日雇派遣の制度と原則禁止のルール
日雇派遣とは、日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者を派遣することを指します。
この日雇派遣は、2012年(平成24年)の労働者派遣法改正により、労働者の保護と雇用の安定の観点から、原則として禁止されています。
| 制度の概要 | 内容 |
| 定義 | 派遣元との労働契約期間が30日以内の労働者派遣。 |
| 法的原則 | 原則禁止(労働者派遣法第35条の4)。 |
| 禁止の理由 | 雇用が不安定であり、必要な雇用管理がなされにくく、労働者保護に欠けるため。 |
原則禁止になった背景
日雇派遣(派遣元との労働契約期間が30日以内の派遣)が原則禁止になった主な理由は、派遣労働者の保護と雇用の安定の確保を図るためです。
2012年(平成24年)の労働者派遣法改正でこの原則が設けられた背景には、以下のような問題が社会問題化し、是正が急務とされたことがあります。
主な禁止理由
雇用の不安定さ
日雇派遣は極めて短期間の契約であるため、労働者は継続的な就業の保障がなく、派遣期間が終わるとすぐに次の仕事を探す必要があります。このため、収入や生活が不安定になりやすいという根本的な問題がありました。
- 特に2008年のリーマンショック後の「派遣切り」問題では、多数の日雇派遣労働者が一斉に職を失い、住居まで失うなど、雇用の不安定さが社会問題として強く認識されました。
労働者保護の欠如
雇用期間が短いため、派遣元や派遣先による適切な雇用管理が行われにくい状況にありました。
- 社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険の加入要件を満たしにくく、労働者がセーフティネットから外れやすかった点。
- 昇給や賞与といった待遇改善が期待できず、低賃金(ワーキングプア)の状態から抜け出しにくい状況が生じていました。
- 労働災害の発生など、安全衛生管理が不十分になりやすいという指摘もありました。
不適正な運用の発生
労働者派遣が短期・日々単位で行われる特性上、一部で不適正な仲介や搾取的な運用(例:データ装備費など不当な名目での控除)が行われ、これが労働者の権利を侵害しているとして問題視されました。
このように、日雇派遣は労働者が生活基盤を安定させることを難しくする働き方であると判断され、労働者派遣法において原則的に禁止されることとなりました。ただし、例外的に、特に雇用機会の確保が困難な方々(60歳以上、昼間学生など)や、雇用管理に支障がない専門性の高い業務については、引き続き認められています。
認められている例外(禁止の例外)
日雇派遣は原則禁止ですが、特定の「業務」または特定の「人(労働者)」に該当する場合に限り、例外的に認められています。
例外的に認められる「業務」(政令で定める業務)
日雇派遣が常態化しており、かつ適切な雇用管理を行っても労働者保護に支障がないと認められる業務として、以下の18の業務が定められています。
- ソフトウェア開発
- 機械設計
- 秘書
- ファイリング
- 財務処理
- 通訳、翻訳、速記
- 受付・案内
- 研究開発
- 事業の実施体制の企画・立案
- 書籍等の制作・編集
- 広告デザイン
- OA機器操作
- デモンストレーション
- 添乗
- セールスエンジニア
- 放送機器等操作
- 金融商品の営業
- (上記以外に)上記業務に付随して行う業務
例外的に認められる「人」(特定の条件を満たす労働者)
雇用の機会確保が困難な者や、日雇派遣が生活の主な収入源にならない水準にある者として、以下のいずれかに該当する労働者を派遣する場合も認められます。
- 満60歳以上の者
- 雇用保険の適用を受けない学生(いわゆる「昼間学生」。夜間、通信教育、休学中の学生などは含まない)
- 生業収入が500万円以上で、副業として日雇派遣に従事する者
- 世帯収入が500万円以上で、主たる生計者(世帯収入の50%以上を占める者)ではない者
注意事項(企業側・派遣元側)
日雇派遣の例外規定を利用する場合でも、適切な労働者保護のため、以下の点に特に注意が必要です。
- 例外要件の厳格な確認と証明:
- 派遣元事業主は、派遣労働者が上記の「例外となる人」に該当することを、身分証明書、学生証、源泉徴収票などの客観的な書類で事前に確認し、その記録を保存しなければなりません。
- 労働条件の書面明示:
- 派遣労働者に対し、労働契約の期間、業務内容、労働時間、賃金など、労働条件を正確に書面(または電磁的方法)で明示する必要があります。
- 労働時間の適正な把握と賃金支払い:
- 集合場所から就業場所への移動時間など、派遣元の指揮監督下にある時間は労働時間として扱い、賃金を支払う必要があります。
- 禁止業務の確認:
- 日雇派遣の例外規定に該当する場合でも、港湾運送業務、建設業務、警備業務、病院等における医療関連業務(紹介予定派遣などを除く)など、労働者派遣自体が禁止されている業務には派遣できません。
- 労働契約期間の判断:
- 日雇派遣に該当するかどうかは、派遣元と労働者との間の労働契約期間で判断されます。派遣先で働く期間が短くても、派遣元との労働契約が31日以上であれば日雇派遣にはあたりません。
- 短い契約期間を意図的に繰り返し更新して30日以下に留める行為は、原則禁止の規定を潜脱するものとして認められません。
日雇派遣の現状
日雇派遣(派遣元との労働契約期間が30日以内の派遣)の需要は、法改正による原則禁止措置が施行されたため、従来の形での大規模な需要は大幅に減少しています。
しかし、企業側の「急な欠員補充」や「繁忙期の短期的な人手」といったニーズ自体は依然として存在しており、その需要は形を変えて存続・拡大しています。
主な市場動向と需要の現状は以下の通りです。
法的な規制による需要のシフト
2012年の改正労働者派遣法により日雇派遣が原則禁止された結果、多くの企業は需要を満たすために以下のいずれかの形にシフトしました。
- 契約期間の長期化: 派遣会社と労働者との間の雇用契約期間を31日以上とする派遣(日雇派遣の定義から外れる)。
- 例外規定の活用: 「60歳以上」「昼間学生」など、例外的に認められている属性の労働者のみを受け入れる。
- 直接雇用の単発バイト: 派遣ではなく、企業が求職者と直接雇用契約を結ぶ短期・単発のアルバイト(スポットバイト)を募集する。
「ギグワーク」市場の拡大との関連
近年、「ギグワーク」(スポット的な業務委託契約)の市場が急速に拡大しており、これがかつての日雇派遣のニーズの一部を吸収しています。
| 働き方 | 契約形態 | 需給の動向 |
| 日雇派遣 | 派遣会社との雇用契約 | 法的な制約により、需要は限定的。 |
| 単発バイト | 企業との直接雇用契約 | 繁忙期や突発的な人手不足のニーズを満たすために広く利用され、需要が大きい。 |
| ギグワーク | 企業との業務委託契約 | スキマ時間の活用ニーズと企業の即戦力ニーズが合致し、特に急速に拡大している。 |
結論
かつてのような無制限かつ大規模な日雇派遣の需要は、法律により抑制されています。
しかし、「1日単位で働きたい」という労働者側のニーズ、「必要な時にだけ人手が欲しい」という企業側のニーズは根強く、これは直接雇用の単発アルバイトやギグワークという形で、今でも非常に大きな需要となっています。企業が日雇派遣を利用する際は、必ず例外要件に該当するかを厳格に確認する必要があります。


