Last Updated on 2025年8月4日 by 勝
山田: 佐藤課長、お時間よろしいでしょうか?実は、36協定について改めて調べてみたんですが、いくつか疑問が出てきてしまって…。
佐藤課長: よく聞いてくれた。36協定は、社員を守るためにも会社を守るためにも、正確な理解が不可欠だ。今日はその疑問を解消していこう。
36協定を理解しよう
36協定はなぜ必要なのか?
山田: 課長、そもそも36協定って、残業や休日出勤をさせるために絶対に必要なんですよね?
佐藤課長: その通りだ。法律では、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて働かせたり、週に1日の法定休日を与えなかったりすることは、原則として禁止されている。たとえ残業代を払ったとしても、この原則を破れば法律違反になってしまうんだ。
山田: 実際の業務では、残業が必要なことも多いですよね。どうすればいいんでしょうか?
佐藤課長: そこで、36協定が登場する。会社と従業員の代表が書面で協定を結び、それを労働基準監督署に届け出ることで、例外的に残業や休日労働ができるようになる。協定の名前は、根拠となる労働基準法第36条から来ているんだ。
山田: 協定がないとどうなるんですか?
佐藤課長: もし36協定を締結せずに残業をさせたら、たとえ残業代を払っていても法律違反だ。6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という重い罰則が科せられる可能性がある。36協定は、会社の規模や従業員の人数にかかわらず、残業や休日労働をさせるなら絶対に必要だということを覚えておいてほしい。
36協定に記載すべきこと
山田: 36協定を結ぶときは、どんなことを決めればいいんですか?
佐藤課長: 協定には、法律で定められた項目を必ず記載する必要がある。主な項目は以下の5つだ。
1.対象となる労働者の範囲:どの部署や業務の人が残業や休日労働の対象になるか。
2.対象期間:協定が有効な期間。通常は1年間とすることが望ましい。
3.具体的な事由:残業や休日労働が必要となる理由。「業務が忙しいから」といった曖昧な理由ではなく、具体的に記載することが重要だ。
4.延長できる時間や日数:残業の上限時間を決める。原則として1ヶ月45時間、1年360時間が限度となる。また、休日労働の日数も定める。
5.健康・福祉確保のための措置:残業が長時間に及んだ場合に、従業員の健康を守るための措置(例:医師による面接指導)などを定める。
山田: 結構細かく決めるんですね。
佐藤課長: ここで大事なのは、「通常の業務量を超えた、臨時的な事由」を具体的に示すことだ。
特別条項と罰則付きの上限規制
山田: 課長、もし月45時間の限度を超えて残業が必要になった場合はどうすればいいんでしょうか?
佐藤課長: その場合は、「特別条項」を設けた36協定を結ぶことで、例外的に上限時間を延長することができる。ただし、これも無制限にできるわけではない。働き方改革関連法によって、特別条項を適用した場合でも、必ず守らなければならない罰則付きの厳格な上限が定められているんだ。
【罰則付きの上限規制】
年間の時間外労働:720時間以内(休日労働は含めない)
単月の時間外労働と休日労働の合計:100時間未満
複数月(2~6ヶ月)の時間外労働と休日労働の合計平均:80時間以内
佐藤課長: そして、この特別条項を適用できるのは、年6回までという回数制限もある。ひとつでも超えたら法律違反となるから、厳格な労働時間管理が不可欠だ。
36協定に代わる選択肢
山田: 36協定って、締結と届け出の手続きが必要なんですよね。もっと効率的にできる方法はないんですか?
佐藤課長: 実は、ある特定の条件を満たしている企業では、36協定の締結と届け出に代えて、労使委員会の決議をもって時間外労働をさせることも可能だ。
山田: 労使委員会って何ですか?
佐藤課長: 会社と労働者代表が、労働時間や働き方について話し合うために設置する組織のことだ。この委員会で話し合って決議した内容も、36協定と同じ効力を持つんだ。ただし、労使委員会の設置には厳密な要件があるから、どの会社でも使えるわけではない。多くの企業では、引き続き36協定を締結するのが一般的だ。
協定の調印者と就業規則
山田: 協定書には誰がサインをするんですか?社長と…従業員代表の方ですか?
佐藤課長: その通り。会社側は社長などの代表権を持つ人が調印する。労働者側は、労働組合がある場合はその組合代表が、ない場合は労働者の過半数を代表する者が調印する。この代表者は、会社が一方的に指名するのではなく、民主的な方法で選出する必要がある。
山田: 36協定を結んで届け出れば、残業を命じられるようになるんでしょうか?
佐藤課長: それだけでは不十分だ。36協定は、残業をさせても「法律違反にならない」という免罰効果を持つものにすぎない。実際に従業員に残業を命じるためには、会社の就業規則に「業務上必要な場合は、時間外勤務を命じることがある」といった規定が記載されている必要がある。この規定と36協定の両方が揃って初めて、会社は従業員に業務命令として残業を指示できるようになるんだ。
山田: なるほど!36協定と就業規則はセットなんですね。とてもよくわかりました。ありがとうございます!
佐藤課長: いい勉強になったな。労働基準法は働く人の健康と権利を守る大切な法律だ。疑問はそのままにしておかないで、いつでもまた聞きに来てくれ。