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採用の事務

本採用前に試用期間を設けることができる

Last Updated on 2023年9月16日 by

試用期間とは

試用期間とは、試しに用いる(使ってみる)期間という意味です。

試用期間というのは法律に裏付けられた制度ではなく、社会慣行の一つです。

就業規則に試用期間の定めがあり、それを承知して労働契約を結んだ従業員に対して適用することができます。

試用期間があるときは、通常の労働契約ではなく、解約権留保付きの労働契約が成立しているとされています。

解約権、つまり採用を取り消すことがある条件をつけての労働契約なので、理論的には、会社が本採用にふさわしくないと判断すれば、本採用を拒否することが可能なのです。

就業規則規定例:試用期間|就業規則

本採用の拒否は簡単ではない

しかし、可能であると言っても、簡単にできるわけではありません。条件付きとは言え労働契約が成立しているので、解雇とほぼ同様の要件を満たす必要があります。

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試用期間があれば割と簡単に本採用拒否できると誤解している経営者もいますが、条件を付けたとは言えいったん仕事を始めてもらった人を辞めさせることはそんなに簡単なことではありません。

つまり、正当な理由がなければ、本採用拒否はできません。

正当な理由というのは、たとえば経歴詐称の発覚、常習的な遅刻欠勤、面接時とは打って変わった態度の悪さなどがあります。つまり、採用時の選考では知ることができなかったことが明らかになり、それが会社として許容できない程度に悪質であった場合です。

職務遂行能力が期待外れなので本採用拒否をしようと考える経営者もいますが、そのようなことは正当な理由に入りません。

基本的な能力はまず考慮して採用したはずであり、また少々能力不足を感じたとしても充分伸びしろがあると判断して採用したはずです。期待はずれだったというのは、採用した側の責任であり、当該従業員のせいではありません。争いになったときは会社に不利だと思われます。

また、試用期間中に仕事に慣れるように配慮せずに放置していたり、問題が見られたときに指導や対策の手を打たなかったなどの落ち度があると、争いになったときは会社に不利です。

したがって、試用期間中の従業員に対しては、問題があれば本採用しなければよいという安易な気持ちにならず、勤務態度や職業能力に問題がある場合には、改善できるように適切な指導や教育を行うことが極めて重要です。また、争いになったときに備えて、指導や教育の記録をつけることで、判定に客観性をもたせましょう。

本採用拒否については次のような判例があります。

判例(M社事件最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)
試用期間について「留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない。」としたうえで「留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。」「換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」と判示しました。

採用面接等で分かっていたこと、分からなかったとしても注意を払えば知ることができたことについては本採用拒否の理由にならないという判決です。

解雇予告と解雇予告手当

試用期間中であっても、雇用した日から14日を過ぎてから辞めてもらう場合は、解雇予告、解雇予告手当が必要です。

労働基準法21条に、解雇予告の適用除外として「試の使用期間中の者」について定めています。「試用期間」と「試の使用期間中の者」は別物なので注意しましょう。

「試の使用期間」とは労働基準法に、14日間と定められている試みの使用期間のことを言います。一方で「試用期間」というのは会社が就業規則で定めた本採用留保期間のことです。

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また、いずれの場合も、解雇予告をすればよいというものではなく、あくまでも正当な理由が必要です。

試用期間の長さ

試用期間を設ける際は、期間が長くなりすぎないよう気をつけましょう。労働基準法などに長さの規定はありませんが、あまりに長すぎる期間は、争いになったときは無効とされる可能性があります。

1ヶ月から3ヶ月程度、どんなに長くても6ヶ月までが妥当だと思われます。すでに筆記試験や面接等で適格性があると判断して入社させているので、あとは採用時の判断を大きく変更しなければならないことが明るみになるかどうかです。それを見極めるのにどれくらいの期間が必要かという観点から決定します。

試用期間を設ける場合は、試用期間があるということと、その期間を募集要項や労働条件通知書に明記しなければなりません。

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試用期間中の労働条件

社会保険等の加入

社会保険等については、試用期間中の従業員も加入させなければなりません。

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試用期間の賃金

試用期間中の賃金と本採用後の賃金を別にする場合は、その旨と賃金の額を募集要項や労働契約書に明記する必要があります。

また、試用期間中でも労働基準法は適用されるので、時間外労働をさせた場合は割増賃金を支払う必要があります。

試用期間の延長

試用期間は、就業規則の中で、延長する可能性やその理由、実際の延長期間について就業規則に定めがある場合に可能です。

就業規則規定例「試用期間経過後に本採用の条件を満たしていないと認められる場合には、会社から試用期間の延長を提案することがある。試用期間は本人の同意のもとで通算◯か月間まで延長できるものとする。」

しかし、根拠がうすい理由での試用期間延長をすれば、争いになったときは無効になる可能性があります。不足しているところを具体的に説明し、どのようになれば本採用基準を満たすのか説明できなくてはなりません。


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