社会保険算定基礎届とは?

社会保険

算定基礎届とは

「算定基礎届(正式名称:被保険者報酬月額算定基礎届)」は、従業員の社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)を計算するための基準となる「標準報酬月額」を決定するために、事業主が毎年提出する書類です。

これは「定時決定」と呼ばれる手続きの一部で、従業員の実際の報酬額と、現在適用されている標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、年に一度見直しを行うことを目的としています。

主なポイントは以下の通りです。

  1. 目的
    • 従業員(被保険者)の実際の報酬に見合った、公平な社会保険料を計算するため。
    • 決定された標準報酬月額は、将来受け取る年金額や、傷病手当金などの給付額を計算する際の基礎にもなります。
  2. 提出時期
    • 毎年7月1日から7月10日までに、事業所の所在地を管轄する年金事務所または健康保険組合に提出します。
  3. 対象となる報酬
    • 原則として、毎年4月、5月、6月の3ヶ月間に支払われた報酬(給与、残業手当、通勤手当、住宅手当など、労働の対価として受け取るすべてのもの)の総額を基に計算します。
    • この期間の報酬月額の平均を算出し、これを標準報酬月額の等級表に当てはめて、新しい標準報酬月額を決定します。
  4. 適用期間
    • この届出により決定された新しい標準報酬月額は、原則としてその年の9月から翌年8月までの1年間適用されます。
  5. 月額変更届(随時改定)との違い
    • 算定基礎届は毎年定期的に行う見直し(定時決定)です。
    • これに対し、昇給・降給などで給与や手当といった固定的賃金に大幅な変動があった場合に、年の途中でも標準報酬月額を見直す手続きがあり、それを月額変更届(随時改定)といいます。

算定基礎届は、従業員の社会保険料を適切に算定し、社会保険制度の運営を健全に保つために、事業主に義務付けられている重要な手続きです。

算定基礎届の対象従業員

原則として、全ての社会保険の被保険者が対象となりますが、いくつかの例外があり、特定の従業員については提出が不要となります。

算定基礎届の対象者(原則)

毎年7月1日現在、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者となっている全ての従業員(役員を含む)が対象です。

ただし、下記の条件に該当する従業員については提出が不要(対象外)となります。

算定基礎届の対象外となる従業員(提出不要なケース)

主に以下の3つのケースに該当する場合、算定基礎届の提出は不要です。

ケース具体的な条件理由
新規加入者その年の6月1日以降に被保険者資格を取得した従業員。資格取得時に決定した標準報酬月額が、翌年の8月まで適用されるため。
退職者その年の6月30日以前に退保険者資格を喪失した従業員。すでに被保険者ではないため。
随時改定予定者その年の7月に月額変更届(随時改定)を提出する従業員。4月、5月、または6月に固定的賃金が変動し、その結果として7月に随時改定が行われる場合、その手続きで新たな標準報酬月額が決定されるため。

例外として、4月~6月の3ヶ月全てにおいて報酬の支払基礎日数が17日未満(短時間労働者は11日未満)となる場合も、原則として従前の標準報酬月額が引き続き適用されるため、提出を省略できる場合があります。

算定基礎届を作成する際は、これらの提出が不要な人を除いて、対象となる従業員の情報を記載する必要があります。

変更になった人には通知しなければなりません。

支払基礎日数

「支払基礎日数」とは、給与の支払い対象となった期間の日数のことです。

正社員の支払基礎日数

正社員の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の定時決定における「支払基礎日数」は、その給与体系(賃金形態)によって数え方が異なります。

完全月給制(欠勤控除がない場合)

欠勤しても給与が減額されない完全月給制の場合、支払基礎日数は、給与の計算対象となった期間の暦日数となります。

  • 支払基礎日数:その月の暦日数のすべて(30日、31日など)。
  • 理由:休日や祝日を含め、給与が保障されているため。

日給月給制や月給制で欠勤控除がある場合

欠勤した場合にその日数分の給与が差し引かれる日給月給制や、欠勤控除のある月給制の場合、支払基礎日数は異なります。

  • 支払基礎日数:就業規則などで定められた所定労働日数から、欠勤日数を差し引いた日数。
  • 理由:実際に労働の提供があった日や賃金が支払われた日をもとに計算するため。

定時決定(4月・5月・6月)の算定対象基準

正社員を含む一般的な被保険者の場合、定時決定で標準報酬月額を算定する際に、報酬月額の計算に含めるかどうかの基準となる支払基礎日数は「17日以上」です。

4月・5月・6月の支払基礎日数の状況標準報酬月額の決定方法
3ヶ月すべて17日以上3ヶ月の報酬総額の平均で決定
1ヶ月または2ヶ月が17日以上で、他は17日未満17日以上の月だけを対象とし、その報酬総額の平均で決定
3ヶ月すべて17日未満従前の標準報酬月額(前年の月額)をそのまま使用

短時間労働者(特定適用事業所の適用拡大対象者)の場合

社会保険の適用拡大(週20時間以上など)の対象となる「短時間労働者」は、算定の対象とする月の支払基礎日数の基準が「11日以上」に緩和されます。

4月・5月・6月の支払基礎日数の状況標準報酬月額の決定方法
3ヶ月すべて11日以上3ヶ月の報酬総額の平均で決定
1ヶ月または2ヶ月が11日以上で、他は11日未満11日以上の月だけを対象とし、その報酬総額の平均で決定
3ヶ月すべて11日未満従前の標準報酬月額(前年の月額)をそのまま使用

短時間就労者(従来の4分の3基準の対象者)の場合

従来の社会保険の加入基準である「4分の3基準」を満たすパートタイマーなど、短時間で働く方には、以下の特例が適用されます。通常の労働者の基準である「17日」に加えて「15日」が基準に加わります。

4月・5月・6月の支払基礎日数の状況標準報酬月額の決定方法
3ヶ月すべて17日以上3ヶ月の報酬総額の平均で決定
1ヶ月または2ヶ月が17日以上で、他は17日未満17日以上の月だけを対象とし、その報酬総額の平均で決定
3ヶ月すべて15日以上17日未満3ヶ月すべての報酬総額の平均で決定
1ヶ月または2ヶ月が15日以上17日未満で、他は15日未満15日以上17日未満の月だけを対象とし、その報酬総額の平均で決定
3ヶ月すべて15日未満従前の標準報酬月額(前年の月額)をそのまま使用

このように、短時間で働く方は、報酬支払の基礎日数が少ない月があっても、その日数に応じて算定に含めるか、含めないか、または従前の標準報酬月額を使用するか、細かく基準が設けられています。

その他の改定

電子申請

算定基礎届の電子申請は、行政手続きのオンライン窓口であるe-Gov(イーガブ)またはマイナポータルを利用して行います。

電子申請の義務化対象

2020年4月以降、以下のいずれかに該当する法人は、算定基礎届を含む主要な社会保険・労働保険の手続きについて電子申請が義務となっています。

  • 資本金、出資金、または拠出金の額が1億円を超える法人
  • 相互会社(保険業法)
  • 投資法人(投資信託及び投資法人に関する法律)
  • 特定目的会社(資産の流動化に関する法律)

上記に該当しない中小企業も、電子申請の利用が推奨されています。

事前の準備事項

電子申請を行うには、以下の準備が必須となります。

  1. GビズIDの取得
    • 電子証明書の代わりに、法人代表者の「gBizIDプライム」アカウントを取得することで、電子署名を行うことができます。
  2. 申請用プログラムの準備
    • 日本年金機構が提供する「届書作成プログラム」、または外部の給与計算・労務管理システムを準備します。これらのソフトで申請データ(主にCSVファイル)を作成します。
  3. e-Gov電子申請アプリケーションのインストール
    • 申請データをe-Govから送信するために、パソコンに必要なアプリケーションをインストールします。

電子申請の具体的な手順(CSVファイル添付方式)

算定基礎届は、従業員が多い場合でも一度に申請できる「CSVファイル添付方式」が一般的です。

STEP 1: 申請データの作成

  1. 従業員情報の登録:届書作成プログラムやシステムに、被保険者情報(氏名、生年月日など)を登録します。
  2. 報酬情報の入力:対象者ごとの4月・5月・6月の支払基礎日数と報酬月額(通貨/現物)を入力します。
  3. データ生成:入力した情報に基づき、電子申請用のCSVファイル総括表(データの内容をまとめたもの)をプログラムで作成・出力します。

STEP 2: e-Govまたはマイナポータルからの申請

  1. ログイン:e-Govのサイトまたはマイナポータルから、事前に取得したGビズIDでログインします。
  2. 手続の選択:「被保険者報酬月額算定基礎届(CSVファイル添付方式)」を選択し、申請書入力画面へ進みます。
  3. 総括表の入力:画面の指示に従い、STEP 1で作成した総括表に記載されている事業所情報や合計人数などの内容を直接入力します。
  4. CSVファイルの添付:作成したCSVファイルを添付します。
  5. 提出先の選択・送信:提出先の年金事務所(または健康保険組合)を選択し、内容を確認して申請を送信します。

STEP 3: 処理状況の確認

  • e-Govのマイページで、申請した案件の到達確認や、年金事務所からの公文書(処理結果)の確認・取得を行います。

電子申請は、窓口の開庁時間を気にせず24時間手続きが可能であり、紙での記入・押印・郵送の手間が不要となるため、業務効率化に大きく役立ちます。