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労働契約

労働契約法のあらまし

Last Updated on 2025年6月13日 by

労働契約法とは

労働契約法は、労働契約が労働者と使用者の合意によって締結・変更されることで、両者の良好な関係を目指す法律です。第1条から第5条までは労働契約法の基本、第6条以降で契約の締結や変更などに関する具体的なルールを定めています。

労働契約法は、労働者を雇用する会社が守るべき一般的なルールを定めています。労働契約法ができる前から「労働契約」はあったし、労働条件の通知義務はあったし、いったん決めた労働条件を悪い方に変更するのは困難でした。つまり、労働契約法は、従来から労働基準法に定められていたことや判例で積み重ねられてきたことが整理されている法律だと考えて良いと思います。

第1条(目的)

(略)

第2条(定義)

労働者と使用者の定義を示しています。

第二条 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

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第3条(労働契約の原則)

次の5つの原則を示しています。

労使対等の原則
均衡考慮の原則
仕事と生活の調和への配慮の原則
信義誠実の原則
権利濫用の禁止の原則

第4条(労働契約の内容の理解の促進)

第四条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

使用者に対して、労働者に提示する「労働契約の内容」について、労働者の理解を促すよう規定しています。

併せて、労働者・使用者の双方に「労働契約の内容」について、できるだけ書面で確認するよう定めています。

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第5条(労働者の安全への配慮)

第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働契約法の制定以前から判例では、使用者は労働者を危険から保護するよう配慮すべき「安全配慮義務」を負っているとされてきました。労働契約法第5条は、それを改めて法定化したものです。

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第6条(労働契約の成立)

第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

なにを合意するか

労働契約は、労働者と使用者が合意することで成立します。合意の要素として「労働者が使用者に使用されて労働すること」と「使用者がこれ(労働)に対して賃金を支払うこと」の2つがあります。

これをもう少しかみくだいて言えば、労働者は雇用主から給与を受け取る代わりに仕事をすることを約束し、一方で雇用主は労働者に仕事をしてもらう代わりに給与を支払うことについて、話がまとまったときに、労働契約が結ばれたことになる、という意味です。

そして、ここでいう「仕事」と「賃金」はあいまいなものではだめで、具体的に「どのような仕事」であるかが明らかで、「いくらの賃金」なのか明確である必要があります。

雇用契約締結前でも労働契約が成立する

労働契約とは使用者と労働者の双方が合意した時点で成立します。つまり、「あなたを採用します」といういわゆる「採用内定」も採用の意思を伝えて相手が採用されることを承諾した時点で労働契約が成立しています。

裁判例でも、企業からの募集に対して求職者が応募する行為が「労働契約の申込」にあたり、採用内定を出すという行為が「労働契約の承諾」との判決が出ています。

正式には、内定の段階では単なる労働契約ではなく、就労の始期と解約権留保の2つの条件が付いた「始期付解約権留保付労働契約」が成立していることになります。

条件付きではありますが、労働契約の一つであるため、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、内定取り消し行為は解雇とみなされて、通常の解雇とほぼ同様の対応が必要になります。

口約束も労働契約になる

雇用契約書に記載されていない合意も労働契約を構成します。

例えば、採用面接の時に「私は親の面倒を見なければならないので残業はできません」と述べて、そのうえで採用されたのであれば、使用者は残業しないという申し出に合意したことになるので、雇用契約書に記載していないとしても残業を命じることはできません。

第7条(労働契約の内容)

第七条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、(以下略)

労働契約において詳細な労働条件を定めていない場合、就業規則で定めた労働条件によって労働契約の内容を補充することで、労働契約の内容を確定できることを示しています。

従来から、労働契約に詳細を記載せず、詳細な部分は就業規則による(あるいは法令による)という方法が中小企業を中心に行われてきました。労働契約法第7条は、こうした運用がされたときの、労働契約と就業規則の法的関係を明らかにした規定です。

第8条(労働契約の内容の変更)

第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

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第9条・10条(就業規則による労働契約の内容の変更)

第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

「不利益変更の禁止」について規定しています。第10条は「例外的に不利益変更が認められる場合」について規定しています。

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第11条(就業規則の変更に係る手続)

就業規則の変更の手続は、労働基準法第89条及び第90条によることが定められています。労働基準法第89条は10人以上を使用した場合に作成し労働基準監督署に届け出ることを規定しています。第90条は労働者の意見を聴く義務について定めています。就業規則を変更するときも作成時と同様の手続きをすることを規定しています。

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第12条(就業規則違反の労働契約)

個々の労働契約と就業規則が一致しない部分があるときは、就業規則が優先されます。無効になるのは「基準に達しない労働条件を定める労働契約は」なので、就業規則以上の待遇を定めている労働契約は有効です。

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第13条(法令及び労働協約と就業規則との関係)

就業規則で定める労働条件が、法令や労働協約に反する場合には、その労働契約の内容は適用されないことを示しています。

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第14条(出向)

出向命令が権利を濫用したものと認められる場合には、出向命令は無効となることを規定しています。

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第15条(懲戒)

「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用と見なされて、懲戒処分が無効となることを規定しています。

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第16条(解雇)

「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用と見なされて、解雇が無効となることを規定しています。

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第17条(契約期間中の解雇等)

やむを得ない事由がある場合を除いて、使用者は契約期間中の有期契約労働者を解雇することができないと定めています。第2項は、有期労働契約の期間について定めています。

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第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)

有期雇用が通算して5年を超えると無期雇用に転換されるルールについて定めています。

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第19条(有期労働契約の更新等)

雇い止めについて定めています。有期労働契約は、契約に定めた雇用期間が終了すれば雇用関係が終了します。 これを「雇止め」といいます。ただし、労働者保護の観点から、一定の場合には雇止めが無効なります。

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第20条

(略)

第21条

「国家公務員」「地方公務員」「同居の親族のみを使用する場合の労働契約」には適用されません。


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