Last Updated on 2025年6月16日 by 勝
労働基準法の労働時間規定
労働基準法は、労働者の健康と生活を守るため、労働時間と休日について厳格なルールを定めています。原則として、労働時間は1日8時間、1週40時間を超えてはならず、また、毎週少なくとも1日以上の休日を与えなければなりません。これらの法定労働時間や法定休日を超えて労働させることは、たとえ残業代を支払ったとしても労働基準法違反となります。
しかし、実際の業務においては、この原則だけでは対応しきれない場面があるのも事実です。そこで、労働基準法は例外として、以下のいずれかの要件を満たす場合に限り、時間外労働や休日労働を認めています。
- 災害その他やむを得ない事由があるとして、労働基準監督署長から許可を得た場合
- 公務のために必要がある場合
- 労働者と使用者が労使協定を締結し、これを労働基準監督署に届け出た場合
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「36協定」とは?
一般的に、多くの企業が時間外労働や休日労働を行わせる際に利用するのが、上記の3番目の方法です。この労使協定は、労働基準法第36条に定められていることから、通称「36協定(さぶろくきょうてい)」と呼ばれています。
36協定は、労働者に時間外労働や休日労働をさせる前に必ず締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。もし36協定を締結・届け出ずに時間外労働や休日労働をさせた場合、たとえ残業代を支払っていたとしても労働基準法違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という重い罰則が科せられる可能性があります。
また、従業員数が10人以上で作成義務が生じる就業規則とは異なり、36協定は従業員の人数にかかわらず、時間外労働や休日労働を行わせる場合には必ず必要となります。
36協定で定めるべき事項
36協定には、労働基準法第36条第2項で定められた以下の事項を記載する必要があります。
- 時間外労働や休日労働を行わせる労働者の範囲
- どのような部署や業務の労働者が対象となるかを明確にします。
- 対象期間
- 時間外労働や休日労働を行わせることができる期間を定めます。期間は1年間に限られます。
- 時間外労働や休日労働を行わせる具体的な事由
- 「業務上やむを得ない場合」のような曖昧な表現ではなく、例えば「臨時の受注対応」「納期変更」「緊急の顧客対応」「月末の経理処理」「給与計算」など、業務の種類別に具体的に記載する必要があります。
- 延長することができる時間(限度時間)および休日の日数
- 対象期間における1日、1ヶ月、1年それぞれの期間について、時間外労働をさせることができる時間数、または休日労働をさせることができる日数を定めます。
- 時間外労働には原則として上限が定められており、1ヶ月あたり45時間、1年あたり360時間が限度となります。
- 労働時間の延長および休日労働を適正なものとするために必要な事項
- 厚生労働省令で定める事項であり、例えば健康・福祉を確保するための措置などを記載します。
特別な事情がある場合の上限規制
原則的な時間外労働の上限(月45時間、年360時間)を超える必要がある「特別な事情」がある場合、労使で特別条項付き36協定を締結することで、例外的に上限時間を延長することが可能です。この場合でも、以下の上限は必ず守らなければなりません。
- 月100時間未満
- 2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月のいずれの期間も平均80時間以内
- 年720時間以内
関連記事:36協定の特別条項
協定の有効期間と届け出
36協定の有効期間については、法律上の明確な定めはありませんが、労働基準監督署からは1年間とすることが指導されています。これは、労働環境の変化に対応するため、定期的に内容を見直すことが望ましいとされているためです。
締結した36協定は、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。届け出は、窓口に持参するか、電子申請を利用して行うことができます。様式は厚生労働省のウェブサイト「主要様式ダウンロードコーナー」に掲載されています。
36協定の調印者
36協定は、使用者と労働者の間で締結されます。
- 会社側:通常、代表権を持つ社長が調印します。
- 労働者側:
- 労働組合がある場合は、その労働組合の代表者(委員長など)が調印します。
- 労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者を選出し、その者が調印します。この代表者は、会社が指名するのではなく、労働者の話し合いや選挙など民主的な方法で選出される必要があります。
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就業規則への記載も重要
36協定を締結し届け出れば、協定の範囲内であれば法定労働時間を超えて労働させても労働基準法違反にはなりません。しかし、これはあくまで「違反にならない」というだけです。実際に従業員に時間外労働を命じるためには、36協定の締結に加えて、企業の就業規則に「時間外勤務を命じることがある」といった規定が記載されている必要があります。この規定があることで、会社は従業員に対し業務命令として時間外労働を指示できるようになります。
規定例:労働時間・休憩|就業規則
規定例:休日|就業規則
労使委員会等による決議
36協定の締結・届け出に代えて、労使委員会(労働基準法第38条の4第1項に基づくもの)または労働時間等設定改善委員会の決議を労働基準監督署に届け出ることで、時間外労働や休日労働を行わせることも可能です。これは、高度プロフェッショナル制度の適用を受ける場合などに用いられます。
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