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  • 職能資格等級表とはどういうものか?「等級」と「号俸」の関係も解説

    職能資格等級表とは、職能給制度で使う「社員の能力や役割を段階的に整理した一覧表」のことです。社員の能力レベルを等級に分け、その等級ごとに求められる能力や役割を明文化したものです。

    職能資格等級表

    職能資格等級表の目的

    ・能力評価や昇格の基準を明確化する

    ・社員に「自分が何を身につければ昇格できるか」を理解させる

    ・公平・一貫性のある賃金運用を可能にする

    職能資格等級の構成の基本例

    等級呼称主な役割・責任必要能力・スキル代表職位昇格目安
    1級初級指示を受けて定型業務を遂行基本的な業務知識・技能一般職(新人)入社1〜3年
    2級中級業務を自律的に遂行専門知識の習得、問題解決力一般職(中堅)3〜5年
    3級上級後輩の指導・業務改善指導力、チーム調整力主任5〜8年
    4級監督部署の目標管理・戦略立案高度な判断力、マネジメント力係長・課長補佐8〜12年
    5級管理部署責任者として全体統括経営的視点、部門戦略策定力課長以上12年以上

    運用イメージ

    人事評価の際、この等級表と照らし合わせて「現在の能力がどの等級に該当するか」を判断。

    等級が上がると職能給(基本給部分)が昇給する。

    多くの企業では、この等級表を社員にも公開し、昇格の道筋を見える化しています。

    等級表作成の注意点

    基準が抽象的すぎると評価が曖昧になり、不公平感が生まれる。

    時代や事業環境の変化に合わせて定期的な見直しが必要。

    実務上は「実力より年齢で昇格」という運用になりがちなので、評価制度と連動させることが重要。

    「等級」と「号俸」の関係

    職能資格制度は「等級」だけで運用されることは少なく、多くの場合は「号俸」の二段階構造で運用されています。給与額をきめ細かくコントロールするための方法です。

    等級:社員の能力レベル・役割の大枠を示す階層(1級、2級…)

    号(号俸):同じ等級内での細かな給与段階(1号、2号…)

    イメージとしては、「等級=大きな段」、「号=その段の上に並んだ細かいステップ」という感じです。

    多くの企業は「等級昇格=昇格試験や昇格評価が必要」、「号昇給=年次評価で判断」という運用をしています。

    人件費シミュレーションをしながら等級間・号間の昇給幅を決めるのが重要です。

    なぜ号を設定するのか

    昇給の柔軟性
    等級を頻繁に上げると人件費の変動が大きくなるため、まずは等級内で号を上げて調整。

    評価結果を細かく反映
    年間の評価が「優」「良」「可」などの場合、優は2号昇給、良は1号、可は据え置き…と反映できる。

    給与表が安定する
    長期的に人件費計画を立てやすくなる。

    運用例(サンプル)

    例:職能資格等級表と号俸表を組み合わせた場合

    等級月額(円)昇給幅(円)
    2級1号220,000
    2級2号224,000+4,000
    2級3号228,000+4,000
    2級4号232,000+4,000
    3級1号240,000等級昇格で+8,000

    昇給の例

    年度評価「A」→ 2号昇給(例:224,000円 → 232,000円)

    年度評価「B」→ 1号昇給(例:224,000円 → 228,000円)

    年度評価「C」→ 昇給なし

    メリット・デメリット

    メリット

    等級を大きく変えなくても昇給できるため、昇格ハードルを維持できる。

    評価制度との連動がしやすく、モチベーション管理に使える。

    デメリット

    制度が複雑になりやすい(給与表の管理負担)。

    社員が「何年経てば何号になる」と年功的に考える傾向が出やすい。


    会社事務入門賃金・給与・報酬の基礎知識主な賃金制度の解説職能給とはどういうものか?分かりやすく解説します>このページ

  • 職能給とはどういうものか?分かりやすく解説します

    職能給(職能資格給)は、日本の多くの企業で長年使われてきた給与制度で、社員の能力や成長度合いを評価して支給額を決める方式です。

    職能給の基本的な考え方

    「人材は育てれば価値が上がる」という発想に基づき、社員の潜在能力や将来の期待値を給与に反映します。

    担当している仕事の内容だけでなく、「その人ができると期待されること」まで評価に入ります。

    評価基準の例

    職能給制度は、統一的な規格があるわけではないので、企業によって細部の制度設計が異なりますが、主に以下が評価対象になります。

    知識(専門知識、業務知識の広さ・深さ)
    技能(作業・技術の精度やスピード)
    判断力(問題解決や意思決定能力)
    コミュニケーション能力(社内外との調整力)
    マネジメント力(部下育成やチーム運営)
    経験年数(経験の蓄積に伴う熟練度)

    運用の仕組み

    職能資格等級表を作り、「等級ごとの期待能力・役割」を定義します。

    たとえば「等級1=基本的業務を指示通りこなせる」「等級3=後輩を指導できる」など。

    定期的(年1回など)に評価し、能力が基準に達したら等級を上げ、連動して給与を昇給させます。

    関連記事:職能資格等級表とはどういうものか?「等級」と「号俸」の関係も解説

    職能給のメリット

    特定の仕事ができるかどうかより、会社員としての総合力を評価する制度なので、人事異動があって別の部署に移っても従来の等級を維持することができます。

    どのような点を向上させれば等級があがるかを明示できるので、賃金への納得感が高まります。

    職能給のデメリット

    等級の前提となる評価が正しく実施されないことがあると、結果として年功給と変わりない結果になります。

    低成長時代には、役職のポストが少ないので、等級が上昇しても希望通りの役職昇任ができない人が増えます。

    役職昇任する人が少なくても、基本給の大部分は等級によって決まるので、人件費は引き続き膨張します。


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  • 稟議申請と承認決済をクラウド化したい、どうすればよいか?

    稟議申請と承認決済の仕組みをクラウド型システムで行いたい場合、自社の規模や目的、必要な機能によって最適なシステムは異なります。ここでは、いくつかの代表的なタイプに分けて、おすすめのシステムをご紹介します。

    クラウド型稟議システム

    クラウド型稟議システムは、紙ベースの稟議制度に比べて、効率性、透明性、セキュリティ、柔軟性において優れています。一方、初期費用、セキュリティリスクといった問題点も存在します。

    クラウド型システムの優位性

    効率性

    クラウド型稟議システムは、申請から承認までのプロセスをすべてオンラインで完結させられます。これにより、書類の印刷、配布、押印、回覧といった手間が不要になります。

    また、申請状況をリアルタイムで確認できるため、承認の停滞を防ぎ、迅速な意思決定を促進します。

    透明性

    すべての稟議プロセスがシステム上で記録されるため、誰がいつ承認したか、どのようなコメントが付されたかといった履歴が明確に残ります。これにより、監査体制の強化やコンプライアンスの順守につながります。

    セキュリティ

    紙の書類は紛失や盗難のリスクがありますが、クラウド型システムではアクセス権限を細かく設定でき、特定のユーザーのみが閲覧や編集できるように制限できます。また、データのバックアップも自動で行われるため、災害時のデータ損失リスクも低減できます。

    柔軟性

    スマートフォンやタブレットなど、様々なデバイスから稟議の申請や承認ができるため、外出先や出張中でも業務を止めずに済みます。これにより、リモートワークや多様な働き方に対応できます。

    クラウド型稟議システムの問題点

    初期費用と運用コスト

    導入にあたっては、システムのライセンス料やカスタマイズ費用が発生します。また、利用するユーザー数や機能によって、月額利用料も変動するため、運用コストを考慮する必要があります。

    セキュリティリスク

    クラウドサービスは、ベンダー側のセキュリティ対策に依存します。万が一、ベンダー側のシステムに障害やサイバー攻撃が発生した場合、情報漏洩やデータ損失のリスクが伴います。

    具体的な操作

    あくまで一例ですが、一般的な操作は次のようになります。

    稟議申請者(起案者)の操作

    稟議書作成

    Webフォームやテンプレートに沿って、案件名、目的、金額、理由などを入力します。

    添付ファイル(見積書、契約書案、参考資料など)をアップロードします。

    送信

    「送信」ボタンで次の承認者へ回付します。承認ルートは、自動設定される場合と、起案者が選択・追加する場合があります。

    決裁者(承認権限者)の操作

    受信

    PC・スマホで通知を受信(メール、プッシュ通知、チャット通知など)します。

    申請内容を表示し、添付資料や背景情報を確認します。

    承認判断

    「承認」「却下」「差し戻し」などのボタンで処理します。コメント入力欄で条件付き承認や修正依頼も可能です。

    共通機能(全ユーザーに共通)

    進捗確認

    現在の承認状況、滞留しているステップを確認できます。

    検索・履歴参照

    過去の稟議書や承認履歴を条件検索で呼び出すことができます。

    モバイル対応

    出先やリモート環境でも操作可能です。

    権限管理

    役職や所属部門によって見える案件や操作可能範囲を制御できます。

    次に、現在市販されているシステムを簡単に紹介します。

    システムの紹介

    汎用性の高いワークフローシステム

    稟議書の種類や承認ルートが多岐にわたり、複雑な設定が必要な企業におすすめです。経費精算だけでなく、人事申請や各種届出など、あらゆる申請書に対応できます。

    ジョブカンワークフロー

    特徴: 非常に多くの申請フォームに対応しており、承認経路も細かく設定できます。シリーズ製品(勤怠管理、経費精算など)との連携もスムーズです。

    おすすめポイント: コストパフォーマンスが高く、中小企業から大企業まで幅広い導入実績があります。

    コラボフロー

    特徴: 普段使っているExcelの申請書をそのままシステムに取り込んで電子化できるのが大きな強みです。

    おすすめポイント: 導入が非常に簡単で、ITに不慣れな企業でもスムーズに移行できます。

    X-point Cloud

    特徴: 柔軟な帳票作成機能と、複雑な承認ルートを直感的に設定できる操作性が魅力です。

    おすすめポイント: 中小企業から大企業まで幅広く使われており、信頼性の高いシステムです。

    経理システムの機能として利用するシステム

    稟議申請と承認決済の仕組みを組み込んだクラウド型経理システムは、多数市販されています。これらのシステムは、経理業務の効率化とペーパーレス化を目的として、ワークフロー機能が標準搭載されていることが多いです。

    楽楽精算

    特徴: 経費精算に特化したシステムとして高いシェアを誇ります。交通系ICカードの履歴読み込みや、領収書の自動読み取りなど、経費精算の手間を大幅に削減できます。

    おすすめポイント: 経費精算の効率化を最優先に考えるなら、まず検討すべき製品の一つです。

    マネーフォワード クラウド経費

    特徴: 稟議申請と経費精算が一体となっており、申請から支払いまでを一貫して管理できます。

    おすすめポイント: 他のマネーフォワードシリーズ(会計、請求書など)と連携することで、バックオフィス業務全体を効率化できます。

    freee会計

    特徴: 稟議申請機能に加え、会計処理まで自動化できるのが強みです。承認された稟議内容が自動で仕訳に反映されます。

    おすすめポイント: 経理業務の自動化とペーパーレス化を同時に進めたい企業におすすめです。

    グループウェアの機能として利用するシステム

    すでにグループウェアを導入している企業や、稟議申請だけでなく、スケジュール共有や社内掲示板など、多機能なシステムを使いたい企業におすすめです。

    サイボウズ Office

    特徴: 中小企業向けのグループウェアとして人気が高く、ワークフロー機能が標準搭載されています。

    おすすめポイント: 日常業務に必要な機能がすべて揃っており、申請・承認業務もその一環としてスムーズに行えます。

    選び方のポイント

    システムを選ぶ際は、以下の点を考慮して比較検討することをおすすめします。

    1.自社の規模とニーズ: 中小企業向けか大企業向けか、経費精算に特化しているか汎用性が高いかなど、自社のニーズに合っているか確認しましょう。

    2.料金体系: 初期費用、月額費用、ユーザー数ごとの料金などを比較し、予算に合っているか確認しましょう。

    3.使いやすさ: 無料トライアルなどを活用し、実際に操作してみて、従業員が簡単に使えるかを確認することが重要です。

    4.既存システムとの連携: 会計ソフトや人事システムなど、既存のシステムと連携できるかどうかも重要なポイントです。

    これらのポイントを踏まえて、複数のシステムの資料請求や無料トライアルを行い、自社に最適なシステムを選定してください。


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  • 労働時間等設定改善委員会の議事録のサンプル

    労働時間等設定改善委員会の議事録サンプルを以下に示します。

    労働時間等設定改善委員会議事録(サンプル)

    第○回 労働時間等設定改善委員会

    1.開催日時:令和○年○月○日(○) 午前○時○分~午前○時○分

    2.開催場所:本社会議室

    3.出席者

    使用者側委員

    委員長:〇〇 〇〇
    委員:〇〇 〇〇

    労働者側委員

    委員:〇〇 〇〇(過半数代表者/〇〇労働組合推薦)、〇〇 〇〇(過半数代表者/〇〇労働組合推薦)、〇〇 〇〇(過半数代表者/〇〇労働組合推薦)

    4.議題

    議題1:時間外・休日労働に関する事項(36協定)について

    議題2:1年単位の変形労働時間制の導入について

    議題3:年次有給休暇の取得促進策について

    5.議事内容

    議題1:時間外・休日労働に関する事項について

    使用者側より:繁忙期の業務量を考慮し、時間外労働の上限を定める必要性について説明した。

    労働者側より:長時間労働による健康被害防止のため、上限時間の引き下げを提案した。

    決議:審議の結果、[部署名]における時間外労働の上限を[〇〇時間]とし、休日労働は[〇〇回]までとすることで合意した。

    議決:本決議について、出席委員全員(5名中5名)の賛成をもって可決した。

    議題2:1年単位の変形労働時間制の導入について

    使用者側より:業務の繁閑差が大きい部署において、労働時間を柔軟に配分することで、生産性の向上と特定期間の長時間労働の抑制を図りたい旨を説明した。次いで、具体的な対象期間、対象者、労働時間割当表の作成方法について提案した。

    労働者側より:休日の減少がないようにすることや、労働時間割当の変更は原則行わないことなどを要望した。

    決議:〇〇部の[〇〇]を対象とし、〇月〇日から〇月〇日までの1年間を単位期間とすることで合意した。労働者への影響を最小限にするため、労働日数の上限は〇日とすること、また、労働日および労働時間の変更は原則として前もって通知することを定めた。

    議決:本決議について、出席委員全員(5名中5名)の賛成をもって可決した。

    議題3:年次有給休暇の取得促進策について

    使用者側より:年次有給休暇の取得率向上に向け、計画的付与制度の導入を提案した。

    労働者側より:制度の運用にあたっては個人の希望を尊重できるよう要望した。

    決議:全従業員を対象として、夏季休暇期間中に〇日間の一斉付与日を設けることで合意した。

    議決:出席委員全員の賛成をもって可決した。

    6.その他

    次回委員会は、令和○年○月頃に開催予定することで合意した。

    7.議事録作成者 〇〇 〇〇

    注意点

    このサンプルはあくまで一例です。具体的な記載事項は、委員会の規程や決議内容に合わせて適宜調整してください。特に、労使協定に代わる決議を行った場合は、その内容が明確にわかるように詳細を記載する必要があります。

    決議内容が労使協定に代わる効力を持つ以上、この議事録は、法定の労働条件が適正に設定されていることを証明する重要な書類となります。そのため、立ち入り調査の際に議事録が適切に保存されていないと、労働基準法違反と判断される可能性があります。

    労使協定に代わる決議を行った場合は、決議内容が就業規則の変更や労使協定の締結に相当する重要な事項となるため、内容を詳細かつ正確に記載してください。

    労使協定に代わる決議には5分の4以上の賛成が必要となるため、賛成者数と全体の委員数を明記することが重要です。

    労働時間等設定改善法により、議事録は5年間(当面3年間)の保存が義務付けられています。


    関連記事:労働時間等設定改善委員会とはどういうものか?

    会社事務入門事務処理のいろいろと事務処理の効率化今日からできる!議事録作成のポイントとサンプル集>このページ

  • 棚卸し作業の進化〜手書きからデジタル〜

    近年、棚卸しの方法は大きく進化しています。昔ながらの手書き方式から、デジタル技術を活用した効率的な方式へと段階的に移行してきました。

    棚卸し作業の進化

    第1段階: 手作業での棚卸し

    昔ながらの方法で、現物を見ながら在庫を数え、手書きの棚卸表に品名、数量などを記入する方式です。

    この方式は、特別な機器が不要で誰でもすぐに始められるという利点がありますが、以下のような課題がありました。

    人為的なミスが多い: 数え間違いや、書き間違い、記入漏れが発生しやすい。

    時間がかかる: 在庫数が多い場合、作業に膨大な時間がかかる。

    データ入力の手間: 手書きのデータを後でパソコンに手入力する必要があり、ここでもミスが発生しやすい。

    リアルタイム性の欠如: 集計が完了するまで正確な在庫数が把握できない。

    第2段階: バーコードリーダーの導入

    棚卸し作業にバーコードリーダーが導入されるようになりました。

    バーコードを読み取ることで、棚卸表への記入が不要になり、データ入力の手間やミスが大幅に削減されました。

    作業の効率化: バーコードをスキャンするだけで商品情報が自動的に入力されるため、作業時間が短縮される。

    ミスの削減: 手書きや手入力によるミスが減る。

    データの一元管理: 読み取ったデータはPCに直接転送され、在庫管理システムと連携しやすくなる。

    しかし、この段階ではまだ、バーコードを一つずつスキャンする手間や、リーダーを持ち運んで作業する必要がありました。

    第3段階: RFID(ICタグ)の活用

    近年、さらに進化した方法としてRFID(Radio Frequency Identification)が注目されています。RFIDタグ(ICタグ)を商品に貼り付けることで、複数の商品を一括で、非接触で読み取ることが可能になりました。

    劇的な時間短縮: リーダーをかざすだけで、箱の中の商品や、離れた場所にある複数の商品を一度に読み取れるため、棚卸しにかかる時間が大幅に短縮されます。

    作業の効率化: バーコードのように商品を一つずつスキャンする必要がないため、手間が大きく削減されます。

    リアルタイム管理: RFIDリーダーが在庫数を常に更新することで、リアルタイムでの在庫管理が容易になります。

    この技術は、特にアパレル業界や物流倉庫など、大量の在庫を扱う現場で導入が進んでいます。コストはバーコードよりも高くなりますが、それ以上の効率化効果が期待できます。

    自社での棚卸しから第三者の棚卸しへ

    棚卸し作業を専門業者に委託する企業が増えています。自社でやるよりも多くのメリットがあるからです。主な理由を以下にまとめます。

    1. 本業への集中と生産性の向上

    棚卸しは、多くの従業員を動員し、長時間を要する作業です。特に小売店などでは、棚卸しのために店舗を休業したり、深夜に作業を行ったりするため、通常業務に大きな負担がかかります。専門業者に委託することで、従業員は本来の業務(接客、販売、製造など)に集中でき、販売機会の損失を防ぎ、全体の生産性を高めることができます。

    2. コスト削減

    一見すると業者への委託費用がかかるように思えますが、実はコスト削減につながるケースが多々あります。

    人件費の削減: 棚卸しのために残業代や休日手当を支払う必要がなくなります。また、他部署から応援を出すことによる非効率もなくなります。

    ミスの削減: 専門業者は棚卸しのプロなので、数え間違いや入力ミスが少なく、やり直しの手間やそれに伴うコストも削減できます。

    機会損失の回避: 閉店せずに棚卸しができるため、その間の売上を確保できます。

    3. 棚卸し精度の向上

    専門業者は、棚卸しに特化したノウハウや専用の機材(ハンディターミナル、RFIDリーダーなど)を持っています。これにより、正確かつスピーディーに棚卸しを行うことができ、在庫の差異を最小限に抑えることができます。正確な在庫データは、その後の発注計画や経営判断に不可欠です。

    4. 経営の客観性・透明性の確保

    棚卸しは、会社の利益を計算する上で非常に重要な作業です。自社の従業員が棚卸しを行う場合、意図的でなくても過少・過大計上といったミスが生じる可能性があります。専門業者という第三者が棚卸しを行うことで、より客観的で信頼性の高い在庫数を確保でき、監査などに対しても説明責任を果たしやすくなります。

    5. 在庫管理の課題解決につながる

    専門業者は棚卸し作業だけでなく、在庫管理に関するコンサルティングまで行うケースもあります。棚卸しを通じて得られたデータを分析し、過剰在庫や滞留在庫の課題を指摘してくれるなど、より効率的な在庫管理の提案を受けられることもあります。

    これらの理由から、特に在庫数が多かったり、棚卸し作業が複雑だったりする企業では、専門業者への委託が有効な選択肢となっています。


    関連記事:棚卸しの手順

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  • 仕訳って何?簿記初心者のためのやさしい解説

    仕訳とは、会社やお店の経済活動(取引)を、「借方(かりかた)」「貸方(かしかた)」 の2つの項目に分けて記録することです。これは簿記の基本的なルールで、すべての取引をこの形式で記録することで、会社の財政状態や経営成績を正確に把握することができます。

    借方と貸方について

    仕訳は、必ず左右に分かれます。左側が借方、右側が貸方です。

    仕訳は、以下の5つのグループのどれかが増えたか減ったかを記録します。

    資産(現金、売掛金など): 会社の財産のことです。

    負債(買掛金、借入金など): 会社が将来支払うべき義務のことです。

    純資産(資本金など): 資産から負債を引いた、返済不要なお金のことです。

    収益(売上など): 会社がお金を稼いだ活動のことです。

    費用(給料、家賃など): 会社の活動でお金を使ったこと、または将来使うお金のことです。

    これらのグループの増減を、借方と貸方に以下のようにルールに従って記入します。

    グループ増えた場合減った場合
    資産借方貸方
    負債貸方借方
    純資産貸方借方
    収益貸方借方
    費用借方貸方

    最初は難しく感じるかもしれませんが、この5つのグループのどれが増えて、どれが減ったのかを考えることが大事です。慣れてくると「仕訳」ができるようになります。

    具体的な仕訳の例

    例として、「コピー用紙1,000円を現金で買った」という取引を考えてみましょう。コピー用紙は「消耗品費という費用」で、現金は「現金という資産」です

    この取引では、以下の2つの動きがあります。

    1.「現金」 という 資産 が1,000円 減った

    2.「消耗品費」 という 費用 が1,000円 増えた

    上記のルールに当てはめると、

    資産の減少は貸方に記入するので、(貸方)現金 3,000 となります。

    費用の増加は借方に記入するので、(借方)消耗品費 3,000 となります。

    これを帳簿に書くと以下のようになります。これを「仕訳」といいます。

    借方貸方
    消耗品費現金
    3,0003,000

    このように、必ず借方と貸方の金額が同じになるのが仕訳の基本的なルールです。これが簿記の最も重要な考え方である 「複式簿記(ふくしきぼき)」 です。

    複式簿記とは

    「複式」とは、一つの取引を「原因」「結果」という2つの側面から記録することです。

    家計簿のようなものを「単式簿記」といいます。単式簿記は、例えば、お金の動きがあったときに、「食費として3,000円使った」などという事実だけを記録します。

    一方、「複式簿記」では、この取引を「お金が減った」という結果と、「食料品を買うという原因(=費用が発生した)」という2つの側面で捉え、それぞれを借方(左)貸方(右)に分けて記録します。

    複式簿記の仕組み

    すべての取引はこの2つの側面で記録されるため、借方と貸方の合計金額は常に一致するようになります。この「二重に記録する」という仕組みが「複式」の由来です。

    この記録方法によって、お金の動きだけでなく、会社の財産(資産)、借金(負債)、儲け(利益)などがどのように変動したかを詳細に把握できます。これにより、会社の正確な財政状態や経営成績を把握できるようになるのです。

    簿記と仕訳の関係

    簿記を理解する上で、仕訳の知識は欠かせません。

    簿記における仕訳の重要性

    簿記は、会社の経済活動を記録・計算・整理し、その結果を報告するための技術です。そして、その記録の出発点となるのが仕訳です。すべての取引は、仕訳という形式で記録され、それが集計されて決算書(貸借対照表や損益計算書など)が作成されます。

    仕訳を理解するということは、「なぜこの取引が、この勘定科目で、借方と貸方にそれぞれ記録されるのか」という簿記のルールや論理を理解することに他なりません。つまり、仕訳を正しく行えなければ、その後のすべての作業も成り立たないため、簿記の学習において仕訳は最も基本的な、かつ最も重要な土台となります。

    簿記3級と仕訳のレベル

    簿記3級の試験では、仕訳の知識は必須です。

    試験問題の多くは、まず取引を正確に仕訳できるかどうかを問う形式になっています。具体的には、現金預金の増減、売上・仕入、費用・収益の認識、商品の販売、手形取引、借入金・貸付金など、個人商店や中小企業で発生する基本的な取引の仕訳が問われます。

    簿記3級に合格するためには、これらの仕訳を正確に、かつスムーズにこなせるレベルの理解が求められます。仕訳のパターンを丸暗記するのではなく、取引の「原因」と「結果」を理解し、借方と貸方のどちらにどの勘定科目が来るのかを自分で判断できるようになることが大切です。


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