労災保険の有期事業の一括とは?

労働保険

有期事業の一括とは

労災保険における「有期事業の一括」について説明します。

これは、建設の事業立木の伐採の事業といった、期間が定められた小規模な有期事業が複数ある場合に、それらをまとめて一つの事業とみなして、労働保険料の申告・納付などの手続きを継続事業と同様に処理できるようにする制度です。

通常、有期事業は工事現場ごとなどに個別に労災保険の手続きが必要ですが、この制度を利用することで事務手続きの煩雑さを軽減できます。

適用されるための主な要件

複数の有期事業が一括されるためには、以下のすべての要件を満たす必要があります。

  1. 事業主が同一人であること。
  2. それぞれの事業が建設の事業または立木の伐採の事業であること。(労災保険の保険関係のみが対象です。)
  3. それぞれの事業の規模が一定の基準以下であること。
    • 概算保険料に相当する額が160万円未満であること。
    • 建設の事業にあっては、請負金額が1億8,000万円(消費税抜)未満であること。
    • 立木の伐採の事業にあっては、素材の見込生産量が1,000立方メートル未満であること。
  4. それぞれの事業が、他のいずれかの事業の全部又は一部と同時に行われること。
  5. それぞれの事業の事業の種類(労災保険率表による)が同じであること。
  6. それぞれの事業に係る労働保険料の納付の事務が一の事務所で取り扱われること。

これらの要件に該当する場合、法律上当然に一括されます。

「建設の事業」に含まれる主な工事の種類

「建設の事業」には、以下のような多岐にわたる工事が含まれ、これらは「有期事業の一括」の対象となり得ます(ただし、規模要件を満たすものに限ります)。

工事の種類具体的な例
建築事業家屋の新築、改修(リフォーム)、増築、解体工事など
土木事業道路の新設・改修・維持河川やその附属物の改修、ダム工事、トンネル工事、橋梁建設、舗装工事、しゅんせつ工事など
専門工事左官工事、大工工事、鉄筋工事、とび・土工・コンクリート工事、電気工事、管工事、内装工事など
その他埋立、敷地造成、さく井(井戸掘り)事業、造園事業など

これらの工事は、事業の期間が予定されているため「有期事業」に分類され、個々の工事の規模が所定の要件以下であれば「一括有期事業」としてまとめて処理することができます。

手続き上の特徴

  • 一括された有期事業は、継続事業と同様に扱われ、原則として保険年度(4月1日から翌年3月31日)ごとに労働保険料の申告・納付が行われます。
  • 個々の事業開始・終了ごとの保険関係成立・消滅手続きは不要になります。
  • 事業主は、年度更新の際に、その年度内に終了した一括有期対象工事をまとめた「一括有期事業報告書」などを提出します。

途中で規模が拡大した場合

有期事業の一括の適用を受けていた事業が、工事の途中で事業規模が拡大し、当初の規模要件(概算保険料160万円未満、請負金額1億8,000万円未満など)を超えてしまった場合の取り扱いは以下の通りです。

規模が拡大した場合の取り扱い

一度「一括有期事業」の対象となった個々の事業(工事)は、途中で規模が拡大し、要件の規模以上になったとしても、その時点で一括の対象から除外され、新たに独立した「単独有期事業」として取り扱われることはありません

これは、一括の適用は保険関係が成立した時点の状況に基づいて判断され、その後の事業規模の変動によって遡って適用関係が変わると、事務処理が非常に煩雑になってしまうためです。

したがって、その事業(工事)は、引き続き一括有期事業として処理されます

留意すべき手続き

ただし、規模が大きく拡大した場合は、以下の手続きが必要になる可能性があります。

  1. 増加概算保険料の申告・納付
    • 年度の途中で、賃金総額の見込額が当初の申告から大幅に増加し(原則として2倍を超えて増加し、かつ増加した概算保険料額が13万円以上の場合など)、概算保険料が増加する場合は、「増加概算保険料」を申告・納付する必要があります。
    • この手続きは、継続事業と同様に、一括有期事業全体としても適用されます。
  2. 次年度の事業
    • その事業主が今後新しく開始する事業については、当然ながらその新しい事業の規模が、一括有期事業の規模要件(概算保険料160万円未満など)を満たしているかどうかで判断されます。規模要件を超えている場合は、その新しい事業は「単独有期事業」として、個別に保険関係の成立手続きを行う必要があります。

一括有期事業開始届とは

「一括有期事業開始届」は廃止されました

かつては、一括有期事業を行う事業主は、個々の有期事業(工事)を開始した際、その開始日の属する月の翌月10日までに、所轄の労働基準監督署長へ「一括有期事業開始届」を提出する義務がありました。

しかし、平成31年(2019年)4月1日以降に開始する一括有期事業については、事業主の事務負担軽減のため、この届出が廃止されています。

「一括有期事業開始届」は廃止されましたが、一括有期事業として労災保険の手続きを行う上で、以下の書類は引き続き重要です。

  1. 保険関係成立届・概算保険料申告書
    • 事業主が初めて労働者を雇用して工事を開始した際、最初に提出する書類です。これにより、一括有期事業としての保険関係が成立します。
  2. 一括有期事業報告書
    • 毎年行う年度更新の手続きの際に、前年度(4月1日〜3月31日)中に終了または廃止した個々の工事の明細(請負金額や賃金総額など)を報告するために提出する書類です。この報告書に基づき、確定保険料の精算が行われます。