カテゴリー
安全衛生管理

労働安全衛生法 第69条「健康の保持増進を図るための措置」とは?

Last Updated on 2025年6月17日 by

労働安全衛生法第69条の「健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置」について、具体的なイメージが湧くように、会社がどのようなことをすればよいのかを説明します。

労働安全衛生法 第69条とは?

労働安全衛生法第69条は、以下のように定めています。

労働安全衛生法第69条 事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。
2 労働者は、前項の事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとする。

これを簡単に言い換えると、

「会社は、健康に関する知識を教えたり、健康の悩みを相談できる場を設けたり、その他色々な工夫をしたりして、社員の健康をサポートするように努力しなさいね」

ということです。

この条文は、単に怪我を防ぐだけでなく、より広い意味での「健康」を守るための会社の努力義務を定めています。

なお、産業医等の職務にも健康教育等が入っています。

(産業医及び産業歯科医の職務等)
労働安全衛生規則第14条七 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。

具体的にどのようなことをすればよいのか?

この点については、法律で「これとこれとこれをやりなさい」と具体的に定められているわけではありません。なぜなら、会社の規模、業種、社員の年齢層や健康状態によって、必要な健康保持増進活動は異なるからです。

しかし、厚生労働省は、この条文に基づき、会社が取り組むべき活動の指針として「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」「健康増進法」など様々な形で、具体的な取り組み例を示しています。

以下に、健康増進法やメンタルヘルス指針等に基づいて会社が取り組むべき具体的な措置の例を挙げてみます。

健康教育(健康に関する知識を提供する)

社員が自分自身の健康について理解し、意識を高めるための教育活動です。

  • テーマ例:
    • 生活習慣病予防: 食生活の改善、適度な運動、禁煙、飲酒の適量などについて学ぶ。
    • 心の健康(メンタルヘルス): ストレスのメカニズム、ストレス対処法、セルフケアの方法、ラインケア(管理職向け)など。
    • 腰痛や肩こりの予防: 正しい姿勢、ストレッチ方法、作業環境の改善。
    • 睡眠: 質の良い睡眠の取り方。
    • 特定の疾病予防: インフルエンザなどの感染症予防、がん予防、女性特有の健康問題など。
  • 実施方法の例:
    • 講習会・セミナー: 医師、保健師、外部講師などを招いて、集合研修を行う。
    • 資料配布: パンフレット、リーフレット、社内報、Eラーニングコンテンツなどで情報提供する。
    • 健康に関するニュースレター: 定期的に健康情報を発信する。
    • 専門家による個別相談会(後述の健康相談にも関連): 健康診断の結果を元に個別に指導を受ける場を設ける。

健康相談(健康の悩みを相談できる場を提供する)

社員が心身の健康に関する悩みや不安を抱えたときに、専門家に相談できる体制を整えることです。

  • 実施方法の例:
    • 産業医・保健師による健康相談: 定期的に社内で相談日を設けたり、いつでも予約して相談できるようにしたりする。健康診断の結果に対する個別指導もこれに含まれます。
    • 外部相談窓口の設置: 社内では話しにくい内容でも安心して相談できるよう、外部のカウンセリング機関などと契約し、利用できるようにする(EAP:従業員支援プログラムなど)。
    • 健康管理室の設置: 社内に健康に関する専門部署や部屋を設け、常駐の看護師などが対応できる体制を整える。
    • メンタルヘルス相談窓口: ストレスや心の不調に特化した相談窓口を設ける。

その他、健康の保持増進を図るための必要な措置(環境整備や奨励活動)

上記以外にも、社員が健康でいられるように、会社全体で取り組むべき様々な活動があります。

  • 健康診断・ストレスチェックの確実な実施と事後措置:
    • 法で定められた健康診断やストレスチェックを確実に実施し、その結果に基づいて、必要に応じて医師による面談指導や就業上の措置(配置転換や勤務時間の変更など)を行う。
  • 健康づくり活動の推進:
    • 運動機会の提供: 社内ウォーキングイベント、スポーツクラブの費用補助、フィットネスルームの設置など。
    • 食生活の改善支援: ヘルシーメニューを提供する社員食堂、健康的な間食の提供、栄養指導など。
    • 禁煙支援: 禁煙プログラムの提供、禁煙補助の費用補助など。
  • 快適な職場環境づくり:
    • 照明、温度、湿度、換気、騒音、休憩室の整備など、物理的な作業環境を良好に保つ。
    • ハラスメント対策やコミュニケーションの促進など、心理的な職場環境も改善する。
  • 長時間労働の是正:
    • 健康障害リスクを高める長時間労働を削減するための具体的な対策(業務改善、人員配置の見直しなど)。
  • 職場復帰支援:
    • 心の健康を損なって休業した社員が、安全かつスムーズに職場復帰できるよう、段階的なプログラムやサポート体制を整える。
  • 健康情報の提供:
    • 社内イントラネットや掲示板などを活用し、健康に関する役立つ情報を継続的に提供する。

継続的かつ計画的にとは?

これは、一度やれば終わりではなく、社員の健康状態や社会情勢の変化に合わせて、継続的に、そして計画的に取り組むことが重要であることを意味します。

例えば、

  • 年間計画を立てて、健康教育のテーマや実施時期を決める。
  • 健康診断の結果やストレスチェックの結果を分析し、社員の健康課題を把握する。
  • その課題に基づいて、次年度の健康保持増進活動の目標を設定し、計画を立てる。
  • 実施した活動の効果を評価し、改善点があれば見直す。

といったPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回しながら、社員の健康づくりをサポートしていくことが求められます。


会社事務入門安全衛生法に基づく安全衛生教育等>このページ