苦情処理機関の設置
育児介護休業法第52条の2は、労働者から苦情の申出を受けたときは「苦情処理機関に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない」と定めています。
男女雇用機会均等法第15条は、労働者から苦情の申出を受けたときは、「苦情処理機関に対し当該苦情の処理をゆだねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない」と定めています。
パートタイム・有期雇用労働法第22条は、短時間・有期雇用労働者から苦情の申出を受けたときは「苦情処理機関に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めるものとする」と定めています。
障害者雇用法第74条の4は、障害者である労働者から苦情の申出を受けたときは、「苦情処理機関に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない」と定めています。
いずれの場合も、「苦情処理機関」とは「事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関をいう」と定めています。
法律では苦情処理機関となっていますが、◯◯苦情処理委員会の名称を用いているところが多いようです。
一つ一つの法律に応じてバラバラに苦情処理委員会を設置するのではなく、総合的に対応する苦情処理委員会を設置する方がよいでしょう。
また、規程で定めることにより、上記の法律だけでなく、例えば、個別労働紛争についても苦情処理委員会の扱いにすることもできます。
苦情処理機関の構成等
苦情処理委員会(苦情処理機関)の構成メンバーは、法律により、労使双方の代表者で構成することが定められています。
具体的には以下の通りです。
- 事業主を代表する者
- 会社の経営層や管理職など、使用者側を代表するメンバーです。
- 一般的には、人事担当役員、人事部長などが選任されます。
- 当該事業所の労働者を代表する者
- その事業所の従業員側を代表するメンバーです。
- 労働組合がある場合は、労働組合の役員などがこれに当たります。
- 労働組合がない場合は、従業員の過半数を代表する者などが選任されます。
構成の目的と役割
この労使対等の構成が求められるのは、以下の目的と役割があるためです。
- 公正性・中立性の確保: 苦情の申出が使用者側だけでなく、従業員側の視点からも公平に処理される体制を構築することで、労働者の信頼を得やすくし、苦情の自主的な解決を図りやすくします。
- 実効性の確保: 労使双方の代表が関わることで、苦情に対する解決策や再発防止策が、現場の状況を考慮しつつ、会社全体として実行可能なものとなるよう調整されます。
苦情処理委員会は、育児・介護休業法に関する従業員からの苦情について、事実関係を確認し、社内での解決に向けた調整や助言を行う役割を担います。
審議の具体的な進め方
苦情処理委員会の審議は、以下の手順で進められることが一般的です。
1. 苦情の受理と調査方針の決定
- 苦情内容の確認: 申出人(労働者)から提出された苦情の内容(いつ、どこで、誰に、どのような行為があったか)を正確に把握します。
- 調査範囲の決定: 事実確認を行う対象者(行為者、関係者など)や、収集すべき資料(メール、勤務記録など)を決定します。
2. 事実関係の確認(ヒアリング)
- 申出人からの聴取: 申出人から苦情の詳細、背景事情、希望する解決策を丁寧に傾聴します。この際、委員会の中立性と秘密厳守を徹底します。
- 行為者からの聴取: 苦情の対象とされた者(行為者)から、事実関係について聴取します。行為者の言い分も公平に聞くことが重要です。
- 関係者からの聴取: 必要に応じて、目撃者や職場の同僚など関係者からも事情を聴取し、事実の裏付けを行います。
3. 審議・事実認定と解決策の検討
- 事実の認定: 収集した情報、証拠、ヒアリングの結果を総合的に評価し、苦情の申立てに該当する事実(違法性・不当性)があったかどうかを判断します。
- 例: 降格の理由が、客観的な業績に基づくものか、違う理由があるのか。
- 法等との照合: 認定された事実が、法令や会社の就業規則に照らして違反しているかどうかを判断します。
- 解決策の検討: 紛争を自主的に解決するための具体的な措置案を検討します。
- 例: 不利益な取扱いがあった場合の原状回復(配置の再検討、賃金の調整)、ハラスメントがあった場合の行為者への懲戒処分や指導、再発防止策の策定など。
4. 解決策の提示と実行
- 当事者への通知: 審議の結果と決定した解決策を、申出人および関係者に丁寧に説明します。
- 解決の実行: 会社(事業主)に対し、決定された解決策の実行を促します。
- フォローアップ: 解決策が実行された後も、申出人や関係者の状況を確認し、再度の不利益やハラスメントの発生がないか、職場環境が改善されているかを継続的に監視します。
苦情処理委員会は、これらのプロセスを通じて、法的な遵守だけでなく、職場内の信頼関係回復と両立支援の推進に努めることが期待されています。
委員会が示す解決案は、強制力はないので、経営者か申出の当事者のどちらかが受け入れないということになれば委員会の協議は終結します。