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テレワークにおける労務管理

Last Updated on 2023年7月9日 by

テレワークとは

テレワークとは、労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務のことです。

テレワークの労務管理の課題としては、

□ 労働時間の管理が難しい
□ 仕事と仕事以外の切り分けが難しい
□ 長時間労働になりやすい

等があります。

テレワークの代表的な形態は以下の3つです。

① 在宅勤務
労働者の自宅で業務を行う。

② サテライトオフィス勤務
労働者の属するメインのオフィス以外に設けられたオフィスを利用する。

③モバイル勤務
ノートパソコンや携帯電話等を活用して臨機応変に選択した場所で業務を行う。

労働基準法

就業の場所

使用者は、労働契約を締結する際、労働者に対し、賃金や労働時間のほかに、就業の場所に関する事項等を明示しなければなりません。テレワークを行わせることとする場合には、就業の場所としてテレワークを行う場所を明示しなければなりません。

自宅やサテライトオフィス等、テレワークを行うことが可能である就業の場所を明示することが望ましい。

モバイル勤務をする場合等、業務内容や労働者の都合に合わせて働く場所を柔軟に運用する場合は、柔就業の場所についての許可基準を示した上で、「使用者が許可する場所」といった形で明示することも可能。

労働時間の把握

テレワークの実施とあわせて、始業及び終業の時刻の変更等を行うことを可能とする場合は、就業規則に記載するとともに、その旨を明示しなければなりません。

通常の労働時間制度に基づきテレワークを行う場合についても、使用者は、その労働者の労働時間について適正に把握する責務を有し、みなし労働時間制が適用される労働者や労働基準法第41条に規定する労働者を除き、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)に基づき、適切に労働時間管理を行わなければなりません。

同ガイドラインにおいては、労働時間を記録する原則的
な方法として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録によること等が挙げられています。

また、やむを得ず自己申告制によって労働時間の把握を行う場合においても、同ガイドラインを踏まえた措置を講ずる必要があります。

いわゆる中抜け時間

在宅勤務等のテレワークに際しては、一定程度労働者が業務から離れる時間が生じやすいと考えられます。

この中抜け時間は、その開始と終了の時間を報告させる等により、休憩時間として扱い、労働者のニーズに応じ、始業時刻を繰り上げる、又は終業時刻を繰り下げることが可能です。

また、休憩時間ではなく時間単位の年次有給休暇として取り扱うことも可能です。

上記の適用は、いずれも、使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている場合に限ります。

移動時間中のテレワーク

テレワークの性質上、通勤時間や出張旅行中の移動時間に情報通信機器を用いて業務を行うことが可能です。これらの時間について、使用者の明示又は黙示の指揮命令下で行われるものについては労働時間に該当します。

午前中だけ自宅やサテライトオフィスで勤務をしたのち、午後からオフィスに出勤する場合等、勤務時間の一部でテレワークを行う場合があります。

こうした場合の就業場所間の移動時間が労働時間に該当するのか否かについては、使用者の指揮命令下に置かれている時間であるか否かにより、個別具体的に判断されることになります。

使用者が移動することを労働者に命ずることなく、単に労働者自らの都合により就業場所間を移動し、その自由利用が保障されているような時間は、休憩時間として取り扱うことが可能です。

ただし、使用者の指示を受けてモバイル勤務等に従事した場合には、その時間は労働時間に該当します。

使用者が労働者に対し業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じており、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間も労働時間に該当します。

フレックスタイム制

テレワークにおいてもフレックスタイム制を活用することが可能です。

ただし、使用者は各労働者の労働時間の把握を適切に行わなければなりません。

事業場外みなし労働時間制

事業場外みなし労働時間制を適用するには、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難という、事業場外みなし労働時間制適用の要件を満たす必要があります。以下の2つです。

① 情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であること

② 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

事業場外みなし労働時間制が適用される場合、所定労働時間又は業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなすこととなります

当該業務の遂行に通常必要とされる時間は、労使協定によりこれを定めることが望ましいとされています。当該労使協定は労働基準監督署長へ届け出なければなりません。

関連記事:事業場外みなし労働時間制

裁量労働制

裁量労働制の対象となる労働者についても、テレワークを行うことが可能です。

この場合、労使協定で定めた時間又は労使委員会で決議した時間を労働時間とみなすこととなりますが、労働者の健康確保の観点から、決議や協定において定めるところにより、勤務状況を把握し、適正な労働時間管理を行う責務を有します。

関連記事:専門業務型裁量労働制

関連記事:企画業務型裁量労働制

休憩時間

原則として休憩時間を労働者に一斉に付与しなければなりませんが、テレワークを行う労働者について、労使協定により、一斉付与の原則を適用除外とすることが可能です。

関連記事:休憩時間について

時間外・休日労働・深夜労働

実労働時間やみなされた労働時間が法定労働時間を超える場合や法定休日に労働を行わせる場合は、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)の締結、届出及び割増賃金の支払が必要です。

深夜労働を行ったときは深夜労働にかかる割増賃金の支払が必要です。

テレワークを行う労働者は、業務に従事した時間を日報等において記録し、使用者はそれをもって当該労働者に係る労働時間の状況の適切な把握に努め、必要に応じて労働時間や業務内容等について見直すことが望ましいです。

時間外労働等について労働者からの事前申告がなかったり、申告に対して許可を与えなかった場合でも、業務量が過大であったり、明示、黙示の指揮命令があったと解しうる場合には、労働時間に該当します。

テレワークを実施する労働者についても労働時間の状況の適切な把握に努めていただき、必要に応じて、労働時間や業務内容等について見直しましょう。

長時間労働対策

テレワークは長時間労働を招くおそれがあることも指摘されています。

テレワークにおける長時間労働等を防ぐ手法としては、以下のような手法が考えられます。

① メール送付の抑制
② システムへのアクセス制限
③ テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止等
④ 長時間労働等を行う労働者への注意喚起

就業規則

就業規則規定例

テレワーク勤務者の時間外、休日及び深夜における労働についての就業規則例です。在宅勤務者の時間外労働、休日労働及び深夜労働について所属長の許可制とする場合の規定例と、在宅勤務者の時間外労働、休日労働及び深夜労働について原則認めない場合の規定例を示します。

就業規則規定例:テレワークにおける労働時間|就業規則

労働安全衛生法

労働安全衛生法等の関係法令等に基づき、過重労働対策やメンタルヘルス対策を含む健康確保のための措置を講じる必要があります。

健康診断

必要な健康診断とその結果等を受けた措置

医師による面接指導

長時間労働者に対する医師による面接指導とその結果等を受けた措置及び面接指導の適切な実施のための時間外・休日労働時間の算定と産業医への情報提供

ストレスチェック

ストレスチェックとその結果等を受けた措置等の実施により、テレワークを行う労働者の健康確保を図ることが重要です。

自宅等の作業環境

テレワークを行う作業場が、自宅等の事業者が業務のために提供している作業場以外である場合には、事務所衛生基準規則、労働安全衛生規則及び「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日基発0712第3号)の衛生基準と同等の作業環境となるよう、テレワークを行う労働者に助言等を行うことが望ましいです。

労働災害の補償

テレワークを行う労働者については、事業場における勤務と同様、労働基準法に基づき、使用者が労働災害に対する補償責任を負うことから、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害として労災保険給付の対象となります。

ただし、私的行為等業務以外が原因であるものについては、業務上の災害とは認められません。

在宅勤務を行っている労働者等、テレワークを行う労働者については、この点を十分理解していない可能性もあるため、使用者はこの点を十分周知することが望ましいです。

また、通勤災害とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所の往復等を合理的な経路及び方法で行うこと等によって被った負傷等をいい、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務では、通勤災害が認められる場合も考えられます。

なお、個別の判断については、所轄の労働基準監督署が行いますが、具体的にテレワークで労災が認定されたケースとしては、以下のような事例があります。

自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案。これは、業務行為に付随する行為に起因して災害が発生しており、私的行為によるものとも認められないため、業務災害と認められる。

テレワークに要する費用負担

テレワークを行うことによって生じる通信費、情報通信機器等の費用については、通常の勤務と異なり、テレワークを行う労働者がその負担を負うことがあり得ることから、以下の事項については、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましいです。

テレワークを行うことによって生じる費用の例

・テレワークに要する通信費
・情報通信機器等の費用負担
・サテライトオフィスの利用に要する費用
・専らテレワークを行い事業場への出勤を要しないとされている労働者が事業場へ出勤する際の交通費
など

費用負担について就業規則等に定めておくことが望ましい事項

・労使のどちらが負担するか
・使用者が負担する場合における限度額
・労働者が請求する場合の請求方法


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