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労働災害

労災保険の給付

Last Updated on 2023年11月30日 by

手厚い給付

仕事上のケガや病気、通勤時のケガ等に対しては、健康保険ではなく、労災保険を使用することになっています。

関連記事:労災保険における通勤災害とは

労災保険の内容は、健康保険と似通っています。違うところは、給付の内容が、健康保険を上回るところです。カッコがついているのは業務災害と通勤災害の違いです。業務災害の場合は療養補償給付といいます。通勤災害の場合は療養給付といいます。通勤災害の場合は労働基準法上の事業主責任がないので「補償」がつきません。

療養(補償)給付

給付の内容

病気やケガで病院に行って治療を受ければ、健康保険の場合だと自己負担は3割です。労災保険を使える場合は原則として自己負担無しで治療等を受けることができます。

なお、業務災害の場合は療養補償給付、通勤災害の場合は療養給付と呼ばれますが、支給の内容は同じです。

手続き

療養補償給付については、労災病院や労災指定病院を受診した場合と、それ以外の病院を受診した場合で請求・受給の流れが異なります。

労災病院、労災指定病院を受診した場合(療養の給付の請求)

労災指定病院を受診した場合は、病院の窓口で治療費を支払う必要はありません。

受診した医療機関へ労災保険の給付請求書を提出すれば、医療機関が労働基準監督署長へ請求手続きを行います。

労災指定病院以外を受診した場合(療養の費用の請求)

労災指定病院以外の医療機関を受診した場合は、一旦治療費を全額支払います。健康保険は使えません。

支払後に、労働基準監督署長へ請求書と治療費の領収書を提出し、立替えた治療費の金額の給付を受けます。

休業(補償)給付

給付の内容

労働者が療養のために働けなくなり賃金を受けれないときに、健康保険は傷病手当金という制度があり賃金の3分の2を最大1年6か月支給ます。労災保険からは賃金の60%に相当する休業補償給付が支給されます。休業特別支給金が20%あるので、合計で80%が給付されます。

なお、労災保険から休業補償給付が支給されるのは休業4日目からです。また、4日目以降の休業補償給付は、給与の全額ではなく6割相当を支給するものです。

そのため、労災での休業中は、休業開始から最初の3日間については給与分全額を会社が負担し、休業開始後4日目以降は給与のうち4割分を会社が負担するのが通常です。(休業特別支給金が給与の2割相当額支給されますが、この休業特別支給金分を会社負担分から差し引くことは認められていません。)

休業の原因である労働災害が、会社の責任によるものである場合は、従業員の休業原因が会社の落ち度であるという観点で、会社は民法第536条2項により、給与全額の支払いをする義務があるとされているからです。

以上のように、実務上は労災保険から6割、会社が残り4割を負担するやり方が定着してきましたが、裁判例の中には、休業開始後4日目以降も会社が給与の10割の支払義務を負うとしているものがあります(平成23年2月23日東京高等裁判所判決、平成24年12月13日大阪高等裁判所判決)。また、民法第536条2項についても、労災が従業員の過失によるものでまったく会社に責任がない場合と就業規則で民法第536条2項を適用しない旨を定めている場合はこれに当たらないという意見があります。

休業補償給付の会社負担についてトラブルが発生したときは弁護士等の専門家に相談したほうがよいでしょう。

手続き

休業補償給付支給請求書を労働基準監督署長に提出します。通期災害の場合は休業給付支給請求書です。労働基準監督署が調査して労災認定がされれば休業補償が支給されます。

休業した全ての期間分をまとめて請求することも、期間を区切って請求していくことも可能です。

その他の給付

傷病(補償)年金

労働者が療養開始後1年6か月経過しても治らないとき、その傷病の程度により傷病補償年金が支給されます。

障害(補償)給付

労働者がに障害が残った場合、治癒(ちゆ)した段階で、残った障害の程度に応じて、障害補償給付が支給されます。

遺族(補償)年金

労働者が業務上、または通勤時に事故等により死亡したときに、遺族に遺族補償年金が支給されます。

遺族の数等に応じて、遺族(補償)年金、遺族特別支給金及び遺族特別年金が支給されます。受給権者が2人以上あるときは、その額を等分した額がそれぞれの受給権者が受ける額となります。

介護(補償)給付

障害が残り介護を受けているとき、介護補償給付が支給されます。

介護(補償)給付は、障害(補償)年金又は傷病(補償)年金の第1級の方すべてと2級の精神神経、胸腹部臓器の障害を有している方が現に介護を受けている場合に支給されます。ただし、身体障害者療護施設、老人保健施設等に入所されている方には支給されません。

葬祭料(葬祭給付)

労働者が業務上、または通勤時に事故等により死亡したときに支給されます。

葬祭料(葬祭給付)の額は、315000円に給付基礎日額の30日分を加えた額ですが、この額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は給付基礎日額の60日分が支給額となります。

二次健康診断

定期健康診断の結果、脳・心臓疾患に関連する一定の所見があるとき、二次健康診断と保健指導を受けることができます。

関連記事:二次健康診断等給付

複数業務での労災

それぞれの会社ごとの基準では労災認定されなかった場合でも、勤務している複数の会社における負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して、労災認定ができるかを判断します。

また、複数の会社等で働いている場合には、全ての会社等の賃金額を合算した額を基礎として労災保険の給付額が算定されます。

時効に注意

給付が手厚くても手続きしないで一定の時間がたってしまうと時効によって給付を受けられなくなります。労災保険の時効は、短期給付は2年、長期給付は5年(遺族・障害)です。 時効の期間を過ぎてしまうと請求できません。

一方、会社の安全配慮義務違反の債務不履行責任を根拠に損害賠償請求をする場合には、消滅時効の期間は結果が発生してから10年となっています。しかし、2020年4月1日以降、労災事故による損害賠償請求については5年の消滅時効に統一されました。労災による死亡の場合には、被災労働者が死亡した日の翌日から5年、けがをした場合には、被災労働者の症状が固定した日から5年で、消滅時効にかかることになります。

時効について素人判断すると大変な損をすることがあります。労災の手続きに時間がかかっていると感じたとき、損害賠償請求を考えたときは、早めに弁護士等の専門家に相談しましょう。


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