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労働災害

使用者には労働者に対して災害補償の責任があります

Last Updated on 2022年11月11日 by

労働基準法による補償義務

労働者が業務上の事故等でケガや病気になったときは、使用者は、療養補償や休業補償、遺族補償などを行わなければならないと労働基準法に定められています。

療養補償
労働基準法第75条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。

休業補償
第76条 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。

障害補償
第77条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治つた場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に別表第二に定める日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければならない。

休業補償及び障害補償の例外
第78条 労働者が重大な過失によつて業務上負傷し、又は疾病にかかり、且つ使用者がその過失について行政官庁の認定を受けた場合においては、休業補償又は障害補償を行わなくてもよい。

遺族補償
第79条 労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の千日分の遺族補償を行わなければならない。

葬祭料
第80条 労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、葬祭を行う者に対して、平均賃金の六十日分の葬祭料を支払わなければならない。

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なお、一定の条件を満たせばそれ以上の補償を免じられる打ち切り補償という制度があります。

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労災保険の役割

上記のように、事業主に対して、労働基準法は労働者や家族に一定の補償を行うよう義務づけていますが、事業主に資力が無くて補償がされないことも考えられます。

そのような事態が生じないように、国が事業主から保険料を徴収して、労働者に直接補償を給付するのが労働者災害補償保険、略して「労災保険」です。

労働者が労災保険法に基づいて補償を受けられる場合には、使用者は労働基準法の災害補償義務を免れることになります。

通勤災害の場合

条文に「業務上」とあります。通勤途上で労働者が災害を被った場合には、業務上ではないので、労災保険からの給付が決定したとしても、使用者には労働基準法上の災害補償責任がありません。事業主に通勤途上の事故にまで責任を負わせることに無理があるからです。

ただし、通勤災害についても業務災害の場合に準じて労災保険の給付を受けることができます。給付内容はほぼ同じですが、用語が違います。例えば、通勤災害の場合は、療養補償給付ではなく療養給付といいます。「補償」という語が入りません。

暫定任意適用事業

一般企業は、法人や個人事業の別なく、労働者を一人でも雇用すれば、労働保険(労災保険と雇用保険)の加入手続きが義務付けられていますが、農業のうち個人経営で常時使用する労働者が5人未満で、 かつ危険・有害作業をともなわない事業は「暫定任意適用事業」といい、労災保険が任意加入となっています。

具体的には農林水産の事業のうち下記の事業は、労働保険に加入するかどうかは事業主の意思やその事業に使用されている労働者の過半数の意思にまかされています。

1.労働者数5人未満の個人経営の農業であって、特定の危険又は有害な作業を主として行う事業以外のもの
2.労働者を常時は使用することなく、かつ、年間使用延労働者数が300人未満の個人経営の林業
3.労働者数5人未満の個人経営の畜産、養蚕又は水産(総トン数5トン未満の漁船による事業等)の事業

なお、暫定任意適用事業の事業主に加入の意思があればに労働者の意向にかかわらず任意加入の申請をすることができます。また、事業主に加入の意思がなくても雇用する労働者の過半数の者が加入を希望するときは任意加入の申請を行わなければなりません。

認可された場合は、加入を希望していない労働者も含めすべて労災保険の適用になります。

これらの事業所が任意加入の申請をしていないときは、その事業所で働く労働者は労災保険による補償が受けられないことになります。

暫定任意適用事業の事業所において、労災保険未加入の状態で労働者が万一業務上の災害で傷病を被ったときは、その事業所で働く労働者は労災保険による補償が受けられず、労働基準法の規定により、事業主が直接に補償責任を果たなければなりません。

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労災保険でカバーできない部分

従業員が怪我をした時に、労災保険が適用できるならそれでよいのではないか、と思っている経営者も少なくありません。

確かに比較的軽い怪我の場合には労災保険を適用して、従業員に対してのお見舞金などは会社の経費から出せる範囲だと思います。

しかし、怪我や病気は軽いものとは限りませんし、仮に従業員が業務上の原因で死亡したり障害が残ってしまえば、事故の状況等によっては、事業主に慰謝料等の損害賠償責任が発生することがあります。そうなってしまえば資金が豊富でない事業主は、場合によっては事業の存続が難しくなることも考えられます。

そのような事態に対応するために、労災上乗せ保険への加入を考えることが勧められます。車に例えれば、労災保険は自賠責保険のようなもの、自動車任意保険に相当するものが労災上乗せ保険です。

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