Last Updated on 2023年3月4日 by 勝
企業内での紛争解決
紛争対応の基本
従業員から苦情の申し出や改善の要求が出たときは、真摯に対応し、早期に紛争を解決するように努力しなければなりません。
第一段階は、人事責任者等の通常の社内組織が、当該従業員から苦情を聞き取り、上司と相談して解決案を出すなど、通常の社内決裁手続きのなかで解決するように試みます。
苦情や要望は、まず上司や相談窓口に対して持ち込まれます。この段階で対応した上司や相談窓口が握りつぶすようなことがあってはいけません。
上司等がおよそ無理なことだと思ったとしても、頭ごなしに却下するのではなく、申し出の内容を記録し、その内容で間違いないか当人と確認したうえで、経営層に申し出内容を回付し検討してもらうことが大事です。日頃からそのような流れになるように上司にあたる人たちに周知しておきましょう。
検討した上で、できることはやり、できないことはその理由を丁寧に説明しましょう。納得が得らないときは、次の段階に進みます。
苦情処理機関を設置する
第二段階は、従業員代表を加えた委員会を設置して、苦情や要望の内容を審議し、経営者に対して解決案を提案します。
パートタイム・有期雇用労働法第22条に、苦情の自主的解決の規定があります。
(苦情の自主的解決)
第22条 事業主は、第6条第1項、第8条、第9条、第11条第1項及び第12条から第14条までに定める事項に関し、短時間・有期雇用労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めるものとする。
経営側は事業の進め方について決定権があるので、法令に違反することでない限りどのような判断をすることも自由ですが、正しい判断をするためには相手方の事情を公平な目で見直すことも必要です。
法律は、公平な判断をするために、通常の決定システムから少しはなれて、苦情処理機関を設置して協議することを求めています。
苦情処理機関は、事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者で構成します。労働者の代表は労働組合があればその労働組合から選出してもらいますが、労働組合がない場合でも従業員の間から民主的手続きで選出してもらいましょう。有利にことを運ぼうと思って人選に介しても決して良い結果になりません。
また、可能であれば顧問や監査役など外部の人にも入ってもらうことも良いでしょう。
苦情処理機関は、円満な解決策をさぐるために協議する機関です。対決姿勢で臨んでは意味がありません。双方が呑める案を示す努力が必要です。
苦情処理機関が示す解決案は、経営側も苦情等の当事者も、受け入れなければならない義務はありません。納得できなければこの段階で社内努力は終了です。
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行政による紛争解決手続き
労働局長の助言等を求める
納得できない当事者は、それぞれ都道府県労働局長に援助を申し出ることができます。(24条)
通常は苦情等の当事者が援助を申し出ますが、経営側から申し出ることもできます。
労働局長(実際には担当者が動きますが)は、紛争の当事者に対し、助言、指導又は勧告をすることができます。
紛争調整委員会のあっせん
都道府県労働局長に設置されている紛争調整委員会のあっせんを求めることができます。(25条、26条)
労働者だけでなく経営側からも申し出することができます。充分に合理的な提案であると思うのに当事者側が頑なに受け入れず膠着したときには検討するべき手段です。
労働局長は、申し出を受けて必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律による紛争調整委員会に調停を行わせることができます。
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労働委員会のあっせん
都道府県に設置されている労働委員会に個別労働紛争のあっせんを求めることができます。ただし、個別労働紛争に対応していない労働委員会もあります。
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司法による紛争解決手続き
労働審判制度を利用する
労働審判とは、地方裁判所において裁判官(労働審判官)1名と労働関係に関する専門的な知識・経験を有する労働審判員2名で組織された労働審判委員会が、個別労働紛争について、原則3回以内の期日で審理し、適宜調停を試み、調停がまとまらなければ、労働審判委員会の判断を示す紛争解決手段の一つです。裁判所が関与する制度ですが、通常の裁判より簡便に利用できます。
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通常訴訟について
通常訴訟は、裁判所に訴訟を提起し、本格的な審理を経て裁判所が終局的な判断を下すことを目的とする手続です。
証人尋問等の本格的な証拠調べが行われます。訴訟の提起から一審判決まで1年以上かかることが多いです。手続の中で裁判所から和解を勧められることがあり、柔軟な解決に至ることもあります。
他の紛争解決手段と比べると、時間と費用がかかるのが難点だとされていますが、時間がかかる分、十分な主張や立証を行うことができます。
少額訴訟について
少額訴訟手続は、60万円以下の金銭の支払を求める場合に利用できる特別な訴訟方法で、原則として1回の審理で判決が出されます。相手方が少額訴訟の手続によることに反対した場合等には、通常の訴訟手続に移行します。
裁判では、司法委員が間に入り、和解できるかどうかの話し合いが行われます。合意に至った場合には和解条項が作成されて裁判は終了します。合意に至らなかった場合には裁判所が双方の言い分を聞き、また、提出された証拠を調べて判決を言い渡します。
比較的単純な事案の解決に利用することが想定されているので本人でもできると言われていますが、裁判である以上証拠等の事前準備が必要なので、法律的な知識がまったくない場合は、費用はかかりますが、弁護士、司法書士に依頼するほうがスムーズだと思われます。
民事保全について
裁判には民事保全という制度があります。民事保全というのは、訴訟を提起して権利を実現しようとする人のために、現状を維持確保することを目的とする制度です。
訴訟の判決や労働審判が出る前に処分が決定すれば、その執行もできます。
例えば、労働紛争に関して、仮の地位を定める仮処分により、労働者に対する未払いの賃金を、使用者に仮に支払わせることもあります。
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