居を伴う配置転換が想定されていない(または、ほとんどない)場合。
- 住宅手当が「転勤補填」ではなく、「全従業員の生活費補助」という目的で支給されている場合。
- 理由: 転勤の可能性という合理的な根拠がないにもかかわらず、雇用形態の違いだけで生活費補助の手当に差をつけることは、不合理な待遇差と見なされます。(例:メトロコマース事件)
企業が取るべき対応策
企業は、住宅手当の待遇差が不合理と判断されるリスクを避けるために、以下の点を確認し、必要に応じて制度を見直す必要があります。
- 支給目的の明確化住宅手当の趣旨・目的を就業規則などに明確に記載します。
- 例1 (転勤補填): 「将来的な転居を伴う配置転換の可能性に備え、住宅に要する費用の一部を補助する目的で支給する。」
- 例2 (生活補助): 「従業員の生活を安定させるため、住宅に要する費用の一部を補助する目的で支給する。」
- 支給要件の確認正社員の「配置の変更の範囲」を再度確認し、非正社員との間に、手当の支給目的に照らして合理的な差があるかを検証します。
- 正社員に転勤が全く想定されていない場合は、非正社員に支給しない合理的な理由を見つけるのは非常に困難です。
- 待遇差の解消もし「正社員も非正社員も転勤がない」にもかかわらず非正社員に支給していない場合は、手当の目的が生活補助と解釈され、不合理な待遇差として訴訟リスクが高まります。この場合は、非正社員への支給を始めるなど、待遇差を解消する必要があります。
住宅手当は、個別の企業の実態と支給目的によって判断が分かれるため、特に注意が必要です。


